ニュージーランド出身、現在はアメリカに拠点を移して活動する若手メタル・バンド:ライク・ア・ストームが、3月の“DOWNLOAD FESTIVAL”における初来日より1年を待たずに、再び日本の地を踏んだ。同フェスにおけるパフォーマンスが大好評を呼んだことがその何よりの理由だろう。オーストラリア先住民の用いる民族楽器であるディジュリドゥを効果的に取り込んだ“ディジ・メタル”と称されているのが、彼らの重要な要素の1つだ。ここでレポートするのは、大阪と東京の2ヵ所で行なわれたうちの後者で、9月15日(日)の公演。満員状態のオーディエンスは比較的若い世代とみえた。女性ファンが目立つのは、フロントマン的な役割を果たすクリス・ブルックス(vo, g, didgeridoo)の人気だろうか。もちろん兄弟のマット(g, vo)とケント(b, key)、そしてザック・ウッド…(dr)と、このバンドは充分イケメン揃いだ。ステージ前方に4本のディジュリドゥがまるでオブジェのように配置されているのは、“DOWNLOAD FESTIVAL”と同様のセッティングである。
幕開けはそのディジュリドゥを使ったクリス単独によるソロ・タイムから。重く長い低音がジワジワとオーディエンスを煽っていき、やがて他メンバーがステージに揃うと、まずは「Pure Evil」で本編スタートだ。現時点での最新作『CATACOMBS』(2018年)からの選曲で、ミッド・テンポのヘヴィネスが生み出す壮大な音圧に早速観客が大歓声で応える。メンバーの方も、早くも楽しくてたまらないといった表情だ。サビがキャッチーな「The Bitterness」はKeyが低く、ヘヴィなリフの重厚感が際立つメタル・ナンバーだが、ヴァースのみバッキングがハーフ・タイムになるというリズム感の工夫が曲にメリハリを付けている。
「Complicated (Stitches & Scars)」では、クリスもギターを手にして現れた。ここからがこのバンドの面白いところだ。この曲では、マットがメイン・ヴォーカルを担当。声質的には哀愁を帯びているタイプだが、そこにクリスの激情シャウトが絡んで、上手いコントラストを作り出している。また、ケントの側には客席からは見えなかったもののキーボードがセッティングされていたようで、要所要所でベースから手を離し、シンセ・パートを担当していた。中盤の「Southern Skies」では、ケントとマットのみがステージに残り、ピアノとギター&ヴォーカルによるしっとり系バラードを聴かせる演出も。こうした楽器や役割の入れ替えが、至るところで行なわれているのだ。「楽曲に対して最善を尽くす」とはよく言われることだが、彼らは個々の多才ぶりを活かしてそれを遂行しているところが他と一線を画すポイントだろう。ともすれば単調になりがちなミッド・テンポのメタル・チューンが連続しても全く飽きることがないし、3人の背後で確固たるグルーヴを打ち出すザック・ウッドのドラミングも、かなりのテクニカル派であることが伝わってくる。常に聴き所、見所満載だ。
やはりマットがヴォーカルを執った「Solitary」では、クリスとのギター・バトルが展開された。どちらも巧者でありつつ、レガートや音数の多めなパッセージを繰り出すマットと、歌メロのように感情豊かなフレーズをぶつけるクリスの対比が観客を喜ばせていた。ここで2人の機材に触れておくと、おそらく“DOWNLOAD FESTIVAL”時と同一のギターを使っていた模様。つまりクリスはJericho Guitars製、マットはPRS製の、それぞれカスタム・メイドのバリトン・ギターだ。アンプやエフェクト類は確認できなかったものの、硬質な激歪みから繊細なクリーンまで様々な音色を使い分けていた上、クリーン・トーンのセクションがふんだんに使われ、ヘヴィネスとの対比に効果的に働いていたことを添えておこう。
原曲ではトライバルな印象の強い「Wish You Hell」を経て『CATACOMBS』の1曲目「The Devil Inside」へ突入すると、爆発的に場内のテンションが上がる。3連符の絡んだリズムに合わせて観客の頭が揺れ動き、あっという間に本編は終了…即アンコールへと突入した。ここで興味深かったのが「Chemical Infatuation」だ。今回唯一、1stアルバム『THE END OF THE BEGINNING』(2009年)からの曲であるこれは、ニッケルバックなども彷彿させる8ビートのハード・ロック/メタルなスタイル。エキゾティックな音使いは“らしい”が、全体的にかなりストレートであり、彼らにもこんな時代があったのかと思うほど。時間軸は前後するが、前半でプレイされたラッパーのクーリオによるヒット曲「Gangsters Paradise」(2015年『AWAKEN THE FIRE』収録)はゴリゴリのメタル・アレンジもさることながら、ライク・ア・ストームのオリジナル曲と並べても遜色ない仕上がりだった。つまり現在に至るまで、彼らは明らかな進化を遂げてきたということだ。
日本のファンに自らの音楽が受け入れられていることを、この単独公演で改めて目の当たりにした彼らは終始喜びを隠しきれない様子で、「また早く戻ってきたい」と繰り返していたが、最後には国内のレコード会社や本公演の関連スタッフをステージに呼び寄せて感謝の意を込めた贈り物を渡すシーンも設けられていた。ラストの「Love The Way You Hate Me」ではまたしても驚異的な盛り上がりを見せ、双方完全燃焼のうちに終演となった。こんなに楽しいライヴはいつぶりだった?…と思わずにはいられないほど、もの凄い充実感を味わえた2時間弱だった。
フォト・ギャラリー
ライク・ア・ストーム@渋谷クラブクアトロ 2019.9.15 セットリスト
1. Didge Intro
2. Pure Evil
3. The Bitterness
4. Complicated(Stiches & Scars)
5. Become The Enemy
6. Gangsters Paradise (Coolio cover)
7. Solitary
8. Southern Skies
9. Crawling (LINKIN PARK cover)
10. Wish You Hell
11. The Devil Inside
[Encore]
12. End Didge
13. Chemical Infatuation
14. Break Free
15. T.N.T. (AC/DC cover)
16. Love The Way You Hate Me