去る10月6〜7日、“Rebirth of Shadows”とザ・ダーク・エレメントのカップリング・ライヴ“Melodic Metal Night”が、東京と大阪の2ヵ所で開催された。
グループ名だけ聞いてもピンと来ないかもしれないが、まず前者はブラジルの至宝:ANGRAの元ヴォーカル、エドゥ・ファラスキによるプロジェクト。彼のバンド在籍時に作られた『REBIRTH』(’01年)『TEMPLE OF SHADOWS』(’04年)の2作品はANGRA史上でも名作と呼ばれており、これらの楽曲を当時の正式ドラマーだったアキレス・プリースターやツアー要員としてバンドを支えたキーボード奏者のファビオ・ラグーナを迎え、エドゥの現在のメイン・バンド:アルマーの弦楽器隊などと共に演奏するという、往年のファン必見のライヴを世界各地で行なっている。
そしてザ・ダーク・エレメントの方は、フィンランドの国民的シンフォニック・バンド:ナイトウィッシュの2代目ヴォーカリストを務めたアネット・オルソン(vo)と、同じくフィンランドのパワー・メタル・バンド:ソナタ・アークティカでの美技が評判を呼んだギタリスト:ヤニ・リマタイネン(g)の2人が手を組んだ、新たなる北欧メロディック・メタル・プロジェクトだ。
チケットは両日共にソールド・アウトしており、多くの人が来日を心待ちにしていたことが容易に汲み取れる。今回は6日に東京で行なわれた、白熱のステージの模様をレポートしよう!
RAKSHASA
まず最初に、ベーシストの夜摩を中心とする国産ヘヴィ・メタラーのラクシャーサがオープニング・アクトとして登場。和テイストを盛り込んだサウンドに、百合(vo)の声量豊かでキャッチーな歌声がよく映えている。橘花(g)と篤志(g)によるテクニカルなツイン・リードといった、メロディック・メタラーが求めるすべての要素をふんだんに取り入れたシンフォニック・アンサンブルでオーディエンスを楽しませてくれた。
THE DARK ELEMENT
続いてはザ・ダーク・エレメント。ヤニは、2016年のケインズ・オファリングで11年ぶりの再来日を果たし、一昨年のインソムニウム来日サポートに続く3度目となるが、ナイトウィッシュを2012年に脱退しているアネットが日本にやってくるのはなんと10年ぶり! 長いインターヴァルを挟んでいるが故に、ファンも待ち遠しくてたまらない様子だ。
1曲目は、バンド名であり彼らのデビュー作となった『THE DARK ELEMENT』(’17年)のタイトル・トラック。ヤニは、アルバムの音源がそのまま流れているかのような正確無比なテクニックを展開していく。極厚なディストーション・サウンドの音圧は、ツイン・ギターかと勘違いしてしまうほどに重厚だ。一方、歌い出しまでステージに上がらずに焦らし続けていたアネットは、姿を見せるやいなや圧倒的な美声を披露し、会場は一瞬にして大きな歓声に包まれた!
ナイトウィッシュの初代ヴォーカル:ターヤ・トゥルネンや現ヴォーカルのフロール・ヤンセンと、歌唱力の面で比較されがちではあるが、両者と共通する広い音域を持ちつつ、良い意味で幼さを感じさせるファンタジックな歌声はまさに彼女ならではの武器であり、大きな魅力の1つと言えるだろう。
演奏されたのは『THE DARK ELEMENT』収録曲のみだが、そこには過去のバンドで培われたシンフォニックかつグルーヴィな音楽性がしっかりと息づいている。イントロが流れた時点で拍手が沸き起こることも多く、ファンがこの1枚に愛着を持ち、しっかり聴き込んで馴染みの曲にしていることを実感させられた。
「Here’s To You」では、ヤニがアネットと息の合ったコーラス・ワークを見せつつ、安定度の高いギター・プレイをキープ。ソナタ時代から2000年代ギター・ヒーローの1人として注目されていた存在だが、長年歌モノのバンドに籍を置いているだけあり、ギターに徹する際も決してヴォーカルの邪魔をすることはない。ソロやリードの際にとことん魅せていくという絶妙な距離感を保つアプローチは、まさにベテランの技とも言える。エレクトロ・サウンドによるダンサブルなビートを交えた「The Ghost And The Reaper」ではヤニのテクニカルなギター・ソロも飛び出し、会場は一体となって大盛り上がりに! 一瞬にも感じられた1時間のステージは幕を閉じ、トリのエドゥへとバトン・タッチした。
ザ・ダーク・エレメント “Melodic Metal Night” 2018.10.6 @ 新宿BLAZE セットリスト
1. Intro〜The Dark Element
2. Last Good Day
3. Dead To Me
4. Here’s To You
5. Halo
6. I Cannot Raise The Dead
7. The Ghost And The Reaper
8. Only One Who Knows Me
9. My Sweet Mystery
Rebirth Of Shadows
最後はお待ちかねの“Rebirth of Shadows”だ。エドゥ・コールが響き渡る熱気の中で、代表曲の1つ「Nova Era」が始まると、観客はたちまち興奮状態に! エドゥはANGRA活動期から声が出にくくなる問題に悩まされており、現在も全快したわけではないようだ。そのことが気にかかっていたが、この日の彼は大変調子が良く、まだまだいけると言わんばかりのハイ・トーン・ヴォイスを披露して、YGを安心させてくれた。以前と比べるとやわらかなニュアンスに磨きがかかったようにも感じられる。ヘヴィな「Acid Rain」では渋みが増した歌いっぷりを見せた。明るい曲調の「Wishing Well」ではエドゥのギター弾き語りから始まるシンプルなサウンドゆえに、彼の歌声が実に心地良い空間を生み出していた。
もちろん、観客が期待しているのはエドゥだけではない。当時のANGRAには、キコ・ルーレイロとラファエル・ビッテンコートというギター・チームがおり、彼らの超絶テクニックをいかに再現できるかも今回注目の的であった。その重責を見事にこなしてみせたのが、ディオゴ・マフラとロベルト・バローズの2人だ。前者はアルマーのライヴでもANGRAの曲は度々カヴァー済み。ロベルトの方は、ブラジル国内ではギタリストとして活動している以外の情報はわかっていないが、「Angels And Demons」や「Winds Of Destination」のようなプログレッシヴかつ難解なナンバーを軽やかに弾いて見せ、その実力を証明した。
演奏されたのは、カヴァー曲だけではない。今回の来日を記念して、“Rebirth of Shadows”ツアーのライヴ音源を中心としたEP『The Glory Of The Sacred Truth』が公演直前の9月下旬にリリースされているが、そこには新曲も収録されており、その中からタイトル・トラック「The Glory Of The Sacred Truth」を演奏してくれたのだ。キャッチーかつ躍動感溢れるメロディック・メタル・ナンバーはANGRAのレパートリーとも相性が良く、すぐに観客の心を鷲掴みに! ファビオやベースのラファエルも含め、ステージ上のメンバー全員が参加している楽曲であり、より一体化した演奏に感じられた。
その後も盛り上がりが途絶えることはなく、ラテン風に始まる「The Shadow Hunter」ではロベルトがクラシック・ギターで色気のあるプレイとエドゥの甘いヴォイスとの素晴らしいコンビネーションで観客を魅了する。そしてラストには待ちに待った「Rebirth」。しかもエドゥがアコースティック・ギターでアルペジオを奏でながらヴォーカルを執るという、本家のANGRAでも見られなかった貴重なパフォーマンスで驚かせてくれた。泣きまくりのギター・ソロも原曲を彷彿とさせ、ハイライトの1つとなった。そしてアンコールにはアグレッシヴな必殺曲「Spread Your Fire」を繰り出すのだから、盛り上がらないわけがない! アキレスの爆走ドラミングに乗ったテクニカルなツイン・リードやサビのヴォーカルに観客は大合唱で応え、大団円を迎えてイベントは無事終了したのだった。
Rebirth of Shadows “Melodic Metal Night” 2018.10.6 @ 新宿BLAZE セットリスト
1. In Excelsis〜Nova Era
2. Acid Rain
3. Angels And Demons
4. Wishing Well
5. Winds Of Destination
6. Heroes Of Sand
7. The Glory Of The Sacred Truth
8. Millennium Sun
9. The Shadow Hunter
10. Live And Learn
11. Rebirth
[encore]
12. Deus Le Volt!〜Spread Your Fire