メイ・シモネス「自分の本能を信じて、やりたいことをやってほしい」『ANIMARU』インタビュー

メイ・シモネス「自分の本能を信じて、やりたいことをやってほしい」『ANIMARU』インタビュー

メイ(芽衣)・シモネスはアメリカ人の父親と日本人の母親を持ち、ギターをこよなく愛するシンガーソングライターだ。2024年にはEP『kabutomushi』を、今年5月にはデビュー・アルバムとなる『ANIMARU』を発表。後者は“ANIMAL”をあえて日本語のローマ字読みで記すなど、和風テイストを程よく取り込んだ独自の世界観は、ジャズ、ボサ・ノヴァ、インディー・ポップ、ロックなどをシームレスに行き来する音楽性にも反映されている上、繊細かつ芯のある巧みなギター・プレイでも楽しませてくれる。去る7月末にはフジロックフェスティバルにてその魅力溢れるパフォーマンスを披露して観客を引き付け、大きな話題をさらったことも記憶に新しい。

母国やヨーロッパなどではすでに大規模ツアーを経験しているメイが、自身のバンドを率いて来年(2026年)1月23日より、単独日本ツアーを行なう。直前にはやはり国内でカナダのインディー・ポップ・トリオ:メン・アイ・トラストのサポート・アクトとして3公演行なった後、沖縄も含めた6公演が予定されており、東京公演はすでにソールドアウトとなるなど、日本にも確実に波が訪れていることが感じられる。10月22日には最新EP『Kurayami/Get used to it』もデジタル・リリース。ミシガンで育った頃の思い出などを歌った「Kurayami」には激しさやアグレッシヴさも覗かせ、ギター、アップライト・ベース、ドラムの3ピースによるスロー・スウィングが心地よい「Get used to it」の2曲を収録し、より表現力を増した“メイ・シモネス”ならではの世界観に包み込んでくれる。ここでは、今夏来日時に行なわれた、彼女の魅力とバックグラウンドに迫るインタビューを掲載しよう。

自分の曲をリリースするようになってから、人前で歌い始めた

YG:まずはギターを始めたきっかけや、影響を受けたミュージシャンを教えていただけますか?

MS:きっかけは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)を観て。メイン・キャラクターがチャック・ベリーの曲を弾いているシーンがありますよね。それがすごくかっこいいと思って、ギターを弾きたくなったんです。最初はロック…レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイドやザ・ビートルズを学んで、中学校の間はそこからもうちょっとグランジっぽいもの…ニルヴァーナとかスマッシング・パンプキンズとかが好きになって。高校に入ったらジャズを勉強するようになって、そこからバークリー音楽大学に行って、もうちょっとジャズに集中したんです。

YG:ジャズでは、セロニアス・モンク(ピアニスト)などがお好きだそうですね。

MS:はい。一番最初はチャーリー・パーカーとかをよく聴いていました。ジョン・コルトレーンもすごく好きですし、バド・パウエル、ビル・エヴァンス、ジム・ホール…そんな感じかな。あと、ウェス・モンゴメリー、ジョー・パスも好きです。

YG:ご家庭でも音楽はよく流れていましたか?

MS:はい。父が結構いろいろな音楽を聴いていて。ロック、クラシック、ジャズなど全部、ラジオでかかっていました。

YG:ご両親もギターを弾かれるんですか?

MS:私だけです。父はユーフォニアムという管楽器を吹いていて、母はちょっとだけピアノを弾ける感じです。

YG:ギタリストになりたいという思いは、高校でギターに出会って、さらに進学する中で高まっていったと…。

MS:はい。

YG:大学ではどんなことを学ばれましたか?

MS:バークリーには“Core Music”という全員が受ける授業があって、そこで聴音、和声、トーナル・ハーモニー、カウンターポイント…といった、基礎とその応用といった授業を受けました。それ以外にはアンサンブル(注:バンドで受講するクラス)。ジャズ用とか、ギター・ラブ(Guitar Lab/特定のスタイルやアーティストに特化した奏法を学ぶクラス)などで面白いのがあったら色々受講していましたね。カート・ローゼンウィンケルのラブとか、ウェス・モンゴメリーのラブとか。あと、プライヴェート・レッスン。それに“Advanced Guitar Technique”(上級テクニックのコース)などです。ちょっとだけビジネスのコースも取りました。専攻したのは他のいろいろな専攻の授業を混ぜて取れるPro Musicで、私はほとんどパフォーマンスの授業で単位を取りました。

YG:今のバンド・メンバーは学内で出会われたのですか?

MS:はい、みんなバークリー出身です。

YG:曲作りも勉強されたのですか?

MS:たしかにバークリーは作曲の授業に強いと思うけど、私はギターしか勉強しなかったです。

YG:作曲面で憧れていたアーティストなどは?

MS:カート・コバーンとかですね。

YG:意外でしたが、なるほど(笑)。歌詞は、英語の詞もありますが、日本語を使って作られるところにもこだわりが? 「kabutomushi」(2024年『kabutomushi』収録)に出てくる「国語の教科書」といった、日本人リスナーにとっても具体的に情景が浮かんでくるものが多いですね。

MS:(笑)そうです。小さい頃は1年に1回ぐらい日本に遊びに来て、夏休みの間に日本の学校に通ったりしていたので、その思い出を振り返りながら歌詞を作りました。

YG:シンガーとしても、ご自身で歌いたいという気持ちがあったのですか?

MS:最初は本当にギターに集中していて、歌を練習したことはなかったんですけど、大学に入って自分の曲をリリースするようになってから、人前で歌い始めたんです。それまではギタリストとして生きていきたいとギターばっかり弾いてたんだけど、大学では周りの友達もみんな作曲してるし、歌ってるし…。2年生の時ぐらいに「自分もやってみようかな」と、歌い始めたんです。

YG:曲を書き始めたのも大学から?

MS:一応中学校の時も作曲してたけれど、あの頃はあまり良くできなくて(笑)。大学に入ってからは本当に自分が好きな曲を作れるようになりました。

YG:フジロックの公演を拝見して、涼しさも感じられる穏やかな歌声と楽曲の世界観が非常によくマッチしていると思いました。

MS:ありがとうございます。

YG:Instagramに普段からアップされている動画に、コード進行を口ずさみながらギターを弾いているシーンがいくつかあったのも印象的でした。

MS:教授によく「歌いながらインプロヴァイズすると、フレージングがよくなる」って言われたので。ギターだけ弾いていると呼吸するのを忘れちゃってフレーズが凄く長くなることがあるから、歌いながら弾くともっとまとまる、と。それが作曲にも使えるかなと思って。

YG:また、ギター・ソロなどの際はハイブリッド・ピッキング…指弾きとピック弾きの切り替えも巧みでしたね。

MS:これは他の人から学んだとかではなく、自分がやりやすい感じでピッキングしているんです。ピックを使わない時はちょっと指の間に挟んで、ピックを使う時はまた出してきて。自然にそういう風に弾くようになりました。

YG:「このフレーズはこっちで弾きたいな」と思った方に切り替える感じですか?

MS:そうですね。

YG:バンドの編成は、ヴァイオリンとヴィオラ、ベース、ギター、ドラムですが、各パートのフレーズもメイさんが考えられるのですか?

MS:私はギターと歌という曲のコアを作って、それをバンドに見せるとみんなが「ヴァイオリンはこうしてみよう」「ドラムをこうしてみよう」とみんなで考えて作ってます。

メイ・シモネス

本当にギターが大好きで、自分のギターについて書きたいなと思って…

YG:今年5月にニュー・アルバム『ANIMARU』が発売されました。アルバムのコンセプトを教えていただけますか?

MS:特に前もって考えてませんでした。曲を1つ1つ書いて、10曲書き終わったら「それをアルバムにしよう」っていう感じで…(笑)。だけど完成した後、振り返って曲を聴いてみたら、コンセプトが出てきたって言うか。それは“animaru”っていうタイトルと関係あるんだけど、自分のもの本能を信頼して自分がやりたいこと…「I Can Do Whatever I Want」っていう曲のタイトルにもあるように、自分のやりたいことをやれるようになったから、他の人にもそういう風にやりたいことをできるようになってほしいなって思って、それがメイン・テーマになっていきました。

YG:7月のフジロックのセットは、前半が『kabutomushi』、後半が『ANIMARU』からの選曲でした。やはり新作からの楽曲がよりパワフルに感じたのですが、ご自身でも進化を感じられますか?

MS:はい、そうですね。自分の作曲スタイルが発展してきたというか、ちゃんと固まってきたかな、と思います。

YG:『ANIMARU』収録曲を1曲ずつ、制作背景などについて教えてください。

MS:「Dumb Feeling」はN.Y.について書いた曲です。場所だけじゃなくて、N.Y.に住む友達やその家族のこと、あとは音楽やギターに対しての愛を込めた曲。結構ハッピーな感じの曲です。「Dangomushi」は、新しい友達ができた時の気持ちを込めた曲です。「Tora Moyo」は、私のギターの為に書いた曲(笑)。

YG:“虎模様”というのは、ひょっとしてトップ材の木目のことですか?

MS:そう、本当は虎模様じゃないんだけど(おそらくフレイム・メイプル)、しましまなので「Tora Moyo」(笑)。本当にギターが大好きで、自分のギターについて書きたいなと思って。「I Can Do What I Want」は曲名通りで、「私は自分のやりたいことができるし、みんなもやりたいことをやった方がいい」っていう思いを入れた曲です。「Animaru」はさっき言ったように、自分の本能を信頼してもうちょっと“アニマル的”…動物的に生きられたらいいかなっていう思いを入れた曲(笑)。

YG:力強いロック的な曲調もあり、ライヴでもサビの“animaru”の部分を観客が一緒に歌って盛り上がっていましたね。

MS:そう! それから「Donguri」は、自分が森に住んでる小さな動物だったらどういう気持ちなのかなって考えて書いた曲です。「Norwegian Shag」は、バークリーで過ごした時の思い出の曲。大学の友達とか、寮に住んでいた時のこととか…。「Rat With Wings」は他の曲と比べるとちょっとネガティヴな感じになっちゃうけれど…最初はすごく素敵で優しそうに見えた人が、本当はそんなに素敵でも優しくもなかったことに気づいた…そういう経験をした時に書いた歌です(笑)。

YG:最後に曲調が強めになってくるところが、ストーリーを表しているようですね。ここはギター的にも、ハーモニクスが連続するフレーズが素敵でした。

MS:ありがとうございます。

YG:「Zarigani」はいかがですか?

MS:小さい頃、双子の妹と一緒にミシガンの実家で過ごした思い出が入っています。家の裏にあった森に入って小さな川でザリガニを捕ったりしたんです。「Sasayaku Sakebu」は音楽に対しての思いを込めた曲。音楽があれば、他には何も要らないっていう曲です。

YG:「Itsumo」はCD盤の日本盤ボーナス・トラックですね。

MS:これは…何かな…(笑)。あまり考えたことがないわ。「一人でいても大丈夫になれるように」という曲だったかな。