“Japan Guitarist Team”とは?
’90年代末からJanne Da Arcのギタリストとして人気を博し、2000年代にはソロ・ギタリストとしてのキャリアをスタート、現在はNicori Light Toursを活動の拠点とするyou。そして2009年からViViDのギタリストとして活動を始め、2010年代半ばからソロ・ギタリストとして活躍、昨年からはDamian Hamada’s Creaturesの第二期メンバーとしても知られるRENO。世代は全く異なるが同様にV系バンドを出自とし、海外のギター・ヒーローたちに大きく影響を受けたという点でも共通している2人である。そんな彼らが中心となって、新たなプロジェクト“Japan Guitarist Team”を立ち上げた。当プロジェクトにまつわる両者の対談インタビューをヤング・ギター2024年5月号に掲載しているので、その詳細についてはぜひそちらでご覧いただきたいが…。簡単に言うとバンドやユニットを意味するプロジェクトではなく、例えばギタリスト同志がつながり合ってギター・シーンを盛り上げるための「ネットワーク、互助会」的なものをイメージしていただければいいのではなかろうか。ふわっとした説明で申し訳ないが、ウェブサイトにその理念がしたためられているのでお読みいただければと思う。立ち上げられたばかりなのでまだ情報は少ないが、今後何かしらの展開を見せてくれるはずだ。
そんなプロジェクトによる記念すべきファースト・ステージ“Japan Guitarist Team~Birth~”が、さる2024年4月27日、東京の渋谷REXにて開催された。今回ステージに立つギタリストとしては、youとRENOの他、元DELUHI/Far East Dizain他の活動で知られるLedaもゲストとして名を連ねている。ちなみにこの三者はかつて、元La’cryma Christi他のギタリストKOJIが主催したギター・イベント“Legend Guitarist”にも参加したメンバー。残念ながら一昨年KOJIが逝去したことにより、自然と終止符が打たれていたこのイベントの遺志を引き継ぐ…という意味においても、今回の第1回公演は熱かったわけである。
渋谷REXはキャパシティ300人のスタンディング会場だが、当然のようにソールドアウト(メンバーの豪華さを考えればもう少し大きい場所でも良かったのでは…と思う)。ギター・ファンがひしめき合い幻想的なSEが鳴る中、ステージ前方左側からLeda、you、RENOが並び、彼らの後ろにサポート・メンバーのshuji(dr/元Janne Da Arc)、高井 淳(b/Waive他)がスタンバイする。歓声と拍手が巻き起こると同時に、この夜のショウは新たに書き下ろされた楽曲「The Birth」でスタート。テクニカルなタッピングによるハーモニー、スティーヴ・ヴァイの名曲を思わせるアップ・テンポなヘヴィ・リフ、口ずさめるキャッチーなサビ…と、この後に来るべきショウの充実を想起させる素晴らしい幕開けだ。
ちなみにオープニング時に3人のギタリストが携えていたギターは、まずyouが神戸在住の個人ビルダーの手によるカスタム・モデル(ヘッドに“you’s Guitar”と手書きされている)で、2ハム+フロイドローズ+ボルト・オンの’80年代HR的仕様。RENOのG-Life Guitars“DSG Life-Flame / Faded Denim”は、HSHレイアウトのピックアップそれぞれにコイル・タップ&オン・オフ用スイッチが搭載されていたり、ブリッジ・ポジションのハムバッカーに1発で切り替えるダイレクト・スイッチが備わっていたり…というモダン・テクニカル仕様。LedaのESP“Snapper”を基にしたカスタム・モデル“Cygnus-SN”は、白いカラーにアノダイズド・ピックガードを合わせ、EMGのアクティヴ・ピックアップをSSHレイアウトで搭載するという個性派仕様。それぞれサウンドも三者三様ならば、細かく切り替わるソロ回しのフレージングも三者三様、耳を楽しませてくれる。
RENOセクション
当ライヴ・レポートの最後に掲載しているセットリストを見ていただけるとわかりやすいのだが、この夜のショウはyou、RENO、Ledaがそれぞれ自身の楽曲を持ち寄り、トリプル・ギターのアレンジに料理して聞かせるという構成だった。先述の鮮烈なオープニングに続いたのはまずRENOの楽曲を聴かせるセクション。youがG-Life Guitarsの青い“DSG-Life Ash”(アッシュ・ボディー&メイプル指板)、Ledaが黒いESP“Horizon”(フィックスド・ブリッジでEMGピックアップ搭載)に持ち替え、RENOは引き続き1曲目と同じG-Life Guitarsを構えて…飛び出したのはハード&スピーディーなロック・ナンバー「JOURNEY」だ。RENOのキャラそのままのポジティヴさあふれるメロディーを、youとLedaの2本のリズムが支え、スタジオ音源で聴くよりもずっとヘヴィに感じさせるのが面白い。また1回し目のハーモニーはRENOとyouが、2回し目のハーモニーはRENOとLedaが…といった具合に、担当パートがこまめに入れ替わっていたりして、入念に編曲と打ち合わせが成されたことも思わせる。その辺りはグルーヴィなリフが特徴的な「STARDUST」や、旋律が終始オクターヴで繊細に紡がれる「Collision of Universe」も同様。随所で抜き差しされる3人のギター・フレーズを追うだけでもただただ楽しい。
3人のギタリストいずれもが半端ないテクを備えた技巧派…ではあるが、そんな中でもRENOのギター表現は、どちらかと言えばゲイリー・ムーアなどの情熱系に寄っているのではなかろうか。中でもそう思わせたのが「罪と罰」で、他の曲とは色の異なる沈み込むようにダークな曲調の中、いわゆる“顔で弾く”ような図太いチョーキングやヴィブラートが強力な存在感を発揮。特に大きな喝采を浴びていたように思えた。
Ledaセクション
続いてはLedaのセクションで、彼はここで本来のメイン・ギターである、ストランドバーグのヘッドレス8弦ギター“LEDA8”(自身のシグネチュア・モデルでファンド・フレット仕様、8弦と7弦を1音下げてチューニング)に持ち替える。またyouも同様にヘッドレス8弦のGOC Guitars“Materia 8”(ファンド・フレット仕様でフィッシュマンのアクティヴ・ピックアップを搭載)にチェンジし、RENOのみ6弦のG-Life Guitars“G-Phoenix”(他モデルと同様に現代的コントロールを備えつつ美しいアーチド・トップ・ボディーを採用)を使用。まず披露された「Albireo」は優雅な旋律、スーパー・ヘヴィなリフ、練り込まれた展開…などが実にLedaそのもので、実はサムピックを用いている超テクニカルなフレージングは、はたから見ているととにかく複雑怪奇だ。youとRENOも流石の技巧でそれを支え、あたかも熟練のプログレッシヴ・バンドのよう。観客の反応も“あっけにとられる”という表現がぴったり当てはまる(Ledaいわく、9分ぐらいのより複雑な曲をやろうとも思ったが、メンバーに申し訳ないので止めたとのこと。ただ実はこの曲も7分弱ある)。
ただそんな大作をぶちかました後は、美麗なピアノが主導するいかにもクラシック・ロック的な王道バラード「WHITE HOLE」(youはここで冒頭のカスタム・モデル“you’s Guitar”にチェンジ)、ファンキーな跳ねるリズムの上にお洒落なメロディーが乗るスムース・ジャズ風の「HARD OFF」(LedaはここでESP“Cygnus-SN”にチェンジ)、最初から最後までハーモニー・リードが心地好い「FLOWERS」…と分かりやすくキャッチーなナンバーが並ぶ。特に「HARD OFF」のソロ回しではバキバキと鋭いLeda、温かく丸みのあるyou、枯れた間のあるRENO…といった具合に、それぞれのトーンの違いが如実に感じられ、それを楽しんだギター・ファンも多かったはず。
youセクション
今回youが自身のセクションにおいてテーマとしたのは、「まだ音源化されていない楽曲を中心に選ぶこと」だったという。ギター・インストのライヴにおいてなかなかチャレンジングな姿勢だが、初めて触れる観客の耳にもおぼえやすい旋律を作ることに関しては、さすがキャリアの成せる業だ。最初に演奏された「ゼロの身体」は特にもともとヴォーカル曲を意識して作られたそうで、サビでのyou & RENO & Ledaによる3声のハーモニーは実に“歌いたくなる度”が高い。一転、続く「J Vision」ではyouとLedaがそれぞれの8弦ギターを持ち出し(RENOは変わらずG-Lifeの6弦のままなのも面白い)、リフ主体のスーパー・ヘヴィな世界を創出。そして再び全員が6弦ギターに戻り、勢い良く始まった突進系ナンバー「SKY」では濃厚なソロ回しが炸裂。you的には特にこの曲でRENOとLedaに思う存分暴れてもらいたかったそうで、両者ともその期待に応えて弾きまくり、観客の盛り上がりも最高潮。自身も同様に弾きまくるyouの顔は本当に嬉しそうだ。
(ちなみに余談だが、ここまでの3曲はそれぞれ2021年、2021年、2017年に作曲された新しめのナンバーだという。いつかはまとめてレコーディングされるのかもしれない…早期希望!)
ただ、youセクションの最も感動的な瞬間は個人的に、最後に用意されていた「home」だったように思う。彼が2007年にリリースした最初のソロ・アルバム『LIFE ~the first movement~』の終盤に収められたナンバーであり、ここではリズム隊がステージから去って、3人のギタリストだけでプレイ。穏やかなクリーン・トーンのアルペジオと牧歌的なメロディーがじんわりと会場に染み渡り、先ほどのインタープレイで上がった心身の熱をゆっくりと和らげてくれるようだった。
ギタリストたちの想いと共に続く“Japan Guitarist Team”
「ここでやるかは一瞬迷ったんですけど、僕らのいろんな思いを込めて届けたいと思います」…youがそう語ったのちアンコールにて始まったのは、かつてKOJIが“Legend Guitarist”のために作曲し、何度か開催されたイベントを通してのテーマ曲ともなった「Legendary」だ。少し和風のテイストもある冒頭のハーモニーが奏でられた瞬間、空気が一気に華やかに変わる。中間部の3人によるソロ回し、変拍子なのに複雑さを感じさせないキメ…など、随所に設けられた聴きどころで会場の盛り上がりのヴォルテージを一気に高め、3人が思い思いに弾きまくるエンディングでそれは最高潮に達した。
「日本人ギタリスト同士が枠を超えて集結し、世界中にギターの魅力を伝えていく」…壮大な理想をかかげて始まったばかりのプロジェクト“Japan Guitarist Team”だが、充実した第1回を体験し、そのスタートが良い形で切られたことを実感した。さらにスケール・アップした第2回、第3回…を、できる限り早く実現していただきたいという要望を記して、本稿の結びとさせていただこう。
Japan Guitarist Team~Birth~ 2024.4.27 @SHIBUYA REX セットリスト
1. The Birth(Japan Guitarist Teamテーマ曲)
RENO セクション
2. JOURNEY
3. STARDUST
4. 罪と罰
5. Collision of Universe
Leda セクション
6. Arbireo
7. WHITE HOLE
8. HARD OFF
9. FLOWERS
you セクション
10. ゼロの身体
11. J Vision
12. SKY
13. home
[encore]
14. Legendary(Legend Guitarist Vol.1テーマ曲)