カーク・ハメット、メタリカのライヴ新作『S&M2』は「前回やったことを繰り返さないのが大きな指針だった」

カーク・ハメット、メタリカのライヴ新作『S&M2』は「前回やったことを繰り返さないのが大きな指針だった」
新時代のヘヴィネスを提示した『METALLICA』(1991年)でスラッシュ・メタルというジャンルから飛び抜けた後、さらに広義のロックへと踏み込んだ『LOAD』(1996年)と『RELOAD』(1997年)で賛否両論を巻き起こしつつ台風の目であり続け、モンスターと化そうとしていたメタリカ。そんな彼らが示した、ある種王道でありながら凡百のバンドには追従不可能な次なる一手…、サンフランシスコ・シンフォニーとの初共演作『S&M』(1999年)はそういうものだったと、当時のメタリカの歩みを振り返れば言うことができるだろう。彼ら自身ですらどこへ進むか分からない中で披露されたからこそ、オーケストラとの融合がただならぬ緊張感で聴き手の心を捉え、いわゆるライヴ・アルバムとは一線を画す作品として記憶されることとなったわけである。

あれから20年が経った2019年9月6日と8日、カリフォルニア州サンフランシスコのミッション・ベイに新たに建造された多目的アリーナ:チェイス・センターのこけら落とし公演として、メタリカとサンフランシスコ・シンフォニーによる2度目のコラボレーション・ライヴは開催された。そしてその模様を捉えた同年10月公開の映画に、さらなるブラッシュ・アップを加えることで完成したのが、ようやく我々の手元へ届いた『S&M2』である。そこで観ることができるのは、初期とは異なる方向ながら攻撃性やヘヴィネスへの回帰も見せ、あらゆるものを飲み込むことで押しも押されもせぬ存在へと登り詰めたメタリカが、キングとしての余裕を持ってオーケストラを受け入れる威風堂々たる姿だ。

さて、ヤング・ギター10月号の約60ページに及ぶメタリカ大特集では、カーク・ハメット(g)が『S&M2』への想いを語ってもらったロング・インタビューを掲載している。ここではその冒頭部分をお届けしよう。

何を期待すればいいかは最初から分かっていた

YG:『S&M2』が行なわれたのは約1年前のことなので、おそらく客観的に思い返せると思うんですが…カーク的にはどういう体験でした?

カーク・ハメット(以下KH):俺にとっての『S&M2』は…ひとことで言って「グレイト!」だね。もちろん振り返ってみると、最初の『S&M』の時だって素晴らしい時を過ごすことができたよ。オーケストラとの共演なんてすごい体験だったし、あのマイケル・ケイメンと一緒にライヴ・パフォーマンスを行なったわけだしね。

YG:『METALLICA』収録の「Nothing ElseMatters」のストリングス・アレンジを行なったのがマイケル・ケイメンで、前回の『S&M』は彼の方から話を持ちかけられ、数年越しで実現したんですよね。

KH:そう、マイケルからやろうと促されたんだ。で、気が付いたら一緒にやっていた…って感じかな。あの時も本当に素晴らしい時間を過ごすことができて、とても上手く行ったように思う。だから今回の『S&M2』では、その最初の『S&M』で学んだ様々なことを、パフォーマンスやレコーディングに活かすことができたんだ。それに今回は、当時よりさらに進化したテクノロジーを駆使することもできた。つまり『S&M2』でどんなことをやれるか、何を期待すればいいかは最初から分かっていたわけ。こういうことをやるのが初めてじゃない、つまりステージでクラシックのミュージシャンと共演する経験が既にあったからこそ、良い具合に違いが生まれたんだと思う。「何てこった、こんなのやり遂げられるんだろうか? これだけの多くのミュージシャンが一緒にステージにいて、上手くことを運べるんだろうか?」なんて感情は、一切なかったよ。「今回のショウを前回と同じくらい素晴らしいものにする」と腹を決めていたから、当日を目標にして責任を持ってコンディションを万全に整えた。精神的にも肉体的にも、音楽的にもだ。ライヴの2週間前からかなりハードなエクササイズ・プログラムを組んだし、1週間前からはギターの練習プログラムも組んで様々なトレーニングをやったし、スケール練習もたくさん、すべてアコースティック・ギターでやった。そうすればエレクトリック・ギターを弾いた時、ずっと楽に弾けるようになるからだ。…とまあ、これがあのライヴに対する俺のアプローチだったよ。

YG:そもそもこの『S&M2』というライヴ・イベント自体を行なうことになった経緯を、簡単に教えてもらえますか?

KH:あのアルバムから2019年で20周年だということは、それ以前からずっと念頭にあったんだ。そんな折、サンフランシスコのあの新しい会場…チェイス・センターのこけら落としで演奏するというチャンスが、メタリカに巡って来た。あの会場をオープンさせるスタッフ達に、「こけら落としを引き受けてくれませんか? オープンを祝して宣伝するためのイベントを行ないたいんです」と言われたんで、「喜んで参加する」と返事したんだ。すると彼らが「では『S&M』を再びやる気はありますか?」と返して来たわけ。まさに完璧なタイミングだと思ったね。そんな経緯だよ。

YG:『S&M2 』において、マイケル・ケイメンと同様にアレンジしたり、指揮したり…という役割を担ったのは誰でした?

KH:何人かいたんだ。サンフランシスコ・シンフォニーの首席指揮者であるマイケル・ティルソン・トーマスが全体を監修したけど、エドウィン・アウトウォーターが彼の代理として指揮の大半を行なった。それから前回の『S&M』には収録されていない、新たに演奏する曲のストリング・アレンジの大半を手がけた、第3の男がいた。その新しいアレンジャーがブルース・コフリンだ。彼は前回演奏した曲の再アレンジも、一部手がけてくれたよ。例えば「Enter Sandman」がそうだ。あの曲を聴けば最初の『S&M』とは全然違った、新しいストリング・アレンジが施されていることがよく分かると思う。…というわけで、マイケル・ケイメン1人が何もかもをやった時とは違い、今回はマイケル・ティルソン・トーマス、エドウィン・アウトウォーター、そしてブルース・コフリンという3人体制のチームがいたんだ。

中でもエドウィンは本当に素晴らしいんだよ。俺は色んな意味で、彼とすごく気が合う。そのうちの1つは、彼がホラー映画の大ファンだってこと!(笑) ご存知の通り俺もそうなんで、空き時間は2人でホラー映画の話をずっとしていた。2人とも大好きな日本の映画『呪怨』のことなんかもね。で、ぜひ他の音楽でもコラボすべきだということになり、実はここ数ヶ月かけて2人でホラーをテーマにしたインストゥルメンタル曲を書いた。その曲と既に書き上げてあった他のインスト2曲を合わせて、俺が主催したイベント『HorrorMovie Poster Exhibition(ホラー映画ポスター展覧会)』で使ったんだよ。これら3曲、あともしかしたら4曲目も合わせて、10月にはヴァンクーヴァー・シンフォニーと共演する予定だ。8月にエドウィンと俺で、新たにレコーディングするつもりなんだよ。一緒にやっているプロジェクトは他にもいくつかある。

YG:素晴らしい出会いだったんですね。

KH:その通り。だから色んな人に話しまくっているのさ(笑)。

YG:『S&M2』を、1999年の『S&M』のアップグレード・ヴァージョンにするか、全く異なる内容にするか…。方法論は2つあったと思いますが、実際のところはどうでした? メンバー間ではどんな話し合いをしたんでしょう?

KH:「前回やったのと同じことは繰り返さない」というのが、大きな指針だったんだ。今回はオーケストレーションをさらにふんだんに盛り込みたかったし、さっき言ったように別の曲も入れたかった。とにかく新しいことをやりたかったわけ。具体的に例を挙げると、『S&M2 』の一番のポイントは、まずジェイムズ(ヘットフィールド/ g,vo)とオーケストラによる「The Unforgiven III」のアカペラ・ヴァージョンがあること。「The Iron Foundry, Opus 19」というアレクサンドル・モソロフの曲を、俺達とオーケストラで共演したこと。オーケストラが単体でセルゲイ・プロコフィエフの曲を演奏する、完全なクラシックのパートもある。それにサンフランシスコ・シンフォニーのベーシスト、スコット・ピンゲルがクリフ・バートンの素晴らしいベース・ソロを再現したパートもある。とまあ、今回のプロジェクトに臨むに当たってはこういったことを予め計画していて、実際上手い具合に全く違うアプローチになって良かったよ。もちろん前回やった曲も入っているけど、ただ今のメタリカは以前よりもいいバンドだから、演奏だって上手くなっている。『S&M』の頃とは違うんだ。特に今のメタリカにはロバート(トゥルヒーヨ/ b)がいる。彼が加入した後、俺達のサウンドはどんどん変わったし、それに伴ってアプローチも微妙に変わった。

YG:なるほど。

KH:あとパフォーマンス面で言えば、今回のライヴで素晴らしかったのは、オーケストラとバンドがさらに一体化したことだな。前回の『S&M』の時に使ったステージは普通の形で、俺達の後ろにオーケストラが陣取っていた。一方今回のライヴでは、会場の中央にステージがあって、オーケストラが俺達を囲むような形でステージ上にいたんだ。だから俺が自分から弦楽器セクションや木管楽器セクションや打楽器セクションのところまで、プレイしながら歩いて行くこともできた。あれはとてもいいアイデアだね。ギターを弾いていてふと顔を上げると、6〜7人のヴァイオリン奏者が俺を見ていて、全員で同じリフをプレイしているんだぜ。オーケストラとの絡みという点が、今回は全然違っていたよ。それに円形ステージはオーディエンスとも絡みやすいしね。

YG:テクノロジーの進化という話が出て来ましたが…、ロック・バンドと生のオーケストラが一緒に演奏すると、必ず音量バランスの問題が生じますよね。特にエレクトリック・ギターの音色は強烈なので、上手くやらないとオーケストラの音をかき消してしまいます。20年前には起こったであろうそういったトラブルも、今回は簡単に解決できたわけでしょうか?

KH:そうなんだよね。最初の時は問題が絶えず起こっていたよ。俺達バンドのサウンドをオーケストラ用のマイクが拾ってしまっていたし、逆にオーケストラのサウンドをバンド用のマイクが拾ってしまっていた。その問題はまあ、アルバムにする際に編集しまくって上手くミキシングすることで何とか切り抜けたんだけど(笑)。でも今回はより進化したテクノロジーのおかげで、まず収録の時点でオーケストラをセクションごとに分離させることができた。しかも長いケーブルを使わず、すべてワイヤレスで行なうことが可能だったんで、全体のプロセスがずっとスムーズになり、良いサウンドが得られたんだ。お互いの音を意図しない形で拾ってしまう問題を、上手くコントロールすることができたんだよ。技術をフルに駆使するってのは、本当にすごいよね。

INFO

METALLICA - S&M 2
S&M2
METALLICA

CD | ユニバーサル ミュージック | 2020年8月28日発売