SAEKO新作『HOLY ARE WE ALONE』を、ギタリスト兼共同プロデューサーのグイド・ベネデッティが語る!

SAEKO新作『HOLY ARE WE ALONE』を、ギタリスト兼共同プロデューサーのグイド・ベネデッティが語る!

’00年代初頭に単身でドイツへ渡り、’04年にアルバム『ABOVE HEAVEN, BELOW HEAVEN』で現地デビューを飾った大阪出身のHR/HMシンガー:SAEKO。翌’05年、あの“Wacken Open Air”(以下、WOA)フェスティヴァルのステージにも立った彼女(アジア人女性アーティスト初!)は、次いで’06年にセカンド『LIFE』をリリースするも、ビジネス上のトラブルに遭い帰国を余儀なくされ、その後はしばらく活動を鈍らさざるを得なくなってしまう。しかし、彼女はあきらめなかった。紆余曲折を経て、’17年にEP『RE-MEMBRANCE』で本格復活を高らかに宣言すると、’19年に再び渡欧し──先頃、実に約15年振りとなるサード・アルバム『HOLY ARE WE ALONE』を完成させたのだ。

グイド・ベネデッティ(g:トリック・オア・トリート)、アレッサンドロ・ザラ(b:ラプソディー・オブ・ファイア)、ミヒャエル・エーレ(dr:ガンマ・レイ、プライマル・フィア)が全面参加し、デレク・シェリニアン(key:サンズ・オブ・アポロ)などが客演もした『HOLY ARE WE ALONE』──その制作背景について、共同プロデューサーとしてもSAEKOを支えたグイドに話を訊いた…!

2曲手伝うつもりが、最終的にアルバムへ全面参加することに

YG:そもそも、あなたとSAEKOの出会いは?

グイド・ベネデッティ(以下GB):彼女と出会ったのは’19年のことだった。トリック・オア・トリートの来日ツアーで、俺は初めて日本を訪れたんだけど、その大阪公演で地元メディアの取材を受けたところ、実は俺達をインタビューしたのがSAEKOだったんだ。その時、SAEKOと話しているうちに、俺は気付いた──「彼女って、’05年にWOAへ出演していた日本人女性アーティストじゃないか…!!」とね。俺はあの時ヴァッケンにいて、彼女のステージを観たんだ。そのSAEKOが、大阪でのインタビューアだなんて驚いたけど、実にクールな出来事だったな!

YG:その後、『HOLY ARE WE ALONE』の制作に加わることになった経緯は?

GB:’19年の夏頃だったかな? SAEKOから「数曲デモを録りたい」と連絡があったんだ。でも、最初は2曲ほど手伝うつもりが、3曲、4曲、5曲…と増えていって、最終的に、アルバムへ全面参加することになったのさ。

グイド 2019年来日時

YG:アルバムの方向性については、事前にSAEKOと話し合いましたか?

GB:いや、それはなかった…というか、そんな必要はなかったよ。俺達は始めからバッチリ意見が一致していたし、何もかも自然に進められたからね。それってとても大切なことだと思う。すべてを自然に進めていった結果、一貫性を保ちつつ、ヴァラエティに富んだサウンドに仕上げることが出来たのさ。

YG:『HOLY ARE WE ALONE』のクレジットを見ると、“Music by Saeko Kitamae & Guido Benedetti”となっていますが、曲作りはどのようにして進めていきましたか?

GB:楽曲のアイデアとベーシックな部分は、すべてSAEKOが作ったんだ。彼女の作曲センスは素晴らしいよ。俺の役割は、彼女の曲をアレンジし、アイデアを付け加えつつ、さらに磨き上げ、可能性を最大限引き出した…という感じかな? バンド全体のサウンドを考え、アレンジに合わせて新しいベース・ラインを付け、ドラム・パートやキーボード・パートでも磨きをかけていったんだけど、最終的にはアレッサンドロ(・ザラ)やミヒャエル(・エーレ)のアイデアも加え、全員で発展させ、まとめ上げていったとも言えるな。つまり、SAEKOを出発点に俺を経て、さらに(参加したミュージシャン)全員からインプットがあり、各ステップでどんどん良くしていった…ということさ。

グイド&SAEKO

YG:今回のアルバムは、各曲で国別にテーマが設けられていますが、イタリアがないのは残念だったのでは?

GB:いや、そんなことはないよ。逆に、自分の国を曲にするのって難しいんじゃないかな。このアルバムには、それぞれの国で生まれ育った人達の人生というストーリーが収録されているんだ。SAEKOは、彼等の人生をクリアに描き出すのに見事成功したね!

YG:色々な国のテイストをギターで出す上で、何か苦労はありましたか?

GB:そうだな、「India:Farewell To You I」は少し難しかった。ヨーロッパ人的な感覚からすると、慣れないスケール、慣れないアプローチだったんでね。でも、同時に新鮮でもあったよ。俺のギターのリズムに合わせてドラム・パートをアレンジしていき、それをミヒャエルに渡したんだ。複雑で難しいリズムだと思ったけど、彼は完璧だったな。あと、「Germany:Rebellion Mission」もチャレンジングだった。(引用した)モーツァルトは俺の好きな作曲家のひとりだけど、彼のメロディーをギターで弾くのはそう簡単じゃないから。アルバム全体を振り返ると、どの曲もそれぞれ個性的で、それぞれにチャレンジングなところがあったと思う。

YG:レコーディングはドイツで行なったのですか?

GB:「さぁ、始めよう」というまさにその時、(新型コロナの)パンデミックが起こってね。だから必然的に、多くのパートを各自がそれぞれでコナさなきゃならない状況になったんだ。俺はギターと一部キーボード・パートを自宅で録音し、ミヒャエルとアレッサンドロも、それぞれドラムとベースを自分で録音した。ただ、SAEKOにはイタリアまで来てもらって、ヴォーカル録りを行なったんだ。それだけは一緒に作業することが出来たよ。

でも、一向にコロナの状況が収まらなくて、本当はその後の作業も、俺とSAEKOとで一緒にやりたかったんだけど、もはやSAEKOにイタリアまで来てもらうことが難しくなったんで、予定を変更し、’21年2月頃からドイツのスタジオで最終作業を行なうことにした。それはヴィクター・ザントゥラ(V. ザントゥラ)所有のスタジオで、俺はもう立ち会うことが出来なかったけど、イタリアからリモートで参加することになったのさ。振り返ると、スタジオだけでもイタリアやドイツ、そして各自のホーム・スタジオ…と、長い長い道のりだったね。でも、結果にはとても満足しているし、誇りに思う。みんなそれぞれの知識とスキルと情熱を込めた結果だからな。全員に感謝しているよ!

「とにかくあなたらしく、グイドらしく弾いて欲しい」とだけ言われた

YG:トリプティコン、DARK FORTRESSのギタリストであるヴィクター・ザントゥラも共同プロデューサーに名を連ねていますが、ギター・パートのレコーディングにおいて、彼から何かアイデアをもらったり、アドヴァイスを受けたりということはありましたか?

GB:アドヴァイスされることはなかったけど、スタジオでの作業中、彼がギター・パートを録音することはあったよ。

YG:「Hawaii:Farewell To You II」のスライド・ギターですね?

GB:ああ。あれはSAEKOが頼んだそうだ。俺もそれがイイと思った。だって、2人が最終作業を行なっていた時、もう俺のギター録りはその何ヵ月も前に終わっていたし、そもそも俺はその場にいなかったんでね。あと俺は、その頃トリック・オア・トリートのニュー・アルバムのレコーディングの真っ最中でもあったんだ。だから、短い時間でもそれに時間を割くのは難しかったし──それならSAEKOと一緒にスタジオにいたヴィクターが、その場で録音する方が理に適っている。実際、彼は良い仕事をしてくれたよ。

SAEKO、V. ザントゥラ

YG:SAEKOからギター・パートについて、何か注文や提案、リクエストはありましたか?

GB:彼女から言われたのは、「とにかくあなたらしく、グイドらしく弾いて欲しい」と、それだけだった。ギター・プレイヤーとしても、アレンジャーとしても、それ以上にベストな要望はないね。とにかく彼女は、純粋に“俺らしい”音が録りたいと言っていたんだ。だから、とてもリラックスして作業に臨むことが出来たよ。

YG:「Circle Of Life」にはミヒャエル・エーレのギター・プレイが採用されているようですね?

GB:あのイントロには、セカンド・アルバム(『LIFE』)のテイクが流用されているんだ。アルバムのオープニングは、敢えてセカンドとオーヴァーラップさせる──それがSAEKOのアイデアだったからね。それで、セカンド・アルバムでもエンジニアを務めたヴィクターにデータを送ってもらって、トラックごとに聴いてみたところ、(ミヒャエルがプレイした)ギター・パートは見事に録音されていた。だったら、わざわざ録り直す必要なんてないよね? だから、ピアノとギターはそのまま当時の音源を流用したのさ。そして、俺がそこからさらにアレンジし、オーケストレーションを加えて──そうしてあの曲が生まれたんだよ。

YG:「Brasil:Splinters Of The Sun」には、“アディショナル”としてギリェルメ・デ・シエルヴィなるギタリストがクレジットされていますが、彼のプレイはどこに採用されているのですか?

GB:中間部の短いハーモニー・ソロがそうだよ。ほんの数秒だけどね。彼はSAEKOがこの曲のために見つけてきたプレイヤーで、見事にブラジルっぽい雰囲気とメロディーを加えてくれている! 俺自身は彼のことをよく知らないんだが、結果には満足だし、今回一緒に仕事が出来て良かったと思うな。

ギリェルメ・デ・シエルヴィ

YG:では、今回のレコーディングで使用した機材を教えてください。まずはギターから。

GB:最初、自分でDIYしたSTシェイプ──リッチー・サンボラ・モデルのシグネチュアのボディに、他のフェンダー・ストラトのネックを組み合わせ、さらにピックアップも別装している──でレコーディングを始めたんだけど、その後シャーベルの“DK24”を手に入れてね。それを弾いてみたら、凄くしっくりきたんで、結局そのシェル・ピンクのギターですべてのパートをレコーディングすることにしたよ。正に(『指輪物語』の“ひとつの指輪がすべての指輪を支配する”に引っ掛けて)“1本のギターがすべてのギターを支配する”だね(笑)。いや、本当に万能でさ。これ1本でほぼ何でも出来るんだよ。俺のお気に入り…というか、「“俺のギター”を見つけた!」という感じだったな。俺のギター歴を振り返ると、最初からどのモデルも自分のプレイやスタイルに合うよう改造してきたんだけど、このギターだけは特に何か変える必要を感じないし。

YG:他には全く何も用意せず? アコースティック・ギターはどうでしょう?

GB:アコはEko Guitarsの“MIA 018 EQ”を持っているから、それを弾いた。とても良いサウンドが出せるんだ。あと、Eko Guitarsの’70年代の12弦アコ、それからウクレレも弾いたけど、実はどっちもエンジニアから拝借したモノだったよ。

YG:「India:Farewell To You I」のイントロのシタールは?

GB:あれはシンセだよ。でも、見事だろ? 「ギターで弾くとこうなるだろう」と想像しながらキーボードに変換する作業は、なかなか難しいんだけどね。まぁ、楽しい作業でもあったよ。

YG:アンプは何を?

GB:DAWに直接つないで、STL Tonesのプラグ・インを使い、EVHの50Wヘッドでリアンプしたよ。ミックス作業中に色々な対応が出来るようにね。

YG:エフェクターはどうでしょう?

GB:ソフトを使ってモジュレーション系をかけたぐらいかな。俺にはそれがやり易いから。あとは、「Holy Are We Alone」の12弦アコにコーラスをかけた程度だね。エフェクトをかけ過ぎるのはあまり好きじゃないんだ。

YG:全曲のチューニングを教えてください。

GB:「India:Farewell To You I」のみDに落としたけど、それ以外はすべてスタンダードだ。古風に思われるかもしれないけど、俺はスタンダードが好きなんでね。

YG:『HOLY ARE WE ALONE』収録曲の中で、特にヤング・ギター読者に注目して欲しいギター・パートというと?

GB:個人的には、「Russia:Heroes」でのデレク・シェリニアンとのソロ・バトルが気に入っているよ。あと、リフだと「Syria: Music My Love」がお気に入りだね。とにかく全曲、楽曲のメロディーに合わせて工夫したプレイを心掛けた。ソロに関しても、技巧にばかり走るんじゃなくて、ストーリーというか、展開を持たせるようにしたしね。ギター・ソロと各楽器の演奏──その両方が、楽曲それぞれのムードに沿ってなきゃダメだと思うんだ。例えば「India:Farewell To You I」だと、楽曲の内容に合わせて、ソロでも“道を見失った”雰囲気を出そうと努めたよ。

YG:まだまだコロナ禍の状況はキビしいものがありますが、今後『HOLY ARE WE ALONE』のリリースに伴うライヴ/ツアーの計画はありますか?

GB:いや…このコロナ禍がいつまで続くのかまだ分からないけど、早く元に戻って欲しいね。俺の人生は正にライヴ三昧だったから、とにかくプレイしたくて仕方ないんだ。ミュージシャンは誰だって、早くかつての音楽的な生活が戻ってくるよう願っていると思う。1日でも早く日常が戻ってくるよう、みんなで一致団結していかなきゃね!

グイド

INFO

SAEKO - HOLY ARE WE ALONE

『HOLY ARE WE ALONE』/SAEKO
キングレコード
2021年8月11日発表

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SAEKO 公式ウェブ

http://saeko.shinpuh.com/