U2“The Joshua Tree Tour 2019”で見せた、名作の圧倒的な魅力、そして未来の姿

U2“The Joshua Tree Tour 2019”で見せた、名作の圧倒的な魅力、そして未来の姿

既に様々なメディアで報道されているとおり、U2が実に約13年ぶりの来日公演を、去る12月4日&5日、さいたまスーパーアリーナにて行なった。このツアーは彼らが1987年にリリースした代表作『JOSHUA TREE』の完全再現を核としたもので、つまり30周年にまつわる特別イベントが2年にまたがって行なわれていることになる。全世界でのレコード&CDの売り上げが2500万枚以上だというから、ストリーミング全盛の今だとリスナーの数は何倍にも膨れ上がるか。それだけ彼らを求める人の数が多いからであって、アーティストとしてこれ以上の幸せはあるまい。

会場に着席して辺りを見回すと、まずステージ・セットが他で見たことのない規模、凝り方であることが一目で分かる。視界の端から端までを覆う200×45フィートの巨大LEDスクリーンは、このツアーで初めて導入された8K画質(1100万ピクセル)の特別製で、1040もの小さいビデオパネルを組み合わせることで作られたもの。総重量22トンを8時間かけて設置するというから、1公演ごとに凄まじい労力がかけられているわけだ。スクリーンは中央が奥まった特殊な凹面状になっており、そのくぼみの部分にドラム・セットやアンプ、キーボードがわりと無造作に設置されている。何か少しこぢんまり見えるから逆に面白い。

開演前はそのスクリーンに“ヨシュア・トゥリー”の輪郭が映し出され、あたかもその影が伸びるかの如く、アリーナ中央のBステージへ向けて道が続いている。ここにも同様にドラムセットやキーボードが置かれており、周囲のスタンディングエリアにはこの日を待ちわびた人々の中でも、特に熱心なファンたちがみっちり。やがて緩やかに照明が暗転すると、ショウはこのBステージから始まった。大歓声の中でラリー・マレン・ジュニア(dr)、ジ・エッジ(g, key)、ボノ(vo)、アダム・クレイトン(b)が順に現れ(いずれも大物らしいゆったりとした足取りだ)、まずはあの特徴的なドラム・リフから「Sunday Bloody Sunday」がスタート。メイプル指板の黒いフェンダー・ストラトキャスターからアルペジオが繰り出され、きらびやかかつ力強いサウンドが凛と張りつめる。続く「I Will Follow」ではギブソン・エクスプローラーを、「New Year’s Day」では絵柄付きのギブソン・レスポールを(この曲ではキーボードとギターを交互に操る弾きこなしっぷりが神業だった!)、そして「Bad」「Pride(In the Name of Love)」では再び先のストラトを…といった具合に、ジ・エッジは短い時間に様々なギターをとっかえひっかえ。その音色の百花繚乱ぶりもU2のライヴの魅力だ。

ここまでは1stアルバムから4thアルバム、つまりU2がベーシックでシンプルなロック・バンドだった頃の曲から選ばれており、いわば『JOSHUA TREE』前夜の復習を兼ねた前哨戦。やがて先述の巨大スクリーンが真っ赤に染まり、ヨシュア・トゥリーのシルエットが浮き彫りになると、ショウの舞台はそちらへ移る。心地よいクランチのアルペジオが徐々に音量を増して「Where the Streets Have No Name」のイントロとなり、いよいよ本編が始まったことを知った観客の歓声が何段階も跳ね上がる。スクリーンにモノクロの荒野と、そこに延びる1本の道路(streetというよりもroadだが)が延々と映し出され、あたかも時空を飛び越えた先で演奏が繰り広げられているかに思える。続く「I Still Haven’t Found What I’m Looking For」ではヨシュア・トゥリーの生息地であるモハーヴェ砂漠の映像が映し出され、スクリーンが微妙に湾曲しているおかげか、映像が動くたびに風景が躍動しているかのように錯覚させられる。もちろん映像のとてつもなさだけが突出しているわけではなく、音楽の魅力をさらに増幅させ、没入感を未体験のレベルへ押し上げる仕掛けとして働いていると言えば良いか。何しろ耳と目から入って来る情報の質が尋常でなく高いので、上手く表現できないのがもどかしい。

赤い岩山を背景に始まった「With or Without You」で再びジ・エッジに目を向けると、インカ・シルヴァー・カラー&ローズウッド指板のストラトキャスターを手に、長いフィードバックを操りながら美しく浮遊感ある空間を創出(サスティナー搭載だろうか?)。「Bullet The Blue Sky」ではローズ指板を備えたまた別の黒いストラトが登場し、そこまでの静謐なイメージから一転して強烈な歪みを聴かせる。映像の助けがなくとも明確に爆撃をイメージさせる、実に巧みな表現力だ。ちなみにメイン・ステージ上に設置されているアンプはフェンダーのツイード・コンボ(おそらくシグネチュア・モデルの“The Edge Deluxe”)1つのみだったが、昨年から変わっていなければ、他にもVOX“AC30”など数台が隔離状態でセッティングされているはず。さらにフラクタル・オーディオ・システム“Axe-FxⅡ XL”を核としつつ多数のペダル類を組み込んだ、大規模なラック・システムも併用していると思われる。おそらく世界中のロック・バンドの中でも、彼ほどの多彩さでサウンドを操るギタリストは2人としていないに違いない。

U2:ジ・エッジ

「Running To Stand Still」と「Red Hill Mining Town」ではキーボードに徹していたジ・エッジだが(後者ではスクリーン内からホーン・セクションが参加する演出が秀逸だった)、後半でもさらに様々なギターを使い分け、観る者の耳と目を楽しませる。「In God’s Country」では白いギブソン・レスポール・カスタムによる激しいコード弾きでディレイ音を縦横無尽に飛ばし、「Trip Through Your Wires」では攻撃的な「Bullet The Blue Sky」でも登場した黒いストラトを用いながら、対照的に軽やかなハーフ・トーンで牧歌的に奏でる。グレッチ“White Falcon”を用いた「One Tree Hill」では、おそらくルーパーを駆使しているのだろう、いくつかのパートを重ねながら巧みにアンサンブルを操り、かと思うと猛烈に太いリード・サウンドで曲をグイグイ引っ張る。さらに「Exit」では先のレスポール・カスタムで、静と動の激しいダイナミクスを創出…。スタジオ・ヴァージョンでは大らかさや穏やかさが強く記憶に残る『JOSHUA TREE』だが、生で聴くとよりコントラストが鮮やかで心動かされるのは、ライヴならではのマジックに違いない。

U2:ジ・エッジ&ボノ

作品のラスト曲「Mothers Of The Disappeared」ではスクリーンにはキャンドルを手にして祈る母親達の映像が映し出され、その前でひざまずき切々と歌い上げるボノ。ジ・エッジはボディーに赤い円が描かれた黒いLine 6“Variax Acoustic 700”を携え、ルーパーとの組み合わせでシタール風のドローンやシンプルな旋律、激しいファズの音を重ねて行く。スマートフォンの光がキャンドルの代わりに会場中で灯され、最後の斉唱を観客達が自然発生的に再現する中、Bステージへ緩やかに足を運ぶ4人のメンバー。集った人々に感謝の意を表するように四方へ礼をし、『JOSHUA TREE』再現パートは幕を閉じた。かと思いきや、リッケンバッカー“330/12”の軽快なストロークから始まったのは「Angel Of Harlem」。同曲が収録された『RATTLE AND HUM』(1989年)は、1987年の“The Joshua Tree Tour”の模様を捉えた映画のサントラ的な位置付けで、時系列的にも、そして荘厳な空気を一転させて大団円とするのにも絶妙過ぎるセレクトだったのではなかろうか。

U2:ジ・エッジ

30年前の金字塔を振り返った本編の後は、彼らのFacebook公式ページで生配信される中でのアンコールだ。2020年に新しく彼らのラジオ・チャンネル“U2X Radio”が立ち上げられることが大々的に発表された後、恐ろしく尖りまくった超モダンなファズ・サウンドからスタートしたのは「Elevation」。モノクロの映像に炎のようにまとわりつく赤いエフェクトが、ジ・エッジのかき鳴らすロング・ヴァイブローラ付きのSGのヴィンテージ感と対照的で面白い。さらに赤と黒の幾何学模様が映し出される中、「Vertigo」ではクリーム・カラーのフェンダー・テレキャスターでこれまたエッジーな歪みを創出し、’90年代以降のダンサブルなU2らしいノリの良さで観客のアドレナリンを引き出す。「Even Better Than The Real Thing」では再びリッケンバッカーを用いながら、ワーミー的なピッチシフト効果を自動で操りつつ不思議なリフをリピート。…といった具合に、最後の「One」までの8曲で提示されたのは、いわば本編とは完全に切り離された“現代のU2”の姿だった。それはかつて彼らがテクノロジーをふんだんに使った『ACHTUNG BABY』(1991年)で、自ら“ヨシュア・トゥリーを切り倒すかの如く”新たな音楽性へ向かったのを、あたかも追体験させられているかのよう。過去の名作を自ら讃えながらも、最終的にはあくまでも未来志向のU2。そんな主張が込められているように感じたのは筆者だけではあるまい。

U2

U2

U2 セットリスト 2019.12.4 @ さいたまスーパーアリーナ

1. Sunday Bloody Sunday
2. I Will Follow
3. New Year’s Day
4. Bad 
5. Pride (In the Name of Love) 


6. Where the Streets Have No Name

7. I Still Haven’t Found What I’m Looking For
8. With or Without You
9. Bullet the Blue Sky
10. Running to Stand Still
11. Red Hill Mining Town
12. In God’s Country
13. Trip Through Your Wires
14. One Tree Hill
15. Exit
16. Mothers of the Disappeared
17. Angel Of Harlem


[encore]
18. Elevation
19. Vertigo 
20. Even Better Than the Real Thing
21. Every Breaking Wave
22. Beautiful Day 

23. Ultraviolet (Light My Way)
24. Love Is Bigger Than Anything in Its Way 

25. One