Ryoji「“白竜”ギターはヴァイオリンの音程まで出せるものにしたい」『Dragonbird Symphony – Prologue』インタビュー後編

Ryoji「“白竜”ギターはヴァイオリンの音程まで出せるものにしたい」『Dragonbird Symphony – Prologue』インタビュー後編

全10曲のクラシックの名作をメタル調にアレンジしたRyoji Shinomoto(RYUJIN/vo, g)の最新ソロ・アルバム『Dragonbird Symphony – Prologue』。収録内容について詳細に語ってくれた前編に続いて、今回は機材関連の話題を中心としたインタビュー後編をお届け。クラシックをストレスなく弾くためにRyojiが考案したという彼のオリジナル・ギター“白竜”や、今後のRYUJINの活動についても迫っていこう。

難しいフレーズになればなるほどクラシック・フォームで弾くのが一番自然

YG:ご自身のYouTubeチャンネルでは、『Dragonbird Symphony – Prologue』収録曲の演奏動画をアップされていますね。これを観ると、ヴィヴァルディの「夏」「春」「冬」などで33fまでフレットが拡張されたジャクソンのランディV(カスタム・ショップ製の“Rhoads”)を使用していますが、今回のレコーディングのメイン・ギターはこのモデルでしたか?

Ryoji:基本的にはそのランディVと、普段メインで使っているミラー・ボディの“Kelly”を弾きました。拡張フレットが必要になる音域の箇所ではランディVを弾いて、それ以外は“Kelly”を使うという風に分けた感じですね。ネック・ピックアップを使いたいときは“Kelly”を使いましたし、そうやって曲ごとに最適なものを選んでいます。

YG:リスト「愛の夢」ではフェンダーのストラトキャスターを弾いたということでしたね(インタビュー前編を参照のこと)。

Ryoji:「愛の夢」だけはどうしてもシングルコイルのギターでないと、出したいニュアンスが出せなかったのでストラトキャスターを使いました。あのギターは高校の卒業祝いに父の友人からいただいたものなんですけど、実はそれよりも前、小学生のときに一度弾かせてもらったことのあるギターなんです。あのギターがイングヴェイ・モデルだと知ったのは、もっと後になってからでした。かなり古いギターでヴォリュームを回すとガリ・ノイズが出てしまうので、ヴォリューム・ペダルを使って音量をコントロールしながら、最初は指でピッキングし、途中からピックで弾いてゲインを上げていくという流れでプレイしました。エレクトリック・ギターならではのダイナミクスを、最大限に引き出すアプローチを採りたかったんです。

YG:YouTubeの動画ではいずれも椅子に座って、片脚を足台に乗せるクラシック・ギターのスタイルで演奏されていますね。クラシックを弾くのであれば、その作法に則って…ということで座って弾いているのですか?

Ryoji:作法としてというより、ギターを演奏するのに一番合理的なフォームだからというのが理由です。僕はレッスンでギターを教えてもいますが、生徒には左足を足台に置いて、ギターを体の中心に構え、左手の親指をネックの裏に置く、というクラシックのフォームから教えるんですよ。若い頃はジミー・ペイジやジミ・ヘンドリックスみたいな、いわゆる“ロック・スタイル”のネックを握り込むフォームにすごく憧れていて、「クラシックの弾き方ってエレクトリック・ギターには合っていないんじゃないか」と思っていた時期もありました。実際チョーキングはロック・スタイルの方がいいこともあるし、親指で押弦できるというメリットもあります。でも、難しいことをやったり、演奏の精度を上げていこうとすると、結局クラシック・ギターで習ったフォームが正解だったと気づくんです。もちろん絶対にクラシック・フォームでないとダメというわけではないですが、少なくとも僕にとっては、難しいフレーズになればなるほどクラシック・フォームで弾くのが一番自然ですね。それに、ここ数年で腰を悪くしたり右肩が上がらなくなった時期もあったりして、身体のことをかなり意識するようになりました。それで今後の活動のことを考えると、座って弾くスタイルがベストだなと。身体への負担も少なく、なおかつハイ・ポジションを含むクラシック的なフレーズにも対応しやすい。だから動画でクラシックの弾き方をしているのは、クラシック的に見せるためではなく、僕にとって一番無理のない普段通りの弾き方をした、というのが実際のところなんです。

YG:現在製作を進めているという、“白竜”なるオリジナル・ギターについても訊かせてください。

Ryoji:4年くらい前から、僕がエンドースしているジャクソンに「33fのギターを作ることができないか」という話をしていたんです。でもその話はなかなか実現には至らなかったので、だったら自分で出資をして、僕のオリジナル・ブランドとして製作してみたいと考えました。それからジャクソンと交渉して、条件付きで許可をもらうことができたので、製作を始めたんです。

YG:アルバムで使用されたランディVは33fまで拡張されていますが、“白竜”はなんと36fまで増やすそうで…。

Ryoji:“白竜”は「ヴィヴァルディをギターで弾きたい」というところから思いついたものなんですが、どうせ作るのであればヴァイオリンの音程まで出せるものにしたかったんですよね。あとは最近、RYUJINの曲でも「もっと高い音程が欲しい」と思う場面があったこともあって。24fのさらに1オクターヴ上まで出そうとすると、理論的には36fまで拡張する必要があります。ただ、実際にそれをどう実現するかというのは、ビルダーの方と細かく詰めている段階です。フレットを半音刻みでそのまま36fまで伸ばすのか、それとも途中から音程の間隔を変えるのか、といった構造的な問題もあります。そもそも、実際にそんなハイ・ポジションで弾けるのかという構造的な部分も含めて、かなり試行錯誤している段階です。制作途中なのでどうなるか分からない部分もありますが、このギターが完成すれば、今回の『Dragonbird Symphony – Prologue』でやり切れなかったことを、すべて理想通りに実現できると思うんです。実際、今回のアルバムではどうしても今のギターでは弾けない箇所もあって、例えばパガニーニでは実際の音程よりもオクターヴ下げないといけないセクションがあったりしました。そのストレスがかなり大きかったので、“白竜”が完成したら理想通りの形で、完璧に弾き直したいと思っています。

YG:超ハイ・フレット仕様のギターと言えば、ウリ・ジョン・ロートの“Sky Guitar”が思い浮かびますが、彼のモデルを参考にしたりはしましたか?

Ryoji:やっぱり“Sky Guitar”の存在は大きいですよね。最初にジャクソンに相談したときは、ウリのギターを例として挙げてくれました。別のビルダーに相談した際には、「今の時代、低い音を求める方が主流だから、高音域を広げる発想は時代に逆行している」と言われたことがあったんです。実際その通りだと思うんですけど、僕としてはそこにあまり違和感はなくて、むしろ誰もやろうとしていないからこそ、やる価値があると思っています。正直、このギターがどれだけ多くの人に受け入れられるのは未知数ですけど、僕としてはやれるところまでやってみたいという気持ちが強いですね。

YG:noteの記事で“白竜”のボディ・シェイプの仮デザインを公開されていますが、現在はあの状態からさらに試行錯誤を重ねているところでしょうか?

Ryoji:ボディ・シェイプに関しては、まず前提として「ストラトキャスター・サイズのギター・ケースに収まること」を条件にしています。というのも肩を悪くしてから、ギターを持ち運ぶのが結構しんどくなってきたんです。だから、普段使っている“Kelly”やランディVほど全長が長くならず、その上でちゃんと個性のある形にしたいというところからシェイプの仮デザインを考えました。ただ、今はまだ最終形ではなくて、今後多少の変更を加える可能性はあります。ちなみに、僕はこのシェイプをアルバムのタイトルにもなっている“Dragonbird ”という名前で呼んでいるんです。右側の形状が、スポーツ用品のミズノの“ランバードロゴ”に少し似ていると思ったんですよね。そこから“Dragonbird ”という名前を思いつきました。ギターの機種名としても、B.C.リッチの“Mockingbird”やギブソンの“Firebird”のように、“〇〇バード”という系譜があるので、自然とハマるなとも思ったんです。

YG:その他に“白竜”の仕様でこだわっているポイントは?

Ryoji:ピックアップに関しても、僕はネック・ピックアップを使うことが多いので搭載したいですし、初めてサスティナーも搭載する予定でいます。見た目に関しては名前が”白竜”なので、パール・ホワイトのボディにゴールド・パーツを取り付けて、ネック材はメイプルにするつもりです。将来的には黒い見た目の“黒竜”シリーズなんかも展開できたらいいですね。

YG:“白竜”はクラシックを弾くときの専用ギターになる予定ですか。それとも、RYUJINでの活動にも使おうと考えていますか?

Ryoji:RYUJINでも使う可能性はあると思います。ただ、現時点ではどちらかというと、バンドではなくギタリストとしてのソロ活動での象徴的な1本にしたいという気持ちの方が強いですね。これまでの僕のキャリアは、どうしてもバンドのギター・ヴォーカルやフロントマンとしての側面が強くて、「ギタリストとしての自分」を前面に出すことがあまりありませんでした。だからこそ、“白竜”はそういったギタリストとしての自分を象徴する存在にしたいしたいんです。もしこのギターのコンセプトに共感してくれる人がいて、実際に使ってくれるようなプレイヤーが出てきたら、それはすごく嬉しいことですね。

新曲をデジタル・シングルでたくさん出していけたら…

YG:RYUJINの活動についても訊かせてください。バンドがGYZE名義で活動を開始してから今年の3月で15周年を迎えたことを記念して、過去曲の「HONESTY」(2015年の2ndアルバム『BLACK BRIDE』収録)のリレコーディング版がリリースされました。どういった理由で、この曲を再録することに決めたのでしょうか?

Ryoji:動機として15周年というのもありますが、そもそもリレコーディングに踏み切ったのは、1stアルバムの『FASCINATING VIOLENCE』(2013年)と『BLACK BRIDE』に関して海外レーベルとの権利問題があったからなんです。だから、最終的には1stと2ndの曲をレコーディングし直してアルバムとして再リリースしたいと考えています。その取っ掛かりとして、2ndから数曲をシングルとして出していこうとしているんです。最初に「HONESTY」を選んだのはストリーミングで一番再生されていますし、歌詞も曲も気に入っているのが主な理由ですね。

YG:ここのところRyojiさん個人名義の作品リリースが続いていますが、RYUJINの新作制作の予定はあるでしょうか?

Ryoji:今年はとにかく新曲をデジタル・シングルでたくさん出していけたらと思っているんです。これまでは基本的にアルバム単位で作品を出してきましたが、2021年くらいにシングルを続けて発表した時期があって(註:バンド結成10周年を記念した「SAMURAI METAL」「VOYAGE OF THE FUTURE」「ORIENTAL SYMPHONY」の3作品)、その頃に一番リスナーが増えましたし、何より制作ペースと作品がファンに届くまでのスピード感が心地よかったんです。最近はミックス/マスタリングも自分で行ない、「作ったらすぐに出す!」をテーマにしています。アルバムを作っていると5年前とかに書いた曲をレコーディングしたりすることもざらにあるじゃないですか。そうすると作曲しているときの熱量とは違った温度感で作品をリリースすることになってしまう。それを避けたいという気持ちもあります。ちょうど3rdアルバム(2017年『NORTHERN HELL SONG』)のライセンス期間が満了になったこともあり、今後は過去作のリメイクなど色々な可能性を探っているところなので、期待してもらいたいですね。

YG:今年7月にはフィンランドの“KAAOS FESTIVAL”に出演が予定されています。Ryojiさんが敬愛する故アレキシ・ライホの母国ということで特別な思いもあると思いますが、フェスへの意気込みを聞かせていただけますか。

Ryoji:フィンランドで演奏するのは、今回が初めてなんですよね。ヨーロッパでの公演自体はこれまで何度もやってきたんですけど、フィンランドだけは行ったことがなくて。“KAAOS FESTIVAL”にはRYUJINで出演するだけでなく、僕のソロ名義のステージもあるのですが、そちらではアレキシへのトリビュートという形でチルドレン・オブ・ボドムの楽曲を演奏することになっています。僕にとってアレキシという存在は本当に大きくて、もし彼がいなかったら、僕はメロデス・バンドのフロントマンにはなっていなかったと思うんですよ。そういう意味で、彼の母国で彼の楽曲を演奏するというのは一つの夢が実現することだと感じています。

ただ一方で──最近になって「自分はギター・ヴォーカルとしてこの先どこまでやれるのか」と考えることが増えるようになりました。脳の処理の問題なのか、身体的な問題なのかは分からないですが、少なくとも僕の中では「ピークが過ぎている」という感覚があるんです。今回、フィンランドでメンバーと一緒にオリジナル曲をやりつつ、憧れていたバンドの曲も演奏する。そういう経験を経た上で、僕はこのままメタル・バンドのフロントマンとしてやっていくのか、それとも別の形にシフトしていくのか、その答えが出るんじゃないかと思っています。RYUJINを辞めるつもりは全くないんですが、例えばもっとインスト寄りの音楽にシフトしたり、映画音楽的な方向に進んだり、ライヴ中心ではなく作品重視になっていったり、色々な可能性が考えられる。そういう意味でも、今回のフィンランドでの公演は僕にとって想像以上に大きな意味を持つことになるでしょう。いずれにせよ、僕なりに100%の演奏を披露したいと思っています。

YG:フィンランド公演を経てRyojiさんがどんな道を選ぶのか、ファンは要注目ですね。では最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。

Ryoji:『Dragonbird Symphony – Prologue』の制作中はネガティブな感情を抱くことがなく、ただ音楽を作ることに熱中できました。AIの進歩が凄まじい今、非効率的でも自身の手で苦労して作ることの喜びを再認識することもできたんです。今回のクラシック・アルバムを弾けるようになるまでには途方もない時間がかかりましたが、その過程はAIがどれだけ発展しても代替の効かないものであり、大切にしていこうと思っています。この記事を読んでいる方はギターを弾いて楽しんでいる人がきっと多いですよね。ギターって本当に楽しい楽器ですけど、同時にすごく難しい。今回のクラシックをメタル・ギターでカヴァーするという試みも決して簡単ではなかったですし、昔の僕だったら絶対に弾けなかったと思います。ただ、僕はこれまで1日も辞めることなくギターを弾き続けてきた結果、このアルバムを完成させることができたので、やっぱり続けることが一番大事なのでしょう。

もしギターをもう少し深く学びたいという方がいれば、僕はレッスンもやっていますし、(クラウドファンディング・プラットフォームの)“Patreon”でもウェブ・レッスンを開講しているので、活用してもらえたら嬉しいです。YouTubeにはたくさんの映像教材がありますし、その分すごいプレイヤーを目にする機会も多いと思いますが、あまり周りと比べ過ぎずに、自身の成長と向き合いながら続けていけば、もっとギターを楽しめるはずです。ぜひ皆さんには、これからも楽しみながら弾き続けていってもらえたら嬉しいですね。そして良かったら、『Dragonbird Symphony – Prologue』もチェックしてみてください。これまでクラシックに馴染みがない方でもメタルの文脈で楽しんでもらえる内容になっていますし、名チェロ・プレイヤーの向井さんの音も必聴です!

INFO

Ryoji Shinomoto『Dragonbird Symphony』ジャケット画像

Dragonbird Symphony – Prologue / Ryoji Shinomoto

2026年3月25日発売 | Ryoji Shinomoto | CD、配信

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収録曲

1. Vivaldi: Violin Concerto in G Minor, RV 315, Summer, III. Presto
2. Vivaldi: Violin Concerto in E Major, RV 269, Spring, I. Allegro
3. Vivaldi: Violin Concerto in F Minor, RV 297, Winter, I. Allegro non molto
4. Beethoven: Piano Sonata No. 8 in C Minor, Op. 13, Pathétique, III. Rondo
5. Beethoven: Piano Sonata No. 14 in C-Sharp Minor, Op. 27 No. 2, Moonlight, III. Presto agitato
6. Beethoven: Piano Sonata No. 23 in F Minor, Op. 57, Appassionata, III. Allegro ma non troppo
7. Liszt: Liebestraum No. 3 in A-Flat Major, S. 541/3
8. Paganini: Caprice No. 24 in A Minor, Op. 1
9. Chopin: Étude in C Minor, Op. 10 No. 12, Revolutionary
10. Mozart: Piano Sonata No. 11 in A Major, K. 331, Rondo alla Turca

Ryoji公式ギター・スコア

『Dragonbird Symphony – Prologue』収録曲をRyoji自身が制作した公式ギター・スコア集も発売されている。インタビュー中で本人が紹介してくれたフレーズに挑戦してみたい人は、ぜひともチェックを!

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【楽譜】Dragonbird Symphony Prologue Official Guitar Score Collection

Ryoji使用ピック:OHM Picks

現在、Ryojiが使用しているピックはフィンランドのメーカー:OHM Picks(オーム・ピックス)のチタン製で、本作のレコーディングで大いに活躍したという。

「OHM Picksのチタン製ピック──これが僕にはすごく合っていて、プレイの“ニュアンス”という点でその影響はかなり大きいですね。僕の場合、プラスティックのピックだとだいたい3曲くらい弾くと違和感が出てきてしまうんですけど、このチタン製ピックはほぼ摩耗しないので、ずっと同じ感覚で弾き続けられるんです。それと、このピックはアタック音がすごくはっきり出るので、音のニュアンスをコントロールしやすいんですよ。興味がある方はぜひ試してみてください」

OHM Picks × RYUJIN チタニウムピック
OHM Picks × RYUJIN チタニウムピック | RYOJI SHINOMOTO

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