ブラック・メタルやグラインド・コアに強烈なインダストリアル・ノイズを掛け合わせた唯一無二のサウンドを創り出すバンド、アナール・ナスラックが6月18日に来日公演を行なった。本国イギリスでのデビューは1998年に遡り、2007年発表の3rdアルバム『HELL IS EMPTY, AND ALL THE DEVILS ARE HERE』で日本デビューを果たすが、初来日公演が実現したのはそれから約10年の時を経た昨年、2016年8月のこと。東京、大阪、名古屋を廻るツアーで長年待ち焦がれたファンを歓喜させたが、それから1年も経たずに彼らは再び日本に戻ってきてくれた。今回は東京で一夜限りの日程となり、会場はなんとソールド・アウト! あたり一面黒いバンドTシャツで埋め尽くされていた。
開始時刻をやや過ぎたところで場内が暗転し、前作『DESIDERATUM』(’14年)のオープニング・トラック「Acheronta Movebimus」、そして「Unleash」というアルバム通りの流れでスタート。真っ先に強烈な印象を与えたのがヴィトリオールことデイヴ・ハントのヴォーカルだ。スクリームの凄まじさはもちろん、クリーン・ヴォイスもブルータルな曲調からは想像もできないような太く美しい声を響かせ、オーディエンスは彼の歌唱力の高さに早くも圧倒されていた。そしてミック”イルメイター”ケニー(g)は観客を煽りながらも、正確なグルーヴと高まる感情を爆発させるかのようなダイナミックなプレイで観る者に大きなインパクトを与えていた。この2人がバンドのオリジナル・メンバーだが、サポート勢も前回来日時と同じダン・ローズ(g)、ダンカン・ウィルキンス(b)、アニール・キャリア(dr)といったラインナップであったため、まるで正式メンバーのような安定感のあるプレイを見ることができた。特にダン・ローズはギター・ソロ等のリードをもソツなくこなし、その卓越した演奏能力を見せつけていた。
前述した『DESIDERATUM』や5th『IN THE CONSTELLATION OF THE BLACK WIDOW』(’09年)、そして昨年発売された現時点での最新作『THE WHOLE OF THE LAW』からの楽曲が主に披露されていたが、中盤には「Bellum Omnium Contra Omnes」(’06年『ESCHATON』収録)等の少し懐かしい曲も。フロアに広がるモッシュは、大小の変化はありつつも一向に止むことはない。そして「The Joystream」で痺れるような電撃音が放たれ、本編が終了した。
アンコールを呼ぶ際もオーディエンスの間ではグロウル・ヴォイスが飛び交っており、わずかな時間さえも惜しむほどのテンションが感じられた。それを察するかのように、バンドは想像より早く再登場。そして、日本ではまだ1度も楽曲が披露されていなかったアルバム『PASSION』(’11年)から「Drug-Fucking Abomination」、そして現在では彼らの代表曲の1つとも言える『DESIDERATUM』収録の「Idol」が演奏された。後者は前回では序盤に登場したため、今回は聴けないのではないかとそわそわしていたオーディエンスも待ってましたと言わんばかりの暴れっぷりを見せ、最高潮の盛り上がりとなった。実は本来アンコールの曲目として、「Idol」と「More Of Fire Than Blood」のみが用意されていたのだが、本編終了直後に急遽、先述した「Drug-Fucking Abomination」とラストの「Between Shit and Piss We Are Born」の2曲を追加して演奏してくれたのだ。そのため最後までかなりヴォリューミーな内容となり、ライヴは大盛況のうちに幕を閉じた。ぜひまたの来日を希望すると共に、今回は披露されなかった1stや2ndからの楽曲が聴けることにも期待したい。
アナール・ナスラック 2017年6月18日@原宿アストロホール セットリスト
1. Acheronta Movebimus
2. Unleash
3. Depravity Favours The Bold
4. Monstrum In Animo
5. Bellum Omnium Contra Omnes
6. The Lucifer Effect
7. Forging Towards The Sunset
8. In The Constellation Of The Black Widow
9. Hold Your Children Close And Pray For Oblivion
10. We Will Fucking Kill You
11. The Joystream
[Encore]
12. Drug-Fucking Abomination
13. Idol
14. More Of Fire Than Blood
15. Between Shit and Piss We Are Born