“水曜日のヴァッケン”は前哨戦!ラウドネス、アヴァンタジア etc.:Wacken Open Air 2022レポート DAY 0

“水曜日のヴァッケン”は前哨戦!ラウドネス、アヴァンタジア etc.:Wacken Open Air 2022レポート DAY 0

3年ぶりの会場、リニューアルあれこれ

毎年8月第一週前後の木・金・土に、3日間に亘って開催される“Wacken Open Air”(以下WOA)だが、水曜日にも前夜祭とも言うべきプログラムが用意されている。いや、厳密には…というか、以前は木曜が前夜祭と見なされていたのだが、いつしか水曜日にも色々と出し物が企画されるようになり、年々その規模が拡大していくにつれ、当初の木曜日から、やがて水曜が前夜祭との認識に変わっていったのだ。またここ最近は、火曜日にもテント・ステージなどでライヴが行なわれるようになっており、今年は何と月曜から小規模ながらバンド演奏含め色々あり、さらなる拡大を見せていて驚かされた。

しかも今年の水曜日は“WACKEN WEDNESDAY”という独立したイベントが組まれ、チケットもWOA本祭とは別途で必要に。ただ、やはり水曜日には、まだメインとなるインフィールド・エリアは解放されず。5バンド出演の“WACKEN WEDNESDAY”は、例年とは設置場所が異なるサブ・ステージにて行なわれた。

WOA22 WACKEN WEDNESDAYフライヤー

そう、3年振りの開催に伴い、WOAはあれこれリニューアル、あるいはマイナー・チェンジを遂げていたのだ。インフィールドと呼ばれるメイン・エリアには、“FASTER”“HARDER”という2つのメイン・ステージのみが鎮座。これまでインフィールドにあったサブ・ステージの“LOUDER”は、WACKEN CENTERと呼ばれる中間エリアへと移されていた。また、いつもは世界最大を謳う巨大テント“BULLHEAD CITY CIRCUS”内にあるW:E:TステージとHEADBANGERSステージもオープン・エアー仕様に様変わりしていて、それにもビックリ…!

他にも、広大なフェスティヴァル・エリアの内外には、大小様々なサイズのステージが点在する。さながら“中世村テーマパーク”といったヴァッキンガー・ヴィレッジにあるWACKINGERステージ(主にフォーク・メタル系バンドが演奏)、『マッド・マックス』か『北斗の拳』かという終末世界を模したエリアにあるWASTELANDステージ(主にスラッシュ系バンドが演奏)、トーク・イベントやメタル・ヨガなんかが実施されるミニ・ステージ“WELCOME TO THE JUNGLE”、ヴァッケン村の本物の教会で行なわれる“METAL CHURCH”(アコースティック・セット中心)、会場内のあちこちでゲリラ的に演奏を行なうウォーキング・アクト(中世楽団など)は健在ながら、それらに加えて、ヴァッケン村のパブ・レストランを利用したLGH CLUBステージが新設されていたことは特筆したい。その代わりに(?)会場内からBEER GARDENステージがなくなっていたが、LGH CLUBステージの登場により、みんなヴァッケン村へ足を運ぶ機会が増えたのではないだろうか。

WOA22 会場マップ
WOA2022 会場マップ(左側は会場敷地のみ、右側がキャンプサイトも含めた全体図)

ちなみに、本誌取材班(…といっても、実はひとりなのだが)が会場現地に到着したのは、水曜日の14時頃。“WACKEN WEDNESDAY”がLOUDERステージで幕を開けるのは14時半からなので、ギリギリ間に合うかとも思ったが、まずはキャンプ・サイトでテントを設営したり(例年、テント泊で取材してます)、色々と動線(フェス会場が広過ぎて死ねる…)などを確認しなくてはならず、そうこうしている間に気が付けば15時をとうに過ぎてしまい、トップ・バッターのラトビア産ヴァイキング・メタラー:VARANG NORDは観れず…。何とかLOUDERステージまで辿り着いたのは、2番手のブラザーズ・オブ・メタルの開演直前だった。

BROTHER OF METAL / GLORYHAMMER〜メタル戦士たちの勇姿!

既にステージ前にはかなりの観客が詰め掛けており、16時にブラザーズ・オブ・メタルの演奏が始まると、大きな歓声が湧き起こった。スウェーデン出身、トリプル・ギターに男女トリプル・ヴォーカルを擁する8人組の大所帯は、野外ステージになかなか映える。しかもメンバーは全員、ヴァイキング戦士か?という出で立ちで気合い充分。勇壮なパワー・メタル寄りサウンドに、みんなテンションが上がりっ放しだ。

WOA22 ブラザーズ・オブ・メタル パー&エミル
Pähr(g) & Emil(b) / BROTHERS OF METAL

WOA22 ブラザーズ・オブ・メタル ヨアキム&イルヴァ
Joakim(g) & Ylva(vo) BROTHERS OF METAL

WOA22 ブラザーズ・オブ・メタル Dawid
Dawid(g)& Mikael(g)/ BROTHERS OF METAL

当然ながら、観客は99.9%がマスクを着けておらず、飛沫など知らんとばかりにガッツリ大声で歌いまくっている。日本の状況から考えると、まるで異次元の出来事のようでもあるが、意外とすんなり受け入れることが出来た。いや実際、ここはある意味で異次元なのだ。4日間、朝から晩まで8万人と野外でメタル三昧なんて、日本ではそうそう経験出来るものではない。

WOA22 クラウド・サーフ
観客はみんな当たり前のようにノー・マスクではしゃぎまくり!

こりゃ、次のグローリーハンマーも相当に盛り上がるだろうな…と思ったら、開始予定の17時45分を過ぎてもバンドが現れる気配すらなく、「何かトラブルか?」と心配しながら、それから30分以上待たされることに。途中2度ほどドイツ語でアナウンスがあるものの何を言ってるのか分からず、18時半を回って、ツアー・クルーらしき数名がバタバタとステージに現れたかと思うと、急ぎセッティングを済ませ、それからようやくバンドの登場となった。MCによれば、彼等が乗るハズだった飛行機が欠航となったため、代替便を手配して電車も乗り継いで、何とかWOA会場まで辿り着いたのだという。だが、演奏スケジュールはカッチリ守られ、彼等はたった4曲しか演奏出来ず…。それでも、そこまでしてファンのために駆け付けた5人のメタル戦士は、大拍手と大歓声で讃えられたのだった。

WOA22 グローリーハンマー セル
Ser Proletius(g)/ GLORYHAMMER

WOA22 グローリーハンマー バンド
GLORYHAMMER

悩ましい決断、EPICA or LOUDNESS?

続いての登場は、オランダのシンフォニック・メタラー:エピカ。重厚なる壮麗サウンドが、ギラギラと陽光照り付ける乾いた大地に響き渡る。“WOAといえば雨”というイメージを何となく持っている人もいるかと思うが、今年は4日間を通じて天候が大崩れすることはなかった。1日中ほぼ晴れだったこの日の最高気温は30℃。直射日光を浴びると痛いぐらいだ。しかも、北ドイツの日没は21時半を回ってからなので、夕方を過ぎて25℃を下回っても依然として西日が強く、体感ではまだ30℃以上あるように感じられる。

エピカの絢爛たる音世界は、そんな暑さを吹き飛ばすかのようだ。正直、ギター面での見せ場はそう多くないが、マーク・ヤンセン&アイザック・デラハイの堅実なプレイは光っていたと思う。ただ、それ以上に活躍を見せていたのが分厚いオーケストレーションを担う鍵盤奏者:クーン・ヤンセンで、湾曲した変形ショルダー・キーボードを抱えてステージ狭しと走り回り、そこから降りてきたかと思うと、観客の中へ飛び込んで行ったり…と、時に紅一点シンガー:シモーネ・シモンズを喰ってしまわんばかりに注目を浴びていたことは付け加えておきたい。

WOA22 アイザック・デラハイ
Isaac Delahaye(g) / EPICA

WOA22 エピカ マーク・ヤンセン&シモーネ・シモンズ
Mark Jansen(g) & Simone Simons(vo) / EPICA

WOA22 クーン・ヤンセン
Coen Janssen / EPICA (Pic: ©ICS Festival Service GmbH)

ところで、LOUDERステージだけを使った“WACKEN WEDNESDAY”とは別に、他のステージでも同時進行で熱演が繰り広げられていたのは言うまでもない。ただ困ったことに、各ステージはそこそこ離れて点在しており、あっちへ行ったりこっちへ戻ってきたりの移動が結構大変で、また、フェス序盤はいつもそうだが、ちょっとした事務的な手続きやモロモロの確認などでかなり時間が取られ、なかなかLOUDER以外のステージまで足を伸ばすことが出来なかった。おかげで、エピカとほぼ時間がかぶっていたラウドネスは全く観られず…。ただ、逆にエピカをあきらめ、HEADBANGERSステージまでラウドネスを観に行った連中は、みんな「凄かった!!」「やっぱりアキラ(高崎 晃)は神だよ…!」と口を揃えて大絶賛。当然ながら、オーディエンスの盛り上がりも相当だったようだ。

WOA2022 ラウドネス:高崎 晃
Akira Takasaki / LOUDNESS (Pic: Sergio Blanco)

AVANTASIAが初のサブ・ステージ登場〜魅力たっぷりのTHE NIGHT FLIGHT ORCHESTRA

そして、陽が落ちて暗くなり始めた頃──22時にLOUDERステージのトリを飾るアヴァンタジアのショウがスタート! ’08年発表のサード『THE SCARECROW』に伴う同年の初出演以来、’11年、’14年、’17年と4度に亘ってWOAのステージに立ってきたアヴァンタジアだが、メイン以外でプレイするのはこれが初めて。オールスター・キャストによるあのメタル・オペラ・プロジェクトがサブ・ステージ出演とは、ちょっと不思議な気もするが、主宰トビアス・サメットは策士だからして、そうした違和感すらも話題性に変えてしまおうという作戦なのかもしれない。あるいは、ニュー・アルバム『A PARANORMAL EVENING WITH THE MOONFLOWER SOCIETY』がまだ発売前(10月下旬リリース予定)だったため、言わば前哨戦として「サブでも良し」としたのだろうか?

ともあれ、メイン・ステージ出演じゃなくても、LOUDERステージだって充分に広くて大きいし、当然ながらモノ足りなさなど一切感じず。トビアス(vo)以下、ボブ・カトレイ(vo)、ロニー・アトキンス(vo)、エリック・マーティン(vo)、ヨルン・ランデ(vo)、サシャ・ピート(g)、オリヴァー・ハートマン(g, vo)、アンドレ・ナイゲンフィント(b)、フェリックス・ボーンケ(dr)、ミロ・ローデンベルク(key)、ハービー・ラングハンス(cho)というお馴染みの顔触れ、これが2度目のツアー起用となるエイドリアン・カワン(cho)&イナ・モーガン(cho)に加え、初参戦のラルフ・シーパース(vo)を含む豪華ラインナップは、2時間に及ぶ一大スペクタクル・ショウでもって、オーディエンスを感動させまくったのである。

WOA22 サシャ・ピート
Sascha Paeth / TOBIAS SAMMET’S AVANTASIA

圧巻だったのは、2曲目「Reach Out For The Light」でステージへ飛び出してきて、見事マイケル・キスクのパートを担ったラルフの存在感のデカさ。続いて、彼がメインを張る新曲「The Wicked Rule The Night」がプレイされると、歓声がいっそう大きくなった。以降もラルフは、主にマイケル不在の穴を完璧に埋めていったようだ。ようだ…というのは、実は4曲目が始まる前にHEADBANGERSステージへ向かい、以降の演目は多くを逃し、終盤の何曲かもプレス・エリアのモニターで観るしかなかったから。それでも、大病を乗り越えて力強いシャウトを放つロニーの姿には深く感動させられたし、幅広い声域を持ち、強烈なグロウルまでコナすエイドリアンにも感心しきり。また気が付けば、オーディエンスの数がブラザーズ・オブ・メタル演奏時の倍近く(それ以上?)に膨れ上がっていたことが、モニター越しでも容易に確認出来た。

WOA22 ラルフ&トビアス
Ralf Scheepers(vo) & Tobias Sammet(vo)/ TOBIAS SAMMET’S AVANTASIA

そんなアヴァンタジアの盛り上がりを背に、遥々向かったHEADBANGERSステージでは、ちょうどザ・ナイト・フライト・オーケストラの演奏が始まるところ。ソイルワークのビョーン・ストリッド(vo)が地元の仲間と古き良きロック/ポップを彼等流で甦らせた、この一風変わったプロジェクト・バンドは、’19年にもここWOAでプレイしているが、その時大いに楽しんだので、今回も観逃すワケにはいかない…と、思い切ってメイン・エリアの外まで足を伸ばすことにしたのだ。

ところが、いざショウが始まると、ステージ下手にリード・ギタリスト:デイヴィッド・アンダーソンの姿がなく、ビョーンの横には見知らぬギタリストが…。何でもデイヴィッドは、ここのところのライヴ/ツアーには不参加らしく(追記:9/14に急逝との報が…。R.I.P.)、その代役としてソイルワークのベーシスト:ラスムス・エーンボーンが呼ばれていたのだ(え〜と、彼がベースを弾くソイルワークのライヴは観たことがあるので、“見知らぬ”というのは撤回しなければ…ですな)。ベーシストもシャーリー・ダンジェロではなく、トリートやキング・ダイアモンド、ウルフなどでプレイするポンタス・エグベリがヘルプ参加。ただ、2人ともこれが初仕事ではなく、すっかり馴染んでいて特に違和感を覚えることはなかった。ラスムスはリード・パートで、良い感じにレイドバックなムードを醸していたし。

WOA22 ナイト・フライト・オーケストラ
Rasmus Ehrnborn(g) & Björn Strid(vo) / THE NIGHT FLIGHT ORCHESTRA

そして、全くスクリームしないビョーンの甘い歌唱を3曲ほど堪能すると、翌日以降のことで幾つか確認したいことがあったのでプレス・エリアへ移動し、そこのモニターでアヴァンタジアのショウ終盤を楽しんでいたら──3年振りのWOAでの1日目はあっという間に終了。

久々の海外渡航で、(現地民はもはや何も気にしていないが)コロナ禍での久々の野外フェス。いや…それどころか、長丁場のライヴ自体かなり久々だったのもあり、早くも初日から相当に疲れまくり、実は、その後のことはあまり記憶がない。まぁ、キャンプ・エリアまでシャトル・バスに乗って戻ったのは間違いないし、ちゃんと(?)シャワーを浴びてから寝たのも確かなのだが…。

Wacken Open Air 2022 敷地へ向かう入場客