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マテウス・アサト 2017来日クリニック・レポート

レポート&写真撮影●ヤング・ギター編集部

ブラジル出身の若手ギタリスト:マテウス・アサトが、去る8月に初来日を果たし、ギター・クリニックやミニ・ライヴをして京都・大阪・名古屋・東京を廻るミニ・ツアーを行なった。最終日となる28日には、東京・目黒区の音楽学校メーザーハウス内にてクリニックが開かれ、同校の生徒を中心に様々な人が彼の演奏を一目見ようと駆けつけた。その模様をレポートしよう。

大きな拍手に迎えられて姿を現したマテウスは、ステージに上がるとまずは場の雰囲気を確かめるようにゆったりしたフレーズを奏で、続いて趣の異なる3曲をデモンストレーション演奏。オケをバックに、程よいゲインのかかったトーンはかなりロックなスタイルだ。彼のメロウな音楽性や見事な指さばきによるテクニックの優美さは、インスタグラムやYouTubeのプレイ動画で確認出来る上、広く認知もされているようだが、実際に生身のプレイを観ると思っていたよりもタイトで、芯が強いサウンドに驚いた。ロック的なフレーズで力強さが求められるのは通常のことだが、小さい音を小さく、美しく弾くのもまた力加減のテクニックがモノをいうところ。1音1音への繊細なニュアンス付けやちょっとした装飾音の音量変化にも、フィーリングが感じられた。

デモ演奏が一段落するとトークのコーナーへ。まずはマテウスが自らの生い立ちや音楽への道を選んだ経緯などを語ってくれた。中でも興味深かったのは、勉学とギターの二者択一を迫られた16歳の時、最後のチャンスで応募したブラジル国内のギター・コンテストに優勝した…というエピソード。このことがギタリストを志す決定打となったそうだ。これは類稀なセンスを持つマテウスならではの体験かもしれないが、音楽学校へ入学するため渡米した時の「逆さまにした砂時計の砂が流れ落ちるように、そこにいられる時間の貴重さを意識して、周囲の誘惑を排除しながらギターに打ち込んだ」という話には、生徒にも共感するところが多かったのではないだろうか。

続くQ&Aのコーナーではたくさんの挙手があり、コードのヴァリエーションの使い方、リズムの練習方法、プロの生活における心構え…といった多彩な質問が次々と寄せられ、マテウスは1つ1つ真摯に回答していた。時折ギターで実例を交えてくれたが、ちょっと爪弾くだけでもそこに何か味わい深さが感じられるのが面白い。メカニカルな練習では身に付かない、何か別な形の鍛錬が必要とされるのではないだろうか。クリニック後に普段の練習法を1つ尋ねてみると、「特定のスケールを、ダブル・ストップで2音ずつネックを上昇下降しながら弾いていく」と話してくれた。常にメロディーやハーモニーを念頭においてプレイしている彼ならではのトレーニングといえるだろう。

再びデモ演奏を挟んで後半には、マテウスに関するトリビア・クイズに答えた人がエフェクターをゲット出来るプレゼント・コーナーも設けられた。「ギターを始めた年齢は?」などのベーシックな質問に即答する人、「僕の曲を弾ける人は実演してみせて!」というレベルの高い要求に、「Changes」のテクニカルな1フレーズを弾いて本人を驚かせる人など、参加者それぞれが自らのファンぶりを積極的にアピールしてマテウスを喜ばせ、充実した交流タイムとなった。そして最後は、メーザーハウスの生徒が参加してのトリオ・セッション。終始リラックスした様子で椅子に腰掛けていたマテウスもここでは立ち上がり、活き活きとしたロック・ジャムを繰り広げてクリニックを締めくくった。

アルバムの日本盤が発売されることで初めてそのアーティストの存在が国内に紹介され、一般に浸透していた時代から、インターネットやSNSを介せばレコード・レーベルの大小や国籍を問わず誰でもその創作物に触れ、本人との交流まで出来てしまう時代へと移り変わった今。マテウスもこの時代ならではのやり方でプロの世界に足を踏み入れた成功例の1つだといえる。彼は現在、2016年のグラミー新人賞にノミネートされたアメリカのシンガーソングライター、トリー・ケリーのツアー・バンドのメンバーとしても精力的に活動中だが、彼女がマテウスを知ったのはやはりSNS上でのプレイ動画を観たのがきっかけだという。

そんな彼も今、かつてのミュージシャンにとってはパスポート代わりともいえたアルバムの制作準備を着々と進めているようだ。「これまでソーシャル・メディアを通してやってきたものとは違う要素を取り入れたいんだ。マネージャーやプロデューサーと話し合いを重ねるうち、この作品は全編インストゥルメンタルにしたくないと考えるようになった。デレク・トラックスやカルロス・サンタナみたいに、ヴォーカリストを立てるやり方がいい。スラッシュもそうだよね? で、“このアルバムの目指すところは何だろう? 自分はどこへ向かっていきたいんだろう?”ということをよく考えたよ。僕の中で出した結論は、これまでやったインストゥルメンタルを必ず入れつつ、ゲスト・ミュージシャンを迎えた歌ものも入れるということ。このことは重要に捉えているんだ。もちろん、ギターはたくさん入れるつもりだけどね

キャリア初となるソロ・アルバムを完成させてさらにスケール・アップしたマテウスの姿を、より多くの日本のファンに見せに帰って来てほしい。そう願った1日だった。