you、Nicori Light Tours新曲は「別れの歌なんですけど、ポジティヴに行こう…というニュアンス」

you、Nicori Light Tours新曲は「別れの歌なんですけど、ポジティヴに行こう…というニュアンス」

ギタリストyouが盟友kiyo(key)と共に立ち上げ、現在活動の中心としているNicori Light Toursが、変化の時を迎えている。結成以来αyumuとko-heiというツイン・ヴォーカル体制で続けてきた彼らだが、そのうちko-heiが自らのキャリアを見直すため、2024年1月末をもって脱退。1月の東京&大阪公演がその最後の舞台となるのである。

メンバー・チェンジはバンドにとって常におおごと…とはいえ、とにもかくにも突き抜けるようなポジティヴさを堅持してきたNicori Light Toursのこと。ここからのyouのインタビューでも、決して後ろ向きな言葉は一切聞かれない。そして現体制での最後のシングル曲となる「Departure」(2023年12月リリース)も、別れの曲でありながらその聴き味は限りなく前向きだ。そんな最新楽曲について、youに話を聞いた。

自分は意識しなかったけど、みんなが僕らしいと言ってくれるポイント

YG:前々作「ヒーローの正偽」はNicori Light Tours流のパンク・ロック、前作「Mr. JIVE」は従来路線のヘヴィ&キャッチー・ナンバーでしたよね。そして今回の「Departure」はバラード…ということで、ここ数作のシングルがすべて全く違う曲調なのが面白いと思いました。

you:その都度その都度、テーマみたいなものをメンバーみんなで話し合って決めているんですけど…「ヒーローの正偽」の時はそれまでやって来なかったパンク調、「MR.JIVE」はライヴでの後半で盛り上がれるハードな曲という狙いで作ったんです。今回の「Departure」は「現在の4人での最後の曲は果たしてどんなものがいいか?」という話し合いから始まり、あんまりロックするような曲よりも、色んな思いを乗せられるような曲調がいいということになりました。

YG:歌詞的にも別れをテーマとした曲なので、確かにバラード調は最もしっくりきますね。

you:そうですね、自然とこういう曲調に落ち着いていったというか。2023年に入ってko-heiから相談を受けて、それ以来メンバーで話し合いをずっと続けてきたんですよね。もちろん4人で続けたいというのが他のメンバーの思いだったので、何か全員が納得できる良い選択肢はないか…と。でも結果的に、別々の道を行くのがお互いに良いだろうということになりました。もちろん残念な話ではあるんですけど、前向きに捉えることができたんです。だから今回の曲はko-heiを見送る意味合いもありますし、他の3人も未来に向かって頑張るという、意思表示ができた曲になったと思います。

YG:そのyouさんの言葉から、決してネガティヴな別れではないというニュアンスが伝わってきました。

you:そうですね。僕らもko-heiを応援したい気持ちがあったんです。新しいキャリアと両立できないかという話合いもしたけど、最終的にそれは違うというところに落ち着いたわけで。

YG:さて、この「Departure」に関しては、youさんとkiyoさんの共作なんですよね?

you:ベーシックなところは今回もkiyoが作ってくれました。

YG:曲作りの最初の段階では、お二人でどういう話し合いをされたんですか?

you:ざっくりとした曲のイメージ…どういう世界観やスケール感なのか、例えば世の中の曲だったら何に似ているか…と2人で色々聴いてみたり。そうやって大まかな曲調を固める感じでしたね。

YG:なるほど。一口にバラードといっても、様々な方向性がありますし。

you:そうですね。テンポだったり、本当に“ど”バラードが必要なのか…という方向性だったり。

YG:お二人的には「Departure」は“ど”バラードなんですか?

you:いや、僕らの認識ではバラードじゃないですね。例えばライヴの最後で壮大に終わるような、もっとスケールの大きい…ロック・バラードというのもちょっと違う気がする。とにかくバラードというイメージはないです。

YG:面白いと思ったのが、定番のコード進行(B♭-C-Am-Dm)が核にあってそれを何度も繰り返し、サビで転調してまた戻ってくるという、とてもシンプルな構造でした。それでいてこれだけしっかりと流れを聴かせられるのは、さすがだな…と。

you:そこも制作段階で話をしてたんです。あんまり展開が多いのは違う、できるだけシンプルにしたいけどどこかしらフックは入れよう…みたいな。そういう細かい話し合いをした結果かな。

YG:同じコード進行が何回も出てくるとはいえ、パートごとの音の抜き方であったりとか、ベース・ラインの運び方だったり、最終的に単純でなく聴かせる術はキャリアのなせる技なんだろうな…と思いました。

you:そうなのかもしれないです(笑)。確かに色々やってきた結果、得たものをその都度、曲に反映しているというか。意識的にではないんですけど。

YG:youさん的には、コード進行が複雑な曲とシンプルな曲だと、どちらがやりやすいものですか?

you:個人的な好みで言うと、シンプルな方が好きです。聴いていてしっくりきますね。だからと言ってすべてシンプルにしたいわけではもちろんないですけど。

YG:この曲で言うと最初にkiyoさんから来た叩き台では、全パートがほぼ完成された状態だったんですか?

you:いつもギターのアイデアはほとんど入ってないことが多いんですけど、kiyoが「どうしてもこれは!」と思っている部分だけ打ち込みで入っていたりします。今回はイントロのフレーズは入ってましたけど、ちょっと変えました。それ以外は何もない状態でしたね。それを「どんな感じがいい?」とkiyoに相談して、イメージを聞いた上でアレンジしていく感じです。

YG:1つのフレーズしか入っていないように聴こえるイントロでも、例えば右側と左側をオクターヴ違いで弾いていたりとか、そういうステレオ感を出すのがyouさんはいつも巧みだなあ…と思いながら聴いていました。

you:単純にあのフレーズは、オクターヴで弾いた方がいいなと思って。基本のバッキング・ギターはすごくシンプルで、ところどころ付点8分のディレイを入れてみたり、そういうアイデアを後からどんどん足していきました。

YG:Aメロの後ろに控えめに入ってるフレーズですね。

you:そうそう、薄く入ってるやつです。トラック数は最近のNicoriにしては多いというか、僕にしては多いかな…みたいな。

YG:バラードはトラック数が多くなりがちですしね。

you:そうですね。Nicoriはkiyoのキーボードもトラック数が多くなるので、ギターは逆にできるだけシンプルにできるよう意識しているんですけど。今回はちょっと多めになりました。

YG:Bメロとかサビとかに出てくるコード・ストロークのクランチ・サウンドを、いかに気持ちよく聴かせるかも勝負どころですよね。

you:そうですね。最終的なミックスではストリングスを目立たせようということになったんですけど、実はギター・ロック的な方向でも成立するように作ってあるんですよ。別ヴァージョンとして、ギターがガーンと出ていてもあり得るような。

YG:ライヴでどうなるか楽しみですね。ちなみにギター・ソロに関しては、「ヒーローの正偽」の時に珍しく一発でOKだった…と話されてましたよね。でもバラードだと、ソロが1発でOKとはいかなさそうですね。

you:そうですね、今回は流石に弾いて「はいOK」とはならなかったです(笑)。でも、最近色んなサポートとかセッションとかをさせてもらうことが多くて、そこで自分らしさを再発見できたところがあって。それを自然と出せた感じではあります。客観的に他のミュージシャンが聴いた時、「youらしいね」って思ってくれるポイントが何となくつかめたというか。

YG:中間のソロだと、「ここが自分らしい」と思うところはどの辺りですか?

you:チョーキングの持っていき方とかが、どうやらそうらしいです(笑)。上げるスピードとかヴィブラートのかけ方とかですね。

YG:チョーキングとかヴィブラートって、長年の研鑽で表現力が底上げした結果、いつの間にか表情がつくようになった…という類のものですよね。それぐらい、身につけるのが難しいイメージがあります。

you:そうなんですよね。以前はあんまりそういうことを言われたことがなかったけど、ここ数年すごく多くなったんですよ。自分は意識してなかったけど、みんなが僕らしいと言ってくれるポイントが似ていて、それを探ったところ、こういうことか…と。

YG:ボーナスをもらったのに近い感覚というか(笑)。

you:ギタリストってもっと技巧的な部分にグッとくるものだと思うんですけど、例えばヴォーカリストやベーシストやドラマーだったり、あるいは楽器を弾かないリスナーの方が、「ここにグッときた」と言ってくれるのはそういうチョーキングとかヴィブラートだったりして。

YG:なるほど。かくいう私もyouさんは、どちらかというとタッピングなどの技巧方面に長けている人というイメージを持っていました。

you:そういうテクニカルな部分は今も昔も大好きですし、これからも進化していきたいと思っているところではあるんです。でもより基本的なチョーキングやヴィブラートが自分らしさだと思ってもらえるような、そういう長所を自然と作り上げられていたんだな…と。

YG:ちなみに個人的に作曲家の力量は、いわゆる大サビやCメロを上手く作れるかどうか…に最も出てくると思っているんです。この「Departure」もギター・ソロ終わりに、非常に印象的な新しい展開が出てきますよね。

you:kiyoさんは天才ですからね。腹立ちますけど天才です(笑)。

YG:そしてギター・ソロを決してソロ内だけで終わらせるのではなく、その大サビへの橋渡しとして最大限に機能させているyouさんの手腕にも感服しました。

you:ありがとうございます。それを言っていただけるとギタリスト冥利に尽きるというか…。僕はそんなにギター・ソロを構築するタイプじゃないんですけど、終わり方だけはものすごく考えたんですよ。Cメロにつなげるためにはどうするのが一番いいのかと、一番悩んだのはそこなんです。それで結果的に、αyumuのヴォーカルの一番最初の音とギターが最後に伸ばしてる音が、わざと同じになるようにして。自己満足かもしれないですど、僕の中で一番つなりが良い形に無理やり押し込めたというか。

YG:無理やりには全然聴こえませんが(笑)。ソロの最後が重要という話は、マーティ・フリードマンからも聞いた記憶があります。

you:めっちゃ重要ですよ。ギターでバーン!って終わるのもかっこいいですけど、僕の中ではこういう場合は抜けが肝だなって最初からわかってたので。

YG:一方、エンディングのソロはクラシカル系の、ヤング・ギターの読者が好きそうなタイプです(笑)。

you:そうですね(笑)。最近こういうクラシカルなパターンが個人的に好きで、サポートとかセッションとか、色んなところで弾いてる節があるんですけど。

YG:ペダル奏法とか?

you:そう。ここ最近色んなパターンを練習して、取り入れ始めています。

YG:最後はぶった斬るように唐突に終わりますよね。いかにも耳をひきますが、あのアレンジはどこからきたんですか? ちょっとびっくりしますよね。

you:もともとkiyoのアレンジがあそこでぶった斬られてたんですよ。それにギターが合わせたっていうだけのことで。壮大な曲なのでフェイドアウトとか、違う終わり方も考えたんですけど…最近の僕らの傾向として、スッと終わるのがいいんじゃないかって。

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