苦楽/人間椅子:禍を転じて福となした、濃密な22作目

苦楽/人間椅子:禍を転じて福となした、濃密な22作目
アーティスト名人間椅子
人間椅子
アルバム名 苦楽
苦楽

CD | 徳間ジャパン | 2021年8月4日発売

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今やブラック・サバス流派の世界的成功例の1つと目される和装のハード・ロック・トリオによる22作目。“明けない闇夜はない 覚めない悪夢はない”と歌われる和嶋慎治(g, vo)の終幕大曲「夜明け前」がまたしても凄まじい。三位一体で強弱を付けた立体的な演奏表現に気を配りつつの、ウネるリフと刻みの圧迫感──展開部にはクイーンのあの有名な手拍子足拍子を借り(大声を出せぬ)聴衆との連帯を促すが、「神々の行進」の“えいえいおう”のシュプレヒコール、「恍惚の蟷螂」の神輿の掛け声なども踏まえると、苦しみにあえぐ人類への鼓舞が要点の作品と推察。「夜明け前」を除く先述の曲の他、“ジンタ=ワルツ”の鼓動の「世紀末ジンタ」、わらべうた含みの「肉体の亡霊」など7曲仕込んだ鈴木研一(b, vo)も冴えるが、リズム面のテコ入れはナカジマノブ(dr, vo)の貢献も大きいはず。
 
漲る前向きさとは対極のダークさも今作の要点で、頭から4曲、お終いは2曲連続でヘヴィなドゥーム曲を鎮座させることで、闇に包まれたこの世界を擬似的に見せる。機械人間になっていく様の表現か、珍しくタッピングを交ぜながらの無機的なフレージングと奇々怪々なトーンで魅せる「人間ロボット」のソロや、暴走族のホーンでも用いられる「ゴッドファーザー 愛のテーマ」をハーモニクスで入れ、ラウドネス風リフも飛び出す「疾れGT」など和嶋らしい細工も遊び心も細部に渡り、禍を転じて福となした形の濃密な新作となった。

【文】菅原健太