Ryoji、クラシック曲のメタル・アレンジ作を発表「どこまでギターで再現できるのか考えながら作っていきました」前編

Ryoji、クラシック曲のメタル・アレンジ作を発表「どこまでギターで再現できるのか考えながら作っていきました」前編

まだRYUJINがバンド名をGYZEと名乗っていた2017年、フロントマンのRyoji(vo, g)はヤング・ギター本誌にて半年間連載コラムを担当したことがある。『ギター世界征服計画』と題されたそのコラムは彼の日常の出来事を紹介しつつ、ギターのエクササイズ・フレーズをタブ譜付きで紹介するというもので、その第1回に採り上げられた題材がベートーヴェンの「月光」であった。当時のコラムを読み返すと、「ピアノの練習でこの曲を弾こうとしたのですが、あまりに音階が美しいので“やっぱりギターで”となり、五線譜を基にフレーズを作ってみました」などと書かれている。このときからおよそ9年の歳月を経て、彼がクラシックの名曲だけで構成されたフル・アルバムを発表することになろうとは、おそらくRyoji本人も当時は考えていなかったのではないだろうか。

Ryoji Shinomoto名義で3月にリリースされた彼の最新ソロ・アルバム『Dragonbird Symphony – Prologue』は、先述の「月光」を含む全10曲──ベートーヴェンやヴィヴァルディ、リスト、パガニーニ、ショパン、モーツァルトら大作曲家によるクラシック曲を、メタル・バンドのサウンド&アレンジで再現する意欲作となっている。チルドレン・オブ・ボドムのカヴァー集であった昨年発表の前ソロ作『Children Of Bushido』に続き、またしても大胆な試みを成し遂げたRyojiに、新作の内容をたっぷりと解説してもらった。

なお、アルバムには収録曲が英語でクレジットされているが、本インタビューは日本語の標題で曲名を表記していることをお断りしておきたい。

僕がやるクラシックは、本流ではなく“我流”

YG:Ryojiさんはベートーヴェンの「月光」をメタル調で演奏した映像を2016年にネットで発表し、同曲のフレーズをヤング・ギターの連載コラムでも採り上げたことがありました。このとき「月光」に取り組んだことが、その後の『Dragonbird Symphony – Prologue』制作へとつながっていったのでしょうか?

Ryoji Shinomoto:ええ、そうですね。「月光」をギターでカヴァーしてみてから、年に1回くらいのペースでショパンやベートーヴェンの曲を弾くようになっていったんです。そうしてクラシックを演奏する機会が増えていくと、それをきっかけにRYUJINのファンになってくださる方々も結構出てくるようになって。「クラシックのアルバムを出してほしい」という声も聞くようになってきて、さらに新作のレコーディングに参加してくれたチェリストの向井 航さんとの出会いも重なり、『Dragonbird Symphony – Prologue』を作ることに決めました。あと、クラシック・アルバムを出すことにした理由としては、ソロ名義で『Children Of Bushido』をリリースしたのも大きかったですね。この作品によって「ソロとしての活動もちゃんとやっていこう」という気持ちが増してきたんです。これまではバンドのギター・ヴォーカルや作曲家としての活動が中心で、“ギタリストとしての自分”をちゃんと見せることができていなかった気がします。だからこそ、あらためてちゃんと示したいという思いもありました。

YG:チェロ奏者の向井 航さんは、どのような経緯でレコーディングに参加することになったのでしょうか?

Ryoji:向井さんは僕と同じ北海道に住んでいるのですが、2019年くらいに地元の新聞の『世界で活躍するこの街のミュージシャン』という特集に僕達ふたりが掲載されたことがあったんです。そのときに彼のことを知って、実際にお会いできたのは2022年頃でした。当時はちょうどRYUJINのアルバム(2024年発表の『RYUJIN』)を作っていたんですが、向井さんに「ぜひ制作に参加したいと」言っていただけて、そこから一緒にレコーディングするようになったんです。今回の『 Dragonbird Symphony – Prologue 』に関しても、デモを聴いてもらったら「チェロを弾かせてほしい」と言ってくださり、最初は数曲だけの予定でしたが、結果的に10曲中9曲を弾いてもらうことができました。実際に弾いたチェロの弓鳴りやニュアンスは打ち込みとは全然違いますし、クラシックの現場で何百回も演奏してきた方なので、音の説得力が段違いでしたね。ピアノ曲にチェロを入れることによって室内楽のような雰囲気も出せましたし、向井さんご自身もメタル・アレンジでクラシックを弾くということを楽しんでくれていて、すごく良い関係で制作できたと思っています。

YG:『Dragonbird Symphony – Prologue』に採り上げられた曲は、どういう基準でセレクトされたものですか?

Ryoji:結構直感的に選曲しましたね。基準は「ギターで弾いて映えるか」と「僕がやりたいか」のふたつだけです。例えばヴィヴァルディの「四季」の中でも「秋」は今回採り上げていないのですが、それはこの曲を僕が弾いているイメージが全然湧かなくて、無理にやると義務感で弾くことになると思ったので止めました。曲を決めてからは元の音源を何度も聴いて、頭の中でギター・ヴァージョンの完成形が見えてきたら、まずはドラムとベースから作り始める。基本的にはそういう流れでアレンジを固めていきましたね。 今回のように楽譜がある場合は、そこに“答え”が書かれているわけなので、ギターで再現すること自体はそこまで難しくはありませんでした。ただ、原曲には存在しないベースやリズムを作る部分は完全に一から考える作業だったので、その曲に合う音をつけていくという中で色々と試行錯誤しています。

YG:クラシック曲をメタル・ギターでアレンジするには、オーケストレーションの知識がある程度必要になると思いますが、そういった知識は独学で身につけられたのですか?

Ryoji:基本的に僕は野良のギタリストなので(笑)…ほぼ独学と言っていいと思います。ただクラシックの勉強は昔からしていますし、今でもやっているんですよ。20年以上作曲やレコーディングを続けてきた中で、オーケストラ的なアレンジを施すこともあったので、そういった経験の延長線上で今回のアルバムも作ったという感覚です。RYUJINの曲に含まれるストリングスなどのオーケストレーションを向井さんに聴いてもらった際、「オーケストラを書けるレベル」と言っていただけて、同時に「クラシックのど真ん中でやってきていない人だからこその自由な発想がある」というお言葉もいただけたんです。だから僕がやるクラシックは、本流ではなく“我流”だと言えると思います。

YG:クラシックを演奏するロック/メタル・ギタリストはこれまでもいましたが、その中でRyojiさんが一目置いているアーティストは?

Ryoji:やっぱりウリ・ジョン・ロートは外せないですよね。ヴァイオリンの高音域を出すギタリストという点では真っ先に思い浮かびます。ただ、僕はメロディック・デス・メタルやパワー・メタルのスタイルで演奏してきたギタリストなので、発想としてはウリの影響を受けていますけど、サウンドとしては別物じゃないかな。

YG:クラシックというとイングヴェイ・マルムスティーンを思い浮かべる人も多いと思いますが、Ryojiさんはいかがでしょうか?

Ryoji:イングヴェイはもちろん大好きですが、彼は「ハーモニック・マイナー・スケールを使うジャズ・ギタリストなんじゃないか?」と思うくらい自由自在にインプロでギターを操りますよね。そういう意味では、決められたものをそのまま弾くクラシックとは真逆にいる。それなのにバロックっぽいところが面白いですね。あと付け加えておくと、20年以上前にヤング・ギターの付録DVDでアレキシ・ライホがヴィヴァルディを弾いていたのもすごく印象に残っています。チルドレン・オブ・ボドムの初期の作品は、クラシックのフレーズが入っていたりしていましたよね。

メタルとして成立する音を探しながら弾いた

YG:収録曲について、それぞれのギター・プレイにおけるポイントや曲に対する思いなど、簡単にコメントをいただけますか。まずはヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」の「夏」「春」「冬」から。

Ryoji:「夏」に関しては、やっぱりギタリストにとってすごく取っ付きやすい曲だと思うんですよね。実際アレキシも過去に弾いたりしていましたし、他にもデイヴ・ムステイン(メガデス)やウリ・ジョン・ロートといったギタリストも採り上げていて、すごく馴染みのある楽曲だと思います。途中、追加フレット(註:本作のメイン・ギターの1本であるジャクソン・カスタム・ショップ製“Rhoads”に取り付けられた自作フレットのことで、33fまで発音が可能)を弾くところはとにかく指を立てて綺麗に発音することを大事にしたり、裏拍から入るところはアップ・ピッキングでスタートしたりと、綺麗に弾くために色々と工夫しています。

「春」で一番印象的なのは、やっぱり最初のテーマの後に出てくる、小鳥のさえずりを表現した部分ですね。あそこはただ綺麗に弾くだけじゃなくて、ピッキングのアタック感を調整することによって「チュンチュン」とさえずりに聴こえるように狙って弾きました。ここだけに限らず、今回は単純に音程やフレーズを再現するだけじゃなくて、「どういう音で鳴らすか」というところをかなり意識して取り組んでいますね。本来はヴァイオリンが弾いている途中のソロでは、ハイ・ポジションを駆け上がっていくところでほんの少しテンポに緩急をつけていて、注意して聴かないと分からない程度にリズムを揺らしています。その勢いと高音域での上昇感がすごく気持ちよくて、自分としては大きな見せ場だと思いますね。

「冬」もすごく有名なので皆さんも一度は聴いたことがあると思います。一番印象的なパートの後に出てくる1弦のみを使った上昇フレーズがあるのですが、これがギターでは滅多に出てこないパターンで、脳トレ的にも楽しく弾けるフレーズになっています。ぜひトライしてみてください。

YG:続いてベートーヴェンのピアノ・ソナタから選曲された、第8番「悲愴」、第14番「月光」、第23番「熱情」の3曲について。

Ryoji:ベートーヴェンのピアノ・ソナタはどの曲もメロディの展開が多くて、記憶とコントロールの面で苦労しました。「悲愴」は特にその傾向が強く、フレーズ自体はシンプルでも、構造的に把握できていないと弾けないタイプの難しさがあります。いまだに一番苦戦する曲ですね。あとこの曲については、メインのリード・パートはもちろんなのですが、実はバッキング・ギターが結構気に入っています。

「月光」はスウィープでよく出てくるトライアドの3つのアルペジオ・パターンを連続して弾くことが多いので、そのパターンをひとつの塊として捉えて弾くと上手くプレイできます。実は原曲のアルペジオからは少し変えていて、ギターで弾きやすい形に調整していたりします。

「熱情」も同じようなパターンの繰り返しなのに、違うフレーズが結構出てくるので記憶力勝負なところがありますね。上昇するときはメロディック・マイナー、下降の時はハーモニック・マイナーになるところなんかは、普段のスケール練習が活きてくるところで個人的に気に入っているポイントです。最後のメロディは、初期のチルドレン・オブ・ボドムっぽさがあって好きなんですよ。

YG:7曲目はリスト「愛の夢」です。

Ryoji:テクニックそのものよりも表現力が重要で、ヴォリューム・コントロールやピッキングのニュアンスで、どこまでダイナミクスを出せるかがポイントでした。若い頃はサウンド的に歪み一辺倒なジャンルばかりプレイしてきましたが、そんな僕にとって、自分のギター・プレイの新たな可能性に気づけた曲でもあるので、その辺りも聴き取ってもらいたいです。ちなみにこの曲で一番高音のFは、ギターで言うと1弦25fの音にあたるんですが、この曲のレコーディングで使ったストラトキャスターは21fまでしかないので、苦肉の策でしたが、ネック・ピックアップのポールピースに弦を押し当て、無理矢理押弦してF音を出しています。

YG:続いてはパガニーニの「カプリース」第24番。

Ryoji:どのセクションをとっても非常にチャレンジングです。特に1弦から6弦に飛ぶスキッピングの部分は難しいですね。後半に出てくるスキッピングもポール・ギルバートのフレーズみたいで、いいエクササイズにもなります。丸々1曲をコピーしなくても、トレーニングだと思ってセクションごとに切り取って楽しんでもらうのもありだと思いますよ。

YG:9曲目のショパン「革命のエチュード」。

Ryoji:2度の響きが入っているマイナー・アルペジオがあるんですが、ここが普通のギター・フレーズだとあまり出てくることがない感じなんです。すごく良い響きで、いわゆるトライアドだけのスウィープから脱却したい人なんかにオススメしたいですね。クロマティックのフレーズも結構難しくて、ピアノ曲ならではだと感じます。毎年この曲のせいで左手が腱鞘炎に…(苦笑)。

YG:最後はモーツァルト「トルコ行進曲」。

Ryoji:冒頭の有名なセクションは、ピックでしっかりと歯切れよく弾くことを意識しています。中盤の16分のリズムで弾き切るところは、オルタネイトのフル・ピッキングの練習にはもってこいですね。ハイ・ポジションで弾くのがきつい場合は、1オクターヴ下げたポジションで弾いてもいいと思います。実はアルバムの音源でも、1オクターヴ下げた音を重ねているんです。

YG:各曲へのコメント、ありがとうございました。アルバム全般についてですが、クラシックの曲を演奏する場合とメタル・ソングを弾く場合とでは、ピッキングのアタック感や音作りを意図的に変えたりしていますか?

Ryoji:正直あまり深く考えて弾き方や音作りを分けている感覚はなくて、基本的には「自分が気持ちいいと思う音を探す」ということに尽きると思っています。ただ、RYUJINではどうしてもギター・ヴォーカルとして演奏することが多いので、歌いながら弾く分、ギターだけに100%集中することができない場面が多い。その点で、今回のように細かいタッチやニュアンスの部分まで完璧に意識を向けて集中できる状況というのは、僕にとってかなり得難い経験で、普段よりも繊細な部分まで踏み込んで音を作ることができました。と言いつつ、根本的な考え方としてはクラシックもメタルも同じで、「これが正しい音かどうか」よりも、さっき述べたように「自分が気持ちいいと思えるかどうか」に尽きます。

クラシックもメタルも複雑な音楽だという印象を持たれることがあると思いますが、突き詰めれば「リズムに合っているか」「音程が合っているか」「音の長さが合っているか」という、これら3つの条件をクリアできれば成立するものだと考えているんですね。それらが成り立った上で、例えばどれだけアタックを強くするかとか、そういうニュアンス的な部分は全部「僕がどう感じるか」によって決めているわけです。今回のアルバムに関しても、「クラシックだからこう弾くべき」というよりは「僕が気持ちいいと思える音」、そして「メタルとして成立する音を探しながら弾いた」という感覚が一番近いと思います。

YG:「カプリース」終盤のスウィープ・アルペジオにタッピングを絡めたフレーズなど、派手なギター・テクニックもアルバムには度々登場します。こういったテクニック的な見せ場は、狙っていれたものですか? それとも、曲を忠実に再現するのに最適なテクニックをパートごとに選択したまでなのでしょうか?

Ryoji:まずアレンジに際してはスコアを見ながら、どこまでギターで再現できるのか考えながら作っていきました。ヴァイオリンなど、なるべくすべてを忠実にギターで再現する。その上で、どうしてもそのままでは弾けない部分に関しては、ギター演奏に合うようアレンジし直しているところもありますね。タッピングのパートに関しても、「見せるためにやった」という意識はあまりなくて、「それを使わないと出せないから採用した」という感覚に近いです。それと今回の曲の多くは、元々ヴァイオリンのようなフレットレスの楽器で演奏されているので、その滑らかさをどう再現するかというのはかなり意識していました。そのためにレガートを多めに使ったりして、なるべく音が途切れないような表現を心がけています。また演奏面での工夫としては、ピッキングする位置もかなり意識していて、ネック寄りで弾くことが多かったですね。そういうピッキング位置の違いによる音の変化を、その場で感じながら演奏するのも楽しんだポイントのひとつです。

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(後編に続く:近日公開)

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Ryoji Shinomoto『Dragonbird Symphony』ジャケット画像

Dragonbird Symphony – Prologue / Ryoji Shinomoto

2026年3月25日発売 | Ryoji Shinomoto | CD、配信

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収録曲

1. Vivaldi: Violin Concerto in G Minor, RV 315, Summer, III. Presto
2. Vivaldi: Violin Concerto in E Major, RV 269, Spring, I. Allegro
3. Vivaldi: Violin Concerto in F Minor, RV 297, Winter, I. Allegro non molto
4. Beethoven: Piano Sonata No. 8 in C Minor, Op. 13, Pathétique, III. Rondo
5. Beethoven: Piano Sonata No. 14 in C-Sharp Minor, Op. 27 No. 2, Moonlight, III. Presto agitato
6. Beethoven: Piano Sonata No. 23 in F Minor, Op. 57, Appassionata, III. Allegro ma non troppo
7. Liszt: Liebestraum No. 3 in A-Flat Major, S. 541/3
8. Paganini: Caprice No. 24 in A Minor, Op. 1
9. Chopin: Étude in C Minor, Op. 10 No. 12, Revolutionary
10. Mozart: Piano Sonata No. 11 in A Major, K. 331, Rondo alla Turca

Ryoji公式ギター・スコア

『Dragonbird Symphony – Prologue』収録曲をRyoji自身が制作した公式ギター・スコア集も発売されている。インタビュー中で本人が紹介してくれたフレーズに挑戦してみたい人は、ぜひともチェックを!

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【楽譜】Dragonbird Symphony Prologue Official Guitar Score Collection

Ryoji使用ピック:OHM Picks

現在、Ryojiが使用しているピックはフィンランドのメーカー:OHM Picks(オーム・ピックス)のチタン製で、本作のレコーディングで大いに活躍したという。

「OHM Picksのチタン製ピック──これが僕にはすごく合っていて、プレイの“ニュアンス”という点でその影響はかなり大きいですね。僕の場合、プラスティックのピックだとだいたい3曲くらい弾くと違和感が出てきてしまうんですけど、このチタン製ピックはほぼ摩耗しないので、ずっと同じ感覚で弾き続けられるんです。それと、このピックはアタック音がすごくはっきり出るので、音のニュアンスをコントロールしやすいんですよ。興味がある方はぜひ試してみてください」

OHM Picks × RYUJIN チタニウムピック
OHM Picks × RYUJIN チタニウムピック | RYOJI SHINOMOTO

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