フィンガー・スタイルによる明瞭なサウンド
「The Chicken」や「Spain」といったフュージョンの有名曲を、ハイパー・テクニカルなスタイルによるユニークなアレンジで演奏した動画で話題となり、すでに飽和した感のあったギター・テクニックの水準をさらに高めた若手の筆頭であるマッテオ・マンクーソが、初めて自身のトリオを率いて来日した。ここでは5月28日にBillboard Live TOKYOで行なわれた公演の、1stセットの模様をお伝えしよう。
開演前のステージは、ブルーに光るLEDの柱をいくつも並べた幻想的な演出によるお膳立てがなされていた。そこにマッテオとベースのリカルド・オリヴァ、ドラムスのジャンルカ・ペレリートが登場。リカルドは、マッテオが2017年にフュージョンの名曲を独自のアレンジで演奏するために結成した最初のトリオSNIPSのメンバーであり、ジャンルカもマッテオの1作目『THE JOURNEY』(2023年)や過去のツアーに参加しているということで、互いに気心の知れた間柄だ。

ショウのオープニングは、今年発表されたばかりの2作目『ROUTE 96』の冒頭を飾る「Solar Wind」。クリーン・サウンドによるスペーシーなイントロにバッキング・トラックを使用しつつ、マッテオはオーヴァードライヴさせたヤマハの“Pacifica”でテーマのメロディを奏でる。ユニークなフィンガー・スタイルによるサウンドは、歪ませていても明瞭さを失わず、改めて彼のコントロール能力の高さに感心させられる。2曲目は同じくヤマハの“Revstar”に持ち替えて、1作目収録の「Falcon Flight」。時折フレーズに織り交ぜるピッキング・ハーモニクスが美しい。この曲を終えたところで、新しいアイバニーズ“Mode”シリーズの5弦モデルを携えたリカルドが、かねてから勉強していたという日本語でのMCを披露。母音の多いイタリア語が母国語なだけあって、同様に母音の多い日本語の発音も明瞭で聴き取りやすく、演奏に対するのと同じぐらいの喝采を浴びていた。



3曲目はマッテオがウェザー・リポートの名盤『HEAVY WEATHER』(1977年)にインスパイアされて書いたという「The Great Wall」で、クリーンなサウンドのテーマと艶のあるオーヴァードライヴ・サウンドのソロとの対比が、エモーショナルな効果を醸し出す。続く「Fire And Harmony」はベース・ソロを交えたイントロでスタート。アルバムでは伴奏にクラシック・ギター、ソロにスティール弦のアコースティックを使っていたマッテオだが、ステージでは“Pacifica”の太いサウンドでソロを取る。ちなみに「Solar~」やこの曲などで使用したバッキング・トラックの再生はリカルドが担当していた。
5曲目はマッテオに影響を与えたギタリストの1人、マイケル・ランドウの世界を取り入れたという「L.A. Blues One」。元気の良いジャンルカのシャッフルに乗ったマッテオのソロはロング・トーンが魅力的で、彼がただテクニカルなだけではなく、歌心も持ち合わせていることがよくわかる。
ギターを主軸とする“現在のフュージョン”の守備範囲の広さ

オリジナルが続いたところで、トリビュート・コーナーに移る。まずはジェフ・ベックの名演で知られる「’Cause We’ve Ended As Lovers」。2年前のモントルー・インターナショナル・ギター・ショウでマッテオは同曲を“Revstar”で演奏していたが、ここでは“Pacifica”を使用。そのアーミングにはベックへの憧憬がうかがえる。リカルドのベース・ソロも、エモさにかけてはマッテオに引けを取らない。そしてトリビュートの2曲目に続いたのは、チック・コリアの代表曲の1つで、マッテオが世に知られるきっかけの1つにもなった「Spain」。「’Cause~」がほぼ原曲通りのアレンジだったのに対して、「Spain」ではユニゾン部分のリズムをトリッキーなものにしたり、ベース・ソロの部分を原曲の基本となる軽快なサンバからゆっくりとしたバラード調にしたりして、より劇的でスリリングな展開に作り替えられている。マッテオのお茶目な性格がよく表れたアレンジだと言え、息の合ったトリオがその本領を発揮する場面にもなっていた。ユニゾンに乗せてドラム・ソロを展開したジャンルカは、使用したセットの黄色いシェルや、ドコドコドコッ…というタムの連打を多用するところからして、トニー・ウィリアムスが好きだと見た。
トリビュート・コーナーの後は新作のレパートリーに戻って、「Isla Feliz」を披露(アルバムのこの曲にゲスト参加していたアントワーヌ・ボワイエも同じ頃に来日中で、マッテオはアントワーヌでの彼のライヴも観に行ったと語っていた)。そして本編の最後は、新作でも最もヘヴィでパワフルな「Black Centurion」。ステージを締めくくるのにふさわしい盛り上がりで、ギターを主役にした“現在のフュージョン”の守備範囲の広さを証明する演奏でもあった。

ハーフ・セットのステージでありながらアンコールも2曲というサービスぶりには、初来日の彼らの嬉しさがにじみ出ている。まずは先ほどの「Spain」と共にマッテオを有名にした「The Chicken」(原曲はアルフレッド“ピーウィー”エリスだがジャコ・パストリアスのカヴァーでも知られる)で、ギター、ベース、ドラムスの順でソロを披露。そして最後の最後にもう一度盛り上がるべく選ばれたのは、1作目で最もヘヴィな「Drop D」で、お腹いっぱいのギター・ミュージックが堪能できるステージとなった。
ちなみにマッテオはすべてのサウンドをフロア型マルチプロセッサーでまかなっており、この日はメインにフラクタル・オーディオ・システムズ“FM3”、サブにLine 6“HX Stomp”を使用していた。リカルドも同様にダークグラス・エレクトロニクスのマルチプロセッサー“Anagram”を使用。ツアーでの持ち運びも考えると、当然の傾向だろう。
初めての来日公演はこの日で無事終了。マッテオたちはこの後もしばらく日本に滞在し、各地への観光旅行を楽しんでいた。

※7月10日(金)発売のヤング・ギター2026年8月号では、来日時に取材を行なったマッテオの奏法記事を掲載。当ライヴ・レポートにて触れられている天才的フィンガー・ピッキング・テクニックの秘密を、徹底分析している。それに連動する特別映像もYouTubeの本誌チャンネルにて公開予定なので、お楽しみに!
マッテオ・マンクーゾ セットリスト2026.5.28 @Billboard Live TOKYO
1. Solar Wind
2. Falcon Flight
3. The Great Wall
4. Fire And Harmony
5. L.A. Blues One
6. ‘Cause We’ve Ended As Lovers
7. Spain
8. Isla Feliz
9. Black Centurion
10. The Chicken
11. Drop D



