ヤング・ギターの誌面や当ウェブサイトでも既報の通り、現在“メタル化計画”が進行中の日本演歌界の大御所:山本譲二。その最終章にして初の“メタル楽曲”となる新曲「言論の自由」が本日7月10日に先行配信された(フィジカルでは7月24日デビュー50周年シングルCD『妻よ…ありがとう』にボーナス・トラックとして収録)。
現在発売中のヤング・ギター2024年8月号では、その「言論の自由」のメタル・アレンジおよび演奏で参加しているメタリカ公認トリビュート・バンド“HATTALLICA”のギタリスト:Kirz Hammettと山本の対談記事を掲載しているが、ここでは去る某月某日、都内某スタジオにて行なわれた同曲のレコーディング(歌とギター・ソロ)の模様をお伝えしよう!
一切の妥協を許さない!
YG取材班がスタジオに到着すると、聴こえてきたのはコントロール・ルームから大音量で漏れ出てくる“ズクズクズクズク…”というヘヴィ・メタリックなギター・リフの音。そっとコントロール・ルーム内に入ると、プロデューサーの磯田繁男ほか、「言論の自由」のメタル・アレンジ/演奏を請け負ったKirz Hammett(g)とHATTALLICAのメンバー、そして“「みちのく忘れ雪」ギター弾いてみたコンテスト”のグランプリに輝き、「言論の自由」への“ギター・ソロ参加権”を獲得した長谷川太一らの姿があり、彼らがじっと聴き入り、見守る中、遮音扉/壁で隔てられたレコーディング・ブース内では山本譲二と吉 幾三という演歌界の大御所2名が、1本のマイクを真ん中にまさに歌録りを行なっている真っ最中だった。
「夜の静けさ消してやる 〜 それも小便するだけじゃ♪」と山本が歌えば、吉が「暇が暇呼ぶ毎日さ 〜 恨み恨んで死んでやる♪」と続き、実際の曲の流れ通りにレコーディングは進行。初めこそメタル流の歌唱に慣れない部分もあったようだが、さすがは百戦錬磨のベテラン歌手、すぐにニュアンスを掴んで“メタル歌唱”を自分のものとすると、歌録りはつつがなく進んでいった。ブースの中の山本と吉は時折お互いに冗談を言い合っては破顔一笑、おじさん2人が仲良くじゃれ合う姿はなんとも微笑ましいものだが(笑)、しかしひとたびオケが流れてテープが回ればその表情は一変──正面をグッと見据え、マイクに向かって腹の底から轟かせるようなパワフルな声でアグレッシヴに歌い上げる。
「じゃあちょっと今のところ聴いてみようか」──一部パートを録り終えるたびにプレイバックしては真剣な表情で聴き直す山本と吉。山本が「ここの歌い出しがちょっと難しいんだよな…」と言えば、吉が「じゃあそこはこうしよう…」とすぐさまアレンジし、吉が「ここはもっとこういう感じで」と提案すれば、山本が「よしわかった、兄弟!」ともうワン・テイク。演歌だろうとメタルだろうと、自分たちの“歌”、そして“曲”には一切の妥協を許さないというその姿勢はまさに“プロフェッショナル”であり、何より、メタルに真剣に向き合っていることがひしひしと伝わってくる…。
間奏パート(ギター・ソロ前)にはKirzがアレンジの段階で新たに加えた「俺はメタルに生きる」というロング・トーンのシャウト・パートがあるのだが、山本にとっては初の歌唱法で不慣れなこともあり、何度かテイクを重ねることに。大御所である山本に対してはKirzも指示を出しづらいところがあったかと思うが、そこはお互いにプロ、ハッキリとしたヴィジョンを持つKirzは山本に「もうちょっとこんな感じでお願いします」としっかりディレクションすると、山本も「ここはKirzさんがこだわって考えてくれた部分だから…」と奮起。キャリア50年のベテランだからと尊大な態度を取ることもなく、ことメタルに関してはKirzが先輩であり、自分はまだまだ新人…そんな謙虚さやメタルに対するリスペクトを感じさせる一場面であり、結果的には音源で聴けるような見事なシャウトをキメてみせた山本に、Kirzはガッツポーズ、スタジオ内は拍手喝采となったのだった。
そんな風にシビアかつ真剣に進行していったレコーディングだったが、現場ではひっきりなしに吉や山本の冗談やオヤジ・ギャグが飛び交い、終始笑顔の絶えない和やかな雰囲気であったことも記しておきたい。特にメインの歌を録り終えたあとのオーヴァーダビング・パートでは吉が「ここはこうしよう。そこはこうしよう」と積極的に次々とユニークなアイデアを出し、また山本と吉でほぼアドリブに近い珍妙な(?)掛け声や奇声を発したりと、そのユーモラス(でも真剣)な2人の様にスタジオは常に笑いに包まれていた。メタルにリスペクトを持って真剣に取り組みつつ、同時にメタルを心底楽しんでもいる──そんな大御所2人(と愉快なメタル仲間たち!)の姿がそこにはあった。
個性的でインパクトのあるギター・ソロ録音!
山本と吉の歌録り、掛け声やコーラスなどのオーヴァーダブがすべて終了し、残すはギター・ソロの録音のみ…というところでしばしの休憩に。この間に山本と吉には簡単なインタビュー取材に応じてもらいつつ、それが終われば2人はお役御免でさあ飲みに!…となることも少なくないというが、この日は山本も吉もコントロール・ルームに戻り、ギター・ソロの録音にも同席することに。今回のような本格的なスタジオでのプロフェッショナルなレコーディングは初めてだという長谷川は録音前こそやや硬い表情だったものの、山本と吉からの「もう好きに弾きまくっちゃってよ!」という励ましに緊張もほぐれたのか、いざギターを抱えればテクニカルなフレーズを実に滑らかにプレイ。これには山本も吉も「おいおい、かわいい顔して凄い演奏をするじゃない!」と大喜び。何度かリハーサルをしたあと、いざ本番でもトリッキーな技を交えた印象的なプレイを繰り出しつつ、何度かリテイクを重ねたが、山本も吉もプレッシャーをかけることなく、「いいよ、いいよ! 時間なんて気にするな、満足するまで何度でもやっていいよ!」と声を掛ける。そんな大御所の心遣いに奮起したのか、結果、長谷川は実に個性的でインパクトのある(かつKirzのソロとは好対照な)ギター・ソロを残してくれた。
ギター・ソロを録り終えてコントロール・ルームに入ってきた長谷川を「すごく良かったよ!」と称えて迎え入れる山本と吉。そして、録り終えた歌とギター・ソロを入れたラフ・ミックスをその場でみんなで確認することに。コントロール・ルームに爆音で響き渡る「言論の自由」をひと通り聴き終えたところで吉が「こりゃ、(歌がバックの演奏に)負けてるわ。よし、(歌を)録り直そう!」と…(笑)。これにはプロデューサーはじめ全員が笑いながらその場に崩れ落ちたが、「いや本当に、こんなに凄いターギー(ギター)とベースとドラムで歌わせてもらえることが嬉しい!」と山本が感謝を述べると、HATTALLICAのメンバーや長谷川は感慨深げに頭を下げていた…。
果たして、ミックス〜マスタリングを経て堂々完成した「言論の自由」。CD(山本譲二のデビュー50周年記念シングル『妻よ…ありがとう』)に先行して配信された同曲をすでにお聴きの方もいることだろう。まだ未聴の方も含めて、その内容の詳細については先述したヤング・ギター2024年8月号掲載の山本とKirz Hammettの対談記事をぜひともご覧いただきたい。
なお、このレコーディング直後に行なわれた山本&吉、長谷川のショート・インタビューをウェブで公開中だ。
山本譲二デビュー50周年記念曲第1弾 リリース情報
妻よ…ありがとう / 山本譲二
テイチクエンタテインメント | シングルCD | TECA-24 | 2024年7月24日発売
収録内容
1. 妻よ…ありがとう
作詞・作曲:吉 幾三 / 編曲:伊戸のりお
2. 恋しき孫
作詞・作曲:吉 幾三 / 編曲:伊戸のりお
3. 言論の自由
ユニット名:J&J feat. HATTALLICA with 長谷川太一
作詞・作曲:IKZO / 編曲:KIRZ(HATTALLICA)
視聴リンク:
J&J feat. HATTALLICA with 長谷川太一「言論の自由」
ボーナス・トラック
4. 妻よ…ありがとう(オリジナル・カラオケ)
5. 妻よ…ありがとう(メロ入りカラオケ)
6. 恋しき孫(オリジナル・カラオケ)
公式インフォメーション
山本譲二 公式ウェブサイト