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トニー・マカパイン&ヴィニー・ムーア 2018.5.30 @渋谷クラブクアトロ ライヴ・レポート

レポート●斎藤新吉 Shinkichi Saito Pix●尾形隆夫 Takao Ogata

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長く厳しい闘病生活を送った後、病魔に打ち勝ったトニー・マカパインが『DEATH OF ROSES』を昨年リリース。これは全世界のテクニカル・ギター好きにとって何より嬉しい動きだったが、特に日本のファンにとっては彼の来日公演が遂に決定したことで、復活劇はクライマックスを迎えたと言える。なにしろ’15年9月に予定されていたライヴがキャンセルになったことで無念の思いを味わっていたのだから。しかも今回は同じくシュラプネル・レーベルの出身者であるヴィニー・ムーアとのダブル・ヘッドライン。これ以上のプレゼントがあり得るだろうか?というほどのビッグなカップリングが実現したのである。

ヤング・ギター2018年8月号では彼らのインタビューと機材レポートを掲載しているが、ここでは5月30日に渋谷クラブクアトロで行なわれた東京公演の模様をじっくりお伝えしよう。

Vinnie Moore

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トニーのバンド・メンバーであるピート・グリフィン(b)とゲルゴ・ボーライ(dr)をそのままバックに従え、まずはヴィニーのパートからスタートだ。ちなみに彼はT.M.スティーヴンスのバンドの一員として’97年に来日して以来となる日本見参。自身がリーダーを務める形では初の来日公演ということになる。遂に彼が生み出してきた名曲の生演奏を目の当たりに出来る日が来たのである。

冒頭を飾るのは’91年作『MELTDOWN』の「Ridin’ High」で、セミ・ホロウ・ボディーのディーン製シグネチュア・モデルからは骨太なトーンのリフがはじき出され、終盤にはリフの合間にちょっとした観客との掛け合いも。これに続いたのはやはり『MELTDOWN』からのグルーヴィな「Check It Out!」だ。さりげなくスウィープを挟みつつ、人間の声のようなワウ・プレイでフレーズを歌わせ、そして2度目のソロではジャジーな音使いも交えて鋭いシュレッドを切り込ませて行く。一時期から’70年代ロック的テイストを押し出しているヴィニーだが、やはり今なおシュレッドのキレには凄まじいものがある。

ヴィニーが「『MIND’S EYE』から“Hero Without Honor”だ」とコールすると、やはり会場にはこのアルバム(’86年作)の初期クラシカル&テクニカル路線を支持するファンが多いということか、一際大きな歓声が上がった。『MIND’S EYE』で聴き慣れたドライな音をイメージすると、現在のヴィニーの骨太サウンドとは質感にギャップがあるが、しかしアルバム以上にフレージングは表情豊かで、流れるようなメロディーにも一層の人間味が感じられる。

ヴィニーの呼び込みでトニーが登場し、彼がキーボードの前に座ると、’99年作『THE MAZE』の泣きのナンバー「Rain」でアルバム同様に両雄の共演が実現。続いてクラシカルな「The Maze」ではキメやユニゾンでトニーもギターを担当(しかもパートによっては片手で同時にキーボードを演奏)、後半はインプロヴィゼーショナルな掛け合いに突入し、その中でヴィニーは時折ファンキーな指さばきも繰り出しながら、トニーのプログレッシヴなギターと火花を散らした。

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一旦トニーが退場し、’15年の最新作『AERIAL VISIONS』の「Faith」では力強いヴィブラートで音を震わせながら素朴なメロディーをしっとり聴かせ、『MIND’S EYE』の「Lifeforce」では一転してスピーディー&ドラマティックなメイン・テーマを流れるように紡いで行く。その正確さもさることながら、適度に歪んだ音で弾くメイン部分と、中間部のパキッとしたクリーン・トーンとの音色使い分けの上手さも絶品だ。

「Morning Star」ではキメ細かいクラシカル・フレーズを丁寧に再現し、トニーが再度キーボードで加わることによって重厚なアンサンブルを再現(’88年のアルバム『TIME ODYSSEY』ではジョーダン・ルーデスが担当していたパートだ)。短いメンバー紹介を挟んで『MIND’S EYE』からの「Daydream」ではのっけからツイン・ギターによるメイン・テーマが煌びやかに鳴り響き、ハモりが決まるたびにフロアからは歓喜の声が上がる。筆者も改めてこの奇跡的な光景には脱帽し、感激するしかなかった…。

ドロップ・チューニングしたレッドのギターに持ち替えたヴィニーは「この後はトニーの出番だ。俺も数分で戻って来るよ」と宣言して、自身の最終曲となる「Meltdown」をプレイ。アーミングでワイルドに揺らし、ワイドなストレッチ・フレーズも挟み込みながら、豪快なエンディングを演出した。

ヴィニーのショウは約55分。その間、ステージ上を頻繁に動いて観客とコミュニケーションを取ったり、顔でアピールしたりと、彼のパフォーマンスには非常に余裕が感じられた。ヴィニーの強烈な技巧と感情的な表現力の豊かさ、今やそのバランスは最高の状態を保っているようだ。 

Tony MacAlpine

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リング・オヴ・ファイアやPSMSでの来日経験はあるものの、トニーにとっても日本でソロ名義のフル・ショウを行なうのはこれが初。近年でも彼の持ち曲を生で聴けたのは、PSMSで「The Stranger」と「Birds Of Prey(Billy’s Boogie)」が取り上げられた時だけだった。

賛美歌のようなSEに続いてピートのベースが「Autumn Lords」のイントロを奏でると、凄まじい歓声が涌き起こる。そう、’87年の名盤『MAXIMUM SECURITY』の再現というスペシャルな仕掛けが用意されているのだ。壮絶なアルペジオがはじき出される度に観客の熱気が高まっていき、さらにインプロヴァイズによる凄まじい上昇フレーズから「Hundreds Of Thousands」に突入。所々にライヴらしく勢いで乗り切るラフさがあるとは言え、それは些細なレベルに過ぎず、トニーはほぼオリジナルのフレーズを再現している。むしろゲルゴのフィルの入れ方が、アルバムで聴き慣れたディーン・カストロノヴォの突っ走るドラミングと違うのが気になってしまうのは、筆者が嫌らしいファンだからだろうか。

3曲目の「Tears Of Sahara」、この曲はアルバムでジョージ・リンチがゲスト参加したことでも知られるが、今回のショウのこれまでの流れを考えると…期待通りにステージ袖から帽子を被ったヴィニーが現れた。トニーのコーラス・メロディーを奏でる美しいソロが終わると同時に、ヴィニーがソロを弾き始めたのだ。原曲のイメージを崩さずによりテンション音を使った自分のスタイルに転換させてアレンジする、そのセンスには脱帽だ。ちなみにトニーは時折笑顔を見せるものの、ヴィニーとは反対で基本的には真剣な表情で1カ所に留まり演奏に専念するタイプ。2人のキャラを比較するなら、炎と氷といったところか。

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「Key To The City」はメイン・メロディーの譜割をほんの少し変えているようで、若干タメを効かせたアレンジでプレイ。そこから間を置かずにドラム・ロールから「The Time And The Test」で疾走を開始。アルペジオが連発される難曲だが、トニーは危なげなくこなし、ゲルゴの一打一打が強烈なソロ・コーナーへとつないだ。
 オリジナルでジェフ・ワトソンがゲスト参加していた「King’s Cup」も、やはりヴィニーが客演。エンディングでは2本のギターとベースがそれぞれに即興でソロ回しを行ない、ユニゾンで超速フル・ピッキングのフレーズを披露するという壮絶な一幕も観られた。

トニーがダイナミックな旋律を奏でる「Sacred Wonder」は、サビの部分でトニーが観客を片手で一瞬煽ると、即座に会場全体が一つになってメロディーを大合唱。これは流石に鳥肌が立った。ギター・インストを愛する観客と、プレイヤーの相思相愛な関係…実に美しい光景だ。これで完全に会場が過熱状態となったところで、スピードで畳み掛ける「The Vision」が繰り出された時がこのライヴ最大の盛り上がりとなり、トニーが叙情味たっぷりに弾く「Dreamstate」が良いアクセントになった。

アルバム再現という観点で言えば「The Vision」の前にショパンの「Etude #4 Opus 10」が来るはずなのだが、ピアノ独奏による箸休め的な曲なのでカットされたのだろうかと思いきや、順番を変更して同曲を「Dreamstate」の次に披露。トニーのピアノを生で聴くのも初めてだが、荘厳で華麗な腕前はギタリストが片手間で弾くレベルではない“本物”だ。

幻想的な「Porcelain Doll」で『MAXIMUM SECURITY』再現が終了すると、間髪入れずにプレイされた『DEATH OF ROSES』のタイトル・トラックで世界が一変、ダークな変拍子の渦に巻き込んで行く。これに続くのは’92年作『FREEDOM TO FLY』からのフュージョン調な「Stream Dream」という意外な選曲で、トニーは卓越したリズム・センスを感じさせる巧みなフレーズに観客を乗せて行った。

意外にもこの日最初となったトニーのMCで簡単にメンバーを紹介すると、ヴィニーが参戦して「Square Circles」がスタート。’15年の『CONCRETE GARDENS』でジェフ・ルーミズがゲスト参加したパートを担うわけだ。少々アヴァンギャルドな楽曲だが、トニーとヴィニーはメロディアスなフレーズを心地よく紡ぎ出していった。

7弦の超重低音が響き渡る「Concrete Gardens」が終わると、トニーはヴィニーを呼び込んで「もう1曲聴きたいか?」と宣言。プレイされたのは、これを実質的なアンコールと呼んでいいだろう、エドガー・ウィンター・グループの「Frankenstein」…ピートも参加していた昨年の“GENERATION AXE”と同じエンディング曲ということになるが、2人の最高峰ギタリストが掛け合いを楽しんでいる姿を観ると、規模は違えど“GENERATION AXE”に匹敵する意義の大きさを持ったショウを目撃したのではないか、という気持ちにさせられたのだった。

ちなみにインタビューの際、トニーは「またヴィニーと一緒にライヴをやれる機会があれば、ぜひ何度でもやりたい」と語っていたのだが、こうなるとシュラプネル界隈のギタリストを総動員してのイベントというものを夢想してしまう。マーティ・フリードマン、カート・ジェイムズ、ジョーイ・タフォーラ等々…ここまで求めるのはさすがに贅沢だと分かっているのだが…。

トニー・マカパイン&ヴィニー・ムーア 2018.5.30@渋谷クラブクアトロ セットリスト

ヴィニー・ムーア (* = トニーと共演)

1. Ridin’ High
2. Check It Out
3. Hero Without Honor
4. Rain *
5. The Maze *
6. Faith
7. Lifeforce
8. Morning Star *
9. Daydream *
10. Meltdown

トニー・マカパイン (* = ヴィニーと共演)

1. Autumn Lords
2. Hundreds Of Thousands
3. Tears Of Sahara *
4. Key To The City
5. The Time And The Test
6. drum solo
7. The King’s Cup
8. Sacred Wonder
9. The Vision *
10. Dreamstate
11. Etude #4 Opus 10
12. Porcelain Doll
13. Death Of Roses
14. Stream Dream
15. Square Circles *
16. Concrete Gardens
17. Frankensten *