アーティスト名 | PAUL GILBERT ポール・ギルバート |
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アルバム名 | I CAN DESTROY ブッこわせるぜ! |
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’50年代から’70年代に至るポップスやロックンロール、ブルース、さらにはクラシック・ロックまで、自分の好きなアーティストが聴いて育ったアーティストにまで遡り、年代やジャンルにこだわらず幅広く洋楽を楽しんでいるファンにとって、これほど面白く魅力的なポールのソロ作品は他にないのではないだろうか。本作は全編ヴォーカル入りのオリジナル曲だが、その端々に聴き覚えのあるメロディーやフレーズがさりげなく織り込まれており、どこか懐かしさを感じさせる温かみに満ち溢れている。これはケヴィン・シャーリーによる低音豊かな空気感たっぷりの音作りも一役買っているのだろう。フレディ・ネルソン(g, vo)&トニー・スピナー(g, vo)という信頼のメンバーが参加していることもあり、ポールの歌唱やギター・プレイからも気負わず楽しみながら録った雰囲気が伝わってくる。
ギター・ソロに関しては、キッズが血眼になってコピーしたくなるようなメタリックな速弾きはなく、あくまでも楽曲重視の歌心を大切にした演奏が中心だ。「Adventure And Trouble」以外ではキーボードもなく、『VIBRATO』(’12年)以来の参加となるトーマス・ラングも変拍子のないストレートなドラミングで見事なグルーヴを作り出している。決して斬新さを追求した作品ではないが、ここで表現されている音楽こそが“ポール・ギルバート”という1人のアーティストを形成している血であり肉であると考えると、聴く楽しさも倍増だ。
【文】Masa Eto
ポール・ギルバートの最新ソロ・アルバムは、新たな地平を切り開こうとする意欲と、それを背景とした多彩さに満ちた内容となった。プロデューサーはアイアン・メイデンやドリーム・シアターなどHR/HMの分野を中心に多大な功績を残し、MR.BIGの『WHAT IF…』(’11年)も手がけたケヴィン・シャーリー。この大物プロデューサーを起用することで、ポールは自分の秘められた可能性を探ろうとしたようだ。また、フレディ・ネルソン、トニー・スピナーという優秀なギタリスト兼ヴォーカリストも参加。彼らのおかげで贅沢なトリプル・ギター、トリプル・ヴォーカルが随所にフィーチュアされているし、曲によっては両者の見事なソロ・プレイも楽しめる(ドラムは’12年の『VIBRATO』やツアーにも参加していたトーマス・ラング)。
タイトル・ナンバーを始めとしてポール本来の持ち味であるHR/HM基調のナンバーも収録されていて、それらももちろん素晴らしいが、ロックンロール、ブルース、R&B、ゴスペルなど、ブラック・ルーツ・ミュージックを大きく取り入れた点こそが本作の大きな特徴。「I Am Not The One(Who Wants To Be With You)」での真っ向からのブルース・ギターや、「Adventure And Trouble」での鮮やかなロックンロール・ギターには大いに驚かされるはずだ。既に自分のスタイルを完全に作り上げているポールが、あえてミュージック・ヒストリーを遡り、自分の胸に響く要素を取り入れながら新たな自己表現を開始したという意味で、記念碑的作品と言えるだろう。
【文】細川真平