2022年でソロ・デビュー35年目を迎えたTUBEのギタリスト:春畑道哉が、4月27日に最新ソロ・アルバム『SPRING HAS COME』をリリースする。これに先駆け、通常とは趣向を変えた特別な形式のツアー“LIVE AROUND 2022 SPRING HAS COME”が、去る2月に開催された。ここでは2月26日・27日の2日間にわたり、ビルボードライブ東京にて行なわれた公演の模様をレポートしよう。
なお、ツアー最終日にあたる後者の模様は、先述の『SPRING HAS COME』初回限定盤に付属する特典映像DVDに収録される。そのトレーラー動画も公開されているので、チェックを!
DAY 1:ギター+ピアノ+チェロで表情を変えた人気曲
今回のライヴで最も特徴的なのはメンバーのラインナップだ。26日(土)のセットはメインを張るギターの春畑のほか、ピアノ&キーボードを務める宮崎裕介、そしてチェロで低音パートを担当する水野由紀という3名のみ。ドラム&ベースによる通常のリズム隊を入れない想定で楽曲がアレンジされているという、一味違った趣向だ。一体どんな様子になるのか期待を膨らませる中、まず会場にメンバーが登場、続いて春畑が姿を現した。オーディエンスは声援の代わりに拍手を送ったり、手を振ったりして交流を楽しむ。
宮崎によるピアノのアルペジオに誘われて始まった1曲目は、1992年『Moon』収録の「Mother Ship」。ギターの主旋律に続いて水野のチェロが深みのある音色でメロディーを奏でる、見事なアレンジだ。続く「Next Season」もゆったりと聴かせつつ、春畑のギター・ソロ・パートではクラシカルな速弾きも飛び出す。この編成でも実に相性が良さそうだ。
一段落ついたところで春畑は、この日からちょうど35年前の2月26日、1stソロ・アルバム『DRIVIN’』がリリースされたことを振り返り、「同じ時間を皆さんと過ごすことができて嬉しいです」とコメント。そのキャリアを辿るように、様々な時代の曲が次々と披露されていった。
「青いコンバーチブル」は、客席の手拍子も加わってグルーヴィに展開。原曲ではギターが表情豊かにフレーズを弾いているのが聴きどころだが、ここでは時折ピアノやチェロにも主旋律が任され、より広がりのあるサウンドに仕上がっていた。その合間にロング・トーンで歌わせる春畑のギターの熱量が、また凄まじい。歪みがしっかり効いたサウンドなのに、あくまで全体の美しさを損なわない絶妙なバランスに保たれているのだ。以降も、チェロやピアノの刻みバッキングが印象的な「Last Scene」や、春畑がピアノに向かう「Timeless」などが披露されたが、リズム楽器がない分、メロディーや音色、構成といった1つ1つの要素がより際立っている。笑顔でアイ・コンタクトを交わす3人の雰囲気も温かく、思わずドリンクを持つ手を止めて、ステージに目が釘付けになってしまうほどの魅力を放っていた。
中盤では、4月末にリリースされる春畑の最新ソロ・アルバム『SPRING HAS COME』より、2曲がプレイされた。1つ目はWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)の公式アンセム「WE PROMISE」で、春畑節の利いた応援歌的な楽曲は実に力強い。2つ目はバラード「Period.」で、1つのメロディーがギター~チェロ~ピアノの順に受け継がれていく様は、実に自然で美しい流れだ。
さらに次はヘヴィ寄りの楽曲にも大胆にチャレンジ。「SAMURAI Stranger」はその1つで、ギターがガツンとリズムを刻む中、ピアノとチェロが手に汗を握るようなアヴァンギャルドなフレーズの掛け合いを繰り広げる。続けて宮崎がジャジーなインプロに興じる間、春畑がギターをアコースティックに持ち替えると様子が一転、ラテン・スタイルの「Wave Rush」に突入。「そんな所にも行けるんだ!」という、ジャンル不問の極上プレイが嬉しい驚きだ。「JAGUAR」ではアコースティック楽器に囲まれながらも、タッピングといったフラッシーな技でしっかり魅せる春畑’sアティテュードは通常時同様。まるで背後にバンドが見えるようなグルーヴ感と気迫に満ちていた。
ギターのハーフ・トーンが美しい「Color of Life」でしっとりと本編を締めくくり、間をおいてアンコール。パッヘルベルの「カノン」からクラシカルにスタートしつつ、次第にソロ・デビュー作のタイトル曲「DRIVIN’」のメイン・テーマへ! チェロの水野も椅子から立ち上がり、ロック・コンサートさながらの演奏スタイルでギターのサウンドに応える。ソロの途中で春畑がピアノに近づき、ロックンロールなピアノ・ソロに興じるシーンもあり…最後まで見どころ聴きどころ満載で、あっという間に終演を迎えてしまった。
(レポート●蔵重友紀)
春畑道哉 “LIVE AROUND 2022 SPRING HAS COME”@ビルボードライブ東京 2022.2.26 セットリスト
1. Mother Ship
2. Next Season
3. 青いコンバーチブル
4. Last Scene
5. Timeless
6. Everlasting Place
7. WE PROMISE
8. Period.
9. SAMURAI Stranger
10. Wave Rush
11. JAGUAR
12. Color of Life
(アンコール)
13. DRIVIN’
DAY 2:エレクトリック+アコースティック+ピアノを軸に、最終日ならではの4人編成で聴かせた極上の音色
27日は編成を変え、メインの春畑、ピアノ&キーボードの宮崎裕介に、アコースティック・ギターを務める遠山哲朗を加えた形。さらにこの日の2ndセットは最終公演ということもあり、他の日にはなかった特別な趣向も実現している。そちらは後述させていただくとして…、まずスタートしたのは前日と同様、美しいピアノのアルペジオから導かれる「Mother Ship」だ。アコースティック・ギターのコード・ストロークがリズムも司っているおかげか、ドラムレスの形ながら緩やかなビートも感じられるのが面白く、前日も観戦した方なら違いを如実に感じられてなお美味しかっただろう。両パートに支えられながらゆったりした旋律を奏でる春畑のギターの心地よさに関しては、もはや言わずもがな。一般的なバンド編成よりも音圧が抑えられている分、左手と右手を駆使するアーティキュレーションが細部まで聴き取れて、まさに耳福の極みだ。
続く「青いコンバーチブル」でも、パーカッション不在だと再現しにくそうなシンコペーション満載のグルーヴをいとも簡単に、それでいてスタジオ盤と異なる生々しいニュアンスで表現する3人。トップ・ミュージシャンたちのリズム感の凄まじさを見せつけれたようで、思わずぞくっとしたのは筆者だけではないはず。
穏やかな人柄が見えるMCで会場をほっこりさせた後、春畑がお馴染みの赤い“Michiya Haruhata Stratocaster”から、レリック処理が凝らされたリヴァース・ヘッド&2トーン・サンバーストのストラトにチェンジ。ここから数曲は、前日に見られなかった楽曲が続く。その先駆けとなったのはまず「Symphony Blue」で、会場の隅々まで行き渡るような美しいハーモニクスが実に鮮烈だ。続く「Ripple」はもともとアジア的なエキゾティック風味を効かせたナンバーのはずだが、コブシやスウィング感を抑えたシンプルなアレンジにすることで、全く異なる曲に変化しているのが興味深い。「Wild Hearts」も原曲よりビート感が抑えられることで、自然とクラシック音楽に通じるおおらかなリズムが生まれ、やはり新しい曲であるかのごとき変貌ぶりを見せる。聴き慣れているはずの曲に新しい魅力が付与される、この瞬間こそがライヴの醍醐味だ。
春畑がナイロン弦アコースティックへ持ち替え、宮崎のピアノのみをバックに奏で始めたのは「Dear」。これはスタジオ・ヴァージョンで聴けるのとほぼ同じ編成ではあるが、会場自体の鳴りの良さが生むマジックか、まるで聴き手を四方から包み込むかのようだ。耳にはピッキングの圧まで感じられ、まるですぐ隣の席で春畑が爪弾いているようにも感じられる。
続いてステージに春畑が1人になり、披露されたのは4月末リリースの新作『SPRING HAS COME』に収録される予定のピアノ曲「ノスタルジア」。童謡的な旋律が郷愁を誘ったかと思えば、中間部にはコミカルに走り回るようなパートもあり、その二面性が実に面白い(春畑いわく「生まれ育った町田での記憶を頼りにエピソードをつなぎ合わせながら作った曲」とのこと)。さらに「WE PROMISE」「Period.」と、新作収録ナンバーが前日同様に続き、アルバムの内容への期待を大いに高めてくれる。今初めて聴いた曲なのに、そして歌詞がないのについつい口ずさみたくなるという、その旋律作りの妙はいずれの曲でも不変だ。
長めのブレイクを置いて、セットリストは終盤へと突入。先述した通り、ここで最終日ならではの特別な趣向が実現する。別日程でチェロを務めていた村岡苑子が合流し、他の日には観られなかった4人編成がステージに揃ったのだ。スペシャルなサプライズに会場中から大拍手が送られ、熱気が最高潮に高まった中、始まったのは「Wave Rush」。原曲はTUBE味あふれるラテン風ロックだが、春畑のアコースティックによる鋭いリード、遠山のパーカッシヴなリズム、村岡の優雅なチェロ、宮崎のリズミカルなピアノが絡み合うことで、まるでジャンゴ・ラインハルトかジプシー・キングスか…のごとき様変わりぶり。さらに必殺の「JAGUAR」も炸裂し、アコースティック楽器陣の中心で春畑がハードに歪んだメタリックなストラト・サウンドで縦横無尽に弾きまくるという、不思議な世界も展開される。そして最後は雄大な「Color of Life」で締め括り、喝采の中で本編が締めくくられた。
アンコールを求める長い拍手に導かれ、春畑を先頭に再び4人がステージへ登場。前日同様パッヘルベルの「カノン」をイントロとして披露されたのは、35年前のソロ・デビュー作1曲目の「DRIVIN’」だ。さらにこの日はダブル・アンコールとして、本編では3人で演奏された「WE PROMISE」が、4人編成で再演されるという大盤振る舞いも。観客の手拍子があたかもパーカッションを担当するかのごとくリズムを刻み、素晴らしい一体感の中、ショウは惜しまれながら幕を閉じたのだった。
(レポート●坂東健太)
春畑道哉 “LIVE AROUND 2022 SPRING HAS COME”@ビルボードライブ東京 2022.2.27 セットリスト
1. Mother Ship
2. 青いコンバーチブル
3. Symphony Blue
4. Ripple
5. Wild Hearts
6. Dear
7. ノスタルジア
8. WE PROMISE
9. Period.
10. Wave Rush
11. JAGUAR
12. Color of Life
(アンコール1)
13. DRIVIN’
(アンコール2)
14. WE PROMISE