‘90年代には“世界最速ギタリスト”候補の1人にも挙げられ、聴覚と視覚の両面でリスナーを刺激してきたマイケル・アンジェロ・バティオ。その超人的な速さにこだわるキャラクター性と驚異的なテクニックは、ネットを通じて音楽を聴く時代になってからさらに存在感を増しており、今や世代を超えて支持されている。
本来はヤング・ギター2020年3月号で掲載する予定だったところ、諸事情によりウェブでの公開となったこのインタビューは、年齢を重ねてもなお変わらない、彼のギターに対する情熱がほとばしる発言が満載だ。
今でも…練習、練習、練習だよ!!
YG:マイケルはプロ・デビューから35年以上が経った現在も、相変わらずパワフルに音楽活動を続けていますよね。健康にも気を遣って、身体を万全に保っているのでしょうか?
マイケル・アンジェロ・バティオ(以下MB):もちろん。俺はドラッグも煙草も一切やらないし、1990年以来定期的にジムでワーク・アウトしているんだ。指を痛めたり怪我したりしないギター・テクニックを身につけているから、超ハイ・レベルでプレイし続けていられる。俺は賢くギターを練習するんだ。
YG:2015年に出たコンピレーション作品も『SHRED FORCE 1』と名付けられていたように、あなたを象徴するキーワードの1つに“シュレッド”があります。キャリアを重ねて渋くなっていくギタリストも少なくない中、マイケルは常に強烈な速弾きテクニックを衰えさせることなく、変わらず弾きまくり続けていますよね。
MB:自分は今でもエネルギーが有り余っているから、それを自分の音楽に向けているだけのことだよ。自分自身を「シュレッド」ギタリストだと思ったことは一度もなくて、あくまで人がそう呼ぶようになったからだ。でもシュレッドの人気は、俺がデビューした頃よりも今の方が高いし、俺もそういう演奏スタイルや音楽の中で語られることを受け容れているよ。シュレッド・ギターに必要なのはエネルギーと高度な技術であり、そのストイックさが大好きなんだ。そのジャンルのパイオニアだと自負している。最高だよ!
YG:そういったスタイルを守りつつ、マイケルは音楽的に新しいことに挑戦し続けていますよね。
MB:そうだね。俺は「always a student(いつも教わる側)」というモットーのもとに生きているんだ。いつも新しいことを学び、色んなスタイルでプレイする。「自分にはもう学ぶべき新しいことがない」だなんて思い込むことはないよ。それにインスタグラムで新世代のギタリストたちを常にチェックして、最新の情報についていけるようにしているんだ。そうやって新しいことを知ると、自分がすでに築き上げているスタイルがいかにユニークであるかと気づかされるんだよ。新しいものを学びながら、自分のサウンドは自分のものとしてキープする。これが大事だよ。
それは10歳でギターを弾き始めた頃から変わっていない。長年のバンド活動を続けてきた中で何千ものカヴァー曲をプレイし、数々の素晴らしいギタリストたちのプレイや作曲の方法を学び、そこから気に入ったものを取り入れて自分のものにしてきた。
YG:キャリア初期の頃と比べて、当時と今ではギタリストとして一番大切にしていることに変化はありますか?
MB:変わらないね。今でも…練習、練習、練習だよ!! それに一番大事なのはギターに対する愛だ。俺はギターを弾くことを愛しているし、曲を作ったりライヴをやったりすることに今でも情熱を保ち続けているんだ。
俺はかつて『STAR LICKS』や『SPEED KILLS』といった教則ビデオを出したことがあるけど、そこで教えたプログラムを自分でも練習している。毎日20分間くらい、全部の指をウォーム・アップさせるエクササイズをしながら、まずはスロー・テンポから練習を始める。それからその日はどんなことに取り組むべきなのかを決める。フレッシュさを保つために、練習のルーティンにはいつも変化を持たせているんだ。最近はアコースティック・ギターの曲に多く取り組むようになったね。ジプシー・ジャズのギター・スタイルが大好きでさ。
YG:その反面、ファンがイメージする通りの“マイケル・アンジェロ像”に沿ったシュレッド・プレイも聴かせなければというプレッシャーはありますか?
MB:いや、プレッシャーはないよ。『NO BOUNDARIES』(1995年)のタイトル曲のようなシュレッド曲は、もはやプレイするのが俺には当然のことだから。昔と同じくらい速く…いや、もしかしたらもっと速く弾けるかもしれない。しかし、今の俺は若い頃とは違うプレイヤーへと成長している。プレイにはそれまでの年月と人生経験によって蓄積されたもののすべてが込められている。昔から弾いているフレーズであっても、とてもエモーショナルな感触に変わっているんだよ。
YG:年齢を重ねると肉体的な衰えがあるとは言われますが、逆に年齢を重ねることでギターを弾く時の力加減のコントロールが上手くなったということはありますか?
MB:確かに歳をとるにつれ、自分のパワーを保つための努力が必要になってくる。そのエネルギーを維持すると同時に、自分の身体に合わせて演奏スタイルを修正する必要もあるんだ。俺は自分のプレイの一部や、体の動きを年齢に合わせて「調整」した。だからレベルの高いパフォーマンスを維持できているんだよ。実際、俺は若い頃とは違った形でパワーを発散している。例えば最近だって、1ヶ月のうちに21回のショウがあった。21日連続でね。とてつもなく忙しくてハードだったけど、上手く力を使えたから、これだけのスケジュールをこなすことができたんだ!!
YG:そんなマイケルでも、「ギターを弾くことに心底疲れてしまった」という気分になったことはありますか?
MB:それはあるよ。時には休みを取って、まったくプレイしないというのも大切だと、俺は考えている。たまには2〜3日くらいとか、長ければ1〜2週間とか、ある程度休んでみるといい。頭がクリアになると、またギターを手にした時にはいっそう音楽を楽しめるようになるよ。
そんな俺も、連日ギターを演奏することを止めてしまったことがある。2018年2月5日に母が亡くなったんだ。妹に続いて母も失なうなんて…。6ヶ月近くは練習することも曲を書くこともせずに、予定されていたショウに出演するだけだった。まぁ、ショウの当日にウォーム・アップするだけで、本番でも自分の曲をプレイできるようにするというのはいいチャレンジではあったけどね! そして2018年9月のある日、「もう大丈夫だ、そろそろロックするぞ!!」と自分に言い聞かせた。それ以前と比べて、今はより熱心に音楽へ打ち込んでいると思う。
YG:そこに至るまでの辛さはお察しします…。逆に、「ギターを弾いていて良かった」と思えたことも幾度となくあったのではないでしょうか?
MB:一番嬉しいのは、俺の作った教則プログラムが人々の手助けになっているんだと実感できることだね。 色々な人から「あなたから大きなインスピレーションを与えられた」とよく言われるんだ。プレイはもちろん、生き方という面でもこれからのギタリストに何か助言ができないかと考えている。何世代にも渡る後続のプレイヤーたちに対してね。新世代のギタリストたちの素晴らしい演奏ぶりを見てくれよ。俺はそのスタイル形成を手助けしたんだという自負がある。
YG:マイケルの使用するギターは、ペイントが戦闘機のようであったりとルックスも強烈なものが多いですよね。それに2本のギターを組み合わせたダブル・ギターなど、他のアーティスト・モデルとは根本から見た目が違うものも多いです。そういったギターを使うことで、プレイヤーとしてもパワフルさを喚起される、ということはありますか?
MB:そうだね。俺がああいう変わったギターを作った理由はまさにそれ。「模倣者ではなく革新者」になりたいとずっと思ってきた。それに俺はもともと左利きなのに右利き用のギターを使っているということもあって、両手が同じように使えるんだ。そういう理由もあって、ダブル・ギターのような特殊なモデルも弾きこなすことができる。
ただ最近は、尖ったシェイプで重い、いかにもメタルっぽいルックスのギターを弾くことには疲れてしまってね(笑)。今はSawtoothとエンドース契約を結んで、今はもっとトラディショナルな形のギターを弾いている。とは言え、搭載しているピックアップは非常に斬新な仕様のモデルなんだけどね。新しいギターを弾くっていうのは、やっぱりインスピレーションの源になるね。
YG:ありがとうございました。では最後に、これからの10年〜20年に向けて、どんなギタリストになることを目指していきたいと考えていますか?
MB:それはもう、よりよい心で、もっといい曲を書き、極めて高いレベルでスキルを保ち続ける、ということに尽きるね。リタイアは絶対したくない!! これからも曲を作って、プレイして、新しいことを学んで、ライヴ活動を続けていきたいんだ。