WOA2023レポ4日目(終)ヘヴン・シャル・バーン、KsE、2SFH…

WOA2023レポ4日目(終)ヘヴン・シャル・バーン、KsE、2SFH…

8月5日(土)──フェス最終日。雲は多いものの青空も覗いており、今日も天気は良好。予報では、最低気温が14℃で最高気温は20℃。前日に引き続き過ごし易そうだ。朝方、軽く(?)ゲリラ豪雨があったが、もはや慣れっこになっていて、誰も全く動じず。わりとすぐに止んだし。ただしせっかく乾き始めた地面が、また元の木阿弥に…。あちこち水たまりが復活してしまったが、足首まで泥に埋まるような状態までは戻らず、レインブーツを履いてさえいれば、会場内の移動も問題ないだろう。

午前11時過ぎにインフィールドへ向かうと、オフィシャル・ビール:クロムバッハーの3階建てバー“KROMBACHER STAMMTISCH”にてBLAAS OF GLORYが演奏中。世界一メタルなブラスバンドとして人気の彼等は、神出鬼没の“ウォーキング・アクト”として、会場内のあちこちでゲリラ的に演奏を行なう。時には演奏ながら行進したりも。遠くからヨーロッパの「The Final Countdown」のあのリフが「パパパ〜パ〜♪」と聞こえてきたら、彼等がやって来る合図だ。

メイン・ステージのトップ・バッターは、地元出身のマスタープラン。あ…いや、首魁ローランド・グラポウ(g)は現在スロヴァキア在住だし、ヴォーカルのリック・アルツィはスウェーデン出身、現ベースは元ストラトヴァリウスのフィンランド人:ヤリ・カイヌライネンということで、すっかり多国籍なバンドになっているが。

デビュー20周年ショウということで、演目は初期レパートリー多め。というか、セットの半分以上がデビュー作『MASTERPLAN』(2003年)からのナンバーで、リック(最初、何故か水中眼鏡を付けて登場)加入後の『NOVUM INITIUM』(2013年)からは「Keep Your Dream Alive」のみ。ハロウィン時代のリメイク作『PUMPKINGS』(2017年)からプレイされることもなかった。

リック・アルツィ
Rick Altzi(vo)

ローランド・グラポウ
Roland Grapow(g)

ヤリ・カイヌライネン
Jari Kainulainen(b)

終盤、元メンバーのヤン・S・エッカート(b)がジョイントし、『MASTERPLAN』からの「Spirit Never Die」と「Crawling From Hell」に客演したのは、初期からのファンは勿論のこと、後追いのファンも喜ばせたのではないだろうか。

続いては、FASTERステージにディレインが登場。オランダ産の彼等も、今やシンガーがルーマニア出身、ベーシストはイタリア出身…と多国籍バンドに。中でも注目は、2021年に電撃脱退したシャルロット・ウェッセルスの後任:ダイアナ・リアだろう。元々トランス/ダンス方面で活躍していたシンガーということで、メタル・フェスの大舞台ではどうか…と思ったら、なかなか堂々たる歌いっぷりで、観客掌握術も見事だった。

ディレイン
Diana Leah(vo)& Martijn Westerholt(key)

ロナルド・ランダ
Ronald Landa(g)

ギターは出戻りメンバーのロナルド・ランダ。バンド・サウンド的に派手なプレイは望めないが、7弦ギターによるヘヴィな刻みは安定感抜群で、ステージ上をよく動き回り、時に激しくヘドバンしながらギターを掻き鳴らし、コーラスでも大活躍していた。

またショウ中盤、2023年発表の『DARK WATERS』にゲスト参加していたスキルトロン、レヴェレイジのパオロ・リバルディーニ(vo)が呼び込まれ、同作から「Queen Of Shadow」をダイアナとデュエットし、さらに、「The Human Contradiction」(2014年『THE HUMAN CONTRADICTION』収録)、「The Gathering」(2006年『LUCIDITY』収録)と、マルコ・ヒエタラ(元ナイトウィッシュ)のパートも任されていた…ようだが、残念ながら序盤で他のステージへ移動したので観逃してしまった…。

インフィールドを抜け、泥の海を渡って一路ブルヘッド・シティへ。13時ちょっと過ぎに何とかW:E:Tステージまで辿り着くと、そこでプレイしていたのは……マーティ・フリードマン! 前日にメガデスのステージへ飛び入りした彼は、ソロ・バンドでもWOA出演を果たしていたのだ。日本人メンバーをバックに従え、のっけから大熱奏のマーティに、オーディエンスも大歓声で応える…!!


「僕自身にとって久し振りのヨーロッパだったし、特に、森丘直樹(g)とわかざえもん(b)がいるラインナップではこれが初ヨーロッパでしたので、お客さんが集まってくれるかどうか全く分からなかったんですよ。でも満員になって、笑顔ばっかりを見せてくれて、幸せでした!」とはマーティの弁だが、実際、最初から凄まじい盛り上がりだった。

驚くべきは、マーティ曰く「メガデスと同じく、マーティ・バンドもぶっつけ本番でした」という事実。ただ「僕のバンドの方は、2023年3〜4月に全31ヵ所を廻るアメリカ・ツアーをやったし、日本でも6月29日にツアー・ファイナルをやったばっかりですので、楽勝でした」とも。もはや阿吽の呼吸のバンド・メンバーだからこそ…の好演だったということだ。

マーティ・フリードマン
Marty Friedman(g)
森丘直樹
森丘直樹(g)
わかざえもん
わかざえもん

そんな絶好調のマーティも、残念ながらじっくり堪能することは叶わず、またまたステージ移動のため、「Devil Take Tomorrow」のイントロを聞きながら、今度はヴァッケン・センターを抜けて、LOUDERステージへ。13時半からこれまた観逃せないバンドが出るからだ。こういったステージのハシゴは、実際かなり大変なのだが(地面がぬかるんでいるので尚さら…)、言ってみれば巨大フェスならではの醍醐味だとも言える。

ちなみにマーティはそのあと、メガデスの「Tornado Of Souls」(2008年『FUTURE ADDICT』にも収録)を盛り込んだ「天城越え」@石川さゆりや、『DRAGON’S KISS』(1986年)から「Dragon Mistress」などをプレイ。ラストはいきものがかりのカヴァー「風が吹いている」でシメたとのこと。メタルの聖地に響くジャパニーズ演歌&ポップスは、また格別だったに違いない…!

いや〜それにしても、ぬかるみまくった広大なフェスティヴァル・エリアを行ったり来たりは本当にキツい…と、半泣きでLOUDERステージへ向かうと、そこには剣やハンマーを手にし、恐竜のオモチャやぬいぐるみを抱えた観客が大集結していた。そう、次に控えしはアンガス・マクシックス! 元グローリー・ハンマーのシンガーによるソロ・プロジェクト/ニュー・バンドだ。

アンガス・マクシックス

アンガスことトーマス・ヴィンクラー(vo)は金ピカの鎧に身を包んで大剣を携え、アマゾンの女王:タレストリスことタリア・ベラゼッカ(g)、極北の狂戦士:スカウ!(トーマス曰く「決して“!”を付け忘れることなかれ」)も、それぞれしっかりキャラになりきってステージに登場。ギターはもうひとり──大悪魔ゼーブロンに扮するオルデン・オーガンのゼバスティアン“ゼーブ”レヴァーマンだ。ベースや鍵盤奏者は不在。つまりは同期音源を使用しているのだが、アンガスによれば、「ゴブリンを掴まえてきて、ステージ裏でオーケストレーション全般も含めプレイさせる!」とのことなので(笑)、そのつもりで楽しみたい。

アンガス・マクシックス
Angus McSix/Thomas Winkler(vo)
タレストリス
Thalestris/Thalia Bellazecca(g)
シーブロン
Seebulon/Sebastian“Seeb”Levermann(g)
スカウ!
Skaw!/Manuel Lotter(dr)

1曲目の「Master Of The Universe」(2023年『ANGUS McSIX AND THE SWORD OF POWER』収録。以下、演奏全曲が同作より)から観客は歌いまくり! というか、あまりに楽し過ぎて誰しもが歌い出さずにはおれない。極上メロディック・メタル・サウンドとエンタメ精神爆裂な彼等のショウに、移動疲れすら一気に吹き飛ばされる。

「Sixcalibur」では、タリアの鋭いレーザー・ビームのようなソロが炸裂! AC/DCばりの“アンガス”コールが沸き起こる次曲「Starlord Of The Sixtus Stellar System」でも、彼女は見事なストレッチ・フレーズで魅せてくれた。


あまりに楽し過ぎて、「このまま永遠に観ていたい!」けど、そろそろメイン・ステージへ戻らないと…ということで、3曲だけ観てまたまた移動。お次は14時からHARDERステージでエンシフェルム! 同時刻にHEADBANGERSステージでジャグ・パンツァーがプレイするのだが、そちらは断念せざるを得なかった。う〜ん…この時間の畳み掛けるような忙しさは何だろう? まぁでも、HARDERに到着して、エンシフェルムの勇壮なるヴァイキング・メタルを全身に浴びていると、他のステージのことなんてついつい忘れてしまう…?

ペトロ・リンドロス
Petri Lindroos(g,vo)

マーカス・トイヴォネン
Markus Toivonen(g)

いや、まだまだ必須のステージ間移動は終わらない。エンシフェルムはちょっと長めに楽しむも、またブルヘッド・シティに逆戻り。今度は、W:E:Tステージでバーニング・ウィッチーズだ。同時刻にLOUDERではバイオハザードが演奏を始めるのだが、そっちはあきらめることに…。あと、やはり同じ時間に、LGH CLUBステージでホーリー・マザーの出番もあったそうで…。完全なるチェック漏れで、あとから知った…とはいえ、どのみち体はひとつしかないので、事前に分かっていても足を延ばすのは無理だったのだが…。

スイスの女傑5人組:バーニング・ウィッチーズは、2019年以来、これがWOA出演2回目。メンバー全員まだ30代前半にもかかわらず、すっかり“出来上がっている”感が凄い。まぁ、来年で結成10年目を迎えるし、これまでにフル・アルバムだけでも5枚をリリースしていて、充分にキャリアを積んできているし、当然といえば当然だが、実のところ、トラディショナル・メタル愛に満ち満ちた徹頭徹尾メタルなパフォーマンスは、ステージ前に集まった推定3000人超のオーディエンスを圧倒しまくっていた。


2023年春、ツイン・ギターの一翼を担うラリッサ・アーンストが産休を取ることになり、その穴を埋めるべく、元ジ・アイアン・メイデンズのコートニー・コックスを迎えていたのも注目ポイントだ。2018年のセカンド『HEXENHAMMER』にゲスト参加していたのもあって、コートニーとバンドの面々は旧知の仲。オリジナル・メンバーであるロマーナ・カルクール(g)との相性もすこぶる良く、まるで長年のメンバーかと錯覚するぐらいにどハマりし、いかにも“ゲスト起用”といった違和感やぎこちなさはまるでなかった。どうやら現在(当時も?)、コートニーは正式メンバーになっているようだが、子育てが一段落してラリッサが戻ってきたら、トリプル・ギター編成となるのだろうか? それもまた、大いに楽しみではある。

ロマーナ・カルクール
Romana Kalkuhl(g)

コートニー・コックス
Courtney Cox(g)

アマゾネス軍団による伝統的HR/HMをド直球で楽しんだのも束の間──ここも2曲半が限界で、すぐまたメイン・ステージに戻ることに。15時15分からFASTERステージでジンジャーがプレイするからだ。慌てて戻ると、既に1曲目の「Perennial」(2019年『MICRO』収録)が始まろうとしていた。

まず目に飛び込んできたのは、青と黄色に染め抜かれた巨大なピース・マーク。そう、彼等はウクライナ出身。戦禍の中、母国文化省の許可を得て、ロシアによる軍事侵攻の現状を広く世界へ訴えるべく、平和アンバサダーとして世界中をツアーして廻っている。このピース・マーク柄のチャリティTシャツは全世界で1万枚以上を売り上げ、その収益は100%寄付に回されたという。

ジンジャー
ジンジャー

よく“プログレッシヴ・グルーヴ・メタルコア”などと紹介される彼等のサウンドは、ウルトラ・ヘヴィかつ激烈であると同時にエモさを孕み、緩急自在なリズム・アレンジ含めとにかく扇情力がハンパない。クリーンとグロウルを完璧に使い分ける紅一点シンガー:タチアナ・シュメイリューク、観る者を惹き付けて離さない存在感の強固さ、シンガー&フロントマンとしてのカリスマ性も本当にズバ抜けている。

タチアナ
Tatiana Shmayluk(vo)

ジャクソンのカスタム6弦で轟音を吐き出すロマン・イブランカリロフは、ジェンティーな重低音リフを次々と繰り出し、ヘドバン&モッシュを煽り立てまくり。かと思うと、浮遊するようなパートもあって、一部同期音源も使ってはいるものの、よくぞギター1本でここまでヘヴィで多彩なサウンドを構築出来るものだ…と、何度も唸らされた。

ロマン
Roman Ibramkhalilov(g)

贅沢にもジンジャーをBGMに遅いランチを摂ったあと、次に観たのは、英スコットランドのパイレーツ・メタラー:エイルストーム! 先ほどのシリアスなムードとはうって変わって、メイン・ステージ前が一気にファニーなムードに包まれる。

エイルストーム

ステージ上には巨大なアヒルちゃんが3羽。賑々しいイントロからセカンド『BLACK SAILS AT MIDNIGHT』(2009年)収録曲「Keelhauled」で始まったショウは、みんなで歌い、踊り、腕を突き上げジャンプしまくるのに最適! 勿論、モッシュしたり、クラウドサーフしたり…も最高だ。ただし、エイルストームでモッシュする際は、誰しもが笑顔なのだが。

クリストファー・ボウズ
Christopher Bowes(vo, key)

ショルキーを弾きながら飄々と歌うクリストファー・ボウズは、言わば海賊祭りの先導者といったところか。はっちゃけてナンボのパーティのノリは、野外フェスとの相性も抜群で、きっと観客のビールの消費量が倍増したことだろう。えっ…? せっかくステージ前で楽しんでいるのに、ビール・スタンドまで買いに行くのは面倒臭い…って? いやいや、WOAではビアサーバーを背負った売り子がフェスティヴァル・エリアのあちこちにいるから、ステージの目の前でビールをゲット出来るのだ。

スポーティな短パン姿がトレードマークのギタリスト:マーテ・ボドールも、ひっきりなしにオーディエンスの熱狂を引き出しまくり。実は相当なテクを有し、時にお立ち台で流麗なソロを放つから、油断(?)が出来ないのだが。

マーテ・ボドール
Máté Bodor(g)

W:E:Tステージへエンパイア・ステート・バスタードを観に行くのも忘れて、エイルストームで和みきったあと、ふと地面を見やると、ところどころ乾いてきていてビックリ! でも、そろそろフェスも終盤…。せめてもう1日早くこの状態になっていれば…と、キルト姿にレインブーツという、奇妙なコーデのエイルストーム・マニアどもを横目で見送りながら、FASTERステージへ。

17時45分、そこに登場したのは北米メタルコア総番長:キルスウィッチ・エンゲイジ!

彼等のWOA参戦は2008年以来なので、実に15年振り。当時からはフロントマンが交代しているが(というか出戻り)、両シンガーの見た目の違いはともかくとして、バンドとして大きな変化は良い意味でそう感じられない。それが証拠に、ショウは前任ハワード・ジョーンズ時代の『AS DAYLIGHT DIES』(2006年)から「My Curse」で幕開けたが、現シンガーのジェシー・リーチは元々自分のレパートリーだったかのように、見事に歌い(&吼え)コナしている。

ジェシー・リーチ
Jesse Leach(vo)

彼等のライヴを観たのは、個人的にも久々。だが、40代半ばになっても変わらず変態のノリで大はしゃぎしまくるアダム・デュトキエヴィッチを見て、何だか懐かしさと安心感が…。いや──ファンなら重々ご承知の通り、こんな見た目(失礼…!)でもギターの腕前は神レベルですので。相棒のジョエル・ストローゼルも、見た目はちょっと老けたものの演奏のタイトさ、安定感は、言わずもがな今も健在だ。

アダム・デュトキエヴィッチ
Adam Dutkiewicz(g)

ジョエル・ストローゼル
Joel Stroetzel(g)

“静と動”というか、アダムがライヴ・サウンドに躍動感を加味し、ジョエルはどっしり土台をキープ…と、この2人のキャラの違いも、バンド・サウンドに厚みや深みを与えているのかもしれない。いやはや、ヴェノムのTシャツとトロピカルなパリピ風が並ぶ様は、やっぱり異常としか思えないが(笑)。

ショウ中盤には、ジェシーとハワードがデュエットした「The Signal Fire」(2019年『ATONEMENT』収録)も飛び出し、ハワード不在でも聴き応え充分なこの曲では、アダムのメロディックなリード・ワークが楽しめたことも付け加えておきたい。

19時ちょうど──そんなキルスウィッチのショウを途中で抜けて、W:E:Tステージに向かう。そこには、新人なのにベテラン感漂うスウェーデンの5人組:ネスターが…! 2021年にアルバム『KIDS IN A GHOST TOWN』で世界デビューを飾った彼等は、まるで1980年代MTV全盛時かというメロディック・ハード路線で、日本でも大いに話題を呼んだ。その実態は、1989年にスタートしたバンドが大元の母体となっているらしい。

いや…しかし、ヨーロッパとジャーニーが合体して、良いトコ取りをしたような秀曲だらけで、「実は1989年からタイムスリップしてきたんじゃないの?」なんて、妄想してしまうぐらい。シンガーのトビアス・ガスタフソンはMCで、「かつて1991年にハンブルクのクラブでプレイしたことがあるんだよ」と言っていたが、当時の空気をそのまま現代に甦らせたような彼等のサウンドは、40代以上のロック/メタル・ファンには堪らないモノがあるだろう。また若いリスナーには、今や大時代的とも言える楽曲群が新鮮に思えるのかもしれない。

ジョニー
Jonny Wemmenstedt(g)
トビアス・ガスタフソン
Tobias Gustavsson(vo)

ジョニー・ウィメンステッドのギター・ワークも、メロディックでエモーショナルで、古き良きスタイルを見事に踏襲しまくっており、イイ意味で教科書通りといった印象。適度な泣き具合に、思わずグッときて、昔を思い出しながら浸ってしまったというオーディエンスも少なくなかったろう。

ネスター

19時15分からのSALTATIO MORTISに備え、この時も数曲でブルシティを離れざるを得なかったのだが──その後ショウ後半には、往年のセクシー・ダイナマイト:サマンサ・フォックスとの共演が一部で大いにバズったラヴ・バラード「Tomorrow」が披露され、このWOAでは、母国の人気女性ソウル・シンガー:ロロ・ガートマンが客演したようだ。

会場

インフィールドへ戻ってくると、HARDERステージの前には軽く数万の大観衆がSALTATIO MORTISの演奏開始を今や遅しと待ち構えていた。複数のバグパイプ奏者を擁し、ハーディガーディやショームといった古楽器も駆使する彼等は、中世ロック/メタルにカテゴライズされ、本国ドイツで大人気。同郷同系バンドのIN EXTREMOやSUBWAY TO SALLYと同様に、炎を大量に使う一大スペクタクル・ショウは、冒頭から大観衆の熱狂を引き出しまくり!

以前は民族調の衣装に身を包み、上半身裸のメンバーがやたら多かったような記憶があるが、いつしかロック然とした現代風の(?)ルックスになっていたのは何とも意外…。以前よりキャッチー&ノリノリなスタイルを売りにしていたので、それで違和感アリアリといったことはなかったし、後半にプレイした「Gardyloo」では、やっぱりフロントマンのアレアが半裸になって、観客と一緒にシャツをブルンブルンと振り回していたようだが。

アリー、ルジ
Alea(vo)&Luzi(bagpipes)
ティル
Till(g)

続いて20時45分にFASTERステージへ登場したのは、この日のヘッドライナー:ヘヴン・シャル・バーン(以下HSB)。WOA常連の彼等は、これが7回目の出演となる。ストイックかつストレート・エッジなメタルコア・サウンドで、毎回オーディエンスを完全ノックアウトしてみせる彼等は、正にライヴを観てナンボのバンド。「せっかくなんで遠くからでもちょっと観ておくか…」なんて軽い気持ちで(?)眺めていても、いつの間にか気持ちが昂ぶって、ずいずい前へ進んで行って、現地メタラーと大暴れ…なんてことも日常茶飯事では?

ヘヴン・シャル・バーン

マイク
Maik Weichert(g)

アレクサンダー&マーカス
Alexander Dietz(g)&Marcus Bischoff(vo)

彼等のWOAショウで名物になっているのが、超巨大サークル・ピット。照明や音響スタッフが働く鉄塔の周囲をみんなでグルグル回るのだが、恐らくこれぞ世界最大サークルと言えよう。あとから聞いたところによると、セイブル・ヒルズのシンガー:Takuyaもそれに参加していたのだとか。ただ、ぬかるんだ地面を走るのは大変で、何度も足を取られ、滑ってコケるヤツも続出し、粘着力を増した泥にどんどん体力を奪われてもいって、ほんの数周でみんなどんどん脱落していったそう…。

巨大サークル・ピット

実はこの時、他のステージでも何か重要なバンドが…なんて思いつつ──でも疲れもあってかよく頭が回らず、HSBを何度か中抜けして物販を見に行ったり、メシを食ったりしていたのだが、途中、エッジ・オブ・サニティのカヴァー「Black Tears」(2008年『ICONOCLAST (PART 1: THE FINAL RESISTANCE)』収録)や、出世作『VETO』(2013年)からの「Godiva」&「Hunters Will Be Hunted」などにいちいち反応しながら、ついついインフィールドに留まっていたら、絶対に観なきゃいけない“あの”バンドをスルーしていた…という(それについては後述)。

結局、毎度ショウを締め括る定番カヴァー:ブラインド・ガーディアンの「Valhalla」(『VETO』収録)まで、(何度かステージ前から離れはしたものの)みっちりHSBを楽しみ、気が付けばとっぷり日が暮れていた。

ヘヴン・シャル・バーン

ここで、5枚の巨大スクリーンを使い、ド派手な照明&ドローン・アートに加えてヴァイキング戦士達と魔女&魔法使い役のパフォーマーまで登場して、翌年の出演バンド第一弾が発表される。アモン・アマースやスコーピオンズなどのバンド・ロゴが映し出される度に大歓声が沸き起こり、個人的にはビースト・イン・ブラックで「おおおおおっ…!!」と歓喜してしまった。

来年のラインナップ告知 会場全体
WOA Festival GmbH

そして──その翌日、発売開始からわずか4時間半で、8万5千枚の2024年チケットは完売してしまう。今年、過去最凶の悪天候により色々とトラブルだらけで、前代未聞の来場打ち切りという事態にまでなったことで、もしやチケの売れ行きに何らかの影響が出るかも…なんて思っていたら全くもってそんなことはなく、5時間を切ってのソールドアウトはこれまでの最速記録だそう。

その時点で発表となった出演バンドは33組だけ(開催第33回目なので33バンド発表ということらしい)。ブラインド・ガーディアンやIN EXTREMO、メイヘムの40周年ショウといった目玉はあるとしても、他の100組超(!)はまだ分からないのだから、普通だったら「あと1年あるし、追加の発表を待つか…」となるところ、WOAなら別に心配ないだろう…と、この時も毎度の瞬殺に。要はそれだけWOAは、世界中のメタルヘッドから厚い厚い信頼を獲得しているのだ。

Wacken Open Air 2024 Announcement Show

2024ラインナップ告知の様子
WOA Festival GmbH

ともあれ──ラスト・スパートとばかりに、フェスはまだまだ続く。22時45分、HARDERステージでトゥー・ステップス・フロム・ヘル(以下2SfH)のショウがスタート!

トゥー・ステップス・フロム・ヘル

ご覧の通り彼等はメタル・バンドではない。2006年にトーマス・バーガーセンとニック・フェニックスによってスタートした、元々はトレイラー・ミュージックのための作曲ユニットだ。

トレイラー・ミュージックとは、映画の予告編用に制作される楽曲のこと。これまでに“アヴェンジャーズ”“ハリー・ポッター”“パイレーツ・オブ・カリビアン”などの人気シリーズを手掛けている彼等は、通常あまり一般的に注目されることのないトレイラー・ミュージックの世界で、アルバムのリリースを成し遂げるだけでなく、ライヴ・ステージにも進出したパイオニアでもある。

そんな2SfHに目を付けたWOAも凄い。まぁでも、SFやファンタジーの世界観がHR/HMと親和性抜群なのは疑うべくもないし、大所帯のオーケストラや複数シンガーを擁する2SfHのステージは、それこそシンフォニック・メタルにも通ずるモノがあるし。

トーマス・バーガーセン
Thomas Bergersen(g, vln, etc.)
スカイ・エマニュエル
Skye Emanuel(g)
ミア・アサノ
Mia Asano(vln)
マリコ・ムラナカ
Mariko Muranaka(Cello)

ゴージャスなサウンドとゴージャスなライティングが、そろそろ深夜になろうかという野外ステージに映えまくっていたのも言うまでもない。屈強なヴァッケナーどもも、この時ばかりはヘドバンやモッシュを忘れて劇的シンフォニーの洪水に身を任せていたようだ。

トゥー・ステップス・フロム・ヘル メンバー
Uyanga Bold(vo),Saulius Petreikis(flute, whistles, etc.)&Thomas Bergersen
グレッグ・エリス&ニック
Greg Ellis(dr&perc)&Nick Phoenix(perc)

大いに盛り上がる2SfHのステージを離れ、ここで一旦バックステージへ。もうフェスは終盤も終盤──残りわずかなのだが、流石に4日間の疲労が蓄積してきてヤバいことになっていたので、ちょっと休憩とばかりにドリンク・カウンターへ向かうと、見覚えのある2人が…。

そこにいたのは、ヴォイヴォドのチューウィー(g)とアウェイ(dr)。「あれ…何で? ヴォイヴォド観てないけど……あれれ?」と一瞬パニくりそうになる。慌ててランニング・オーダーを確認すると、21時15分から22時15分にかけてW:E:Tステージでヴォイヴォドの出番が…! 我ながらあろうことか…完全に失念してしまい、観逃してしまったのだ! HSBを途中で抜けてブルヘッド・シティへ向かえば、余裕で間に合ったのに…。

あのヴォイヴォドがメインでもサブでもなく小規模ステージで…というのも、注意力散漫につながったとはいえ、何たる不覚。そう、先ほど“絶対に観なきゃいけないあのバンドをスルーしていた”と書いたのは、他でもないヴォイヴォドのことでした…。せっかくなんで2人に声を掛け、正直に(?)ショウを観逃したことを伝えると、「色んなバンドが出ていて、ステージも沢山あるからね」とアウェイから優しい言葉が…。「どんな曲をやりました? 40周年ツアー中ですよね? “Killing Technology”は?」と訊くと、「まさに“Killing Technology”でショウを始めたよ」と。

「くぅ〜、そうか〜」と悔しがっていると、「また日本にも行くよ。その時は観に来てくれ」とチューウィー。日本語が少し話せる彼に「マタネ!」と見送られ(?)、大後悔と共にトボトボとインフィールドへと戻ることに…。

チューウィー&アウェイ
Chewy(g)&Away(dr)

W:E:Tステージといえば、ヴォイヴォドの次にプレイしたスリープ・トークンも、現地スタッフやプレス関係者から「絶対に観るべき!」と何度も言われていたのだが、これまた観に行けず。いや、ヴォイヴォドの2人と話していたまさにその時、演奏開始とかそれぐらいだった模様…。え〜と…その頃は、アウェイから“Morgoth”についての深〜い“講義”を受けておりました。

そして──深夜0時15分、いよいよメイン・ステージ最後のバンドがFASTERステージに登場! 米マサチューセッツ出身のアイリッシュ・パンクス:ザ・ドロップキック・マーフィーズだ!!

ドロップキック・マーフィーズ
四半世紀を越えるキャリアを誇る彼等は、これがWOA初見参。ただ、ドイツでは確固たるファン・ベースを築いており、2010年代リリースの近作の殆どがドイツの総合チャートでベスト5入りを果たし、ドイツ国内で単独ライヴを行なう際は基本アリーナ規模だったりもする。よって、最終盤のメイン・ステージ前はガッツリ観客で埋まり、推定2万人超が最後の力を振り絞って大暴れ! この期に及んでまた雨が降り出してきたが、もはやそんなの関係ない…! もっとも、気温12〜13℃とグッと冷え込んできて、雨に濡れると体感ではもっと寒く、冷たく感じられたから、ある意味では暴れざるを得なかった…のかもしれないが。

いや、彼等のタテノリ牧歌的ナンバーのシャワーを浴びれば、誰しもが自然と体を揺らし、腕を上げジャンプし、もっと盛り上がってきたら、モッシュやサークル・ピットに興じずにはおれないのだ。いかにもオールドスクールなワーキング・クラスといった佇まいのメンバー達も、とびっきりフレンドリーなオーラを放ちながら、何より彼等自身が目一杯楽しんで演奏していることがパフォーマンスの端々から伝わってくるし。

ジェイムズ・リンチ
James Lynch(g)
ティム・ブレナン
Tim Brennan(g, accordion)
ケン・ケイシー
Ken Casey(vo)
ジェフ・ダ・ローザ
Jeff DaRosa(a.g, banjo, bouzouki)

バグパイプ奏者が基本ステージ奥にいて、前へ出てこなかったのは意外だったが(おかげでヨリの写真が撮れず…)、巨大スクリーンを効果的に使い、パイロも度々吹き上がるショウは、豪雨や泥濘、その中でのヘドバンやモッシュ、連日の痛飲…などなどによる、あらゆる体力的&精神的疲労の蓄積を見事にハジき飛ばしてくれる。

本編ラストの「Rose Tattoo」(2023年『SIGNED AND SEALED IN BLOOD』収録)でドカンと花火が上がり、アンコール曲「I’m Shipping Up To Boston」(2005年『THE WARRIOR’S CODE』収録/初出は2004年のオムニバス)で歌い、踊り、念入りに暴れ納めをして──小雨がそぼ降る中、午前1時半をもって2023年のWOAは賑々しく終了。

いやいや、他のステージではまだ演奏を続けているバンドがいるし、ヴァッケン・センターやヴァッキンガー・ヴィレッジで余韻に浸るオーディエンスは大勢いるだろうし、きっとキャンプサイトのあちこちでは、このあともみんなエンドレスでわいわい乾杯し続けることだろう。いよいよ力尽きて寝落ちするその時まで…。

観客の減った会場

さて──気が付けば今年のWOAまであと1ヵ月とちょっとだが、日本からご参戦ぶちカマし遊ばす皆様は、既に気持ちが昂ぶり、何となく武者震いしたりもしていますでしょうか? それではまた、2024年にもお会いしましょう。晴れでも雨でも唯一無二のこのメタルの聖地で…!!

SEE YOU IN WACKEN 2024…RAIN OR SHINE!!!!

2024 ラインナップ

公式インフォメーション:
Wacken World Wide