50周年の燻し銀プレイ! Y&T来日公演 2024.1.20〜1.21@川崎クラブチッタ

50周年の燻し銀プレイ! Y&T来日公演 2024.1.20〜1.21@川崎クラブチッタ

デイヴ・メニケッティ(g, vo)率いる米産ベテラン・ハード・ロッカー:Y&Tが再来日! 結成45周年を祝った2019年1月の前回公演からちょうど5年──今回は50周年ツアーの一環としての来訪となった。イエスタデイ&トゥデイとしてバンドがスタートした時のメンバーで、今も残っているのはデイヴただひとり。というか、他のオリジナル・メンバーは全員が鬼籍に入ってしまっている…。デイヴも昨年12月に70歳となり、一昨年には前立腺癌を患ったこともあった。幸い早期だったため、約1年後には完全寛解を報告──いや、実は治療を終えて数ヵ月ほどでライヴ活動を再開しており、長期のツアーこそキャンセルしたものの単発ギグやフェス出演はコナし、2023年も止まることなく断続的にライヴを繰り返していたのだから驚く。

そして今年、1月初旬に50周年ツアーの幕開け公演を地元カリフォルニアで数度行なってから、同下旬に来日。クラブチッタ川崎にて2公演が行なわれた…という次第である。ちなみに現バンド・ラインナップは、デイヴ以下、ジョン・ナイマン(g)、アーロン・レイ(b)、マイク・ヴァンダーフュール(dr)という、2016年以来となる4人。このメンツで初めて日本に来たのは2017年で、今回が3度目の来日となる。

座席指定だったとはいえ両日とも前売りチケットは完売し、当日券は立ち見のみ。フロアにはビッシリ椅子が並べられ、最後列はPAブースの目の前ギリギリという盛況振り。観客の年齢層は高めながら、のっけから大いに盛り上がり、みんな多くの曲でサビを大合唱したり、リフやフレーズに合わせて「オ〜オ〜♪」と唱和したりと、熱い手拍子でショウを盛り立て、曲間には何度も何度も“Y&Tコール”が起こっていた。みなさんご承知の通り2010年発表の『FACEMELTER』を最後に、もう10年以上スタジオ新作はリリースされていない。それでも度々来日公演が行なえるのは、盤石なファン・ベースを築いているから。きっと殆どの日本のファンが、「もう毎年来てくれ〜!」「毎月でも観たい!!」なんて思っているに違いない。

前回2019年は2日間の演目が異なり、初日は45年間を振り返るオールタイム・ベスト、翌日はファンからのリクエストを反映した選曲になっていたが、今回は両日ともほぼ同じセットリストで、本編では実質1曲だけ、アンコールでも数曲しか違いがなかった。ただ、ファンならご存知の通り、デイヴのギター・プレイは毎晩同じではない。常に“心と魂を込めて弾く”ことを心掛けている彼は、同じ曲を何度弾こうがその時々の気持ちや気分によって、またライヴ会場や観客の雰囲気によっても、ギター・ソロなどに顕著な変化が出るのだ。よって、もし2日間全く同じセットリストだったとしてもそれぞれに観どころがあり、聴きどころがあるだろう。

Y&Tバンド

驚いたのは、デイヴのタフさ。何と、両日ともにショウは約2時間半に及んだ。まぁ、50周年を記念しての集大成ライヴだからして、やるべき曲は幾らでもある。実際、イエスタデイ&トゥデイ期の2枚を含め、計12枚のアルバムすべてから最低1曲はセレクトされ、いずれの公演も2度のアンコールを含め全24曲というヴォリュームに。いやはや、とても癌を克服した70歳だとは思えない…。しかも、2日間ともセカンド・アンコールは予定外で、客電が点き、終演を告げるアナウンスのあとに行なわれた。既に何割かの観客は会場を後にするも、熱心なファンのさらなるアンコールを求める声は一向に止まず、それならば…と、初日は2曲、2日目は3曲も追加でプレイしてくれたのだ。

デイヴ・メニケッティ
Dave Meniketti

この予定外のアンコール、Y&Tのライヴではここのところ恒例となっている。過去には、まさかのサード・アンコールまでやってくれたことまであった。無論、そこに予定調和といった空気はなく、純粋にオーディエンスの熱意がバンドに届き、全力で応えてくれたというのが実に美しい。それにしても、70歳のフロントマンが…と考えるとやっぱり色々普通じゃない。アンコール1回だけの20曲超でも、相当に体力も精神力も消耗するハズ。ステージを降りるや否や、「あ〜、やっと終わった〜」と倒れ込んだとしても不思議ではないのに、ひと息ついたら「よし、あと2〜3曲やったるか!」だなんて凄過ぎる…!

そう、デイヴは絶好調だった。初日の序盤、高音パートを歌うのがちょっとキツそうで、「Don’t Stop Runnin’」(1984年『IN ROCK WE TRUST』収録)ではサビで声がひっくり返りそうになっていたのに、中盤ぐらいから徐々に調子を上げていき、後半にはすっかり持ち直していたのだから驚異的だ。それで翌日、昨日の無理が祟って…となりはしないか心配していたら──まさかまさかで、初日よりずっとコンディションが良かった…という。当然、ギター・プレイは両日を通じて絶品この上なく、もう超人と言いたくなる。

ジョン&デイヴ

お馴染みチェリー・サンバーストのギブソン・レスポールをメインで弾き、「Midnight In Tokyo」(1983年『MEAN STREAK』年収録)や「Contagious」(1987年『CONTAGIOUS』収録)など数曲で青いフェンダー・ストラトキャスターも使っていたデイヴのプレイは、相変わらずエモさ満点。毎回思うが、あれだけギターを歌わせ、泣かせることが出来るギタリストはそうそういない。しかも、最低限の歪みでギター本来の鳴りを活かし、感情の機微を楽器に乗せ、適切にピックアップを切り替えつつ、運指やピッキングですべてをコントロールする──それをごく自然体で難なくやってのけるのだ。本人曰く、ギターを弾いている時は「頭と指とを切り離している」のだとか。つまりは無心で、本能のまま音を紡いでいるということ。我々はいつも、ギターによって顕在化したデイヴの心と魂そのものを体験しているのである。

そんなデイヴのエモーショナルこの上ない内なる叫びを最も感じ入ることが出来るのが、バラード・ナンバーの「I Believe In You」(1981年『EARTHSHAKER』収録)と「Winds Of Change」(1982年『BLACK TIGER』収録)だ。前者は2日目に、後者は初日に披露されたが、どちらも味わい深く、演奏後、その場は何とも言えない感動的な空気で満たされていた。ただ実のところ、2017年来日時やそれ以前ほどは壮絶な情念が伴っていなかったように思う。それは、70歳ならではのヴァージョンになっていたから。いや、決して衰えてしまったとかエモーションが薄まっていたとか、そういうのではない。かつてこの2曲は、それこそ全身全霊を込めまくってプレイされ、演奏を終えたデイヴは満足気な中にも相当にエネルギーを消耗しながら弾ききった…との表情を浮かべることが常だった。どっちの曲もソロ・パートでは、あまりの思いの強さから、観ているだけで息が詰まりそうになることすらあった。しかし今回はそこまでではなかった…というか、良い感じに力が抜けた、70歳ならではの燻し銀のようなプレイになっていたのだ。そこに50年間の積み重ねを感じ取った観客も少なくなかったのでは?

デイヴ・メニケッティ2

何だかデイヴのことばかりになってしまったが、他の3人もとにかく良い仕事しかしていない。レスポール・ジュニアとエクスプローラーを使い分けていたジョンは、イエスタデイ&トゥデイ時代の「25 Hours A Day」(1976年『YESTERDAY AND TODAY』収録)と「Struck Down」(1978年『STRUCK DOWN』収録)、『BLACK TIGER』収録の「Hell Or High Water」などでソロを執ることもあったが、基本的にデイヴのサポート役を担い、時にツインでハモったり、重要なオブリを任されたり、はたまた繊細なアルペジオを奏でたり、エクスプローラーでベンドしてアクセントを付けたり…と、言うなれば陰の立役者といった存在。恐らく4人の中で一番若いアーロンは、シュアなプレイで土台を支えつつ、往年のヘアー・メタルを想起させるルックスから、ある意味“ヴィジュアル担当”でもあった…? そしてマイクは、ますますオリジナル・ドラマーの故レオナード・ヘイズに似てきていたような。

ジョン・ナイマン
John Nymann

アーロン・レイ
Aaron Leigh

マイク・ヴァンダーフュール
Mike Vanderhule

セットリスト全体を改めて俯瞰すると、MTV全盛時のキャッチーなナンバーとハード&メタルなナンバーのバランスが見事で、定番曲とレア曲の組み合わせもなかなか。レア曲としては、イエスタデイ&トゥデイ期の2曲以上に『MUSICALLY INCORRECT』(1995年)からの「Long Way Down」と『ENDANGERED SPECIES』(1997年)からの「Gimme The Beat」がマニア垂涎だったろう。セカンド・アンコールでは、デイヴから「何が聴きたい?」と観客に向けて問い掛けがあり、恒例のリクエスト大会になったりも。どうやら、まず「Hurricane」(『EARTHSHAKER』収録)をやることは決まっていたようだが、そのあとはステージ上で手短に話し合い、リクエストが掛かった曲から選んでいった模様。結果、初日は「Eyes Of A Stranger」(『CONTAGIOUS』収録)が選ばれ、2日目は「Surrender」(1990年『TEN』収録)と「Hang’Em High」(『MEAN STREAK』収録)が──初日にも多数のリクエストをもらっていたことから──選ばれた。

ジョン、デイヴ、アーロン

「Surrender」は演奏前に「久々にやるから、間違ったらゴメンね」と、軽くリフなどを確認してからプレイ。言わずもがな、誰もミスなどしなかったが。その場で…といえば、初日の終盤にアーロンがベースを持ち替える際、ちょっともたついていたら、デイヴが突然「Don’t Wanna Lose」(『BLACK TIGER』収録)を弾き語り始め、そこにジョンとマイクがジョイントし、途中までユルく演奏したり…といったことも。そういったハプニング的な瞬間は、Y&Tのライヴではよく起こる。

それにしても──年齢のことばかり取り上げて申し訳ないが──2時間以上演奏してきたあと、「Hurricane」や「Hang’Em High」といったメタリックなアップテンポを曲やってしまう70歳は本当に奇跡的だ。この絶倫っぷりならまだまだY&Tは安泰だし、ニュー・アルバムも期待出来そうだし、きっとまた近いうちに再来日もしてくれそう。次は5年と空けずに戻って来てもらいたいが、いずれ55周年、60周年も是非また日本で共に祝おうではないか…!!

Y&T @川崎クラブチッタ 2024.1.20 セットリスト

1. From The Moon(SE)〜 Open Fire
2. Rock & Roll’s Gonna Save The World
3. 25 Hours A Day(YESTERDAY AND TODAY)
4. Struck Down(YESTERDAY AND TODAY)
5. Don’t Stop Runnin’
6. How Long
7. Mean Streak
8. Long Way Down
9. Midnight In Tokyo
10. Contagious
11. Winds Of Change
12. Gimme The Beat
13. Summertime Girls
14. Don’t Be Afraid Of The Dark
15. Black Tiger
16. Dirty Girl
17. I’m Coming Home
18. Don’t Wanna Lose(Excerpt)
19. Rescue Me

[encore 1]
20. Lipstick And Leather
21. Hell Or High Water
22. Forever

[encore 2]
23. Hurricane
24. Eyes Of A Stranger

Y&T @川崎クラブチッタ 2024.1.21 セットリスト

1. From The Moon(SE)Open Fire
2. Rock & Roll’s Gonna Save The World
3. 25 Hours A Day(YESTERDAY AND TODAY)
4. Struck Down(YESTERDAY AND TODAY)
5. Don’t Stop Runnin’
6. How Long
7. Mean Streak
8. Long Way Down
9. Midnight In Tokyo
10. Contagious
11. I Believe In You
12. Gimme The Beat
13. Summertime Girls
14. Don’t Be Afraid Of The Dark
15. Black Tiger
16. Dirty Girl
17. I’m Coming Home
18. Rescue Me

[encore 1]
19. Lipstick And Leather
20. Hell Or High Water
21. Forever

[encore 2]
22. Hurricane
23. Surrender
24. Hang’Em High