TRUE THRASH FEST 2018:2018.2.12 @江坂MUSE HALL ライヴ・レポート

TRUE THRASH FEST 2018:2018.2.12 @江坂MUSE HALL ライヴ・レポート

毎年2月に大阪で開催されているマニア垂涎のライヴ・イベント“True Thrash Fest”(以下“TTF”)をご存知だろうか? 地元レコード・ショップが主催する、インディ精神に満ち溢れた言わば手作りの小規模フェスだが、とにかく出演ラインナップが毎回マニアックで、それでいて実にツボを衝いており、これまでYG本誌でも何度かレポート記事を掲載したことがある。

その“TTF”は今年、めでたく10周年を迎えた。そこで、通常は2日間のところ、“10th ANNIVERSARY SPECIAL FEST”として2月10日から12日まで3日間に亘り行なわれ、いつも通り“スラッシュ”にとことんコダワった、集大成ともいえる豪華ラインナップが揃うことに。何と言っても注目バンドは、実に19年振りの再来日となったドイツのタンカードだ。さらに、過去の出演バンドからも、カナダのレイザーとサクリファイス、アメリカのHIRAX、BLOOD FEAST、AT WARらが花を添え、国内勢も常連のリヴァージュ、三重の生ける伝説:サバトを始め、ローズ・ローズ、アビゲイル、ハイドロフォビア、ローゼンフェルド、ファストキルと──これぞ正に最強ラインナップ!

ただ──あろうことか、あの“THRASH DOMINATION”と日程がバッティングし、最初の2日間がモロ被りという事態となってしまったのは悲劇というか、何というか…。神奈川と大阪なので距離の問題があるとはいえ、いずれもスラッシュ・メタルに特化したイベントということで、どちらに行くべきか悩みに悩んだという人も少なくなかったハズ。個人的にも迷いに迷った末、まず川崎でスラドミ2日間を観てから大阪へ移動し、TTFは最終日だけ…ということに。そのため、日替わりラインナップのうち、最終日には出ないBLOOD FEASTなど、幾つかのバンドは観逃してしまったものの、1日だけでも相当に濃密な時間を過ごすことが出来たのは言うまでもない。では、ここにイベント3日目:2月12日の模様をお伝えしよう…!!


マニアによるマニアのためのスラッシュ祭典!!

“TTF”最終日、会場の江坂MUSE HALLは満員の入り。元よりこのイベントには、関西圏以外からも多数オーディエンスが詰め掛けるのが常となっているが、この日は事前にソールドアウトしていたようだ。フロアには外国人客の姿も見られ、欧米出身らしい猛者達に加え、近隣のアジア諸国からやって来たと思しきスラッシュ・フリークもちらほら。そんな暴れる気マンマンな観客を、まずは国産の3組が迎え討つ。

トップを務めたのは、地元大阪のリヴァージュ。’85年結成の彼等は、“TTF”には欠かせない存在で、今年も3日間すべてに参戦していた。激速ナンバーの連打に、フロアには早くもサークル・ピットが発生。“TTF”の観客にウォーム・アップなんて必要ナシ──というか、那須康幸&田中 富による切れ味鋭いザクザクのリフを全身に受ければ、じっとしてなんかいられるハズがない。いきなりのヴァイオレントなノリは、そのまま2番手:ローゼンフェルドに引き継がれる。かつてはX-JAPANやAIONなどと鎬を削る派手々々しいバンドだったが故に、「“TTF”10周年にして、初のヴィジュアル系登場」なんて自虐MCをカマしたりもしていたが、いざ演奏が始まると、怒濤のスラッシュ攻勢にヘドバンの嵐が巻き起こり、ステージ・ダイヴも続々。ヒネりの効いたリフとメロディアスなリードが印象的なYOUICHIのプレイに、思わず見入ってしまったというギター・フリークも少なくなかったろう。

TTF2018-03 RIVERGE 1

TTF2018-04 RIVERGE 2

TTF2018-05 ROSENFELD

続いては、海外でもカルトな人気を誇るサバトが降臨! 首魁ゲゾル(b,vo)のビザールなルックスもあって、その場は一瞬にして異様な空気に包まれる。ラフな疾走感がイイ意味でいかがわしいB級感を放つそのサウンドは、オールドスクールな妙味もテンコ盛り。ただ、怪し気なおどろおどろしさとは真逆の、何ともオーソドックスなスタイルも併せ持っており、浅井“Elizabigore”篤のギター・ソロが、時に驚くほどメロディアスでキャッチーに響くのにも驚かされた。

TTF2018-06SABBAT1

TTF2018-07SABBAT2

4番手は米ヴァージニア出身のAT WAR。’83年結成で’86年デビューの彼等は、’94年に解散するも、’06年に復活し、’10年と’14年に“TTF”参戦を果たしており、これが3度目の来日となる。初期よりロックン・ロールのグルーヴを武器とし、モーターヘッド型の突撃スラッシャーとして知られるが、ドラマーの力量不足か、ところどころリズムがつんのめってしまい、突進力に欠けていたのが気になった。ショーン・ヘルゼル(g)による力押しのリフ・カッティング&ポール・アーノルド(b,vo)によるダミ声の咆哮からは、並みならぬ気合いが伝わってきたのだが…。

セットリストは、デビュー作『ORDERED TO KILL』(’86年)収録曲(モータヘッドの’80年作『ACE OF SPADES』からのカヴァー「The Hammer」含む)を中心に組まれ、セカンド『RETALIATORY STRIKE』(’88年)と再結成作『INFIDEL』(’09年)からもプレイ。最終曲「At War」ではサビの…というか、バンド名の大合唱が起こり、その力強い唱和は曲が途切れてもしばらく続いていた。

TTF2018-06ATWAR

お次は、米カリフォルニアのHIRAX。アフロ・ヘアーの黒人シンガーを擁する変わり種だ。しかしそのケイトン・W・デ・ペーニャは、長い歴史の中で最後に残ったオリジナル・メンバーにして、文字通りバンドの顔となっている。前身バンドも含めるとスタートは’81年で、アルバム・デビューは’85年。’89年に一旦活動を止めるが、’00年に再結成し、’09年の第1回“TTF”で初来日を実現させている。(実は、’05年にも来日が決まっていたのにドタキャンして大騒ぎに…!) これまに何度となくメンバー・チェンジを重ね、ツイン・ギター編成だった時もあったものの、現行バンドはシングル・ギターの4人組で、’06年加入のランス・ハリソンが唯一のギタリストだ。

彼等のショウは、いつも笑顔でいっぱい。何故なら、ケイトンが常にフレンドリーなオーラを振り撒いているから。饒舌な彼は、「カトちゃん、ペッ!」…なんて日本語のギャグもマスターしており、ステージ上で変顔を決めることもしばしば。但し、楽曲そのものは当然シリアスで、パワフルに歌い上げるケイトンのスタイルから、パワー・メタリックな印象も強く、スラッシーなファスト・チューンは、言わずもがなヘドバンに最適だ。実を言うと、ランスのプレイは少々ユルめで、リード・パートでは危うい瞬間もあった。それでも、観客のノリが最後まで持続し、曲間に何度となくHIRAXコールが起こったのは、ケイトンのフレンドリーなキャラのおかげだろう。アフロの“黒い悪魔”は、スラッシュ界における親しみ易さNo.1シンガーなのだ!!

TTF2018-09HIRAX

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