荒れ狂うテクニカル・デス・メタルの奈落へ…! クリプトプシー2023来日レポート

荒れ狂うテクニカル・デス・メタルの奈落へ…! クリプトプシー2023来日レポート

昨年12月中旬、カナダのベテラン・デス・メタラー:クリプトプシーが来日! 東京にて2公演を行なった。’99年初来日の彼等にとって、日本でのライヴ公演(フェスやイベント出演を含む)はこれで6回目。前回が’19年夏だったから、約4年半振りの日本訪問となる。来日前にはちょっとした波乱もあった。元々の公演日がナパーム・デスと重なっていたため、異例の日程調整が行なわれ、当初12月13日とアナウンスされていた初日公演が1日前倒しされたのだ。

クリプトプシー来日告知

そんなバンドとプロモーターの神対応もあり、その渋谷ストリームホール公演はソールドアウトに。続く14日の代官山SPACE ODDでの公演は、ストリームホール完売を受け急遽で決まった追加日程にして、トルコ、香港、ベトナム、タイ、インドネシアと廻ってきたアジア・ツアーの最終公演でもあった。ここでは、後者SPACE ODDでの模様をお伝えしよう。

前身バンドも含めると、’23年はクリプトプシーにとって結成35周年の節目となる。現在バンドを引っ張るドラマー:フロ・モーニエが’92年に加入してからも既に30年以上が過ぎ、もはやデス・メタル界隈においてはレジェンド・バンドの域に。現ラインナップは、そのフロ(dr)以下、’07年加入のマット・マギャキー(vo)、’06年加入のクリスチャン・ドナルドソン(g)、’12年加入のオリヴィエ・ピナール(b)で、’13年頃まではツイン・ギター編成だったが、ここのところはクリスチャンが激烈かつテクニカルなギター・パートをひとりで担っている。

クリスチャン・ドナルドソン
Christian Donaldson

オリヴィエ・ピナール
Olivier Pinard

SPACE ODD公演はソールドアウトとはいかなかったが、集客は上々。’23年9月リリースの最新作『AS GOMORRAH BURNS』から「In Abeyance」で幕を開けると、文字通りのブルータル攻勢に、のっけからフロアは騒乱の巷と化す。3分に満たない短い曲だが、その殺傷力はとてつもなく、あれよあれよという間にすべてのオーディエンスが、荒れ狂うテクニカル・デス・メタルの奈落へと引きずり込まれてしまった。マットの野太いガテラルは地の底から響いてくるようで、クリスチャンの怒濤の刻みは速射砲の如し。オリヴィエのベースは時にうねうねとのたうちまわり、フロの超絶ドラミングは変幻自在にして正確無比。もう最初の数分間で、誰しもが感嘆の声を上げ、それも出来ないぐらいの衝撃で絶句し、このバンドでしか味わえない驚異体験に、一部観客はもはや暴れるのも忘れて陶然とするのみ。

マット・マギャキー
Matt McGachy

フロ・モーニエ
Flo Mounier

クリスチャンのプレイは一見淡々としているようで、実は静かなる激情を大いに孕んでいる。大きなアクションを見せたり、ステージ上を派手に動き回ったりすることはないが、そもそもそういうバンドではないし、ステージ中央に髪を振り乱しながら豪快にヘドバンしまくるマットがいるのだから、アクティヴな面は彼に任せとけばイイ。但し、当然ながらクリスチャンとてただ機械のように弾くだけではない。時に感情を迸らせ、マットのスクリームに合わせて、思わず叫んだりもしていたのだから。

いやはや、ギター・パートだけに着目してみても、観ているだけで体力を削られそうになる凄まじさだ。実のところ、リード・パートで圧倒する場面はそう多くない。むしろバッキングの方が極悪レべルだったりして、「Slit Your Guts」(’96年『NONE SO VILE』収録)のイントロに代表される鬼刻みなんて、ある意味どんな速弾きソロよりもタフかもしれない。

クリスチャン&マット

フロの人並外れたテクも大健在。間もなく50歳になろうというのに、パワー面でも全く衰えなど感じさせず、激速ビートに高速フィルを絡め、まるで、どの曲でもずっと全力でドラム・ソロをやっているかのよう。力押しのようでそうではなく、華麗なシンバル捌きも含め、細かな技巧が散りばめられ、言わずもがなただ速いだけではない。しかも、ショウ中盤には長めのソロ・タイムが設けられ、普通のバンドだったらトゥー・マッチになってしまうところ、クリプトプシーの場合は、殆どの観客が彼のドラミングを観にきている…とも言え、バンドによっては休憩タイムになりかねないドラム・ソロが、ショウのハイライトのひとつになってもいた。

フロ2
フロ4

セットリストは、『AS GOMORRAH BURNS』と『NONE SO VILE』からの楽曲が大半を占め、その他は『…AND THEN YOU’LL BEG』(’00年)から1曲(「Back To The Worms」)、EP連作『THE BOOK OF SUFFERING』の“TOME I”(’15年)と“TOME II”(’18年)から「Detritus(The One They Kept)」&「Sire Of Sin」の1曲ずつと、これまでのキャリアとリリース枚数を考えれば、ちょっとバランスを欠いていたかも? いや、未だに『NONE SO VILE』の人気は図抜けているから、今回そこから5曲(「Graves Of The Fathers」「Crown Of Horns」「Slit Your Guts」「Phobophile」「Orgiastic Disembowelment」)やっても、「足りない! 他の曲は?」「もう毎回全曲やってくれ!」といった反応が続出…? あと『WHISPER SUPREMACY』(’98年)からも1曲ぐらいは…と、個人的には思いつつ、最新作から3曲(「In Abeyance」「Lascivious Undivine」「Flayed The Swine」)もやってくれたし、あまり贅沢は言うまい。

まぁ、アンコールを入れても約65分とライヴ自体が短過ぎる…という意見もなくはないだろう。とはいえ終演後、あちこちから聞こえてくるのは──彼等のライヴではいつもそうだが──「凄かったな!」「うん、やっぱり凄い…!」と、とにもにかくにも驚嘆に満ちた賛辞だらけ。きっとみんな、「もうあと何曲かやってくれたら…」との思いも抱きながら、総じて満足度は高く、つまりは“ちょっとモノ足りない”ぐらいでちょうど良かったのかもしれない。

今年、デビュー30周年を迎えるクリプトプシー。すぐまた戻って来て、記念の集大成ライヴを日本でやってくれたら最高なのだが…。そんな“次”への渇望感と共に再来日を楽しみに待ちたい!!

クリスチャン
マット
オリヴィエ
クリスチャン&マット

CRYPTOPSY 2023.12.14@代官山SPACE ODD セットリスト

1. In Abeyance
2. Graves Of The Fathers
3. Lascivious Undivine
4. Crown Of Horns
5. Slit Your Guts
6. Back To The Worms
7. Drum Solo
8. Detritus (The One They Kept)
9. Sire Of Sin
10. Flayed The Swine

[encore]
11. Phobophile
12. Orgiastic Disembowelment

クリプトプシー公式インフォメーション
クリプトプシー | ビクターエンタテインメント