SKYCLAD ツイン・ギターのサウンドで蘇る懐かしの楽曲
英国はニューキャッスルにて、元サバトのシンガー:マーティン・ウォルキーアとセイタンのギタリスト:スティーヴ・ラムズィーにより、’90年にスタートしたスカイクラッド。彼等は今年、結成30周年の節目を迎えた。その間、何度もメンバー・チェンジがあり、’01年には結成以来のバンドの顔:マーティンの脱退という危機にも見舞われている。しかし、当時セカンド・ギタリストだったケヴィン・リドリーがフロントマンの任に就くことで、その一大事を難なく乗り越えた彼等は、以降も“元祖フォーク・メタラー”として後続バンドから幅広く尊敬を集めながら、盤石にして安定した活動を続けてきた。
近年では、HR/HMシーンのみならず、純フォーク/トラッド方面にも活躍の場を広げている彼等だが、日本でライヴを行なうことは、バンドにとって長年の夢だったという。(スティーヴとベースのグレアム・イングリッシュは、’14年に再結成セイタンで来日済み) ちなみに現バンド・ラインナップは、ケヴィン(vo,g)、スティーヴ(g)、グレアム(b)に加えて、デイヴ・ピュー(g)、アーロン・ウォルトン(ds)、ジョージナ・ビドル(fiddle, key)という6人。デイヴは元々’92年に加わるも’95年に脱退し、’14年に電撃復帰を果たした出戻りメンバーだ。根っからのメタルヘッドである彼の再加入によって、多くの初期レパートリーが演目に復活していることも付け加えておこう。
今回の来日ツアーでも、’90年代前半の懐かしい楽曲がセットリストの大半を占め、古株のファンを大いに喜ばせていた。しかも、単に初期の名曲が聴けるというだけではない。それがツイン・ギターによる分厚いサウンドで再現されるという点も重要だ。スティーヴとデイヴは、基本的に前者がリード担当で後者はリズム専念と、言わば完全分業制を採っているのだが、ソロ・パートで音が薄くなることなく、デイヴのギターがバックで鳴っているという安心感は、スティーヴにとっても大きいハズだ。また、曲によってケヴィンが歌いながらアコースティックを掻き鳴らし、一気にフォーキーなムードが増す場面においても、ヘヴィなエレクトリック2本が土台にあるのとないのとでは、やはり大きく印象が異なる。さらには、スティーヴもケヴィンも見た目が“普通のオジサン”だからして(スティーヴはプレイにのめり込み始めると、いかにもメタル・ギタリストといった激しいアクションも見せるが…)、まるで山賊のような(?)ルックスのデイヴが加わるだけで、場の空気が違ってくるというのもあったのでは?
見た目のインパクトという点では、ジョージナの存在も忘れるワケにいかない。そのぽっちゃり体型からは想像出来ないぐらいに(失礼…!)、アクティヴなプレイヤーだからだ。というか、SEの「Intro(Pipe Solo)」(’04年『A SEMBLANCE OF NORMALITY』収録)に続いて、ここ最近では定番のオープニング・チューン「Earth Mother, The Sun And The Furious Host」(’93年『JONAH’S ARK』収録)がハジけた瞬間、ステージ下手側からロケット・スタートで下手側へ華麗に駆け抜けていく彼女を見て、思わず圧倒されたという観客もいたかもしれない。軽やかなステップで牧歌的なケルトの旋律を奏でるその姿は、優雅にしてキュートでもある。エレクトリック・フィドルから放たれる力強いトーンも、ディストーション・ギター×2に全く負けていない。とてもクラシック畑出身とは思えないワイルドなボウイング、少々のピッチのズレなど何ら気にすることなく、飽くまでノリ重視といったスタンスも最高だ。
そうしていつの間にか、オーディエンスはすっかり彼等のペースに巻き込まれてしまっていた。流石は百戦錬磨の大ヴェテラン。どんどん高まっていくこの一体感は、優れたライヴ・バンドだからこそ引き出せる。「The Queen Of The Moors」(’17年『FORWARD INTO THE PAST』収録)のサビでの「オ~オ!」という合いの手、「Anotherdrinkingsong」(『A SEMBLANCE OF NORMALITY』収録)中間部の「パララララ~♪」というチャントも、観客は見事にコナしてのけ、勿論、他の曲でもサビの大合唱が何度も何度も起こっていた。
ギター・フリークに向けての最大の見せ場は、「Words Fail Me」(『FORWARD INTO THE PAST』収録)のエンディングに用意。スティーヴの長めのソロに度々デイヴが絡み、エモーショナルかつドラマティックなツイン・リードが、アルバム通りに再現されたのだ。いや、アルバムではフェイド・アウトされるところが当然ちゃんと完奏されたから、アルバム以上のヴァージョンだったと言うべきか。また、本編ラストの「Thinking Allowed」(『JONAH’S ARK』収録)にスキルトロンのエミリオが飛び入りし、スティーヴらと熱奏を繰り広げたことも付け加えておこう(デイヴは何故かギターを弾かず。あと、マンドリンを使ったイントロはオミット)。
ショウ全体を振り返ると、セットリストのバランスの良さも際立っていた。上述通り、初期ナンバーが多めだったとはいえ、初来日というのを考慮した結果でもあるだろうからして、ヘンに偏った選曲でもなかったし。まぁ、全アルバムからおしなべて…とはならなかったものの、言うまでもなく演奏時間には限りがあり(この日は約75分、コルピのオープニングを務めた2公演は約40分)、今回はキーボードを用意しておらず、そもそも演奏不可な楽曲もあったため、あまり贅沢は言うまい。尚、全3公演を通じて1曲もプレイされなかったアルバムは、’97年作『THE ANSWER MACHINE?』、’99年作『VINTAGE WHINE』、’09年作『IN THE…ALL TOGETHER』の3枚だけ。あと、予定されていたにもかかわらず(時間の都合で?)カットされた曲もあった。それは、セカンド『A BURNT OFFERING FOR THE BONE IDOL』収録の「The Declaration Of Indifference」と、EP『TRACKS FROM THE WILDERNESS』(’92年)収録の「Emerald」(シン・リジィのカヴァー)。いつかこの2曲が生で聴けることを期待しつつ(無論、他の曲も)、ここでそう遠くない再来日もガッツリ祈念しておきたい…!!
スカイクラッド@渋谷STREAM HALL 2020.3.1 セットリスト
- 1. Intro(Pipe Solo)
- 2. Earth Mother, The Sun And The Furious Host
- 3. Spinning Jenny
- 4. Change Is Coming
- 5. Another Fine Mess
- 6. The Widdershins Jig
- 7. The Parliament Of Fools
- 8. Great Blow For A Day Job
- 9. Penny Dreadful
- 10. Anotherdrinkingsong
- 11. Inequality Street
スカイクラッド@渋谷Ruido K2 2020.3.2 セットリスト
- 1. Intro(Pipe Solo)
- 2. Earth Mother, The Sun And The Furious Host
- 3. Spinning Jenny
- 4. Change Is Coming
- 5. Another Fine Mess
- 6. Cry Of The Land
- 7. The Song Of No-Involvement
- 8. The One Piece Puzzle
- 9. No Deposit, No Return
- 10. Words Fail Me
- 11. The Widdershins Jig
- 12. The Queen Of The Moors
- 13. The Parliament Of Fools
- 14. The Antibody Politic
- 15. Inequality Street
- 16. Thinking Allowed
- [Encore]
- 17. Anotherdrinkingsong