オクターヴ調整でギターの音程をより正確に! YG TUNE-UP FACTORY 第7回 メンテナンス編

オクターヴ調整でギターの音程をより正確に! YG TUNE-UP FACTORY 第7回 メンテナンス編

オクターヴ・チューニング(オクターヴ調整)という言葉を聞いたことがありますでしょうか。こちらも、ギターを適切にセットアップするためには欠かせない作業の1つです。難しそうに聞こえるかもしれませんが、頭で一度理解してしまえば大丈夫。工具もチューナーとドライバー(またはレンチ)のみでできる作業です。この機会にしっかり身につけておきましょう。

目的は12フレットの音を正しく出すこと

ちょっと物理的な解説ですが、オクターヴとは2音間の周波数の比率が2:1になる音程のことです。ギターにおけるオクターヴ調整は、開放弦の音の周波数に対してその2倍の周波数の音、つまり1オクターヴ上の音の高さ(12フレットを押弦した時に出る音)を調整するという行為を指しています。

詳しく見ていきましょう。ギターの弦は、ナットとブリッジ(正確にはブリッジ・サドル、駒/コマ)の2箇所が支点になっており、その間で振動した時に適切な音が出るように、チューニング・マシン(ペグ)で引っ張られています(図A)。ナット〜ブリッジ間の距離(弦長)を元に、各音が半音単位で鳴るよう計算されたのがフレットの打たれている位置です。

図A ナットからブリッジまでの距離と12フレットの位置
図A ナットからブリッジまでの距離と12フレットの位置

例えば6弦がE音にチューニングされている時、1フレットを押弦して弾くと、半音上のF音が出ますね。これはF音が出る位置にフレットが打たれているからです。今度は12フレットを押さえると、開放弦の1オクターヴ上のE音が出ますが、ここは弦長のちょうど真ん中です(図B)。

図B 12フレットは弦長の真ん中
図B 12フレットは弦長の真ん中

12フレットからサドルまでの距離とナット〜12フレット間の距離は同じなので、ちょうど1オクターヴ上の音が出るはずです。しかし実際は、音程がやや違っていた…という経験はありませんか? 

当たり前のようですが、12フレットの実音を出すには、指で弦がフレットに接するよう、押さえないといけません。この“下方向に押さえる”という行為で弦がやや引っ張られるため、本来よりも高い音が出てしまいます(図C-b)。これを調節して正しい音を出せるようにしてあげるのが、オクターヴ調整の作業なのです。

図C 1オクターヴ上の音程が上がる理由
図C 1オクターヴ上の音程が上がる理由

実作業:音程差の確認→弦をゆるめる→サドルを動かす

では、調節方法を見ていきましょう。ギターには普通6本の弦が張られていますが、どの弦も開放弦の音が1番低く、そこから押弦して高いフレットの位置に行けば行くほど高い音が出ますね。これは振動する弦長が短くなったことで振幅が小さくなり、振幅数が増えるからです。逆に考えてみると、鳴っている音を低くしたい場合は振動している弦の長さを長くしてやれば良い…ということになります。大抵のエレクトリック・ギターのブリッジには、弦の乗っかるサドルが前後に動かせるようになっていますが、それはまさにこのオクターヴ調整を行なうためのものなのです。このサドルで調節をしていきます。

まず、開放弦(または12フレットのハーモニクス音)で各弦のチューニングを合わせましょう。その後、12フレットを押弦して実音を鳴らしてみます。チューナーで少し高いという表示が出たら、弦長を伸ばして音程を低くするため、その弦のサドルをネックから遠ざける方向に動かす必要があります(図D)。逆に、12フレットの音の方が低い場合は音程を高くしたいので、ネック寄りに近づけて弦長を短くすることになります。

図D サドルを動かす方向
図D サドルを動かす方向

いよいよサドルを動かしますが、ここで注意! 事前に弦をゆるめて下さい。弦を張ったままですと弦にネジが上から押さえられた状態ですので、シンクロならイモネジを引きずったキズがブリッジ・プレートについてしまったり、最悪の場合サドルが前後に滑らず、ネジ馬鹿になってしまったりする…というリスクがあります。チューナーで音程を確認した後は、必ず弦をゆるめましょう。

では、サドルについているネジをドライバーで回しましょう。左(反時計回り)に回せばネジがゆるんで、サドルが自動的にネジから遠ざかる方に動きます。右(時計回り)に回せばネジが締まって、ネジに近づく方に動きます。サドルの前方と後方、どちらにネジがついているかによって、音程を変える方向が異なります。

下記写真のシンクロナイズド・トレモロはサドル後方にネジがあるので、実音が高い場合は時計回りにネジを回して締めてサドルをネジに近づけ、ブリッジ側に移動させることで弦長を伸ばします。これで実音を低くすることができます。

サドル前方(ネック側)にネジがついていて、同じく実音が高い場合は、ネジを反時計回りに回すことでネジがゆるんで、サドルがネック側から遠ざかり(=ブリッジ側に近づき)、弦長が伸びます。混乱しそうになりますが、よく考えて慎重にやれば大丈夫です(表1表2)。

なお、ドライバーを使う最中にサドルに指を添えたりする必要はありません。

サドル後方ネジ:時計回り
時計回りにネジを回すとサドルがネジに近づく
サドル後方ネジ:反時計回り
反時計回りに回すとサドルがネジから遠ざかる
表1・表2 サドルネジを回す向きと音程の関係
表1・表2 サドルネジを回す向きと音程の関係

シンクロナイズド・トレモロ、チューン・O・マティック:サドルが6個の場合

ストラトキャスターやレスポールを始め、サドルが6個に分かれているタイプは、修正すべきサドルを1個ずつ調節していきましょう。なお、オクターヴ・チューニングが合っている時の各弦のサドルの位置は、だいたいどのギターも同じになります。

サドル調整:シンクロナイズド・トレモロ
シンクロナイズド・トレモロはドライバーでサドルを1個ずつ調節する

サドル調整:チューン・O・マティック
チューン・O・マティックも同様、弦をゆるめておくのを忘れずに

テレキャスターなど、サドルが3個の場合

テレキャスターなどに使われる、1個のサドルに2本の弦が乗るサドルが3個のタイプは、どちらかの弦にしっかりオクターヴを合わせるともう片方は少しずれるという致命的な欠点があります。とは言ってもすごく微妙な狂いですので、一般の方でこのレベルでのピッチの狂いが気になることはそんなにないと思いますが、気分的になんとかしたい…と思う方は、1&2弦のサドルは2弦、3&4弦のサドルは3弦、5&6弦のサドルは6弦に合わせるのが良いでしょう。そうすることで1、4、5弦は少しサドルが理想値よりも下がる位置にくるため、押弦時の音程はやや低くなります。しかし、演奏時に押弦する力を強くすればピッチを合わせることができます(逆に押弦時の音程が高い場合、弾き方で調節することはできません)。

サドル調整:テレキャスター
弦が2本ずつ乗るサドルは、調整後に後ろに下がる方の位置に合わせるのがベスト

フロイドローズ・トレモロの場合

フロイドローズの場合は、サドルの底部がネジで固定されています。六角レンチでサドルのロックをゆるめたら、合わせる音程に近い位置にサドルを指で動かし、再びネジを締めましょう。弦をゆるめる時はナットのロックを解除し、ペグを回して下さい。ブリッジ側はロックしたままでOKです。

オクターヴを合わせた時のサドルの位置は他のブリッジと同じですので、まずは見た目である程度合わせてしまって、その後チューナーで確認しながら微調整を繰り返します。

また、例えば“Heavy Bottom”と明記されるような、低音弦に通常よりもゲージの太い弦を使うと、低音弦側の下がり具合が多くなってオクターヴが合わなくなる場合があります。その際はサドル底部のネジ位置を変えましょう。固定箇所がいくつかあるので、位置を変えることで調整幅を広げることができます。

フロイドローズ サドル調節
六角レンチでサドルのネジをゆるめる

フロイドローズ:サドル移動
指でサドルを前後に移動させる

サドルをどのくらい動かすとどの程度の音程変化があるかは、何度かやってみるうちに感覚的に把握できるようになります。

終わりに:調整後はハーモニクス音の位置が変わります

こうしてオクターヴ調整を行なうと、12フレットのハーモニクス音が出る位置も変わってきます。本来はフレットの真上に指を触れますが、サドルをネックから遠ざけた場合、弦長が設計上のスケールよりも長くなり、その分、弦の中央もブリッジ側に移動するのです。また、1弦側よりも6弦側の方が弦長が伸びていますから、低音弦側などは13フレット寄りに指を当てることになります。たとえば6弦ならサドルが4ミリほど後方に下がるので、12フレットから約2ミリ程度13フレット寄りの位置に指を置く…という感じです。ぜひ憶えておいて下さい。

なお、押弦する力には個人差があり、それによって音程が狂う誤差の度合いも変わります。オクターヴ調整は、その楽器を演奏する本人が普段弾く時と同じ押さえ方で行なうのが一番間違いのない方法です。