“聖飢魔Ⅱ像”を提示し続けるプロフェッショナル精神
「どうせやるならば、身体が言うことを聞くうちに。今日は聖飢魔Ⅱ40周年のファイナル、最後の日だ。そして! 解散、する予定の日だが……解散しない! 延長!」
11月30日、さいたまスーパーアリーナで開催された“地球デビュー40周年記念期間限定再集結大黒ミサツアー「THE END OF SEASON ONE」FINAL”のアンコール、「EL DORADO」を終えたあとのMCで、デーモン閣下はこう語った。その瞬間、歓喜の声が湧き上がり、割れんばかりの大きな拍手が場内を包み込んでいく。
その未来は決して最初から決まっていた既定路線ではなかったことは、近年の各構成員の発言からも明らかで、「とりあえず1年ぐらい!」と付け加えた閣下の物言いにも、リアルタイムで様々なことが動いていることが伝わってくる。さらに「諸君たちも知っての通り、我々の身体はガタガタで時間がない。テキパキやらないと……5年も待っていられない。“解散するぞ”詐欺……ああ、そう言えばいいじゃないか」という言葉には、“残された時間”を覚悟しているからこその並々ならぬ決意が感じられたのだった。

開演前のジェイル大橋代官による陰アナウンスでも触れられていたように、聖飢魔Ⅱの歴代単独大黒ミサ史上最大規模のキャパシティとなった本公演。魔暦27(2025)年4月から8月まで続いた“地球デビュー40周年記念期間限定再集結大黒ミサツアー「THE END OF SEASON ONE」”(全19公演)を経て開催された、“地球デビュー40周年記念期間限定再集結大黒ミサツアー「THE END OF SEASON ONE」FINAL”(全2公演)の最終夜であり、構成員全員が“10万60歳超え”とは到底思えないほど、開演から終演まで一瞬たりとも衰えることなく全方位にエネルギーを放ち続ける――まさに悪魔的なパフォーマンスだった。
ヤング・ギター本誌2025年11月号に掲載されているBABYMETALとのジョイント・ギグ『悪魔が来たりてベビメタる』のライヴ・レポートにおいて、“現在進行形の枯れを知らないヘヴィ・メタル・バンド”と聖飢魔Ⅱを形容したが、その印象はフル・セットのメニューになっても変わらず。私たちの中にある“聖飢魔Ⅱ像”を一切損なうことなく、時代を超えてクリアに提示し続ける、そのプロフェッショナルな精神にはただただ頭が下がる。
さて、大黒ミサの内容についてだが、オープニングは「三大怪獣 地球最大の決戦」のテーマが鳴り響くと共に構成員たちが登場。ライデン湯澤殿下の図太いドラム・フレーズを合図にインスト「創世紀」へ突入し、悪魔の様式美が今宵も鮮烈に立ち上がった。その後、運び込まれた棺からついにデーモン閣下が現れ、始まったナンバーは「LOVE LETTER FROM A DEAD END」! 本解散後初となる新譜大教典『BLOODIEST』(魔暦24[2022]年)のオープニングを飾っていたドライヴィング・メタル・チューンであり、ツアー時同様に再集結後の同曲を冒頭に配するあたり、今を生きるバンドの矜持が感じられる。アップテンポのリズムの中で切り込んでくるギター・ソロはジェイル代官からルーク篁参謀へとスイッチする構成で、聖飢魔Ⅱの現ツイン・リード・スタイルを華々しく提示した。

続く「MASQUERADE」では、今ツアーよりルーク参謀のサポート・ギタリストとして参加しているRENOファウスト(Damian Hamada’s Creatures)が中間部のリード・パートを担当。確かな技術に裏打ちされた滑らかなフレージングで曲を彩り、さらりと技巧を披露する姿は、いつ見てもクールだ。次いで、早くも序盤に登場したのは初期の名曲「アダムの林檎」。ジェイル代官によるリズミックな名リフをはじめ、構築されたフレーズの中に豪快なタッピングを織り交ぜた長尺のギター・ソロなど、その独創性溢れるプレイは今なお鮮烈な印象を与えてくれる。この曲が世に出た魔暦紀元前13(1986)年当時、多くのキッズが憧れ、こぞってコピーしていたことも思い起こされる。また、美しいギター・ハーモニーから始まる「STAINLESS NIGHT」もジェイル代官がリードを執り、かつてエース清水長官が弾いていたメロディアスな旋律を少しだけ自己流にアレンジした甘いトーンで紡いでみせた。
この日の第一声MCで、「死にぞこないがファイナルを迎えたぜ!」と高らかに放ったデーモン閣下。がんや大動脈の疾患を乗り越えて今ここに立つ閣下は、死や声を失う現実に直面したからこそ、最高に前のめりでエネルギーに満ち溢れるシンガー/アーティストとしての姿を見せ、観る者を惹きつけて離さない。
その後、大阪と東京のファイナル2公演のために用意されたメドレーもあり、スロー&サタニックな「満月の夜」から美麗バラード「世界一のくちづけを」に至るまで小教典(シングルのようなもの)曲で固めたセクションも大きな見どころであった。この2曲のほか、「真昼の月」(『NEWS』収録/魔暦紀元前2[1997]年)、「空の雫」(『MOVE』収録/魔暦紀元前1[1998]年)、「闘う日本人」(『PONK!!』収録/魔暦紀元前5[1994]年)といった、裾野を広げた’90年代変革期の大教典からの楽曲がフィーチュア。これらは紆余曲折を経てきた聖飢魔Ⅱの激動の歴史を映し出すものであり、聴く者の胸に深く響く。また、「闘う日本人」ではスーツ姿のサラリーマン風ダンサー陣がかつての演出通りに登場して楽曲を盛り上げ、加えて作曲者であるゼノン石川和尚のスラップ・ソロもたっぷりインサートされるなど、単なるメタルの枠に収まりきらないエンターテイメント性抜群のショウが繰り広げられたのだった。
ハイライトとなった起承転結の明瞭なギター・ソロ
本編後半は、KAMISORI SYUTO(3470.mon)によるリリカルなオリジナル・ピアノ・ソロを導入にして、「Kiss U Dead Or Alive」をはじめとする骨太かつグルーヴを感じる新旧ロック・チューンを連打。その「Kiss U Dead Or Alive」は最新の聖飢魔Ⅱ像を体現していると同時に、右手の神経障害により思うように弾けないことを告白したルーク参謀が「これまでと異なるアプローチで新しいギタリスト像を提示した最初の曲」と語った楽曲でもある。ゼノン和尚によるブーストがかった音色のベース・ソロから、ルーク参謀とジェイル代官による掛け合いのギター・ソロへと移行し、そこで聴けるフィーリングを重視したスポンティニアスなフレーズにはルーク参謀の“今”が刻まれていた。
そして終盤に登場した「Next Is The Best!」では、イントロからデーモン閣下の天を衝く超絶ハイトーンが炸裂。“地球デビュー40周年記念期間限定再集結大黒ミサツアー「THE END OF SEASON ONE」”では演奏されなかったが、先の『悪魔が来たりてベビメタる』において黒ミサ初披露となった最新大教典『Season Ⅱ』収録曲である。「きっとBABYMETALのファンも気に入るはず」という狙いのもとセットリストに組み込んだことを閣下はメディアで明かしていたが、ルーク参謀のペンによる正統的メタル魂とガッツ全開の曲想は、老害などとは言わせない刺激的な仕上がりだ。特効の炎が噴き上がる中、アイアン・メイデンを彷彿させるハーモニー・リフが響き渡り、さらに各ギタリストによるリードを経てツイン・リードへと着地するギター・ソロなど、その展開はまさにヘヴィ・メタルが持つカッコ良さを凝縮していた。併せて、表題が象徴する歌詞のテーマもあまりに熱い。
本編最後は、ジェイル代官による開放弦を使用したスピーディな単音リフで始まる「FIRE AFTER FIRE」で、言わずもがな、初期から現在に至るまで肝となるポジションで演奏されてきたナンバーだ。速弾きを含む起承転結の明瞭なギター・ソロも紛れもないハイライトであり、またラストにしてデーモン閣下のハイトーン・シャウトが轟きオーディエンスを圧倒する。本編は異様な高揚感に包まれる中で幕を閉じた。
インターヴァルでは、地球デビュー40周年の濃密な日々がダイジェストでモニターに映し出され、壮大な物語を観ているかのような充足感に浸りつつ、そこからアンコールへと突入。ピアノをバックにしたデーモン閣下の歌唱で始まり、バンド・インで劇的な展開をみせていった感動の「BAD AGAIN」。続いて、日本で最もお茶の間に浸透したヘヴィ・メタル「蠟人形の館」(ジェイル代官によるロックンロール・フレイヴァーを注入したギター・ソロも現在ならではの形だ)、「悪魔組曲作品666番・序曲」がスーパーアリーナの大観衆による『史上最大規模』アカペラで披露され、曲は「EL DORADO」へ──そこで生まれる大団円的クライマックス感は格別であった。

「今日のここはゴールではない、スタートだ」
そして、期間限定再集結の節目にあたり、注目を集めたのは聖飢魔Ⅱの今後である。ここでデーモン閣下が語ったのは本記事冒頭に記した言葉であり、「我々も“SEASON Ⅱ”はずっとやりたかった。(来年)5月から“SEASON Ⅱ”のツアーをやる!」というメッセージが届けられた。特に今回、こうして肉声によって明確に次なる展開を伝えてくれたことは、信者にとって深い感慨を覚えたに違いない。閣下は現実の厳しさを認めつつも、目指すことをあきらめてはいけないと語り、「今日のここはゴールではない、スタートだ」と宣言。大ラスは「WINNER!」で、発布当時にヘヴィ・メタル・バンドとしての可能性を提示したそのポジティヴなサウンドが、未来を照らすように輝きを放っていた。
全メニューが終了し(閣下曰く、“もう「ギロチン男爵の謎の愛人」しかやる曲がない”とのことだったが、いつの日かぜひ)、カーテンコール終盤にはSEで「Season Ⅱのテーマ」が流れ、そのリズムに合わせて自然と手拍子が湧き起こる。美しきエンディングを迎えたと思ったその瞬間、何と本物のマーチング・バンド(早稲田大学応援部吹奏楽団)が登場し、「Season Ⅱのテーマ」を生演奏で披露するというサプライズが待っていた…! その光景は実に感動的で、バンドの演奏が響き渡る中、順にステージをあとにする構成員たち。ファイナルにして“SEASON Ⅱ”の幕開けとなった粋な演出を前に、自然と涙が込み上げてくる。モニターに映し出されたエンドロールには、聖飢魔Ⅱの現構成員やサポート・メンバーの名はもとより、エース清水長官やダミアン浜田陛下の名もそこにあり、同胞へのリスペクトがしっかりと示されていた。
思えば『Season Ⅱ』完成時にインタビューした際、ルーク参謀はツアーや自身の今後について、「もしかすると俺自身が限界を感じてしまうかもしれないし、本当にどうなるかは分からないよね」「とにかく今やれることを、ベストを尽くしてやりきってみるしかない」と胸の内を明かしていた。そして結果──この日のメンバー紹介時のMCで今ツアーを振り返った参謀は、「やってよかったかもしれないな」「みんなのおかげ。ありがとう」と言葉を残した。もちろんルーク参謀だけでなく、一連の活動を通じて各構成員それぞれにも心に響くものがあったことは想像に難くない。信者たちの聖飢魔Ⅱを求める“熱”がバンドの未来に大きく関与したのは確かだろう。そうした両者の強い絆のもと展開される“SEASON Ⅱ”は、きっと素晴らしいものになるはずだ。

聖飢魔II地球デビュー40周年記念期間限定再集結大黒ミサツアー「THE END OF SEASON ONE」FINAL 魔暦27(2025).11.30 さいたまスーパーアリーナ セットリスト
1. SE
2. 創世紀
3. LOVE LETTER FROM A DEAD END
4. MASQUERADE
5. アダムの林檎
6. STAINLESS NIGHT
7. Medley(満月の夜~真昼の月~空の雫~闘う日本人~世界一の口づけを)
8. SYUTOのピアノソロ~ Kiss U Dead Or Alive
9. 有害ロック
10. 老害ロック
11. Next Is The Best!
12. Brand New Song
13. FIRE AFTER FIRE
[ENCORE](40周年振り返り映像)
13. BAD AGAIN
14. 蠟人形の館
15. 悪魔組曲・序曲
16. EL DORADO
17. WINNER!
聖飢魔II公式インフォメーション
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