アーティスト名 | MEGADETH メガデス |
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アルバム名 | DYSTOPIA ディストピア |
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オリジナル・スタジオ作としては通算15枚目のフル・アルバム。そしてもちろん、キコ・ルーレイロ(g)加入第1弾という大注目作でもある。前作『SUPER COLLIDER』(’13年)は、キャッチーな曲想に再び取り組み、フィドルやホーン、バンジョー・ギターやバグパイプなどを導入し、いわば変化球で楽しませる作品だったが、今回も過去作へのセルフ・オマージュをちりばめつつ、メロウもパンクもあって、スライド・ギターはゲストを起用しており、それなりにヴァラエティ豊かな作風になっていると言えよう。先行公開された「The Threat Is Real」が、ある意味『ENDGAME』(’09年)や『TH1RT3EN』(’11年)以上に往年のアグレッションを踏襲していたため、さらなるスラッシュへの揺り戻しに期待したファンも多かったろうが、デイヴ・ムステイン(vo, g)という男は、やはり直球のみで勝負とはいかないのだ。
そんな“唯我独尊ムステイン劇場”においてもガップリ四つに組み、自在に弾き倒せるキコは本当に凄い。まるでフュージョン転生した「Hangar 18」みたいな表題曲「Dystopia」や、メロディックなリードが存分に味わえるインスト「Conquer Or Die!」冒頭のアコースティックを含め、“キコがイメージするメガデスのギター・プレイ”が全編でたっぷり味わえるのは、ANGRAファンも嬉しいのでは? 昨年の“LOUD PARK 15”に伴う来日では新曲をやらなかったので、今から次回の日本公演が待ち遠しい…!
【文】奥村裕司
キコ・ルーレイロ加入後の第1弾シングル「Fatal Illusion」で聴けた彼のプレイは、独特な浮遊感のある構築されたハーモニー・リードであり、20秒弱の間に圧倒的な個性を示したという意味では流石だった。それがあくまでも一面に過ぎなかったことが、こうして全貌を通して聴けばよく分かる。タイム感が素晴らしい「Conquer Or Die!」冒頭の情感あふれるアコースティックや、ハードコアな曲調をフュージョン方向へ一転させる「Me Hate You」のホールズワース風レガート、荒々しいリフの上に優雅な旋律を当ててしまうセンスに脱帽の「Bullet To The Brain」…など、そのスタイルの幅は実に多彩。ある意味ANGRAで聴ける以上に、制約なく自由に弾いているようにさえ思えてしまう。今でも(’90年から’00年まで在籍した)マーティ・フリードマンの影を追うファンが多いのは事実だろうが、このままキコが作品を重ねれば、そんな亡霊のような思いも払拭されるのではないか。ちなみに今回のキコのチョーキングのニュアンスに、マーティっぽい粘りが感じられるのは気のせいではないはずだ。明らかに狙っている。
…と書いて来たが、だからといってこのバンドが“KIKODETH”になるわけではなく、音楽的にムステインの独裁状態であることは従前通り。ただ皆が期待するアグレッシヴ方向へ寄り戻した楽曲が多いのが肝であり、その中でもスラッシーあり、モダン・ヘヴィネス風あり、パンキッシュあり…と方向性は多岐に渡っている。個人的には歌メロの充実ぶりが近作で一番であり、「Dystopia」は掛け値なしの名曲だと思う。
【文】ヤング・ギター編集部