“ギネス1位”高速ギタリストの今:チアゴ・デラ・ヴェガ/ヴィクラム『BEHIND THE MASK I』YG3月号未掲載インタビュー

“ギネス1位”高速ギタリストの今:チアゴ・デラ・ヴェガ/ヴィクラム『BEHIND THE MASK I』YG3月号未掲載インタビュー

本誌2020年2月号掲載の企画“オレだけのペンタ・リック”、そして3月号掲載の企画“アラフォーからの“ギネスに挑戦”!!”で、久々に本誌読者のために辣腕を振るってくれたチアゴ・デラ・ヴェガ。彼は現在、プログレ・メタル・バンド:ヴィクラムを活動のメインとしており、その第1作『BEHIND THE MASK I』を2019年にリリースしている。ここではその1stアルバムの内容を中心に、バンドの音楽性について語ってもらった。

ちなみに先述の3月号にてチアゴを「元ギネス世界記録保持者“最も速く弾けるギタリスト”」と紹介したが、ギネスでは彼が「熊蜂の飛行」を750BPMで弾く偉業を達成した後、同部門を閉鎖しており、つまり現在もチアゴが記録保持者であることに代わりはないとのことである(後にその記録を塗り替えるギタリストも出ているが、これらの記録はギネスと別の団体によって認定されている)。調査不足であり、失礼いたしました。…というお詫びと訂正から気を取り直しつつ、インタビューをどうぞお楽しみいただきたい。

コード進行の選択が自分のアイデンティティを形成する

YG:2月号、3月号では企画へのご協力、ありがとうございました! 今回は改めて、チアゴが現在活動のメインとしているヴィクラムというバンドについて聞かせてください。

チアゴ・デラ・ヴェガ(以下TV):もちろん。俺がヴィクラムのメンバー探しを始めたのは、2012年のことだった。それぞれブラジルの別々の地方に住んでいて、みんな1,000km以上離れているんだけど、長年の間に何回も会ってアルバムのレコーディングやビデオ・クリップの撮影を行なってきたんだよ。幼馴染みや大学の同級生ってわけじゃないけど、今はほとんど毎日一緒にいるから、みんな家族みたいになってきたよ。

YG:昨年発売された1stアルバム『BEHIND THE MASK I』は、楽曲自体はもちろんのこと、歌詞で唄われているストーリーもかなり凝った内容ですね。ダミエン・ヴォイドという作家とあなたの共作で、長年構想を温めてきた3部作の最初の1つ…とのことですが。 

TV:その通り。俺たちは7年もの間、このプロジェクトにずっと取り組んできたんだ。『BEHIND THE MASK』という名前のもとで本を書いたり、劇場用の脚本を書いたり、ショウの演出を行なったり…色々やってきたよ。音楽面に特化した話をするなら、俺たちは「まず物語の各章を書いて、それらのサウンドトラックや歌詞を作る」という制作方法を取っていた。曲の歌詞が、各章の要約みたいな形とでも言おうか。大変な作業だったけど、とてもやり甲斐があったね。今から既に、パート2を作り始めるのが楽しみだよ。でもその前に、まだまだたくさんの国にツアーに行かなきゃな!

YG:ジャケットのクレジットを見ると、チアゴは作品の全体を統括するような役割のようですね?

TV:俺はリフを作り、アレンジや編成のほか、アルバムのプロデュースやミックスも担当する役割だ。ギリェルメ(デ・シエルヴィ/vo)は全曲の歌メロと、それに1曲だけ歌詞を書いた。残りのメンバーは各曲のテーマを担当した感じかな。具体的に言うと、まず作曲に4年かかった。膨大な調べ物をする必要があったからね。俺とギリェルメとジー・モラッツァ(b)で何ヶ国かに行って、エスニック・カルチャーを学んだり体験したりする必要があったんだ。バンドのレコーディングにかかったのは1年だけど、オーケストラとコーラスのレコーディングにはもっと長くかかったね。ギターで言えば、基本的なバッキングは15日間、ソロは10日間ってところかな。

YG:今の話に出たエスニックな…インドや中近東風のリズムと、重厚かつ疾走感のあるメタル・リフの絡みが面白いコントラストを生んでいますね。

TV:このミクスチャーの成り立ちはとても複雑だった。そもそも参考になるものがあまりなかったしね。基本的なアイデアとしては、メタルの重さを民族楽器の響きやフレージングと混ぜ合わせつつ、オーケストラや学究的に裏付けのあるインタールードともミックスして、さらにはホラー映画のサウンドトラックのような、その手の世界特有の緊張感やテクスチャーがあるものにする…というものだったんだ。ヴィクラムのサウンドは基本的にそういう感じ。時間がかかるのはもちろん、作業自体がとても難しくてね。でも関わってくれたみんなの努力と才能のおかげで、とても満足の行く出来になったよ。このアルバムは世界中で極めて高く評価してもらっていて、いつもいい点数をもらっている。2019年度のベスト・アルバム賞も何ヶ国かでもらっているんだ。報われた思いだな。

YG:チアゴのギターの音の選び方も、エスニック要素に負けずなかなかユニークですよね。例えば「Forsaken」なんかは、バッキングのコード進行に対してソロがかなり変わった響きに聴こえますし。

TV:ありがとう。ハーモニーを学ぶことには、昔から興味を持っていたんだ。テクニックよりもずっとね。絵画の分析に例えるなら、テクニックはその絵を描くための“色”で、ハーモニーはその絵を飾る“額”と言おうか。どんなハーモニーを選ぶかによって、メロディーの方向性はまったく変わる。例えば「マイナー・コードは悲しい響きがする」というのは、とても表層的な見方だと思う。流れ次第で、マイナー・コードを明るい響きや緊張感のある響きにする方法はたくさんあるからね。醜い額を美しい額に替えるようなものさ。

YG:「The Mortal Dance Of Kali」のバッキングはリズムが非常にトリッキーで、難易度が高そうですね。この曲のPVの中に、ヴォーカルのギリェルメがインド音楽の“コノコル”のようなものを口ずさむシーンがありますが、リズム・セクションに関しても彼とあなたで考えるのでしょうか?

コノコル(Konnakol、Konokol, Konakkol)

ジョン・マクラフリンやマティアス“IA”エクルンドが取り入れたことで知られるコノコルは、南インドに伝わる古典的ヴォイス・パーカッションの一種。ここで詳細を解説すると文字数が足りないので、ぜひ読者諸氏でお調べいただけるとありがたい…

TV:素晴らしい質問だね。コノコルのリズムは、西洋のポリリズムの複雑さをはるかに超えている。作曲のリソースとしてはとても興味深いものだよ。西洋ではほとんど使われていないしね。この手のリズム・アイデアは、次の作品ではもっとたくさん使うつもり。この曲のヴァースの部分のリズムは、今作の中で俺が最初に作ったものの1つなんだ。ギリェルメはインド文化の経験が豊富でね。あいつの家族はインドへの造詣が深くて、子供の頃から慣れ親しんでいる。それが、この手のリズムにすんなり乗ることができた理由のひとつかもしれない。

YG:ギター・ソロで言えば、ハイライトは「Hassan Tower」だと思いました。オクターヴ違いの高速トレモロ・ピッキングから、ネック全体を使うようなレガートが流れるように出てきて…。このソロはどういう風に作ったのでしょうか?

TV:俺のソロはどれも、レコーディング前に考え抜いて書いたものなんだ。俺はスケールやコード進行を俺らしく選択することが、自分のアイデンティティを形成し、自分自身の音を人々に認識してもらうためにとても重要だと考えている。だからいつも色んなスケールや和声を組み合わせるし、そもそも楽曲の拍子がとても複雑だから、インプロヴィゼーションの余地があまりない。もちろん他にもリックや音色とか、個性を表現する手段はあるにはるけどね。ちなみにいつも俺は、ギター・ソロをピアノで作るんだ。他のパートはギターで作るけどね。

YG:それは面白いですね! 「The Red Masquerade」もギター・ソロがとてもエキサイティングで、レガートでもピッキングでも、速いパッセージを弾く時の正確さが素晴らしいと思います。おまけにすべての音がクリアに聴こえますし。

TV:音をクリアにすることについては、かねてからとても意識してきた。スピードを出すことよりもね。速くプレイできても、そもそもクリーンに聴こえなければ意味がないと思うから。あのフレーズは、アルバムの中でも特にクラシック的なパッセージのひとつだと思う。俺は昔からクラシック音楽が大好きでたくさん勉強してきたから、入れられそうなところには入れたくなるのさ。

YG:ヴィクラムのYouTubeチャンネルには、これまでのところ本作から3曲のミュージック・ビデオが公開されていますよね。何より驚いたのがメンバー自身の演技の素晴らしさで、それが楽曲の良さを強調していると思いました。

TV:それは嬉しい感想だね。確かに俺たちはライヴ・パフォーマンスに関することや、ビジュアル的な美しさに関してもとてもこだわっている。もちろん素晴らしい監督やプロデューサーと仕事ができたのも幸運だった。特にギリェルメは何年も舞台の仕事をやっていて、ミュージカルにも参加していたことがあるから、その経験があいつのドラマティックなパフォーマンスに大いに活かされているんだと思うよ。

YG:先ほど次作のこともちらっと言葉の中に出て来ましたが、既に書き進めているのですか?

TV:ああ、既にストーリーや曲を書き始めていて、みんなでアイデアを集めているところだよ。俺はいつもテーマをいくつか携帯やパソコンに保存しておいて、後で思い出せるようにしているんだ。もう十分な量のマテリアルがあるよ。1stアルバムのスタイルを踏襲したものになるのは間違いない。もう少しオーケストレーションを強化して、複雑度を少しだけ下げたものになるけどね。作品に込められたメッセージを、より素早く理解してもらえるように。

YG:では最後に、今後の予定を教えてもらえますか?

TV:6月までは『BEHIND THE MASK I』のプロモーションを続けるよ。ラジオ、テレビ、雑誌のためにたくさんのインタビューをやって…、それからワークショップもやるんだ。それ以降はショウだけをやることになる。日本に行けることを願っているよ。もう何年も行っていないけど、大好きな国だしね。アルバムはアジアではSPIRITUAL BEASTから出ているんだけど、すごくよくやってくれている。俺たちがアジアに行けるよう、すべてが上手くつながっている気がするよ。

VIKRAM

VIKRAM

(L. to R.) G. Morazza(b)、Tiago Zunino(key)、Guilherme De Siervi(vo)、Tiago Della Vega(g)、Marcus Dotta(dr)

公式ウェブ
Vikram Official Band

VIKRAM - BEHIND THE MASK
BEHIND THE MASK I/VIKRAM

CD | SPIRITUAL BEAST|2019年11月13日発売

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