軽やかな指さばきで魅了…マテウス・アサト初単独来日公演 @下北沢GARDEN 2019.5.10

軽やかな指さばきで魅了…マテウス・アサト初単独来日公演 @下北沢GARDEN 2019.5.10

ブラジルが生んだ孤高の天才ギタリスト:マテウス・アサトが、去る5月10日から14日にかけて行なった初の単独来日公演から、10日の下北沢GARDENにおけるライヴ・レポートをお届けしよう。今月(10月)末に早くも再来日を控えているが(参照:誌面連動映像及び来日情報)、ここ数年YouTubeやInstagramといった動画投稿サイトを通して、自身の楽曲やインプロヴィゼーションを発信し続けている。その柔らかなタッチと巧みなプレイは日本でも話題になって久しいが、未だにアルバムを1枚もリリースしていないというのだから驚きだ。しかし、アメリカではブルーノ・マーズやジェシー・Jといったポップ・スターのツアー・サポートとして参加しており、その実力は折り紙付き。そんなマテウスのプレイを間近で観たいと思うのは当然のことかもしれない。現にこの日も、平日とは思えない程多くの人が集まっていた。

最初にベースを担当するYas NomuraとドラマーのChow-Kiat Er(チョウ・キアット・アー)が登場し、スローなビートを刻みながら会場の熱量を上げていく。そして主役がステージに現れると、早速軽やかなジャムに発展。3人は元々音楽学校MIで共に演奏をしていた仲で、なるほど長年のパートナーでないと表現できないような、阿吽の呼吸によるグルーヴが生まれていた。ちなみに後から聞いた話だが、彼らはセットリストを用意していなかった模様。従ってこのページにも掲載していないが、それほどまでに2人が彼の曲を熟知しているということが想像できる。なおかつ、先述したようにアルバムとして楽曲がまとめられていないので、YGでも内容を把握しきれなかったことを書き添えておこう。
 

マテウス・アサト

Yas Nomura
 
マテウスは、フィンガー・ピッキングや滑らかなレガートを駆使したプレイを展開し、時にはマイルドな歪みをかけてアグレッシヴに彩っていく。しかしどこまでハードなスタイルでプレイしても、彼が奏でるとソフトに演出されるのがまた面白いところ。また、Yasがベース・ソロを弾き始めればアンビエントなサウンドでコードを鳴らし、リズム・ギターに徹するシーンも観られた。特に興味深かったのは、やはり楽曲にマッチする的確なニュアンスのコントロール。ピッキングに抑揚をつけてスリルを生み出す部分も見所の1つだが、左手のフィンガリングもまた秀逸であった。音を瞬時に減衰させて儚さを表現したり、別のセクションではロング・ノートを響かせたりとまさに自由自在。また手元のヴォリューム・ノブを動かすことで歪みを増減させ、あたかもアンプのチャンネルを切り替えたかのように音色を自由に変化させていたのも印象的だった。

終盤に向かうにつれて、彼のYouTubeチャンネル上でも人気の高い曲が増えていく。動画と同じように独奏でプレイした「Change」や、現在唯一音源化されている楽曲である「Maria」は、どちらも見ているだけで鳥肌が立つほど軽やかな指さばきで、こちらもますます釘付けに。ラストはダンサブルでアップ・テンポなパフォーマンスでオーディエンスを大いに沸かせ、極上のアンサンブルで終演。アンコールはなかったものの、至高のパフォーマンスの余韻はしばらく続いていた。