アフリカはチュニジア出身という異色のメタル・バンド:ミラスが再来日! ’16年の“LOUD PARK”参戦に伴う初来日公演に続き、去る4月に行なわれたライヴ・イベント“PAGAN METAL HORDE VOL.3”へ出演した。
“PAGAN METAL HORDE”とは、民族&民俗メタル系を集めたミニ・フェスで、過去2回はどちらかというとヴァイキング・メタル色が強かったが、第3回はよりエキゾティックなラインナップが結集。何と、イスラエルのオーファンド・ランドがミラスと日替わりでヘッドライナーを務め、ハンガリーのDALRIADA、ベルギーのエティーリーエン、そして日本から“戦国メタル”を標榜するアリージェンス・レインといった3組がサポート・アクトに起用された。
公演は大阪と東京で計3回行なわれ、大阪の心斎橋somaではオーファンド・ランドが、東京のHOLIDAY SHINJUKUではミラスが、同じく東京のSPACE ODDでは再びオーファンド・ランドがトリを飾り、東京2日間は早い段階でソールド・アウトに。当然ながら、ショウの盛り上がりはどの公演も上々で、オーディエンスは連日連夜、ミラス&オーファンド・ランドによるオリエンタルなサウンドに、思いっきり酔い痴れまくったのである。
注目したいのは、ミラスがまだリリース前のニュー・アルバムから新曲を3曲もプレイしてくれたこと。いや…本当なら今回のジャパン・ツアーは、ちょうど新作発表のタイミングと合致するハズだったらしい。ただ、諸事情でアルバム発売が延期されてしまったとはいえ、意外な新機軸も含む新曲の披露は、日本のファンにとって大きなプレゼントとなったことだろう。
またギター・フリークにとっては、ミラスのマレク・ベナルビアが駆る7弦:10:15(Ten Fifteen/テンフィフティーン)の“Legacy”がきっと気になるハズ。そこで本誌取材班は、東京公演2日目のショウ前にマレクを掴まえ、その“Legacy”ギターについて、今回の来日ツアーについて、そして勿論、ニュー・アルバムと新曲について──対面インタビューにてたっぷり語ってもらった…!!
色んな音楽から受けた影響を自然に出したい
YG:大阪、東京と2公演を終えていかがですか?
マレク・ベナルビア(以下MB):ショウは勿論だけど、日本に来られたこと自体が凄く嬉しいよ。僕はゲームやマンガが大好きだから、日本の文化に触れられるだけで幸せなんだ。それに今回は、’12年にも一緒にツアーを廻ったオーファンド・ランドとステージを共にすることで、彼等との絆がより深まったと思うな。
YG:オーディエンスの反応は“LOUD PARK 16”とは違いましたか?
MB:あの時は初来日だったから、客席からは僕達がどういうバンドなのか知ろうという思いが感じられたけど、今回は既に僕達のことを知っている人達が多かったから、みんな曲を歌ってくれたりしていたね。日本のオーディエンスは、「みんなでパーティーして楽しもう!」といったノリがあるヨーロッパとは違い、どちらかというと冷静…というのは大袈裟かもしれないけど、演奏に注意深く耳を傾けてくれる人が多い。ステージのパフォーマンスにリスペクトを感じてくれているんだよね。
YG:あなたのギター・プレイに釘付けになって、ずっと手元ばかり見ていた観客もいたのでは?
MB:そういう人もちらほらいたね。でも、それは日本だけに限ったことではない。他の国でも、僕の前でじっと(手元を)見ている観客が3〜4人はいるよ(笑)。
YG:そういう時はやっぱり緊張するものですか? それとも、逆にやる気が倍増しますか?
MB:僕は元々シャイで、今こんなに沢山しゃべっていること自体、かなり珍しいことなんだ(笑)。音楽を通してじゃなければ、積極的に人と社会的に関わろうとはしない。だから、ずっと黙っていることが多くて、時には「調子に乗っているんじゃない?」なんて誤解されることもあってさ。やっぱり、手元をじっと見られていると緊張してしまうよ。でも、ファンは友人であり、家族であると思っているから、いつもステージでは、「いま僕は自分の部屋で、友人や家族の前でプレイしているんだ」と考えるようにしているんだ。
YG:今回のセットリストは、いきなり新曲から始まりますが、あれはサプライズを狙ってのことだったのでしょうか?
MB:3月にヨーロッパを廻ったんだけど、元々そのツアーと来日ツアーは、新作を出してからになるハズだったんだ。それで、セットリストに新曲を反映させた。ただファンの間でも、新作が出ることや、新しい曲が聴けるというのは、もう噂になっていたようだね。1曲目に「Born To Survive」を持ってきたのは、ニュー・アルバムでもオープニング曲にするつもりだからさ。新作がリリースされてからも、この曲はライヴの冒頭を飾ることになるだろう。ダイナミックだし、ライヴの導入として凄く適しているから。他の2曲──「Dance」と「No Holding Back」は、ミュージック・ビデオを撮影する予定なんで、それならライヴでも演奏するべきだと思ったんだ。
YG:「Born To Survive」の前に流れるエスニックなイントロは、独立した別の曲になるのでしょうか?
MB:いや、特に曲名などはないよ。いきなり「Born To Survive」をプレイするよりも、チュニジア要素を強く出してショウを始めた方がイイと思ったんだ。今のところ、あのイントロがアルバムに収録されるかどうかは分からない。もしかしたら入れるかもしれないけど。
YG:「Born To Survive」はヘヴィなナンバーで、「Dance」は民族要素がいかにもミラスらしく、「No Holding Back」は凄くキャッチーですよね? この、それぞれタイプが異なる3曲から、新作の傾向や全体像を想像することは出来ますか?
MB:いや、そうでもないな。新作に限らず、これまでのアルバムもそうだったけど、(収録曲の)構成はフィーリングでやっているから、「こういう曲を何曲入れよう…」とか、そういったことは考えないんだ。ただ『TALES OF THE SANDS』(’11年)からは、プロデューサーのケヴィン・コッドファールが加わって、バランスを見てウマく調整してくれるようになった。ケヴィンは曲作りにも関わってくれて、色々と一緒に作業を進めているんだ。例えば、「Born To Survive」はゆったりとしたヘヴィな曲だけど、他にも色々な要素が入っているだろ? それは、メンバーそれぞれが色んな音楽から影響を受けているからさ。そうした面を出来るだけ自然に出したいから、あまりアルバムの構成を考え過ぎないようにしている。
だから──さっきも言ったように、今回ライヴのセットにあの3曲を入れたのは、「Born To Survive」はダイナミックなオープニングにピッタリだから、「Dance」と「No Holding Back」はPVになるから…という、単純な理由によるんだよ(笑)。
YG:ケヴィンとは作曲の初期段階から一緒に作業しているのですか? それとも、まずメンバーだけで曲を書き、ケヴィンはアレンジから加わるのでしょうか?
MB:ファースト・アルバム『HOPE』(’07年)の時は、ケヴィンはまだ、言わばレコーディング・スタッフだったけど、セカンド(’10年作『DESERT CALL』)からは、みんなで作った曲の調整役といった形で、徐々に深く関わっていくようになっていった。そして前作『LEGACY』(’16年)では、もう6人目のメンバーも同然で、一緒に作曲も行なうようになったんだ。今はメンバーがチュニジアとフランスに分かれて住んでいるから、それぞれで作曲したモノが固まったら、チュニジアに集合して1週間ほどアパートを借り、そこから全員でアイデアを出し合う…といった方法を採っている。そうして仕上がった音源をケヴィンがフランスへ持ち帰り、彼がスタジオでミックスするのさ。
YG:ニュー・アルバムには、これまでにない新機軸も含まれていますか?
MB:それは楽器面や演奏面で新しい…ということかい? 特に新しい試みとして意識してはいないな。繰り返しになるけど、自分達らしさは自然とアルバムに出るよう意識しているからね。
YG:今回、アンコールでプレイされた「No Holding Back」は、これまでになくキャッチーな印象で、ちょっと驚きでもありましたが…?
MB:当然、サビは常にキャッチーにするよう心掛けているよ。キャッチーなサビがあれば、もうその曲はほぼ仕上がったと言ってもイイぐらいだ。それぐらい、常に重要視している。だから、「No Holding Back」をキャッチーだと感じてくれたのなら、そうした僕達の進化が表面化した…と言えるかもしれないね。
YG:ちなみに、新作のリリースが遅れている理由は?
MB:現在、ドイツのearMUSICに所属していて、ヨーロッパ全土に踏み込もうとしている最中なんだ。earMUSICは、プロモーションやマーケティングをかなり綿密に計画するレーベルでね。どうやら、今はまだリリースの時期ではないらしい。タイミングを見計らっているところさ。もうミキシングもほぼ終わっていて、アルバムは完成も同然なんだけどさ。
YG:発売の時期も未定なのですね?
MB:僕達には何も知らされていない(苦笑)。年内には何とか──まぁ、9月頃までに出せればイイな…とは思っているところだ。
YG:では、今回の来日公演で使用しているギター周りの機材について教えてください。
MB:“LOUD PARK”に出た時とは違うギターを持ってきたよ。10:15の2本目のモデルで、2kgもないぐらい軽いんだ。ピックアップは、“LOUD PARK”で弾いた青いギターと同じくSP Custom製。以前、ジョン・ペトルーシのようなサウンドを出したくて色々と試していた時、このブランドが良いということを知ったんだよ。ただ、今回のギターに搭載しているのはヴァージョン・アップしたモデルでよりダイナミックな音が出せる。あと、若干ネックが細めになっていて、言うまでもなく、全体のデザインやカラーも違う。この“Legacy”ギターの方が凝った仕上がりになっているんだ。
YG:軽さも含めて、あなたのリクエストで変更が加えられたのですか?
MB:いや、このギターを作ったステファン・ギャリーグに自由にやってもらったよ。彼はフランス在住で、SP Customともつながりがある上、元々このバンドのファンなんだ。僕が以前、アイバニーズのギターを弾いていたことも知っていて、細いネックが好みだということも分かっている。ギター製作者だからして、勿論ギターも弾ける。ビルダーならではのアーティスティックな気質を活かしてもらい、「こういうのはどう?」「あれはどうだ?」などと相談しながら完成させていったのさ。手に入れたのは2年ぐらい前かな。
YG:他に持ってきたギターは?
MB:1本だけだよ。
YG:えっ…ライヴ中に弦を切る心配はありませんか?
MB:いや〜、これまで弦を切ったことがないからね…。
YG:たまにそういう人がいるんですよ(笑)。トレビア〜ン!!
MB:(笑)
YG:チューニングは?
MB:いつも通り、全弦1音下げだよ。ずっと前にXSTAZYというシンフォニー・エックスのカヴァー・バンドをやっていたけど、その頃からずっと同じだ。
YG:アンプは何を?
MB:フラクタル・オーディオ・システムズの“AX8”しか使っていない。昔のギタリストは(本物の)アンプを使うけど、僕は30代と若い世代だから、“AX8”だけでイイじゃないか…と考えるのさ。
YG:アンプ・モデルは?
MB:会場の音響によって毎回変えているよ。昨日はメサブギーだったかな。確か“Rectifier”だったと思う。
YG:ところで、今回ダブル・ヘッドライナーを務めたオーファンド・ランドですが、アラビックでオリエンタルな共通項があるため、これまでもよく比較されてきたと思います。ライヴァルと言えるかどうか分かりませんが、その辺りはやっぱり意識しますか?
MB:いやいや、とんでもない。そもそも格が違うよ。彼等の音楽は、僕が13歳か14歳の頃から聴いているし、常にリスペクトしている。まぁ“オリエンタル・メタル”という括りでは、オーファンド・ランドよりも早くから、その手のサウンドを実践していたトルコのバンドがいるけどね。あと、ミラスはクリーン・ヴォイスを主体にしているのに対して、オーファンド・ランドはデス・ヴォイスも使っていて、そういう違いもあるし、そもそも出身国が違うから、文化は言うまでもなく、使う楽器や音階も異なる。というか、ガキの頃からずっと影響を受けてきたから、ライヴァルなんてとてもとても…。でも、今回は楽屋も一緒だし、みんな仲がイイんだよ!