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マーティ・フリードマン『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』インタビュー

額縁に凝れば、その上に載せるソロはさらに面白くなる

Marty Friedman 3

YG:まさか元ネタがジェームズ・ボンドだとは思いませんでした(笑)。そして6曲目の「Spirit Never Fading」、これは個人的に今作の中で最もクレイジーな印象ですね。すごく速いパートと、ダフトパンクのようなキャッチーな歌のパートが交互に来るという。どのようにしてできた曲なのか、想像も付かないです。

MF:これも上田さんと一緒に作った曲で、僕ら2人にしか作り出せない音楽にしたかったんですよ。もともとインスト・ナンバーだったんだけど、上田さんがデモに仮歌を入れてくれました。僕としては、本当はその歌声をそのまま使いたかったけど、彼は恥ずかしかったみたい(笑)。だから最終的にはジョン・アンダーダウンに歌ってもらいました。歌詞には言葉が4つしかないんですよ。“My Spirit’s Never Fading”、これを繰り返しているだけで、“魂は薄れない”という意味ですね。この曲を作っている時、僕は『WALL OF SOUND』の制作が終わってこのアルバムの作業に入った頃で、本当に疲れていました。だからこの歌を何度も聴いて頑張ったんですよ。

YG:そのジョン・アンダーダウンさんとの共作である「Hero In The Night」。彼とは昔からの知り合いですか?

MF:けっこう前から、レコーディングもライヴもよく一緒にやりますね。僕のバンドの公式ヴォーカリスト、みたいな感じ。この曲の中心になっているのはジョンさんが書いた歌詞ですよ。それを読んだ時、ポップなサビが必要だと思ったんだけど、最初から最後までポップな曲調にするとアルバムの中で場違いになると思った。だから激しいパートと合わせてメリハリを作ろうと思ったんです。Aメロがプログレッシヴなのにサビはポップという、両極端な形にするのが美味しいと思いました。

YG:途中で何度も転調し、巧みに次のパートへつながって行きますよね。そういうところも、実はマーティさんは音楽理論をかなり深く学んでいるんじゃないか…と思った理由なんです。

MF:勉強は確かに自分で少しだけやりました。このアルバムは歌モノが多いですけど、ギターもけっこう深いんですよ。だって、『WALL OF SOUND』という自信作の後にすぐ作ったんだから、演奏の基準が高くなっていた当たり前。「本当に面白くなければ許さない!」っていうポリシーを貫いた状態ですよ。「Hero In The Night」はアルバムの中では特にポップな存在だけど、ギター・ソロが深い。こんなかっこいいギター・ソロ、必要ないよって思うくらい(笑)。曲にとってはちょっと場違いになっちゃったかもしれないけど、誇りを持てるソロですね。

YG:確かにかなり凝っている印象ですね。中間部の動きが特に複雑で、細かいリズム・トリックもあったりして。

MF:間奏のパートって、僕は特に凝るんですよ。良いソロを乗せられそうなオケを作るのが、まず第一のチャレンジで、良いオケができれば良いソロが弾ける。逆にバックが面白くなければ、ソロのクオリティは低くなるんです。例えば額縁が豪華なら、絵もより綺麗に見えるじゃないですか。たとえ中がゴミでも良く見える(笑)。だから僕はいつも、まずバックを大事にするんですよ。むしろソロより大事。

YG:ただマーティさんのソロは、必ず額縁に負けない仕上がりになっていますよね。

MF:それを常に目指しているんで、嬉しいですね。本当に大事なことだから、もう1回言うよ(笑)。額縁に凝ればソロが楽しくなるし、オプションが増えてオリジナリティも高くなりやすい。僕はけっこう、若いバンドやギタリストのCDを山ほどいただくんですけど、ソロは流暢でもバックがしょぼいことが多い。そうなると最終的には、人に聴いてもらえないんだよ! せっかくテクニックを持っているのに、それじゃもったいないでしょ。僕の音楽を分析したら分かると思うけど、額縁が非常にコテコテしてますよ。その上にソロを載せるわけだから、無理してでもさらに面白くする。…大事なことを言いましたよ!

YG:じゃあここは見出しにしておきますね(笑)。「RESCUE」は他の曲と違って全体的に明るいイメージですが、ここでいったん作品の流れを変えたかったということですか?

MF:そうですね。この曲はマーティ定番の8ビートで、僕はこのリズムに弱いんですよ。アイドルの曲でこういうビートが出て来ると、どんなメロディーでも好きになる(笑)。ポジティヴさがあふれていて、それでいてメタル魂も強い元気な曲が、アルバムに1つほしかったんですよ。

YG:ただ明るい中に切なさも感じられるという、マーティさんの得意な手法ですよね。

MF:その通り、“隠し切なさ”です。とても日本的なコンセプトですよね。

YG:最初からいくつもの段階を踏んで盛り上げ、エンディングで違う展開を入れてさらに盛り上げるという、良い意味でのしつこさも面白いですよね。これはスタジオで作業している時のハイ・テンションが、そのまま曲調に現れているわけですか?

MF:よく同じような質問をされるんですよ、「スタジオの中でもみんな大盛り上がりなんじゃないですか?」って(笑)。そんなことないですよ、みんな作業に集中しているから。もちろん心の中では大盛り上がりだけど。最後の転調するパートなんか、聴いていてすごくハッピーになる。

YG:マーティさんは以前から9mm Parabellum Bulletのファンを公言していますが、菅原さんの歌の一番魅力はどういうところだと思います?

MF:優しさ。9mmの曲を聴くと、かなりハードな曲調であっても、ヴォーカルの優しさが際立っている。バックの激しさに負けないんですよ。これはすごく良い組み合わせだから、この曲にもぜひ取り入れたかったんですよね。

YG:9曲目の「Beautiful Freak」。先ほど「Wasted Tears」ではブルージーな要素を排除したと言っていましたが、この曲はかなりファンキーでブルージーですよね。今までのマーティさんの作品では聴いたことがないパターン。

MF:これは素直に、自分がやったことないの要素を一応試してみた曲で、失敗したらアルバムから外すつもりでいたんですよ。ただこの味は、作品の中ですごく大事な存在になると思っていた。ミュージシャン的にもかなりかっこいい曲だと思います。前半は日本のファンキーなバンドがやりそうな曲調なのに、後半はラテン系で、本当にめちゃくちゃですよね。

YG:展開が面白いですよね。ブルースのライヴを観ていたら、途中でいきなりピアノのコンサートが始まる…みたいな印象で(笑)。さらに途中でマーティさんの泣きメロが加わり、どんどん曲調が変わって行くという。

MF:しかもピアニストは2人もいるんですよ。最初は美しいメルヘンな演奏で、最後の方はもっと激しい。それぞれのパートにベストなスタイルのピアニストを探すのは、かなりの苦労でした(註:ニコラス・ゲルシュベルグと高田有紀子の2人がクレジットされている)。あとこの曲では、ドラムの山葵さんの要素も入れたかったんですよ。色んなミュージシャンの長所を利用した曲ですね。

YG:ゲストの良さに自分の良さをプラスしたわけですね。

MF:いや、ほとんどゲストの良さだけ(笑)。アレンジがとてもディープですね。僕のギター自体は今までずっとやり続けていることと変わらないから、それよりもゲストがくれるものにワクワクしていました。

YG:アレンジという意味では、10曲目の「Catch Me In The Mayhem」は実に濃厚で、3〜4曲分ぐらいの多彩な要素が詰め込まれていますよね。歌はパンキッシュで、少しヒップホップの要素もありますし、ギターはもちろんヘヴィ・メタル。あとパートによっては、少しタンゴのような印象も受けました。

MF:鋭いねぇ! 2015年にアルゼンチンのブエノスアイレスで、アストル・ピアソラの音楽を演奏する機会があったんですよ。ピアソラの孫がジャズ・バンドをやっていて、それに僕も参加したんです(註:ドラマーのダニエル・ピピ・ピアソラを中心に結成されたエスカランドラムというバンドのコンサートに、マーティがゲストとして参加。先述のニコラス・ゲルシュベルグはこのバンドのメンバーでもある)。そのために大量の難しい音楽を身に付ける必要があって、その影響が染み付いていたかもしれないですね。

YG:そんな経験があったんですね。

MF:この曲の場合はすごく切ないダークな泣きメロとパンクな要素の間に、挟むような形でタンゴっぽいフレーズを入れました。これも“裏切る”というコンセプトにフィットするんじゃないかと思ったから。

YG:『WALL OF SOUND』でも「Whiteworm」にサルサっぽいパートが出て来ましたが、最近のマーティさんは面白ければ何でもありになって来ましたね(笑)。

MF:そうなんですけど、意味のない何でもありになってしまうのは嫌だから、すごく気を使っていますね。曲をさらに楽しめるものにできるよう、たくさん考えるんですよ。

YG:では最後に、改めて読者へメッセージをお願いします。

MF:今まで僕がソロ・アルバムを出す度に必ず守って来たのは、“やったことがないことをやる”ということなんですよ。特にギター・ソロ。「マーティはいつも同じソロを弾いているな」って思われたくないから(笑)、弾いたことのないソロを弾くことに集中して来ました。だから聴いた人が、そこから何か面白いものを持って帰ってくれたら嬉しいです。それからもちろん、ゲストとの一期一会のコラボも楽しんでいただきたいですね。日本のロック界のA級ミュージシャンばかりですから!

マーティ・フリードマン リリース情報

V.A. - B : The Beginning THE IMAGE ALBUM

B : The Beginning THE IMAGE ALBUM/V.A.

CD | カッティング エッジ | 2018年3月7日発売

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収録曲

  1. The Perfect World
    マーティ・フリードマン feat. Jean-Ken Johnny, KenKen
    作曲:Marty Friedman 作詞:Jean-Ken Johnny 編曲:Marty Friedman, 藤本コウジ プロデュース:Marty Friedman, 藤本コウジ
  2. The Blackened Light
    マーティ・フリードマン feat. Koie(Crossfaith)
    作曲:Marty Friedman, Takeshi Ueda 作詞:Koie 編曲:Takeshi Ueda, Marty Friedman

  3. Giving Up The Ghost
    マーティ・フリードマン
    作曲:Marty Friedman 編曲:Marty Friedman
  4. Wasted Tears
    マーティ・フリードマン feat. アイナ・ジ・エンド, セントチヒロ・チッチ(BiSH)
    作曲:松隈ケンタ, Marty Friedman 作詞:龍宮寺育 編曲:Marty Friedman, 松隈ケンタ, 佐藤カズキ
  5. Before The Beginning…CHAOS  
    マーティ・フリードマン
    作曲:Marty Friedman, Takeshi Ueda 編曲:Marty Friedman, Takeshi Ueda
  6. Spirit Never Fading
    マーティ・フリードマン
    作曲:Marty Friedman, Takeshi Ueda 作詞:Jon Underdown 編曲:Takeshi Ueda
  7. Hero In The Night
    マーティ・フリードマン feat. Jon Underdown
    作曲:Marty Friedman 作詞:Jon Underdown 編曲:Marty Friedman
  8. RESCUE
    マーティ・フリードマン feat. 菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)
    作曲:Marty Friedman, Takeshi Ueda 作詞:Jon Underdown 編曲:Takeshi Ueda, Marty Friedman
  9. Beautiful Freak
    マーティ・フリードマン
    作曲:Marty Friedman 編曲:Marty Friedman
  10. Catch Me In The Mayhem
    マーティ・フリードマン feat. Jon Underdown
    作曲:Marty Friedman, 山葵 作詞:Jon Underdown 編曲:Marty Friedman
  11. The Perfect World (Guitar Version)
    マーティ・フリードマン
    作曲:Marty Friedman 編曲:Marty Friedman, 藤本コウジ