マーシャル伝説のペダルが復活! The Guv’nor、Bluesbreaker、Shredmaster、Drivemaster

マーシャル伝説のペダルが復活! The Guv’nor、Bluesbreaker、Shredmaster、Drivemaster

アンプで有名なマーシャルが1980年代後半から1990年代後半までの間に製造していた“The Guv’nor” “Bluesbreaker” “Shredmaster” “Drivemaster”という歪みペダル4機種は、トップ・プロをはじめとして多くのギタリストたちに愛用されていたが、近年では中古市場でしか入手できないレア・モデルだった。その名機たちが、長い年月を経て待望の復活。その実力を検証する!

マーシャル・ペダル誕生の背景

マーシャル 復刻ペダル4機種

ご存知の通り、マーシャルと言えば1962年の創設以来、60年以上にわたって世界中のミュージシャンに愛されてきたイギリスのギター・アンプ・メーカーのトップ・ブランドで、中にはアンプ製造専門の会社だと思っている人もいるかもしれない。しかしマーシャルは、ペダル・エフェクターにおいても名機と呼ばれるモデルを世に送り出しているのである。1988年、マーシャルのエンジニアであるスティーヴ・グリンドロッドは「マーシャル・スタック・アンプのサウンドをペダルに取り込む」というテーマの元に開発・設計を行なって、ある1つのペダル・エフェクターを生み出した。それが“The Guv’nor”である。実はマーシャルは1960年代後半に“SupaFuzz”(ファズ)と“Supa-Wah”(ワウ)という2つのペダルを発売しているのだが、“The Guv’nor”はそれ以来となるマーシャル製ペダル・エフェクターだったのだ。

どのようなアンプであっても接続するだけで強力なマーシャル・サウンドが得られる“The Guv’nor”は、発売されるやギタリストたちの間で話題となり次第に愛用者が増えていったが、とりわけゲイリー・ムーアが使用し、1990年に発表したアルバム『STILL GOT THE BLUES』のアートワークにも使われたことでその名が広く知られるようになった。そうして多くのプレイヤーを魅了した“The Guv’nor”であったが、1992年に入って生産完了となってしまう。それと入れ替わるように、マーシャルは同年に“Bluesbreaker”と“Shredmaster”“Drivemaster”という3つの歪みエフェクターをリリースする。この3機種は発売当時、“The Guv’nor”の後継機種という位置付けだったようだ。

ゲイリー・ムーア『STILL GOT BLUES』ジャケット

▲1990年にリリースされたゲイリー・ムーアのアルバム『STILL GOT THE BLUES』の裏ジャケット。ホテルの一室で撮影されたであろうこの写真では、ベッドに座ったゲイリーが弾いているレスポールと“1974”コンボ・アンプの間に“The Guv’nor”が接続されているのが見て取れる。作品リリース年を考えれば、当然初期型モデルであろう。

“Bluesbreaker”はコンボ・アンプ“1962 Bluesbreaker”のような、よりヴィンテージなマーシャルのサウンドを再現するため開発されたペダルで、“Shredmaster”はよりハイ・ゲインな歪みを求めるギタリスト向けのペダル、そして“Drivemaster”は“The Guv’nor”のテイストをそのまま引き継いでおり、回路の簡素化や低域のゲインを加えるなどのアップデートを施したペダルであった。これらのペダルも発売後すぐに話題を呼んで多くのギタリストに支持されたのだが、1998年には生産完了となってしまったのである。

一方、“The Guv’nor”は1997年に復刻(俗に言う韓国版)され、1998年まで製造されていた。ちなみに“Guv’nor”とは「上司/親方」というような意味で、開発時に試奏した何人かのギタリストのうちの1人が「このペダルはまさに“Guv’nor“だな!」と言ったことでそう名付けられたという(ちなみにマーシャルの創設者であるジム・マーシャルのニックネームも“Guv’nor”だったそうだ)。

そして1998年には、全く新しい銀色の筐体で“The Guv’nor”が復活する。それが“GV-2 Guv’nor Plus”であり、オリジナル・モデルのリッチなトーンはそのままに、トレブル、ミドル、ベースの3つのトーン・コントロールに加えてディープというツマミを追加することによって音作りの幅が広がり、タイトなボトム・サウンドが得られるようになった。この銀色の筐体のペダルはシリーズ化され、“BB-2 Bluesbreaker II”、“JH-1 Jackhammer”といった歪みペダルの他に“VT-1 Vibratrem”(トレモロ/ヴィブラート)、“ED-1 Compressor”(コンプレッサー)、“RG-1 Regenerator”(コーラス/フランジャー/フェイザー)、“RF-1 Reflector”(リヴァーブ)、“EH-1 Echohead”(ディレイ)といったモデルが発売(最大9機種)されたが、現在はどれも生産完了となっている。

銀色筐体ヴァージョン

▲1998年に登場した銀色筐体の“GV-2 Guv’nor Plus”(下段真ん中)。スタック・ノブの採用によって多彩なトーン・コントロールが可能となっている。銀色筐体はシリーズ化され、ディレイやリヴァーブ、コーラスといった歪み以外のペダルもラインナップされ、最大9種類が発売された。

オリジナルの“The Guv’nor”“Bluesbreaker”“Shredmaster”“Drivemaster”の4機種は、生産完了してからもエフェクターの中古市場において常に人気でプレミアム・モデルとなっていたのだが、多くのギタリストからの熱望に応え、この度マーシャル60周年を記念してリイシューされることとなった。

復刻にあたっては、その特徴的な外観や内部回路は可能な限りオリジナル・モデルを忠実に再現(ジャックとポットについては当時と同じものが生産終了しているため同等品を使用)しており、見た目、機能面、サウンドのどれを取っても多くのエフェクター・マニアたちが納得する仕上がりとなっている。今回のリイシュー・モデルに関して、マーシャルのプロダクト・スペシャリスト/デモンストレーターであるスティーヴ・スミス氏は「マーシャルは、何度でも求められるタイムレスなサウンドを生み出すことで有名です。これらのペダルのリイシューに対する要望は大きく、私たちはそれに耳を傾けて4つのモデルを復刻することによって、中古市場に頼ることなく使いたいミュージシャンにとってもっと身近な存在にしたいと思いました。リイシューのコンセプトとしては、これらのクラシックなデザインのペダルを一切の妥協なく再現すること。私たちのアーカイヴにあるオリジナルのデザインやユニットをもとに、多くの人に愛されているペダルの本物のレプリカを作りたかったのです」とコメントしている。

The Guvnorオリジナルと現行の比較

▲発売当時の“The Guv’nor”(左)と今回のリイシュー・モデル(右)。スイッチの位置やロゴのサイズなど微妙に違う点はあるが、見た目は大きく変わらないところに製作チームのこだわりが感じられる。

また、当時のモデルと同じサウンドが得られるペダルを作るということに関しては製作チームの並々ならぬ努力があったようで、「当社のエンジニアは可能な限り多くのオリジナル資料を集め、各モデルの複数のオリジナル・ユニットを分析することによって、レスポンスとトーンが新しいヴァージョンでも正確に再現されることを事前に確認しました。そしてその結果をもとに、当社の近代的な製造設備で生産するために綿密に設計を練り直したのです。このように細部にまでこだわり正確さを追求した結果、オリジナルと全く同じサウンドになりました」(同スティーヴ氏)と語った。

レジェンド・ギタリストが愛用

そもそもオリジナルの4つのモデルが何故そんなに人気を博していたのかというと、もちろんそのトーンが素晴らしかったということもあるのだが、多くのレジェンド・ギタリストたちが愛用していたからということも理由の1つとして挙げられる。“The Guv’nor”は先に述べたゲイリー・ムーアの他にエアロスミスのブラッド・ウィットフォード、カーカスのビル・スティアー、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズなどが愛用者として知られ、日本人ギタリストではラウドネスの高崎 晃、X JAPANのHIDEなどが使用している。“Bluesbreaker”はジョン・メイヤーが使用していたことで有名だが、モット・ザ・フープルなどで活躍したミック・ロンソン、元ガンズ・アンド・ローゼズのギルビー・クラーク、オーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドックなども使用。

“Shredmaster”はそのハイ・ゲインな特性からメタル系ギタリストに人気があるかと思いきや、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドがアルバム『THE BENDS』(1995年)において全編で使用したり、ブラーの楽曲「Song 2」(1997年)ではベースに使われるなどオルタナティヴ・ロック系アーティストに愛用者が多いことで有名だ。そして“Drivemaster”は、ジェフ・バックリィやザ・ダークネスのダン・ホーキンスなどが使用している。そうしたミュージシャンのサウンドに憧れるプレイヤーたちはこれまで中古市場に頼るしかなかったわけだが、今回のリイシュー・モデルの発売によってそのリアルなトーンを誰もが手軽に手に入れることが可能となったのだ。

John Mayer

ジョン・メイヤー 使用機材

▲2010年来日時のライヴ機材で、ジョン・メイヤーのラックの中に格納されていた“Bluesbreaker”。ゲインとトーンのツマミは2時方向にセットされ、軽く歪んだトレブリー・サウンドを狙った音作りをしている。

高崎 晃

高崎 晃 使用機材

▲1989年のラウドネスのライヴ機材で、ギター・テックが操作するペダル類の中に“The Guv’nor”がセットされていた。ゲインのツマミはそれほど上げられておらず、ブースター的な使い方をしていたと思われる。