「日本に来られるのはいつも僕にとって喜びだし、ショウをやる度に“今夜はさらに良いショウを見せたい”という気持ちにさせてもらえるよ。スタッフは優秀だし、すべてが問題なく素早く進む。前回よりも少し会場が大きくなったしね。ファンの反応も素晴らしかった」
ダグ・アルドリッチがこう語るように、’18年6月のザ・デッド・デイジーズ来日公演は、前年7月の前回来日時よりもキャパシティの大きい会場を満杯にすることに成功。ライヴの評判の良さが新たなファンを呼び込んでいるのだろう。
1曲目の「Resurrected」はまずダグが1人でステージに現れ、シンプル極まりないが重々しいリフをかき鳴らすという、随分とヘヴィな始まり方だ。そのままバンドが合流すると一気に豪快なグルーヴが炸裂。マルコ・メンドーサのベースがやけに大音量なこともあってか、前2回の来日時より音が分厚い。しかしこれも最新作『BURN IT DOWN』も幾分ヘヴィな仕上がりだったことが影響しているのだろうか。ステージ上でもダグの持つパワーが従来以上に開放されたという印象だ(ちなみにアルバムでは今までと違ってマーシャル“JCM800”を使っており、これがヘヴィ化につながったとダグは分析している)。
ダグが手にしているのは、ここ2年ほどメインにしている黒いピックガードを付けたゴールドトップのギブソン・レスポール、かと思いきや、シェイプはよく似ているがヘッドの形状が違う。後日ダグに確認したところ、実はサー・ギターズで作られた新しいカスタム・モデルだったようだ。黒のピックガードを付けるというこだわりについては「見た目がダサいって言われるんだ」と、直近の取材で毎回つぶやいているボヤキを含めつつも、ジョン・サーに強く要望を伝えて実現させたそうで、そのデザインには自信を持っている様子。ちなみにこのギター、ダグの好意に甘えて筆者も軽く触らせてもらったのだが、生鳴りが凄まじく、太いのにストレスを感じさせないシェイプに形成されたネックの手触りの良さもあって、ギターが下手な筆者でもストレスなく指が動かせたほどで、思わず惚れ惚れする仕上がりであったことを付け加えておく。
今回バンドにはブライアン・ティッシーに代わり、ディーン・カストロノヴォが新ドラマーとして加入している。ブライアンはこのバンドにとってベストなドラマーだという認識があっただけに、彼の不在がどう影響するのか興味津々だったが、ディーンのパワー・ヒッターぶりはまた違った突進力をバンドにもたらしている。ダグ曰く、「ブライアンは僕にとってのフェイヴァリットだったから、彼の脱退は凄く残念だった。でも完璧なタイミングでディーンを手に入れられたことは幸運だったね。彼とはレヴォリューション・セインツで一緒にやったことがあって、ブライアンがいないなら後任はディーンしかいないと思っていた。2人ともまった違うドラマーだけど、ディーンにはディーンならではのまったく違うグルーヴがある。ライヴらしいフィールがまた違うんだ」。
ダグは5曲目の「Dead And Gone」からお馴染みのゴールドトップ・レスポールに持ち替え、相棒のデイヴィッド・ローウィーと向かい合って情熱的なソロを弾き倒す。そのデイヴィッドは鉄壁のリズム職人としてバンド全体を支える立場にあるが、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルのカヴァー「Fortunate Son」では彼がメロディックなソロを担当。ダグの荒々しいスタイルとはまた違ったタイトさが彼の持ち味だ。
ショウ中盤にはダグが「日本のファンのために特別に用意した」と語るアコースティック・セットが披露された。フロントの4人はそれぞれアコースティック・ギターを手にし、ディーンはボンゴを担当。この形式では2曲目となるロッド・スチュワートの「Maggie May」のカヴァーでリード・ヴォーカルを務めたのはディーンだ。ご存知の通り、彼はシンガーとしても一級品の喉を持っており、「僕は元々彼の声が好きでね。“Maggie May”を歌う時の彼はロッドにも似ているところがある。彼に歌ってもらって正解だったよ」とダグも太鼓判を押す。そのディーンもさることながら、こういった趣向だとジョン・コラビのいい塩梅にラフで深い歌声が実に心地よく響く。言わずと知れたザ・ビートルズの「Let It Be」のハマり具合は特筆ものだった。
ダグは「Song And A Prayer」から数曲でサンバーストのトーカイ “LS212F”を使っていたが、これはファンが渡してくれたもので、「驚くほど素晴らしいギター」とのこと。ダグのギターは全弦半音下げが基本だが、このモデルに関しては曲によって6弦をB、5弦をF#まで下げるという変則チューニングも使っていたようだ。
最新作にも収録されていたザ・ローリング・ストーンズの「Bitch」に続いては、メンバー紹介を兼ねた有名曲のカヴァー・メドレーだ。マルコはかつて在籍したことのあるシン・リジィの「The Boys Are Back In Town」、デイヴィッドは地元オーストラリアの英雄AC/DCの「Highway To Hell」、ダグはディープ・パープルの「Smoke On The Water」、ディーンはKISSの「Rock And Roll All Nite」、ジョンはブラック・サバスの「Heaven And Hell」と、それぞれ好みの名曲をセレクト。このようにオリジナルだけでなくカヴァー曲も多くプレイする彼らだが、これに関してダグは、「“元の曲よりも好きになった”と言われることが多いんだ。ヴァン・ヘイレンが(キンクスの)“You Really Got Me”をレパートリーにしていたように、僕たちもそういった優れた曲を伝えていきたいと思っている。今回加わった“Bitch”も良いチョイスだったね」と語る。
ダグがペンタトニック・フレーズでたたみかけるソロを披露した「Angel In Your Eyes」、デイヴィッドがイントロの軽快なリフを担当した「Long Way To Go」の後、本編最後はやはりカヴァー。センセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドの「Midnight Moses」の引きずるようなグルーヴに、フロアの観客も巻き込まれていたようだ。
少々のクール・ダウンの後、アンコールではダグが他メンバーをコミカルに紹介しながら呼び込むと、まず「Leave Me Alone」のアメリカン・ロックらしい縦乗りリズムで観客のエンジンを再開。そしてディープ・パープルの「Highway Star」は、やはり日本のHR/HMファンへの浸透度が高い曲だけにクライマックスにふさわしい盛り上がりを見せた。ダグがフェイザーらしきエフェクトをかけた1stソロ、リッチー・ブラックモアのフレーズを踏襲した2ndソロを弾くという、快走のエンディングだ。
今回の盛り上がりにご満悦だったダグだが、ライヴを振り返る中で非常に興味深い言葉を残していた。最後にそれを記しておく。
「デイジーズは昔のブラック・サバスみたいにシンプルなリフで、聴く人を引きつける方向に回帰している。これってブルースやロックの基本なんだよね。最新作でそんなことを重視した結果、僕はギターの弾き方を新たに学ぶことになった。50代になってもまだまだ学ぶことがあるんだよ」
ザ・デッド・デイジーズ 2018.6.26@恵比寿リキッドルーム セットリスト
1. Resurrected
2. Rise Up
3. Make Some Noise
4. Mexico
5. Dead And Gone
6. What Goes Around
7. Fortunate Son
8. All The Same
9. With You and I
10. Last Time I Saw The Sun
11. Drums Solo
12. Something I Said
13. Set Me Free
14. Maggie May
15. Let It Be
16. Song And A Prayer
17. Bitch
18. Angel In Your Eyes
19. Devil Out Of Time
20. Long Way To Go
21. Midnight Moses
[encore]
22. Leave Me Alone
23. Highway Star