ヤング・ギター10月号に掲載している企画『トリオの魔力』では、長年ギター、ベース、ドラムというバンド形態にこだわりを持って活動を続けているリッチー・コッツェンにご登場いただき、トリオ編成ならではの魅力についてたっぷりと語っていただいた(ちなみにディジー・ミズ・リジーのフロントマンであるティム・クリステンセンにも、また違った角度からトリオ・バンドについて話してもらっている。未読の方はぜひ!)。ここにお届けするのは、誌面には収まり切らなかった部分。ここ2年ほどの間に単発で発表しているいくつかの新曲についても軽く解説してもらったので、リッチー・コッツェン情報のアップデートとしてもお楽しみいただきたい。
YG:ステージでは歌って、弾いて、バンド全体の舵をとって、観客とコミュニケートして…。ライヴの際のリッチーは「1人何役!?」という活躍ぶりですが、複数のことを同時にこなせるようになったのはいつ頃から?
リッチー・コッツェン(以下RK):いつだったかな? でもそんなに大変なことじゃないよ。やったことのない人なら難しいだろうけどね。例えば僕が「NBAの試合に出て3ポイントのゴールを決めろ」と言われたら、とても困難だ。でも自分の仕事に関して言えば、憶えている限り音楽をプレイし始めた頃からずっとやり続けているから、ほとんど直感だよ。それにもう1つ、最近自分自身について面白い発見をしたんだ。もし僕がバンドの舵取り役を務めていなかったとしたら…、今頃は既に音楽への興味を失っていると思う。どれか1つ放り出してしまったら、魅力的でも何でもなくなるんだ。曲を書いて歌い、プレイして演出を考え、バンドを引っ張っていくこと自体が好きなのさ。それが僕の得意分野であり、快適に感じることなんだよ。
YG:ちなみにツイン・ギター編成のバンドを長いことやっていた経験ってあります? ポイズン時代にブレット・マイケルズ(vo)が、曲によってはギターを持っていましたけど…。
RK:確かにそうだね! そしてMR.BIGにいた時は、エリック(マーティン)がアコ―スティックを弾いたりしていた。でもそれぐらいかな。最近思うんだ、今後僕のソロ・バンドに4人目を入れてみたら面白いんじゃないかってね。まずショウの3分の1はパワー・トリオ編成でやる。みんなが一番知っている僕の姿だ。それから何でも屋のミュージシャンを1人呼んで、バッキングのギターを弾いてもらったり、バック・ヴォーカルを歌ったり、キーボードをちょっと弾いてもらったり…。そうすれば普段弾かない曲ができるかもしれない。パワー・トリオではライヴ映えしなさそうという理由で、やってこなかった曲もあるんだ。僕を見慣れている人達にとって、より面白い形に発展させられるかもね。
YG:世の中には素晴らしい3ピース・バンドがたくさんいますが、中でも影響を受けてきたバンドと言えば?
RK:多分2大バンドといえばクリーム、そしてザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスかな。ギタリストの演奏は素晴らしいし、歌も見事だ。トップ2だよ。ちなみに僕はジミが亡くなった年に生まれたんだよ。奇妙な縁だね。
YG:そうだったんですね。さらに「トリオと言えばこの1枚!」というお気に入りのアルバムを挙げるとすれば?
RK:ニルヴァーナのアルバムはクールだと思うよ。1stアルバムだ。あんな音楽はそれまでに聴いたことがなかったから。ただね、実はけっこう恥ずかしい話なんだけど…。よくミュージシャン仲間と、誰のどのアルバムが好きかなんて話題になるだろう? 僕が子供の頃、身近にあったのはグレイテスト・ヒッツ的なアルバムばかりだったんだ。だから恥ずかしいんだよ、具体的なアルバム名を挙げられないんで。ジミ・ヘンドリックスなんて、僕が彼のことを認識する前に登場して去っていったからね。だからリアルタイムでアルバムを買うことができなかった。そういう思い出があるんだよ。
YG:ここ数年のリッチーの活動についても聞かせてください。去年から配信シングルを「The Damned」「Riot」「Venom」と一定のペースで発表してきていますが、こういうリリースの仕方って現代ならではですよね。
RK:実のところ、今は新しいアルバムを作っている途中なんだ。何と来年の2月3日で、僕は50歳を迎える。だからとてもユニークなものを生み出してみたい。具体的なことを言うつもりはまだないけど、その中には誰も聴いたことのないような楽曲が収録されるよ。「The Damned」「Venom」「Riot」の単なる続きではないんだ。
YG:それは楽しみですね! ただとりあえずはその3曲について、改めて教えてもらえますか?(笑) まず6月に発表された「Venom」ですが…、リッチーの場合ギター・リフはブルージーな正統派でも、ソロになると途端に恐ろしく何をやっているか分からない、複雑で個性的なフレーズになるのが面白いですね。
RK:ははは! いいねえ、その感想はすごく気に入ったよ。みんなを煙に巻いて、釘付けにするのが好きなんだ。で、「Venom」か。どんなことを弾いていたっけ…。確かリード・ギターがあって、あとは“ダダダ…ダダ”とリフを弾く感じ。そうだ、ソロは開放弦を使っているんだ。難しそうに聴こえるけど、実は意外にシンプルだよ。ハンマリング&プリングでクレイジーなリックを弾いている。フィンガー・ピッキングじゃないと難しいヤツだ。ピックじゃ無理だろうな。ちゃんと聴き直さないと確実には答えられないけどね。みんな知っているとは思うけど、僕はレコーディング中に自分が何をやったのか、全然憶えていないから。後から「あれはどうやっているんですか?」と訊ねられても、基本的に答えは「分からない」(笑)。
YG:特に本誌読者が大好きそうな、派手な仕上がりの「Riot」はどうですか?
RK:その曲なら、何を弾いたか憶えているよ。このリフはちゃんと意図を持って書いたものだ。ディラン(ウィルソン/b)と僕がベースとギターでユニゾンしている。ギター・ソロに関してはよく思い付きで弾いてみるから、失敗することもあれば上手く行くこともある。ハッキリしないんだよね。どんなのだっけ?
YG:素晴らしく流麗なプレイがあちこちで聴けますよ。もしかしてフィンガー・ピッキングの技術が、以前に比べても段違いに上がったのではと思ったのですが。
RK:それは良かった。上手くなっていることに気付いてもらえて嬉しいな。逆に下手になっているなんて言われたら、それこそ何があったのか気にし過ぎちゃうからね。
YG:「The Damned」はカントリーっぽいメイン・リフがものすごく難しそうに聴こえるんですが、歌メロと似ているので、歌いながら弾くのは実はそんなに難しくなかったりします?
RK:そうだね。これは歌とプレイを両立させやすいタイプの好例なんだ。同じようなメロディーになっているから。ごく自然にそうなったんだよ。
YG:ところで、最近ヌーノ・ベッテンコート(エクストリーム)とも一緒に曲を書いたんですよね?
RK:ああ、そうなんだ。一緒に数曲書いたよ。その後、僕がツアーに出てしまって…、あそこからどうなるのかはまだ分からない。スタジオで一緒に、とても楽しい時間を過ごしたのは事実だよ。デモも作った。未完成だけどね。ただ、それがアルバムになるのか、単発で曲を発表するのか、まだ決まってないな。