2018年3月2日より全世界同時配信されている、Netflixオリジナル・アニメ『B: The Beginning』。同作の主題歌はご存知マーティ・フリードマンと、MAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnnyによるコラボで誕生した曲であり(ベースはRISEやDragon Ashで活躍するKenKenが担当)、各話の絶妙なタイミングで差し込んで来る、そのインパクトの強さに耳を惹かれた方は多いはずだ。もちろん楽曲自体の素晴らしさは言うまでもなく、本誌読者のマーティ・ファンなら、彼がまたもや新しい境地に達したことが如実に感じられるはず。
そしてアニメの公開とほぼ同時期に、『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』という音楽作品もリリースされている。これはいわゆるサウンドトラックとは全く性格が異なり、マーティと様々なゲスト・ミュージシャンが全話を鑑賞し、受けたインスピレーションを元に作り上げた様々な楽曲を収めたもの。参加しているアーティストは先述の2人の他、Koie(Crossfaith/vo)、アイナ・ジ・エンド&セントヒロ・チッチ(BiSH/vo)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet/vo)、ジョン・アンダーダウン(fade/vo)、山葵(和楽器バンド/dr)、ピエール中野(凛として時雨/dr)、上田剛士(AA=/作曲他)、松隈ケンタ(作曲)…といった具合に多岐に渡っており、ジャンルレスに音楽を愛するマーティらしい人選と言える。
ちなみにマーティが手放しに最高傑作と言えるソロ・アルバム『WALL OF SOUND』を発表したのが、2017年8月。『B: The Beginning IMAGE ALBUM』はそこから1年も経たずに発表されている。いくらワーカホリックで知られる彼でも、ちょっと働き過ぎではないかと心配になってしまうが…(笑)、何より驚くのは本作の恐ろしいほどの質の高さだ。「どうせ企画ものでしょ?」と聴かず嫌いしている人がいれば、それは実にもったいないことである。以下、本作について1時間たっぷり語っていただいたインタビューを、ほぼノー・カットでお届けしよう。ちなみに公開のタイミングとしては少し遅くなってしまったが、このアルバムの音楽的な内容にここまで詳しく突っ込んだ言葉は、他では読めないはず。
“裏切り”が良い糸口だと思った
YG:この『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』ですが、もしかすると『WALL OF SOUND』とほぼ同じ時期に作っていたわけでしょうか?
マーティ・フリードマン(以下MF):いや、『WALL OF SOUND』を作った直後ですね。あのアルバムの制作で何もかも出し尽くした後に、お話が来たんですよ。そこからものすごくがんばった。僕はいつも自分のソロ・アルバムを作る時、特にコンセプトを決めずに作り始めるんですけど、『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』に関してはコンセプトがある状態で作った。違いがあるとすればそこですね。
YG:いったんアイデアを出し尽くした後、わずかな充電期間も置かずにこれほど濃いアルバムを作ってしまうということに、まず驚きました。
MF:やっぱりアニメという題材があったのが、とてもありがたかったです。単純に「もう1枚作ってください」って頼まれただけなら、さすがに無理だったかも。でも面白いイメージがあれば刺激を受け、音楽的なアイデアの元になるんですよ。それに新しいチャレンジにもなる。だから『WALL OF SOUND』の直後に作ったにも関わらず、『B: The Beginning IMAGE ALBUM』は全く内容の異なるものになったと、自分でも思います。
YG:アニメの全話を観てから作曲し始めたわけですよね?
MF:そうです。話をもらった時はまだ未公開状態でしたけど、ぜひとも観たかった。ストーリーの中には色々なエモーションや、アイデアの元になるイメージがたくさんあるから。
YG:そんな風にお題がある状態で曲を書き下ろすのは、もともと得意なんでしょうか?
MF:得意な方だとは思いますね。でも普通、アニソンの作曲を頼まれる時は、「アップ・テンポで激しい曲」とか「感動的な泣きのメロディー」とか、そういう漠然としたディレクションしかもらわないことがほとんどなんですよ。今回に関してはアニメをすべて観た上で、どんな曲を作るか、責任はすべて僕にかかっていた。だから今までとは全然違いました。複雑な展開のあるストーリーを、音楽にどう反映させるか…考えるのは素敵なチャレンジでしたね。
YG:簡単に言えば、殺人事件と複雑な人間関係が軸になったストーリーですよね。そういう物語に合わせるとなると、マーティさんの音楽もダークで複雑な方向に行くんですか?
MF:それだけだとちょっとありきたりすぎるから、もうちょっと深いネタを探したんですよ。物語を最初から最後まで見ると、僕の予想を裏切るような展開がたくさん出て来る。それが良い糸口だと思いました。例えば3曲目の「Giving Up The Ghost」は、その“裏切り”を音楽的に表現したものです。最初に出て来るメイン・フレーズは、1小節目から3小節目まではどこにでもあるクリシェ・ラインに聴こえるかもしれないけど、4小節目で普通だったら思いもしないような音へ行っちゃうんですよ。つまり最後に聴き手を裏切る。ドラムの入り方も、普通なら1拍目の表から始まるだろうけど、一瞬待って裏から始まる。これもリズム的な裏切りですね。そんな風に、物語に出て来る裏切り要素を音楽で表現したパートが沢山あります。一番印象的なのはそこかもしれない。
YG:かなり理論的というか、技術的な作曲の仕方をするんですね。今作はそう感じさせる箇所が他にも多々あって…、実は「マーティさんってそもそも、音楽学校に通った経験があったかな?」と思い、改めてプロフィールを調べたりもしました。
MF:騙されたね(笑)。長い間ミュージシャンを続けている人なら誰でも、自分なりの理論が身体に染み込んでいるんじゃないかと思います。僕もけっこう経験は多いので、自分なりの理論は蓄積されてる。でも理論書で習うような内容とはかなり違うと思います。もっとめちゃくちゃかもしれない。
YG:様々なアーティストがゲスト参加していますが、これはマーティさん自身が一緒にやりたい人をリスト・アップしたのでしょうか?
MF:もちろん。挙げた人がみんなOKしてくれたので、僕は本当に恵まれていると思います。誰一人、NGを出した人はいなかった。理想がそのまま現実になりましたね。
YG:『INFERNO』(2014年)も『WALL OF SOUND』も、同じようにたくさんのゲストが参加した作品でしたし…、だんだんメタル界のサンタナみたいになってきましたね。
MF:サンタナ!(笑) 『INFERNO』も『WALL OF SOUND』も、そしてこの『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』も、僕のキャリアの中で最も満足しているアルバムと言っていいと思います。ポイントは、キャスティングを特に深く考えていることですよ。有名なアーティストならそれでいいというわけじゃなくて、各曲の各パートに相応しいプレイができる人を選びたいんです。「この曲のムードならこの人が一番上手く弾ける」っていうイメージ。歌だけじゃなく、ドラムもベースも全部そうですね。…以前は「上手なら誰でもいいや」って感じでしたけど(笑)。
YG:例えばマイケル・ジャクソンがエディー・ヴァン・ヘイレンに「Beat It」を弾いてもらったような、そういう特別なキャスティングがすべての曲の全パートにある…ということでしょうか?
MF:いい表現ですね! その言い方もらうよ(笑)。理想の人がやってくれると満足感が全然違うんですよ、妥協を一切していないわけだから。それに一期一会の気持ちもありますしね。
YG:様々なミュージシャンが喜んで引き受けてくれるというのは、マーティさんが築き上げて来たキャリアに対して、みなさんがリスペクトを持っているからですよね。
MF:「コイツはどんな変人なんだろう?」って、興味が涌くからかも(笑)。
YG:いやいや(笑)。ご自身でも、良いキャリアを積んで来たという実感があるのでは?
MF:もちろん、僕は恵まれていると思います。でも良いにしろ悪いにしろ、独特の存在感があるから、好奇心で引き受けてくれる人も本当にいると思うんですよ。「マーティの音楽はどんなプロセスと雰囲気で作られているんだろう?」って、興味がある人が多いらしくて。嬉しいことなんだけど、でも実際僕のレコーディングを見てみると、意外に普通(笑)。
YG:そんなことはないですよ。そもそも細かい部分に対するこだわりが半端じゃないですから。
MF:こだわりは強いですね。今回の『B: The Beginning THE IMAGE ALBUM』でも、僕がゲストのどこが好きで声をかけたか、本人が知ったら意外に思うかも。例えば9mm parabellum bulletの菅原卓郎さん。彼は英語で歌った経験があまりなかったから、今回のレコーディングはかなり不安に思っていたかもしれない。でも僕は彼の日本語的な英語をカワイイと思っていたから、「RESCUE」ではそれを活かしたかったんです。
YG:なるほど。例えばレゲエ・ミュージシャンのジャマイカ風英語が格好良く感じられるのと、同じようなことですか?
MF:そう、同じことです。僕は海外に、もっと日本の音楽を紹介したいと思っているんですよ。だからよりリアルな日本を表現したい。日本人が英語で歌うと、カタカナの発音になるじゃないですか。それこそがリアルで、無理矢理完璧な発音を目指すのは僕の目的と違う。でも逆にMAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnnyは、アメリカ人のネイティヴな発音に近いから、「The Perfect World」ではそれをより洗練させました。