BRITISH LION
アイアン・メイデンのスティーヴ・ハリス(b)率いるブリティッシュ・ライオンが再来日! ’18年秋以来、約6年振り─今回は9月23日に大阪、25日に東京で…と、アイアン・メイデンの“The Future Past”来日ツアー日程の合間を縫うように、計2公演が行なわれた。そう、以前はメイデン本隊の活動が止まったらライヴ/ツアーに出る…というスケジューリングが主だったのに、何と同時進行で動いていたのだ。おかげでスティーヴは、来日中ほぼ休みなく連日ステージに立つことに。現在68歳という年齢を考えると、そのタフさには驚愕するしかない。尚、ここでは東京公演:Spotify O-EASTでの模様をお伝えしよう。
バンド・メンバーは前回来日時から…というか、当初よりずっと変わりなく、スティーヴ以下、リチャード・テイラー(vo)、デイヴィッド・ホーキンズ(g)、グラハム・レスリー(g)、サイモン・ドーソン(dr)という5名の結束は固い。何曲かでオルガンなどキーボードが鳴っていて、てっきり同期音源を使用しているのかと思ったら、ステージ袖に鍵盤担当がいてビックリ。ただし、飽くまで裏方との立場だったようだ。’12年にアルバム『BRITISH LION』がリリースされた時、そのジャケには“STEVE HARRIS”とあり、同作はスティーヴのソロ作とも伝えられ、翌年ライヴ活動をスタートさせた時点でも、まだスティーヴのソロ・プロジェクトと見なされていたブリティッシュ・ライオン。しかし、その後も固定ラインナップにてライヴ/ツアーを重ねていき、そのまま正式なバンドへと発展。よって、’20年発表の続く『THE BURNING』は、事実上セカンド・アルバムと広く認識されている。
とはいえ、正直言ってスティーヴ以外のメンバーは、ステージ・アピアランスからして全員かなり地味だったり…。大変申し訳ないが、フロントマンのリチャードですら、カリスマティックなミュージシャン・オーラを放っているとは言い難い。見方を変えれば、フレンドリーで取っ付き易い…とも言えるものの──まるで“ずっと頑張ってはいるが、なかなか芽が出ないローカル・バンドの小ぢんまりしたギグに、間違ってアイアイン・メイデンのベーシストが紛れ込んてしまった”かのような印象すらあって…。だがスティーヴにとっては、それだから居心地が好いのだろう。毎回アリーナ・クラスやスタジアム、巨大フェスにて万単位の大観衆を前にプレイするメイデンとは異なり、多くの場合、ライヴハウスやクラブで1000人以下のオーディエンスを相手にするブリティッシュ・ライオンだと、きっと彼は初心に戻ることが出来るに違いない。実際スティーヴは、そんなファンとの距離の近さやアットホームな雰囲気を、今のメイデンではまず味わえないからこそ、何より大事にし、楽しみにしてもいるようだ。
このO-EAST公演でも、観客のすぐ近く──フロアの真ん中ぐらいで観ていても手が届きそうな距離に──あのメイデンのベーシストがいるという、何だか不思議な空間となっていた。だからといって、ユルさなど全くなく、いつだってスティーヴは全開バリバリ。ただ、スティーヴの使用機材も、出音も、見た目も、メイデンのライヴと何ら違わないのに、バンド一丸となって放たれるサウンドはというと、メイデン的壮大なスケールとは趣を異にし、メタルというよりはハード・ロックといった感触の楽曲自体、そもそもが全くの別モノ。ところどころ“とってもメイデン”な瞬間があっても、また独特の魅力を放つのが、このブリティッシュ・ライオンの面白いところだ。
言うまでもなく、ギタリスト2名にしても、一切メイデンらしさなんて意識すらしていないハズ。強いて言えば、グラハムはヤニック・ガーズ・タイプ(見た目もちょっと似ていて、どことなくニコ・マクブレインっぽいような印象も)かもしれないが、一方のデイヴィッドは言うなればナード系で、メイデンには絶対にいないタイプだし。ステージ上手に陣取るデイヴィッドは、基本そこからほぼ動くことなく、自分のプレイに没頭するタイプだというのも付け加えておこう。まぁその分、 グラハムが時おり下手側からデイヴィッドの方まで移動してきて、横並びで豪快にギターを掻き鳴らしたりもしてくれるのだが。
リード・パートの内訳は、確実にデイヴィッドが多め。グラハムだけがソロを執る曲もあるし、「A World Without Heaven」では掛け合いからツイン…といった展開も見せるが、おおよそ60〜70%をデイヴィッドが担い、どちらかというと グラハムがフィーリング重視なのに対し、デイヴィッドはより練り込んだソロを得意としていて、テクニカルなフレーズもコナす。そんなスタイルの違いが、ライヴだと視覚上も聴覚上もより際立ってくる。
序盤の「Judas」中間部カットアウト後の静パートでアコを弾き、ハッとさせる場面転換を演出して見せたリチャードは、「The Chosen Ones」「Land Of The Perfect People」「Eyes Of The Young」では、いずれも曲冒頭からアコを手にし、サウンドに厚みをもたらすと同時に、アルバム通りの再現にひと役買っていた。イントロからアコが重要な役割を果たす後者2曲は勿論のこと、スウィートの某曲っぽく始まる前者には、ギター・ソロのシメとしてボストンを思わせるツイン・リード・パートがあり、そこでのアコのカッティングは特にアクセントとして欠かせないのだ。
細かなコダワリはスティーヴにも。このバンドではメイデンほどコーラスを執らない彼だが、「2000 Years」の時だけ、彼の前にマイク・スタンドが置かれ、グラハムと共にコーラスを入れる。同曲が終わると、マイク・スタンドはすぐに引っ込められるから、正にこの1曲のためだけにわざわざ用意しているのだ。ちなみに、その「2000 Years」はアルバム未収録の新曲で、ショウ終盤にも、もう1曲「Wasteland」という新曲が披露された。『THE BURNING』のリリースから4年以上が経過しているのだから、新曲が出来上がっていても何ら不思議ではない…というか、実はその『THE BURNING』、’18年の初来日時にはもう完成していたそうで、実質6年もあれば、もっと多くの新曲がありそうだ。そもそもデビューまでの準備期間が長かったから、曲のストックはまだまだ沢山あるのでは? かつて’13年の初ライヴの時点で、もうセカンド収録の「The Burning」や「Last Chance」がプレイされていたそうだし。
ところで、スタジオ・アルバムで聴くと、ハード・ロックどころか“UKロック”と呼んだ方がしっくりくるような、爽やかポップだったりエモ・キャッチーだったりする楽曲を幾つも有するブリティッシュ・ライオンだが、その手のレパートリーも、パワー・ヒッター:サイモンのドラミングもあってか、ライヴでは結構ハード&メタル寄りに感じられたりする。また、一緒に歌える「オ〜オ〜オ〜♪」といったパートが沢山あって、文字通りライヴ映えする楽曲が多いことも、今回改めて痛感させられた。
そして──最も驚いたのは、全17曲で約100分(アンコールなし)と、なかなかの長丁場だったこと。メイデンのツアーの合間にやるライヴだし、スティーヴの体力面を考慮し、またオープニング・アクトもいたから(後述)、そんなに長くないかな〜なんて思っていたら、まさかの充実度&濃密度! あのスティーヴのプレイがごく近距離でたっぷり堪能出来て、爽快なシメ曲「Eyes Of The Young」の余韻も心地好く──終演後はすべての観客が満足気な表情を浮かべ、「良いライヴだったね〜!」「めっちゃ感動した!」なんてみんな笑顔で言い合っていた。「2000 Years」と「Wasteland」を聴く限り、ニュー・アルバムへの期待もますます高まる…!!
BRITISH LION@Spotify O-EAST 2024.9.25 セットリスト
1. Intro〜This Is My God
2. Judas
3. Father Lucifer
4. Bible Black
5. 2000 Years
6. The Burning
7. Legend
8. These Are The Hands
9. A World Without Heaven
10. Spit Fire
11. Land Of The Perfect People
12. The Chosen Ones
13. Us Against The World
14. Wasteland
15. Lightning
16. Last Chance
17. Eyes Of The Young
TONY MOORE’S AWAKE
今回のツアーには意外なオープニング・アクトが帯同していた。その名もTONY MOORE’S AWAKE。トニー・ムーアが何者なのか、事前に知っていた観客はそう多くなかったろう。もしや、元ライオットのシンガーと思った人もいた…かも? 何と彼、アイアン・メイデンの元メンバーなのだ。しかも、キーボーディストとして在籍(!)し、’77年のごく短期間ではあったが、何度かライヴも行なったらしい。当時のメイデンは、まだデビュー前。ヴォーカルはデニス・ウィルコック、ドラマーはその後サムソンに加わるサンダースティックで、デイヴ・マーレイが出たり入ったりを繰り返していた時期でもある。驚くことにメイデンは、その頃キーボード入りの編成を模索し、トニーはメンバー募集を見てスティーヴと連絡を取り、ブリストルからロンドンへ移ってきたという。しかし、やはりメイデンに鍵盤奏者は不要…という結論に達し、恐らく数ヵ月でトニーは脱退することに。その後、TANZ DER YOUTH、イングランドなどバンドを渡り歩き、カッティング・クルーに加わるもチャンスに恵まれなかった彼は、ソロ・アーティストとして地道な活動を続け、やがてソングライターとして広く活躍し、またクラブ経営やラジオDJとしても手腕を発揮していく。そんな彼とスティーヴの絆が復活したのは、奇しくもコロナ禍のことで、ロックダウン中の非現実をコンセプトに生まれたのが、TONY MOORE’S AWAKEだったという。今年、彼はブリティッシュ・ライオンのツアーにオープニング・アクトとして全面帯同。約55分に及ぶショウで、来日前にも、その非凡な才気をオーディエンスに証明してきた。
TONY MOORE’S AWAKEと聞いて、彼が率いるバンドだとみんな思ったことだろう。だが、いざショウが始まると、まさかのトニー単独。しかも彼は、いきなりギターを抱えて登場し、バッキング・トラックと映像(PV風に加えて、MCを要約した日本語メッセージも)を駆使して9曲を弾き語り、何度も衣装替えしつつ(ドクロ・ファッションからエルトン・ジョン風まで…!)、エモいソロまで弾きまくったからさらに驚いた…!
勿論、鍵盤も弾くのだが、飽くまでメインはギター&ヴォーカル。決してテクニカルなプレイヤーではないものの、エモーショナルなプレイはすぐ観客の心を掴み、デイヴィッド・ギルモア彷彿の泣きまで飛び出して、鍵盤を弾く曲では、ギター・ソロを弾く本人映像がスクリーンに映し出されたりも。スティーヴは現在の彼について、「もしトニーが当時、今のようにギターがプレイ出来たなら、恐らくずっとメイデンでプレイし続けていただろう」とコメントしたとか。
完全セルフ・プロデュースの手作りライヴということで、色々チープな部分もあったが(特に映像)、そのアイデアの豊富さ、非凡なセンス、ユーモアのある仕掛けには、思わず唸った…という人も少なくなかったのでは? 音楽的には、ジェネシスやイエスといった往年のプログレの巨人達が’80年代に辿り着いたポップ・テイストや、ピンク・フロイドの“深みのある聴き易さ”を独自解釈したかのようで、とにかく英国テイストが豊潤。いかにもスティーヴが好きそう…でもある。それにしても、過去に一瞬だけ在籍した元バンドメイトを今になってツアー帯同させるなんて、そんなところもスティーヴらしい…と思った次第である。
TONY MOORE’S AWAKE セットリスト
1. Intro〜Awake
2. The Clock Has Started
3. Love We Need You Here
4. Just One Night
5. Dear Life
6. Not Normal
7. Remember Me
8. Crazy In The Shed
9. Asleep