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マーティ・フリードマン『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』インタビュー

作曲している間に、信じられないほど色んな形に変わっていった

Marty Friedman 1

YG:細かく1曲ずつ聞かせてください。「The Perfect World」は、どのように曲を作っていったのでしょう? 2人で顔を付き合わせて?

MF:それは最後の段階。その前にメールのやり取りを何度も繰り返しました。候補曲がいくつかあったし、彼のアイデアもたくさん投げてもらったから、とても長いプロセスでしたね。ちなみに一緒にアイデアを作った他の曲は、MAN WITH A MISSIONの曲になりました。ちょっと嬉しかったですね。

YG:それはすごい!

MF:でも「The Perfect World」が主題歌に決まってから、その後がすごく長かったんですよ。歌詞もメロディーもどんどん変えたし、Keyも何度も変えました。いくつものオプションを試したかったから。

YG:歌メロもマーティさんが作ったんですよね? ここ数年のマーティさんの曲とはかなり傾向が違い、とても透明感があって…まるで別の人が作ったかのような印象でした。

MF:Jean-Ken Johnnyの良い部分をたくさん出したかったんですよ、ファンとして。でも僕が考えた歌メロは、あまりMAN WITH A MISSIONっぽくないと思う。頭とケツのすごく静かなパートで、ロマンティックかつムーディな歌い方をしてもらった。聴いた人は「Johnnyがこんな歌い方をするなんて!」って驚くはずだよ。

YG:アルバムの最後に、歌をギターに置き換えたインスト・ヴァージョンが収録されていますよね。つまりアイデア段階のデモも、同じように歌メロをギターで弾いているんですか?

MF:ちょっと違います、最初はピアノで歌メロを入れたから。僕、ライヴやアルバムで有名曲のインスト・カヴァーをよくやるじゃないですか。例えば『TOKYO JUKEBOX』(2009年)では、原曲を完全に破壊して、0から再構築するつもりでアレンジしたんですよ。でもこのアルバムの最後に入っている「The Perfect World」のインストは、ただ歌メロの代わりにギターを入れただけ。それはレコード会社のスタッフと話をして、主題歌らしいアレンジを残した方がいいということになったからです。それに今のアレンジを個人的に気に入っているから、あまり破壊したくなかったんですよね。

YG:なるほど。2曲目の「The Blackened Light」…、これを含めてアルバムの多くの曲で、AA=の上田剛士さんと共作していますよね。マーティさんは以前から上田さんのファンだったんですよね?

MF:彼の音楽は聴いた瞬間に「上田さんじゃん」って、すぐ分かるから好きなんですよ。この曲には彼の味がたっぷり入っていて、2人のサウンドが完璧なバランスで混ざっていると思います。

YG:どういう形で作業を進めたんでしょう?

MF:上田さんのスタジオに一緒に入って、彼のプロセスを見ながら僕がギターを弾いて…。完全に共作ですね。

YG:メールで長いやり取りをするのと、出て来るアイデアが違ったりするのでしょうか?

MF:出て来るものは一緒なんだけど、プロセスがより楽。もちろんメールでのやり取りにも良いところがあって、時間をかけられるし判断の材料が多いから、自分のペースでたくさん挑戦できるんですよ。でも会話ができないから寂しいし(笑)、突発的なアイデアも出ない。2人で一緒にスタジオに入れば、クリエイティヴさがその場で発揮される。そういう違いはありますね。

YG:マーティさんは次から次へとアイデアを試したいタイプなんですね。

MF:たくさん出しますね。特に上手い人が隣にいたら、命令ばっかりだよ。「これトライしてみて!」「これやってみて!」って、かなりしつこい(笑)。

YG:ヴォーカルを担当しているKoieさんに対しても、そうやってたくさんのリクエストを?

MF:そうです。彼のシャウト・ヴォーカルは本当に素晴らしいし、クリーン・ヴォイスも色々と試せる余裕があったので、トライしました。彼も英語の発音が独特で、日本人らしいけどカタカナ英語じゃない。アメリカ人に聴きやすいけどエキゾチック、それを上手く表現したかったんですよね。

YG:ギターは7弦を使っているんでしょうか? かなり低い音が聴けますが。

MF:ほぼ全曲で7弦は使ってますね。ライヴではあまり使わないけど、スタジオでは必ず使ってます。それはオプションを増やしたいから。7弦だと普通のフレーズを弾いても、6弦と音が違うんですよ。普通のCパワー・コードがいきなり別のヴォイシングになるので、シンプルな分かりやすいコード進行でも新しく感じられる。フィンガリングが違うしピッチも少し違うから、新鮮な表現になりますね。

YG:そして3曲目の「Giving Up The Ghost」はインスト・ナンバー。

MF:これはさっき話したように、裏切りをコンセプトにしたんですよね。例えば僕は『ウエスト・サイド・ストーリー』という映画が大好きなんですけど、プロデューサーのインタビューを読むと、彼は「都会のカオスを表現するために不協和音を使う」と言っているんですよ。ただその不協和音を、一般人が違和感なく聴けるように工夫するのが大事なポイント。僕の場合もそれは同じ。

YG:以前のインタビューでマーティさんは、「自分の曲を聴いて何らかの感情を持ってもらえると嬉しい」と言っていたじゃないですか。ただこの曲は要素が複雑すぎて、言葉に表せなかったんですよね。

MF:基本的にはJ-POPのイメージですよ。サビなんかは完全にそうだと思います。コード・ヴォイシングとかメロディーとかアルペジオは、J-POPによく出て来るモチーフばかり。でも裏切るポイントがたくさんある。かなりディープな曲だから、聴いた人がアニメの中の裏切り要素と無意識にリンクさせてくれたら嬉しいですね。

YG:BiSHのアイナ・ジ・エンドさんとセントチヒロ・チッチさんが歌った、ポップでラウドな「Wasted Tears」。これは松隈ケンタさんとの共作とのことですが…。

MF:曲はもともと松隈さんが作ったもので、そこに僕が間奏や最後のジャム・セッションを足しました。彼が作ったリフも微調整しましたね。元のアイデアでは、ちょっとブルージーな要素があったんですよ。僕はそのブルージーさを抜いて、ダークでマイナーな要素を強調した。ポップとブルースの組み合わせは少し古く感じるから、ちょっと怖い隠し旋律を入れることにしました。

YG:マーティさんは以前から自分の作品でも、古さを感じさせる要素をなるべく排除しようとしていますよね。

MF:この曲はモダンなイメージだから、そこにブルージーさを入れると方向性がちょっとブレてしまうんですよ。松隈さんは本当に素晴らしい作曲家だから、こっちの意図を汲み取ってくれました。素敵な組み合わせでしたね。

YG:最後のジャム・セッション、あそこはインパクトが強いですね。BiSHのお二人がラジオ風に合いの手を入れるのも、かなり新しいアイデア。

MF:彼女たちと一緒に作業しているとすごく協力的だから、アイデアがあふれるんですよ。「スポーツ・イベントのナレーターみたいなの、できる?」って聞いたら「できる」って言うから、やってもらったら1テイクでOK。あれも奇跡の瞬間でしたね。

YG:「マーティいちびってるやん」って言われてますよね(笑)。関西人でも改めて意味を説明するとなると、少し迷うワードですが。

MF:言われたかったんだよ(笑)。意味を説明してもらったんだけど、大暴れしてるとか気が入り過ぎてるとか、そんな感じ?

YG:あとは、周りのことを考えずに調子に乗ってやり過ぎる…とか(笑)。この曲のドラマーはピエール中野さんですが、凛として時雨の音楽は、マーティさん絶対に好きですよね?

MF:もちろん大好きだし、彼は僕よりアイドルに詳しい人。最初に彼と一緒にスタジオに入ってこの曲を叩いてもらった時、少しもったいないと思ったんですよ。何故かというと、全体的に完全な打ち込みで置き換えられるような曲調だったから。ピエールの素晴らしいドラムをもっと活かしたいと思って、ジャム・セッションを加えることにしたんです。

YG:なるほど、そういう経緯だったんですね。そして次の「Before The Beginning…CHAOS」。この曲もマーティさんの言う“裏切り感”がありますよね。美しいギターのイントロの後にダーティなドラム・ビートが来て、それらが絶妙に上手く組み合わさる…。マジックを感じました。

MF:嬉しいですね。僕としてはただただエキサイティングな曲を目指したんですよ。何かの始まりを思わせるイントロの後、意外なヘヴィ・メタルっぽい展開になる。単純だしそんなに難しい曲じゃないですけど、『B: The Beginning』のエキサイティングな面を象徴する曲になったと思います。

YG:前半と後半の展開がガラリと変わるので、異なる2つのアイデアを組み合わせたのかとも思ったんですが。

MF:作曲している間に、信じられないほど色んな形に変わっていったんですよ。最初は打ち込みのリズムとリフだけのBGMっぽい曲だったんですけど、メイン・テーマがないと意味のない音楽になるから、後から加えました。サーフ・ギターというか、ジェームズ・ボンドの映画のような昔っぽい音色でメイン・テーマを弾いて、そうしたら全体的に良くなりましたね。