.5: THE GRAY CHAPTER/SLIPKNOT

.5: THE GRAY CHAPTER/SLIPKNOT
アーティスト名SLIPKNOT
スリップノット
アルバム名 .5: THE GRAY CHAPTER
.5:ザ・グレイ・チャプター

CD | ワーナーミュージック・ジャパン | 10月15日発売

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米国アイオワ州の覆面エクストリーム・メタル・バンドによるメジャー5作目。’10年にポール(b)が逝去し、’13年にはジョーイ(dr)が離脱…と、作曲の要でもあった両名を失った彼らの注目の1作となるが、「これぞスリップノット!」と万雷の拍手を贈りたくなる仕上がりは、ストーン・サワー風だった6年前の前作を思えば少々意外ではあるものの、嬉しい誤算だ。

本作の作曲の要はジム(g)で、ブラック/デス/スラッシュ・メタルの影響を曝け出したIOWA (’01年)の獰猛なリフの突進力や暴虐性に、その後のミック(g)&ジムの卓越したソリストぶりや、本格派シンガーとして覚醒したコリィの歌心がプラスされた、いわば完全版IOWA とも呼べる作風だ。先行公開の「The Negative One」は、全楽団員に活躍の場が与えられた「Surfacing」(’99年SLIPKNOT 収録)的な全員野球ナンバーで、他にも原点回帰な楽曲/プレイが目立つが、その見せ方は刷新されている。例えばブラスト・ビートとトレモロ・ピッキングとリフを同時に鳴らすといった、楽器間の衝突により混沌を生み出す手法が今作では極力避けられているが、これに代わるように、演奏陣各々の個性が引き立つ空間が設けられた“共存共栄”のアンサンブルが浮上しており、メタルの伝統に接近している。原点を喚起しつつ、全楽団員に光を当てることで、メンバー間のフラストレーションも解消しようという巧みな作曲から見えてくるのは、バンドの長期継続への強い願いだ——ジムを労いたい。
(菅原健太)

殺気立った煽動音楽の威力オンリーで世界の暴れん坊をねじ伏せ、むせ返るような妖気を発していたデビュー当時と違い、今ではこのマスク集団が実は才能豊かな人材の集合体であることを誰もが知っている。のみならず、その各々が様々な音楽的関心を持っていることさえ。しかしそれでもスリップノットがスリップノットたらんとする頑強な決意を改めて力強く宣言するかのごとく、重く、暗く、激しくてトゲトゲしい6年ぶり5作目の登場だ。彼らなりの多面性獲得に専心した過去2作で敢えて抑え気味だった全パート一丸ブチギレ突撃戦法の復活に、何はさておき血がたぎる。要所にこのバンド独特の多重パーカッションを活かした狂騒感覚が戻り、濃度を増した情感表現との間で新規の煽情ドラマティック美学が生まれた。

ポール・グレイ(b)の他界やジョーイ・ジョーディソン(dr)の離脱というバンドの根幹を揺るがしかねない事態を経てここに至ったのは皮肉だが、この狂騒感覚再確認ゆえミック・トムソン&ジム・ルートのツイン・ギターもリフ突撃のシンクロ強度を増し、悲壮や不穏を描くリード・フレーズ投入効果も自然と冴え渡る。相変わらずソロらしいソロは抑えられているものの、曲の微妙な表情への貢献度はむしろアップして好循環が実現。いわば一歩戻って二歩進んだ感。ここからまた何処に進んでいくのか分からないが、とにかく締めるべきところでしっかり締めてきた。彼らはファンの暴れたい気分をとことん心得ている。
(平野和祥)