ニール・ショーン「若い頃よりも多くの可能性を得られるようになった」本誌未掲載インタビュー

ニール・ショーン「若い頃よりも多くの可能性を得られるようになった」本誌未掲載インタビュー

2022年7月に11年ぶりのスタジオ・アルバム『FREEDOM』を、続いて12月9日には前年にロラパルーザ・フェスティヴァルに出演した際の音源/映像を収録した『LIVE IN CONCERT AT LOLLAPALOOZA』を発表したジャーニー。ヤング・ギター1月号ではニール・ショーンをキャッチし、この2作品にまつわるエピソードを掲載しているが、ここでは誌面に収まりきらなかった発言を一挙公開することにしよう。

全体のサウンドが良くなるか煩くなるかは、プレイヤーの組み合わせによって決まる

ニール・ショーン 1

YG:現在のジャーニーはメンバーの入れ替わりが頻繁なようですが、改めて現時点でのラインナップについて確認させてください。ニールとアーネル・ピネダ(vo)、ジョナサン・ケイン(key, g)に加え、ベースはトッド・ジェンセン、ドラムはディーン・カストロノヴォ、さらにもう1人のキーボーディストであるジェイソン・ダーラトカが正式メンバー…ということで正しいでしょうか?

ニール・ショーン(以下NS):ああ、目下バンドに在籍しているのはこの6人だ。

──この取材の数週間後、既報の通りニールがジョナサンに対して訴訟を起こすというトラブルが発生している。あくまで取材時は何の問題もなかったことをご承知いただきたい──

ツアーは大成功で、素晴らしいラインナップであることが証明された。みんな音にキレがあって、最高にいいサウンドなんだよ。2023年でジャーニーは結成50周年を迎えるんだけど、俺と同世代で、ジャーニーの草創期からすべてのラインナップを見てきたファンたちは、現在のライヴを観て「これまでの中で最強のラインナップだと思う」と言ってくれている。ディーンとトッドと俺は、何年も前にハードラインを一緒にやっていたことがあるよね。ディーンは過去にもジャーニーにいたことがあるので、彼が戻って来てくれて嬉しいよ。

YG:ディーンはあなたのお気に入りのドラマーですからね。バッド・イングリッシュに始まりソウル・サーカスなど、あらゆるバンドで活動を共にしてきました。

NS:そう。しかもディーンとトッドと俺は、ハードラインの解散後にポール・ロジャースのツアーに同行したことがある。フリーの曲を始め、ザ・ファームだとか、ポールがやったマディ・ウォーターズのトリビュート・アルバム(1993年『MUDDY WATER BLUES』)の曲だとか、ジミ・ヘンドリックスの曲だとか、色々なものをプレイしたんだ。あの時のリズム・セクションは俺にとって最強だったな。それが今になってジャーニーに移行してきたわけで、彼らと一緒にプレイできるなんて本当に素晴らしいことだよ。

YG:2020年にナラダ・マイケル・ウォルデン(dr)とランディ・ジャクソン(b)の加入がアナウンスされ、今回リリースされる『LIVE IN CONCERT AT LOLLAPALOOZA』に収録されたライヴの時点ではディーンとナラダのツイン・ドラムに加え、ベースはマルコ・メンドーサに交替。それからディーンとトッドのコンビに替わったわけですから、リズム・セクションがドラスティックに変化していますね。

NS:パンデミック中に『FREEDOM』の制作を始めた時は、元メンバーたちとの間に抱えていた訴訟も決着し、新たなリズム・セクションを選ぶのに適切な時期だと思った。俺はずっとナラダとランディのファンで、ランディはかつてジャーニーでプレイしたことがあるし、ナラダとは『UNIVERSE』(2020年)のような俺のソロ・アルバムも一緒にやっていて、彼とジャーニーのアルバムを作ったらどうなるか聴いてみたいと思ったんだよ。そんな風にしてジャーニーの新作『FREEDOM』の制作が始まったわけだ。だけど、ランディは背中の手術を受けて、一緒にツアーに行けるほど回復はしていなかったので、ツアーにはマルコ・メンドーサが参加することになった。その後マルコは抜けて、ナラダも病気になってしまったのでツアーから離脱した。でもディーンとトッドというリズム・セクションが生まれたことで最高の結果になったよ。トッドは非常にソリッドなベーシストで、ドラムを後ろから支えてくれる。そんな彼のプレイが加わったことで物事が本当に上手く行き始め、バンドにとって状況がグッと良くなったと思う。もちろんマルコは世界最高のベーシストの1人だけど、最高に優れたミュージシャンがいるからと言って必ずしもバンドが発展するとは限らないんだ。

遙か昔、俺がサンタナでプレイしていた頃、カルロス・サンタナが色々なミュージシャンを取っ替え引っ替えするのを見てきたわけだよ。しかし俺が加入した時点でのラインナップこそ最高だったと思っている。デイヴィッド・ブラウンは世界一のベーシストというわけではなかったし、マイケル・カラベロも世界一のコンガ・プレイヤーではなかったが、全員で一緒にプレイすると、そこにはマジックが生まれていた。ちょっと自分のプレイを抑えることで、他のプレイヤーと調和したりとか…それがバンドを発展させるサウンドにつながる。若い頃にサンタナでプレイしたことで、全体のサウンドが良くなるか、あるいは煩くなるかは、プレイヤーの組み合わせによって決まるということを学んだわけだ。だからトッドをバンドに入れたことで、ジャーニーはようやく本当に素晴らしいサウンドを出すための適切なラインナップになったと感じたよ。

ジャーニー:ライヴ
Pic: Iron Mike Savoia

ポール・リード・スミスとはまた一緒に新しいことをやりたい

YG:ロラパルーザの映像を観てもわかるように、ライヴでもスタジオ・レコーディングでも、メイン・ギターは変わらずPRSギターズのシグネチュア・モデルのようですね?

NS:ポール・リード・スミスという人は、俺のアイデアを常に具現化してくれるからね。彼が「もっとアイデアがあるかい?」って訊くから、自分なりに考えているギターのプランを伝えると、「それは素晴らしい。だけど、君は僕の気を狂わせようとするんだよね」って言うんだ(笑)。俺には色々なタイプのギターを使って試してみたいことが山ほどある。PRSギターズではすでに3つほど俺のモデルが製作されたけど、俺のモデルではないPRSのギターにも素晴らしいものがあるから、そういったものを自分で試したいんだ。パンデミックの最中、俺は趣味としてギターを大量に買って、自分でピックアップを交換したり、セッティングをしたり、音色を調節したりすることに取り組むようになり、PRSはもちろんフェンダーやギブソンなど、様々なギターについて学んだよ。色々なギターを弾いてみると、どれもみんなサウンドや感触が違ったりするんだけれど、それをどうしたら自分のお気に入りのギターの特活に生かせるか、そしてそれをどうしたら自分にとって本当に心地よいものにできるのか、様々なアイデアが浮かんでくる。そのお陰でより快適にプレイできるようになったし、ネックの感触が自分にフィットしていると指板を見なくても正確な位置でフィンガリングできる。おかげでプレイがより自然になったよ。

YG:現在のアンプやエフェクト類に関しても、フラクタル・オーディオ・システムズの“Axe-Fx Ⅱ”がメインとなっているのでしょうか?

NS:実は『FREEDOM』のレコーディングでは、倉庫に保管されていた機材一式を取り出せず、使えなかったんだよ。フラクタルやペダルボードなど、ツアーで使用したものはすべてね。俺が住んでいるところから北に行ったところにジャーニーが長年使っている倉庫があって、そこに機材を保管してあるんだ。機材は2セットあって、例えば日本でツアーを行なうことになったら、そのうちの1セットを船に乗せて日本に輸送し、その間はもう1つのセットを使って他のツアーをやっているんだけれど、ツアーがない時は倉庫に機材がぎっしり詰まっているので、自分の機材をレコーディング用に運び出すことができなかった。

YG:では、いつもとは違った機材を使ったんですね。

NS:ケンパー“Profiling Amplifier”を使ったんだ。俺がスタジオで使っているアンプをプロファイリングしたリグがいくつか入っているんでね。十分にいいサウンドが得られたと思う。家ではNeural DSP“Quad Cortex”を使っている。これもケンパーも世間的には新製品じゃないけれど、俺にとっては新しい機材だと言える(笑)。“Quad Cortex”は世界に出回っているプロセッサーの中で、最もパワフルな製品なんじゃないかな。並外れて素晴らしいサウンドで、知れば知るほど使いやすくなる。フラクタルはいつも素晴らしいサウンドだし、最近も“FM9”を使ってツアーをやったばかりだけど、“Quad Cortex”はもうちょっと筐体が小さくて、こいつを使ってツアーするのもいいなって思い始めている。

YG:ニールはそういった現在のテクノロジーを取り入れることに積極的ですよね。

NS:以前はもっと大きなユニットを使っていたので、ケーブルも沢山必要だったしペダルボードも巨大だったけど、それを全部取り除いて1つの機材に凝縮させ、アンプやら何やらの間にある配線をかなり減らしたら、サウンドは遥かに向上した。俺のお気に入りのマーシャル・アンプ“JVM”とフラクタルを並べて置いて、ビートを刻んでみたけど、違いが分からなかったね。しかもフラクタルのような機材はコンパクトで、耐久性も驚くほど高いんだ。そういった機材をチェックする一方で、ジミ・ヘンドリックスのパワーの根拠となっていた昔のプレキシ・マーシャルといったアンプの魅力も再確認している。あの時代のマーシャルは、ヴォリュームを目一杯上げて歪ませることもできれば、クリーン・トーンにペダルを組み合わせることもできて、様々なタイプのサウンドを得られる。ヘンドリックスやジェフ・ベックのような昔ながらのやり方だけど、チャンネルをいくつも内蔵したアンプとは違った魅力がある。1つのサウンドと適切なペダルの使い分けによって、思い通りに色付けできる。とても表情が豊かでパンチの効いたサウンドを得られるんだ。まるで、’80年代に『ESCAPE』(1981年)や『FRONTIERS』(1983年)で使っていた昔のハイワットみたいにね。あの時代、俺のワイアレス・トランスミッターには20dBくらい増幅できるバッファー・アンプが内蔵されていたんだよ。

そんなわけで、俺は色々な形式で本格的なトーンを出せるよう研究してきた。長年にわたってギターを練習してきたおかげで、若い頃よりも多くの可能性を得られるようになったよ。プレイにしても、音作りにしてもね。俺が目指すのは、かつて偉大なギタリストたちが出していた本物のトーンを現代に取り戻すこと。昔のアンプの実機を使わなければ不可能というわけでは決してない。古いアナログの機材をデジタル機材とミックスすることに抵抗はないし、そうすることでベストなサウンドが生まれると思っている。

YG:現在のライヴ環境に適した機材を使いつつ、最高のサウンドを作れることがベストですからね。

NS:その通り。ちなみに、ポール・リード・スミスとはまた一緒に新しいことをやりたいと考えているんだよ。彼は新しいアンプの1つを送ってくれたんだけど、これが実に素晴らしい。ジミ・ヘンドリックスのサウンドにインスパイアされて作られたシリーズで(註:“HDRX”シリーズのこと)、俺のところには100Wのモデルが送られてきた。これはヘンドリックスがウッドストックで使ったヘッドを参考にしていてね。最初にその話を聞いた時はちょっと半信半疑だったけれど、実際に音を出してみると「何て素晴らしいサウンドなんだ!」って思ったんだ。このアンプは間違いなくオールドスクールで、大音量で歪ませるようなタイプだ。古いアナログのエフェクト・ペダルなんかをつないで、パワー・トリオでプレイしたらいい感じになるだろうな。ということで、俺がPRSとエンドース契約をまた結んで、一緒に新しい機材作りに取り組んだらどうなるだろうかって提案したんだよ。俺のアイデアを使えば、何か新しいギターを開発することにつながるだろうってね。

ニール・ショーン 2