マーティ・フリードマン/レスリー・ウェスト『LEGACY』:“マーティ流”と“マウンテン流”が合致した独自の哀愁プレイ

マーティ・フリードマン/レスリー・ウェスト『LEGACY』:“マーティ流”と“マウンテン流”が合致した独自の哀愁プレイ

3月23日に発売される故レスリー・ウェストへのトリビュート・アルバム『LEGACY : A TRIBUTE TO LESLIE WEST』に参加した強力なギタリスト勢の中からYGが特に注目した4人が、レスリーに対する想いを語ってくれた。ヤング・ギター4月号のレスリー特集に掲載しきれなかったコメントをウェブで全文公開!

INFO

V.A. - LEGACY : A TRIBUTE TO LESLIE WEST

LEGACY : A TRIBUTE TO LESLIE WEST / V.A.

CD|ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
2022年3月23日 日本先行発売

マーティ・フリードマン参加曲
「Nantucket Sleighride(To Owen Coffin)」

アルバム詳細

実は僕が声をかけられたのは、まだレスリーが生きていた時なんです

YG:マーティさんはレスリー・ウェストというギタリストを、いつ頃最初に認識したのでしょうか? 

マーティ・フリードマン(以下MF):子供の頃ですね。僕の好きなアーティストはみんな、レスリー・ウェストの話をしていたんです。KISSとかブラック・サバスとか、その辺りのハード・ロックの人たちのインタビューを読むと、「この曲はレスリー・ウェストのパクリだよ」とか言っていた。僕のリスペクトするミュージシャンたちが、みんなレスリーをリスペクトしていたんですよ。

YG:なるほど。

MF:正直言って、僕はそんなに詳しくないんですよ。「Mississippi Queen」しか曲とタイトルを認識できていないから。

YG:レスリー本人にはお会いしたこともなかったのですか?  

MF:とても残念だけど、ないですね。アメリカでの彼のマネージャーは、僕と一緒にいろいろ仕事をやったことがあって、彼の話を聞いたことはあるんです。レスリーは健康面でいろんな辛いことがあったらしくて、それをギター魂で乗り越えたって…。そういうお話にはインスパイアされました。だから、今回のトリビュート・アルバムに参加させていただいたことは、めちゃめちゃ光栄なんですけど、自分がレスリーのファンだとかマニアだとか言うことはできない。実は僕が声をかけられたのは、まだレスリーが生きていた時なんです。彼が好きなギタリストを呼んでゲスト参加してもらうようなアルバムだった。どうして彼が僕を選んでくださったのかは分からないですけどね。その後レスリーが亡くなってしまい、追悼アルバムになったんですよ。

YG:そうだったんですか…では、今回のような既存の曲をカヴァーするのではなく、まったくの新曲でレスリーとマーティさんがコラボするという可能性もあったわけですか?

MF:そうです、新曲のコラボを。ただ結局…僕がやった曲は聴きましたか? 

YG:もちろんです。「Nantucket Sleighride(To Owen Coffin)」ですね。

MF:僕はその曲のことも知らなくて、カヴァーする時にオリジナルを聴かせてもらったんです。子供の頃持っていたレスリーのアルバムって、『THE LESLIE WEST BAND』(’76年)だけだったんですよ。マウンテンじゃなくて、ソロ・バンドですからね。それを聴いていたぐらいだったけど、僕が思ったのは、レスリーって’60年代のギタリストと違ってかっこいいということ。あの頃のギタリストって、ほら、ヒッピー系とか、ジミ・ヘンドリックスとか、ギターが僕の好みじゃなかったんですよ。ペンタトニック・スケールを適当に、何も考えないで指を動かして弾いているだけっていうイメージ。勢いがない。それが良いか悪いかではなく、単なる僕の好みなんですけどね。でもレスリーはそういうギタリストと違って、攻撃的なハード・サウンドを発明しようとしているような感じを受けたんです。ヒッピー系とヘヴィ・メタル系の架け橋みたいな存在。

YG:なるほど。確かにレスリーはペンタトニックが中心のギター・プレイをする人ではありますけど、それをメロディアスに聴かせる技術を持っていましたよね。

MF:そう。多分、’60年代の終わりの方って、“ウッドストック系”みたいなギターが超カッコいいと思われていたんでしょう。でも、僕はその次の時代。エディ・ヴァン・ヘイレンやウリ・ジョン・ロート、ジューダス・プリーストとかのギター・プレイに慣れていたから、ヒッピー系は適当にしか感じなかった。レスリーはそういう人たちよりも音がパワフルでハードだったんです。歪みがリッチだし、彼の弾くフレーズには意味があった。あの時代にあんな攻撃的なロック・ギタリストというのはいなかったんですよ。だから僕の憧れの人たちにとって、レスリーからの影響は大きかったんですね。マイケル・シェンカーとかエディ・ヴァン・ヘイレンとか。

YG:’70年代当時の日本でもレスリーのギター・プレイは非常に人気が高かったのですが、日本の心が分かるマーティさんが聴いてみて、日本人に伝わりやすい要素を発見できたりはしますか? 

MF:そうですね。僕のイメージだと、日本人ってギター好きな民族なんですよ。ギタリストが下手だったら、日本人は好きじゃないでしょ?(笑) ワインに詳しい人なら美味しくないワインは飲まないだろうし。レスリーってあの時代の草分けじゃないですか。日本人がそういうギタリストを好きになったというのは、全然驚かないですね。

YG:分かりました。では、今回マーティさんがプレイした「Nantucket Sleighride〜」についてですが、原曲にはなかったオブリガートも入っていたりしますよね。この辺りのアレンジはマーティさんご自身によるものなのでしょうか? 

MF:ギター・アレンジは全部僕がやりました。原曲のコピーはしなかったんですよ。完全にフラットな状態で原曲を聴いて、マーティはどう解釈するのか?っていうこと。ベースとドラムは出来上がっていたし、曲もあるから、僕はギターを自分なりに弾くだけ。現代的なマーティのギターに変えても自然な流れになるようにしたんです。

YG:ギター・ソロに関しては本当にマーティさんらしいドラマティックな仕上がりですよね。原曲の物悲しさにミステリアスなフレージングを加えたというか…まさに、マーティさんとマウンテンが合体したという印象を受けました。

MF:それなら良かったです。僕らしくやらないと意味がないと思ったので、完コピは全く意識しなかった。もちろん、僕はオリジナルの中でキープしなければいけないところはそのままにしつつ、それ以外の部分を完全に“マーティ節”で変えまくったんですね。だから、マウンテンのファンがこれを聴いてどう反応するのか、楽しみです。どんな風に仕上がってるんだろう? まだ僕はファイナル・ミックスを聴いていなくて、ヴォーカルが誰だったのかすら知らない(笑)。

YG:そうなんですね(笑)。ヴォーカルはジョー・リン・ターナーです。ハスキーでパワフルな声が特徴で。

MF:そうかあ…。レスリーのヴォーカルもハスキーでパワフルなヴォーカルだったから、上手くいっていることを祈ってます(笑)。

YG:そこは多分、心配ご無用かと思います(笑)。

MF:曲を誰に弾いてもらうかとか、誰と誰を組み合わせるかとかは、完全にスタッフが決めていたみたい。「マーティ、この曲はいかがでしょうか?」と投げてもらって、その曲を聴いて「いいんじゃない?」という流れだったんです。

YG:確かに他の曲はリフ主体のブルース・ロックが多いので、哀愁のある「Nantucket Sleighride〜」はマーティさんにピッタリだったと思います。

MF:嬉しい! スタッフも非常にいい人ばかりだし、僕に合うものを選んでもらえたのかな。

YG:そういえば、このアルバムのリリース元は“Mascot Records”なんですが、マーティさんの『TOKYO JUKEBOX 3』(’21年)のようなアルバムもここからリリースされていますよね。以前からマーティさんをよく知っているスタッフから連絡が来たのですか?

MF:そう、みんな僕が知ってる人ですよ。

YG:道理でマーティさんに合う曲を選んだわけだ(笑)。

MF:だと思いますね。レスリーに詳しい人がいっぱいいると思うので。ちなみに、「Mississippi Queen」を弾いたのは誰でした?

YG:スラッシュです。

MF:なるほど。ピッタリ!

YG:ちなみに他に参加しているギタリストは、イングヴェイ・マルムスティーン、ザック・ワイルド、元ドアーズのロビー・クリーガー、ランディ・バックマン、元ジェスロ・タルのマーティン・バーなどです。

MF:へえー、良い人に囲まれて嬉しい! 

YG:あえてお聞きしたいのですが、今後こういった企画があるとしたら、「Mississippi Queen」をやってみたいですか?

MF:いや、多分スラッシュがピッタリだから、もう僕がやる必要はないと思いますよ。今回のアルバムは本当に心を込めて、レスリーの大ファンの人たちに気に入ってもらえるよう頑張って作りました。レスリー本人が色んなコラボで新しいものを追求してる最中に亡くなってしまったのが、本当にショックでしたけど、彼の伝説をできるだけ多くの人に知ってもらいたいですから、みんなに聴いてもらえたら嬉しいですね。