全員“出っぱなし”で繰り広げられた真夏の夜のギターの宴
V系ロック・シーンの中でも実力に定評のあるギタリストが集い、様々なコラボレーションを繰り広げるギター・インスト・ライヴ“Legend Guitarist”。昨年12月に行なわれた第1回の模様をこちらでレポートさせていただいたが…、その中心人物となったKOJI(ALvino)いわく、「第1回が終わった時から既に次回のことを既に考えていた」らしい。その第2回が去る2017年8月24日、赤坂BLITZにて開催された。出演ギタリストは前回から引き続き参加のKOJI、you(Janne Da Arc)、RENOに、新しく新井崇之(LIPHLICH)を加えた4人。サポートを務めたのはNATCHIN(b/21g)、都 啓一(key/Rayflower)、shuji(dr/Janne Da Arc)の3人だ。
前回は各出演ギタリストのソロ・ステージを基本に、様々な曲で他のギタリストがゲストとして呼び込まれるような形だったが、今回のテーマはひとことで言えば「出っぱなし」。サポートの3人が常にステージ後方で土台を支えているのはもちろんのこと、ギタリスト4名も頭からお尻まで、ギターを抱えて弾きっぱなしの暴れっぱなしだ。ステージ前面には右からRENOのメサブギー、youのオレンジ、KOJIのVHT、新井のマーシャルがずらりと並び、アンプだけでも実に壮観。
リズミカルなSEに導かれてギタリスト陣がステージ上へ次々登場、始まったのは華やかなメロディーから幕を開ける「Legendary」だ。当イベントのテーマとして作曲されたナンバーで、前回から参戦している観客には既にお馴染だろう(ちなみに第1回の告知動画ではあるが、こちらでそのダイジェスト音源を聴くことが可能)。四声の分厚いハーモニーの後、RENOが派手なタッピングをぶちかますと、新井がワウを巧みに操ってそれに応え、youが得意の技巧的なメカニカル・フレーズで魅せれば、KOJIが開放弦を生かした豪快なロック・アプローチで攻める…。各ギタリストの異なる個性が存分に発揮されるソロ回しに、初っ端からワクワク感が止まらない。
続いてRENOの歯切れ良いリフから、彼の新曲「Chemical Rock」がスタート。ペンタトニック主体のストレートなメロディーを、ある時はKOJIと共に、ある時はyouと共に…、パートナーを変えながらオクターヴでハモる様はいかにもコラボ感があって楽しく、一方ステージの端で新井はひたすら暴れながらバッキングを刻んでいる。そのコンビネーションの妙は、既に何年も連れ添ったバンド・メンバーのようだ。
KOJIの奏でるさわやかなハードロック・リフから始まったのは、彼の最新アルバム『Cozy』からの「Joy」。素晴らしく分厚いサウンドはまさしく4人のギタリストのアンサンブルの賜物だが、一方で引くべきところは引いて間を活かす辺りは、さすがトップ・ギタリストたちのなせる技だ。youと新井がステージ中央で観客を煽る中、KOJIとRENOが左右のお立ち台に乗ってツイン・ハーモニーをバッチリと決めると、歓声が一際大きくなる。
美しいキーボードのイントロから導かれ、リフと旋律が入り混じったいかにもyouらしい凝ったフレーズから、穏やかな「new place」へ。ここまでのアップ・テンポな流れを落ち着かせるように、しっとりした情感あふれるロング・トーンが会場を包み込む。随所に細かい節回しを挟み込んでエモーションを増大させる辺り、彼はテクニックの使い方が本当に巧みだ。そしてコーラス部分ではKOJIとのハーモニーもあり、しっかり派手に見せることも忘れない。
ソロ・ギタリストとしてのキャリアを持つKOJI、you、RENOに対して、「企画物ぐらいでしかインスト音楽を作ったことがない」という新井がチョイスした曲は、なんとマイケル・シェンカー・グループの「Into The Arena」。彼とRENOが左右のお立ち台でシャッフル・リフをノリ良く奏で、KOJIとyouが合いの手のようにタイミングよくコードを入れる、そのイントロだけでギター・ファンならノックアウト状態だ。得意のワウで勢いよくソロを取る新井の表情は心底楽しそうで、初参加ながら実に馴染んでいる。ベース・ソロ、キーボード・ソロ、ドラム・ソロに続くリフは、4人全員での刻みで奏でられ、ズンズンザクザクという低音の迫力が実にものすごい。
さらにはコージー・パウエルのソロ・アルバム『TILT』から、ゲイリー・ムーアの名演である「Sunset」が続く。YG本誌読者ならともかく、おそらくV系のファンには全く馴染みのない曲であろうが、ゲイリーばりに顔で弾く新井のパワフルなヴィブラートに、会場の全員が引き込まれているのがよく分かる。まさかこの場でこういう曲が聴けるとは思ってもおらず、ニヤリとした観客が、おそらく筆者以外にも何人かいたのではないだろうか。
その泣きの旋律を引き継ぐように、youの優しいメロディー弾きから、バラード「sweet lemon」へ。歌声を思わせる節回しは思わず口ずさみたくなる心地よさで、浸っていると間髪を入れずRENO&新井との三声のハーモニーが飛び出し、さらに深く心へ染み入る。かと思うと終盤には荒々しいタッピングもあり、表現の幅が実にダイナミックだ。
続くKOJIの「Perfect World」もまた泣き主体の楽曲で、3拍子の独特なリズム、そして物悲しさの漂う素朴な(どこかジブリのアニメ作品を思わせる)旋律が実に心地よい。フロント・ピックアップの甘い音色も実に楽曲に合っている。中間部にはyouと向かい合ってのハーモニーもあり、ベテランらしい落ち着いたアンサンブルが、さらに安心感を醸し出す。
そんな穏やかな流れを引き裂くように、ジミヘン・コードを活かした豪快なリフが会場に響き渡る。新井の「No6」は楽曲の随所に妖しい雰囲気が漂い、会場の空気を一気にロックな荒々しい方向へ転じさせる。この曲での主役は完全に新井1人で、新参ながら他の3人を食ってしまう勢いに感じられたのは、筆者だけではあるまい。
MCを挟んだ終盤戦もその勢いはキープしたまま、RENOの熱いシャウトによる煽りから、youによる爆走メタル「action」へ。中間部ではyouと他の3人のギタリストによる熱い掛け合いも繰り広げられ、RENOとの対抗心を剥き出しにした速弾き、KOJIとのロック魂全開の弾きまくり、新井との妙な音階を使ったシーケンス駆け上がり…という、剥き出しのギター・サウンドによる実に大人げないバトルに場内が沸きまくる。
ディレイの効いたKOJIのリフが印象的な「Universe」が後に続き、その勇壮な旋律で会場の空気をさらに熱くする。アップ・テンポの楽曲ながら主旋律は緩やかなロング・トーンで、揺れ幅の大きなヴィブラートが実に心地よい。さらにここでもサビではRENOとのハーモニー、エンディングではyouとのハーモニーがバッチリと決まる。おそらくこの晩の赤坂BLITZは、世界中で最もたくさんのツイン・リードが聴けた場所だったにちがいない(笑)。
跳ねるドラムのイントロに合わせて観客から手拍子が起こり、その上にRENOによる「From the Sky」のポップなアルペジオ的旋律が乗る。中間部ではギターのフレーズを観客に歌わせるコール&レスポンスもあり、わざと人間に歌えないような高音を出して笑いを誘う場面も。そしてラストにはもう1曲RENOの手による「JOURNEY」がすぐさま続き、ここでも全編を4本のギターのエネルギッシュな掛け合いと芳醇なハーモニー・リードが彩った。
大団円にふさわしい盛り上がりの後も、もちろん観客からの拍手が鳴り止むことはない。アンコールに応えて再び4人のギタリストと3人のサポートが登場、披露されたのはなんとKOJIとyouのコラボレーションによる新曲「Summer Next Start」だ(これはもちろん今回の“Legend Guitarist Vol.2”のサブタイトルでもある)。中心となった2人のハーモニーから始まったこのナンバーは、4人のハード・ロックな掛け合いソロからゆったり始まり、中盤でスピード・アップして再び4人のソロ、さらに’80年代フュージョン的な技巧的ドラム/ベース/キーボード・ソロが続き、四声のハーモニーでクライマックスを迎える…という贅沢な「全部盛り」ナンバー。冒頭の「Lengendary」と同様、今後も定番としてこのイベントを盛り上げてくれるであろうことが予想できる、強烈なインパクトだった。
「今日はみんなが知っているカヴァー曲も用意して来ました」というKOJIのMCの後に始まったピアノのイントロは、映画『アナと雪の女王』でお馴染みの「Let It Go」だ。イディナ・メンゼルの伸びやかな歌を再現する4人のギター・アンサンブルはかなり練り込まれており、ハーモニーを奏でるツイン・ギターのコンビが次々と入れ替わっては、合いの手のように次のパートが絶妙のタイミングで差し込む。まさしく阿吽の呼吸という言葉がピッタリ当てはまる。
その美しい美旋律の余韻に浸る隙を与えず、叩き付けるように激しいヘヴィ・リフから始まったのは、これもまた誰もが知っている映画音楽「Mission: Impossible」だ。緊張感あるテーマ・メロディーがオクターヴ・ユニゾンで奏でられ、その合間を縫って繰り広げられる4人のシュレッド・ソロ。縦横無尽に駆け巡る渾身の弾きまくりが、2度目のクライマックスを盛大に彩った。
さらなるアンコールに応えて再びステージへ登場した4人のギタリストの表情は実に晴れやかで、全員が満面の笑みを浮かべているのは、あふれるギター・インスト愛が抑え切れないからか。締めくくりとして最後に飛び出したのはギター・キッズ心丸出しの選曲「Canon Rock」。いわずもがな、全世界のギター好きがこぞってコピーした「パッヘルベルのカノン」のメタル・アレンジ・ヴァージョンだ。今回の「出っぱなし」コンセプトを象徴もしくは凝縮するかのごとく、KOJI、you、RENO、新井が入れ替わり立ち代わりソロを取っては、多彩な組み合わせでハモり、休むことなく左右に駆け回りながら煽っては弾きまくる…。エンディングにはステージ中央で4人が向かい合い、ピアノのコードだけをバックにしたギター・オーケストレーションを見せる場面も。まさに徹頭徹尾ギター三昧だった“真夏の夜のギターの宴”は、最後までその音色を鳴り止ませることなく幕を閉じたのだった。
Legend Guitarist Vol.2 〜Summer Next Start〜 2017.8.24 @赤坂BLITZセットリスト
1. Legendary(Legend Guitarist Theme Song)
2. Chemical Rock(RENO)
3. Joy(KOJI)
4. new place(you)
5. Into The Arena/Michael Schenker Group(新井崇之)
6. Sunset/Gary Moore(新井崇之)
7. sweet lemon(you)
8. Perfect World(KOJI)
9. No6(新井崇之)
10. action(you)
11. Universe(KOJI)
12. From the Sky(RENO)
13. JOURNEY(RENO)
[encore 1]
14. Summer Next Start
15. Let It Go
16. Mission: Impossible
[encore 2]
17. Canon Rock