春畑道哉、アコ編成のソロ・ツアー完遂! 2023.2.27@ビルボードライブ東京 最終公演レポート

春畑道哉、アコ編成のソロ・ツアー完遂! 2023.2.27@ビルボードライブ東京 最終公演レポート

リズム・セクションを加えず、アコースティック楽器とエレクトリック・ギターのみの編成で自身の楽曲をオーガニックにアレンジした演目が好評を博した、ギタリスト:春畑道哉のソロ・ツアー。昨年(2022年)の初開催に続き、第2弾となる“MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND at Billboard Live 2023 SPRING HAS COME season2”が、去る2月に行なわれた。1日2回公演で横浜、大阪、東京の3都市にあるビルボードライブの各会場で繰り広げられたショウの中から、最終日であり最終公演にあたる東京の会場における、2ndステージの模様を振り返ってみたい。

ステージ中央の春畑を両脇から支えるのは、下手にピアノの宮崎裕介、そして上手に日替わりでチェロの水野由紀またはアコースティック・ギターの遠山哲朗だ(この日は遠山が出演)。昨年に続くラインナップだが、セットリストは前回とかぶらないように選ばれていた。つまり今回披露された楽曲のアレンジは、本ツアーのために新たに施されたということになる。

春畑 アコ

開演早々、春畑はスツールに腰掛け、ステージに置かれたアコースティック・ギターを手に取る。遠山と顔を見合わせながら始まった1曲目は、「God bless you!」(2013年『JAGUAR ’13』収録)。ゴージャスなサウンドのアップ・テンポな楽曲が親密でしっとりしたアコースティック・ナンバーに衣替えし、ラテンなピアノと2本のアコの掛け合いで情熱的に展開されていった。ストラトキャスターに持ち替えてからの2曲目「Mermaid’s Kiss」(1990年『GUITAR LAND』収録)は打ち込みが特色だったところを、エレクトリック・ギターのメロディーはそのままに、リズムが丸ごとサルサに差し替わっていた上、ぴったりフィットしているのに驚いた。クラーベのリズムに合わせて観客も手拍子、遠山のソロも絶妙だ。春畑の終盤ソロは足踏みもしながらのエネルギッシュなパフォーマンスで、音量も上がったように感じられるほど。ちなみに今回のメイン・ギターは、昨年市販モデルも発表された“Michiya Haruhata Stratocaster Heavy Relic, Masterbuilt by Jason Smith”。レリック加工の古びた風合いが印象的なこのモデルから放たれるサウンドは、とても伸びやかで耳に心地よい。続く「Solid Sky」(『GUITAR LAND』収録)ではボサ・ノヴァ、「Midnight Snow」(2019年『Continue』収録)ではジャズ風に…耳馴染んだ楽曲のどれもが装いを様々に変えていった。

春畑 メイン・ストラト

宮崎裕介
宮崎裕介

遠山哲朗
遠山哲朗

「Sad Song I know you’re leavin’ me」(1995年『Color of Life』収録)での強烈にエモーショナルな弾きまくりを堪能した後は、ちょっと遅くなった(?)乾杯をしつつ春畑がピアノに移動。披露されたのはソロ・ピアノ曲「Mystic Topaz」だ。演奏中に飲食を楽しめるスタイルのビルボードライブでは、本ツアーにちなんだ特別ドリンクメニューもお楽しみの1つ。今回は同曲を名前にしたカクテルが用意され、人気を集めていた。ギター・ワールドの合間の息抜きのように、ドラマティックな鍵盤のフレーズが響いた。

春畑 グランドピアノ

“本業”に戻ると今度は春畑、メイン・ギターの横で出番を待っていた白系フィニッシュのストラトを構える。こちらはゴールド・パーツとのコントラストが美しい“Michiya Haruhata Stratocaster 2002”だ。演目はもちろん、同モデルを手掛けたフェンダー・カスタムショップのマスター・ビルダーで今は亡きジョン・イングリッシュを偲んだ「John English」。最新作『SPRING HAS COME』(2022年)に収録されている原曲は、DJとの共作によるモダンなシーケンス・サウンドが特徴ながら、これまたアコースティックな趣にチェンジ。初めてジョンが手掛けてくれたというこちらのストラトは、長年弾き込まれてきた楽器ならではの魅力というか、高域のまろやかさとツヤが絶品でたまらない。

春畑 トーク ジョン・イングリッシュ ストラト

続いては、最近改めて良さを認識しているというガット・ギターが登場。老舗メーカーのホセ・ラミレス製とのことで、遠山を交えてしばし楽しそうに語ってくれたのだが、ここで演奏されたのはバラードではなく、プロレス・イベントにも提供されたパワフルな「Kingdom of the Heavens」というのがなんともチャレンジング! 遠山が情熱的なギターのカッティングで曲にエンジンをかけると、宮崎のピアノがアヴァンギャルドな響きのコードで応戦。その上でナイロン弦のクラシカルな音色による春畑のメロディーが融合する様子は、ちょっとした現代音楽のようで斬新だ。

ガット・ギター
春畑 ガット・ギター演奏

キメがクールな「EXPERIENCE #9」はエレクトリックに戻ってエネルギッシュなプレイ。少人数編成ならではの間を生かしたグルーヴを聴かせながら熱いソロの応酬でテンションを高めていき、「FANTASIA 〜LIFE WITH FOOTALL〜」へ。フジテレビ系のサッカー中継テーマ曲として作られたこの曲を今聴けば、昨年秋の日本が大健闘したワールドカップの日々が思い出される人も少なくないだろう。作り手である春畑自身も選手たちを応援する中、番組内でこの曲が流れて嬉しかったことを明かす。どこまでも高揚感を高め、元気を与えてくれるそのメロディーを生で聴ける。そんなこの上ない贅沢と感動に包まれながら本編が終了、3人が一旦退場した。

こうした数々のアレンジは、リハーサル時に宮崎を中心としたメンバー全員のやり取りを通じて発展していくそうで、MCの中でも「自分の曲が変わっていくのが楽しい」と春畑。原曲が1つの大きな完成形であることは間違いないし、ライヴ時に多少ひねりを加えることは珍しくないが、ここまで大胆なシフト・チェンジをOKしてしまう春畑の柔軟さ、いかに変貌を遂げても原曲の芯を保ち、新たな完成形といえるヴァージョンを作り出していることは本当に興味深かかった。センスあふれるメンバーの手腕はもちろんだが、何より春畑の生み出すメロディーや曲の根幹にあたる要素がきわめて良質だからこそ、どんな形になっても美しい仕上がりになるのかもしれない、と自然と思わされた。

アンコールでは春畑より「“season 3”でまたお会いしましょうね」との嬉しいお知らせが。これで本シリーズのさらなる継続がほのめかされ、新たに拍手が沸き起こった。軽快な「Spring has come」に続いて問答無用のアンセム「J’S THEME(Jのテーマ)」はソロ・ギターのような春畑一人のプレイから幕を開け、エレクトリックに持ち替えてクライマックスを構築。止まらない拍手を受けてのダブル・アンコールも決まり、36年前にリリースされたデビュー作『DRIVIN’』のタイトル・トラックをもって終演となった。満ち足りた気持ちで会場を後にしながら、早くも次の“ハル”を待ちきれない…そんな一夜だった。

春畑 オーディエンス

MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND at Billboard Live 2023 SPRING HAS COME season2 2023.2.27 2nd Stage セットリスト

1. God bless you!
2. Mermaid’s Kiss
3. Solid Sky
4. Midnight Snow
5. Sad Song I know you’re leavin’ me
6. Mystic Topaz
7. John English
8. Kingdom of the Heavens
9. EXPERIENCE #9
10. FANTASIA〜LIFE WITH FOOTBALL〜
[encore]
11. Spring has come
12. J’S THEME(Jのテーマ)
13. DRIVIN’