ブラック・メタラー要注目のイベント!
今年はブラック・メタル・バンドの来日が例年よりも多く目立ち、同ジャンルを好むメタル・リスナーにとっては要注目の年になったといえる。去る6月に行なわれた“SWEDISH BLACK INVASION”も、そんな人々が決して無視できないイベントの1つであったことは間違いない。タイトルが示す通り、ダーク・フューネラルにナグルファーというスウェーデン屈指のブラック・メタラーが集結し、前座やサポート・アクトを交えた計4組が東京と大阪の2箇所で暗黒の宴を繰り広げた。今回は16日の東京:下北沢GARDENで行なわれた白熱のステージをレポートしよう。
まず先陣を切って登場したのは、オープニング・アクトのNOX VORAGO。スウェーデンより初来日した彼らは全員が黒装束に顎の伸びたフル・フェイス・マスクといういかにも悪魔的なルックスでパフォーマンスを行なった。ヴォーカルのウドゥーンが地の底から湧き出るかのようなグロウル・ヴォイスを放ち、トミー・マットソンとマグヌス・ダーリンのギター・チームは同期音源のストリングスに絡み合うようにグルーヴ重視のフレージングを展開して、開始早々オーディエンスの心を鷲掴みに! 彼らは特別素顔を非公開にしているわけではなく、ラストはマスクを外していかにも好青年の顔つきをみせ、なんと観客に笑顔を振りまきながら退場したのだった…。続いてはサポート・アクトを務める国産エレジアック・ブラック・メタル・バンドのエセリアル・シンが、北欧メタルから影響を受けた音楽性と日本由来の美しい旋律を緻密にブレンドさせたスタイルで観客を釘付け! 新加入したギタリスト:Kikkaも得意のシュレッド奏法で客席を急速に熱くさせ、メイン・ステージのヒート・アップに大きく貢献していた。
ナグルファー:メロディックな要素を捨てない暴虐サウンドに心酔!
NOX VORAGOとエセリアル・シンのパフォーマンスによって会場が充分に温められた頃、まずはナグルファーのお出ましだ。6年ぶりの来日となる彼らへの反応は凄まじく、会場は早々に興奮状態に。そして、ダイナミックなピアノ・フレーズと共に始まった疾走感のある「Feeding Moloch」で、初っ端から一気に場を盛り上げていく。もちろんブラック・メタルを基にしているのでその音楽性は非常にアグレッシヴではあるが、ゴシックなエッセンスと美しいフレージングでキャッチーに聴かせ、どんなにラウドな楽曲でも決してメロディックな要素を捨てないことが1番の魅力と言っても良いだろう。その後も彼等の進撃は止まらず、ギター陣においてもアンドレアス・ニルソンとマルクス・ノーマンによる暴虐なツイン・ギターから繰り出される、厚みのあるバッキングやタッピングを活かしたテクニカルなソロ等、過激さを増したプレイを展開していく。そして代表曲の1つである「The Perpetual Horrors」のダーク・ファンタジーを思わせる壮大なサウンドに、観客は完全に心酔! 「Blades」の荒々しいプレイを受けてヴォルテージも格段に上昇し、途中のMCでもナグルファー・コールの嵐は絶えなかった。
折り返しに入った頃に披露されたのはファースト・アルバム『VITTRA』(’95年)に収録され、未だにファンからの人気が衰えない名曲「As The Twilight Gave Birth To The Night」。今回のセットではこのような初期の楽曲から最近のナンバーまで幅広く選曲されていたが、その音楽性はデビュー当時から既に確立され、完成されていたのだと改めて気付かされた。やはり様々な思いが詰まっているからか、クリストファー・オリヴィス(vo)の歌声がこれまで以上にエモーショナルに響き渡り、会場をメランコリーなムードで包み込んでいた。荘厳なリズムが強調された「I Am Vengeance」ではメンバーの並々ならぬ“ラスボス感”を思わせる佇まいが興奮を高め、オーディエンスはトリのバンドを控えていながら全力の大暴れっぷり。ここで彼らのセットは終了する予定であったが、熱い声援により「The Brimstone Gate」を急遽演奏することが決定! サービス精神旺盛な計13曲をプレイした後、トリであるダーク・フューネラルへバトン・タッチした。
ナグルファー “SWEDISH BLACK INVASION” @下北沢GARDEN 2018.6.16 セットリスト
1. Feeding Moloch
2. Black God Aftermath
3. Bring Out Your Dead
4. Odium Generis Humani
5. The Perpetual Horrors
6. Blades
7. The Darkest Road
8. The Mirrors Of My Soul
9. As The Twilight Gave Birth To The Night
10. And The World Shall Be Your Grave
11. A Swarm Of Plagues
12. I Am Vengeance
13. The Brimstone Gate
ダーク・フューネラル:独自の世界観を維持した暗黒ライヴ!
ステージ前に詰めかける様子から、大トリの登場を今かと待ち望むファン達の胸の高鳴りが感じられる中、断末魔の叫び声や引っ掻き回すようなストリングス・サウンドのSEと共に、スウェーデン最強のブラック・メタル・バンド:ダーク・フューネラルが姿を現した。薄暗い照明の中、観客を煽るどころか微動だにせず、ただ並び立っているだけの姿は若干不気味さを感じさせる。そしてヴォーカルのヘルヤルマドルの合図と共に楽器隊が動きだし、始まったのは現時点での最新作『WHERE SHADOWS FOREVER REIGN』(’16年)収録の「Unchain My Soul」。ロード・アーリマンのノイジーなギター・サウンドで奏でるアルペジオが楽曲の陰鬱なオーラを一層強くし、ヘルヤルマドルのあまりにも感情的な歌唱が会場を沸かせる。途中で混ぜるMCにもホラー映画の世界を思わせるアンビエント風の環境音が常に流れており、まるでライヴ全体を1つのアトラクションとして体験しているかのような新鮮な感覚が味わえた。
現在はバンド唯一のオリジナル・メンバーであるロードだが、その存在感が一層際立っていたのが「As I Ascend」だ。ミドル・テンポながら攻撃性がまったく失われないこの楽曲、重々しいリズムに合わせてその巨体をゆっくりと動かす様子はベテランの風格そのものだった。一方相方のチャック・モール(g)は髪を振り乱しながらもポーカーフェイスを保ち続けており、前に出過ぎず引き過ぎず、絶妙なポジションを維持。デビュー作のタイトル・トラック「The Secrets Of The Black Arts」ではヤロマーの強烈なドラミングと共に、ギター陣の獰猛性を増したトレモロ奏法が炸裂! オーディエンスのヴォルテージが最高潮に達したタイミングで代表曲「My Funeral」でさらに狂気的なプレイが繰り出され、本編は終了した。
客席からはひっきりなしのアンコールが上がり、やがてバンドが再登場。この間も雰囲気抜群の暗黒SEが流れ続けており、常に独自の世界観を維持することへのこだわりが感じられた。そして披露されたのは、スローなギターの旋律が邪悪きわまりない「Nail Them To The Cross」だ。ヘルヤルマドルはバラ鞭を手にして、前にいる観客を叩きながら歌っていたのだが、その姿はまるで何かの儀式を執り行なっているかのようだった。「Where Shadows Forever Reign」ではブラック・メタルのライヴにしては珍しい強烈なモッシュが発生! ラストにして最高の盛り上がりの中で終演となり、同時に本イベントも幕を閉じた。
それぞれの個性溢れるパフォーマンスへの大盛況ぶりを見るに、スウェーデン勢の再来日は早々に実現しそうな予感。また今後、11月にはゴルゴロスとサマエル、そして2019年の3月にはアナール・ナスラックの来日が決定している。ブラック・メタル・シーンのさらなる活発化に、大きな期待を抱いているのは筆者だけではないはずだ。
ダーク・フューネラル “SWEDISH BLACK INVASION” @下北沢GARDEN 2018.6.16 セットリスト
1. Unchain My Soul
2. The Arrival Of Satan’s Empire
3. Vobiscum Satanas
4. As I Ascend
5. The Secrets Of The Black Arts
6. As One We Shall Conquer
7. Open The Gates
8. Hail Murder
9. My Funeral
[encore]
10. Nail Them To The Cross
11. Atrum Regina
12. Where Shadows Forever Reign