「ノーステイルで実践していることこそ、ずっとやりたかった音楽だった」ビル・ハドソン2019年来日時インタビュー

「ノーステイルで実践していることこそ、ずっとやりたかった音楽だった」ビル・ハドソン2019年来日時インタビュー

かつてセラドールの一員として“LOUD PARK 07”に出演した際、デカデカと“日本人彼女募集中”とプリントされたTシャツを着てシュレッドしまくっていたブラジル出身ギタリスト:ビル・ハドソン。彼が元トワイライト・フォースのシンガー:クリスティアン・エリクソンを誘い、’17年に結成したノーステイルが、海外先行で待望のニュー・アルバムをリリースした。ただ、クリスティアンは既にバンドを脱退しており、『ETERNAL FLAME』とタイトルされたこのセカンドでは、もうあの声を聴くことは出来ない…。

しかしながら、2代目シンガーとしてトラウマーでも活躍するギルエルメ(ギリェルミ)・ヒロセを迎えたノーステイルは、きっとファンを落胆させることはないだろう。来年(’22年)初頭に日本盤の発売も決まった『ETERNAL FLAME』を聴けば、メロディックでドラマティックで、絶妙にキャッチーさも備えた、あの鮮烈なパワー・メタル・サウンドが健在なこと、そして、彼等がバンドとして見事に進化を遂げたことも、正に一聴瞭然だ。

そこで本誌は、先日ビルを掴まえ『ETERNAL FLAME』に伴うインタビュー取材を行なった……のだが、まずはその前に、’19年夏のノーステイル初来日時に行なったものの、これまで公開の機会がなかった未発表インタビューをここにお届けしよう。近日公開予定の最新インタビューの前に──しばらくコロナ禍もあってあまり活発に動くことが出来なかったノーステイルの基本情報について、是非とも本記事でガッツリ復習して頂きたい!!

NORTHTALE 2019年
’19年当時のノーステイル。[l. to r.] Jimmy Pitts(key)、Mikael Planefeldt(b)、Christian Eriksson(vo)、Patrick Johansson(dr)、Bill Hudson(g)

俺のエゴは、ツイン・ギターでやっていくにはデカすぎる(笑)

YG:ノーステイルは元々、あなたのソロ・アルバム構想から発展してバンド始動に到ったそうですね?

ビル・ハドソン(以下BH):ザックリ言えばそんなところだな。長年、ソロ・アルバムを作ろうとはしていたんだよ。イングヴェイ・マルムスティーンやマーティ・フリードマンの大ファンだから、彼等がやっているようなことが、自分でもやりたかったのさ。インストゥルメンタル中心で、1~2曲ぐらいはヴォーカル曲があってもイイかな…なんて感じでね。それで何人かにコンタクトして、その中には(ノーステイルの現ドラマー)パトリック(・ヨハンソン)も含まれていた。でも、なかなか上手くコトが進まなくて…。そんな頃、誰かにトワイライト・フォースの動画を見せられて、「探していたのはこのシンガーだ!」と思ったんだ。なかなかそんな人材にバッタリ出くわすことはない。そして、Facebook経由でクリスティアン(エリクソン)に連絡を取ることにしたのさ。

すると彼は、TRANS-SIBERIAN ORCHESTRAのファンで、俺のパートもよく知ってくれていた。当時はまだ2曲──「Shake Your Reality」と「Images Are Real」しかなかったんだけど、彼にその音源データを送ってみたところ、凄く気に入ってくれてね。しかし当時は、クリスティアンはトワイライト・フォースで忙しくしていたし、俺もU.D.O.のツアーに出ていたから、タイミング的に良くなくて…。でも──その後、’17年に“SABATON OPEN AIR”で彼と直接会えた際、「いつか、一緒に曲を作ろう」と話し、昨年(’18年)“ProgPower USA”に出演するため、トワイライト・フォースがアメリカに来た際、また彼と過ごす時間が取れたんだ。そして、互いに打ち解けてきて、「人間としてもクールなヤツだ」「友達になれそうだ」と思ったんだよ。

そしたら──その数日後、いや1週間ぐらい経ってからかな? クリスティアンがトワイライト・フォースから脱退したことをネット・ニュースで知り、俺は彼に「すぐバンドを始めるぞ!」とメッセージを送ったよ。もうその時点で、ソロ・アルバムの構想は捨て去ってしまった(笑)。だって、自分のバンドが組めるんだからね! そう──俺はこれまでに、セラドールやU.D.O.、サヴァタージやTRANS-SIBERIAN ORCHESTRAなど、色々なバンドでプレイしてきた。セラドールでは日本に来たこともある。でも、どれも自分のバンドではなかったから…。

ビル・ハドソン
クリスティアン・エリクソン
ビル&クリスティアン

YG:ソロ・アルバムを計画していた時は、所謂シュラプネル系の作品が念頭にあったのでしょうか?

BH:ああ、勿論さ! シュラプネル“崇拝”系と言ってもイイ(笑)。でも…どちらかというと、イングヴェイの『RISING FORCE』(’84年)みたいな感じかな。彼は俺にとって正にヒーローであり、あれこそ俺が崇拝するアルバムで、「俺もああいうことがやりたい!」と願っていたんだからね。それと同時に、俺はずっと「パワー・メタルがやりたい」とも思っていたんだ。ここしばらく、メタルコアのようなよりヘヴィな音楽が求められていて、パワー・メタルというジャンルの人気は下降気味だっただろ?

俺はギターを始めて以来、ずっと今やっているような音楽がやりたかった。ノーステイルで実践していることこそが、バンドでギターを弾くようになってからというもの、ずっとずっとやりたかった音楽だったんだ。まだ高校生だった頃、ストラトヴァリウスが大好きで、もう憑り付かれたかのように聴きまくっていたな。『EPISODE』(’96年)と『VISIONS』(’97年)は、間違いなく俺の人生を変えた作品だと言える。あのフィーリングが創りたかったのさ。俺が彼等の曲を聴いた時の感動を、俺の曲で感じて欲しい──そう思っていたよ。しかし、21~22歳の頃には、俺の周りにはその手の音楽をやろうとする仲間はいなくて…。一緒にやりたいメンバーを探すだけでも大変だったからね。

ところが、クリスティアンに出会って以降、トントン拍子で話が進んでいった。というのも、ドラマーのパトリックも彼に全く同じメッセージを送っていたんだよ! パトリックと俺は、もう10年来の付き合いになる。だから、自然とまとまっていったのさ。キーボーディストのジミー(・ピッツ)は、TRANS-SIBERIAN ORCHESTRAで一緒だったヴィタリ・クープリとつながっていて、3人で一緒にプレイしたこともあった。そしてベースのマイケル(ミカエル・プラーネフェルト)は、クリスティアンとL.A.の音楽学校:MIで同期だった。そうして、アメリカ人(ジミー)とスウェーデン人(クリスティアン、ミカエル、パトリック)、そしてブラジル人(ビル)から成るノーステイルが誕生し──あとは知っての通りだ。

YG:デビュー作『WELCOME TO PARADISE』(’19年)には、元々インスト用に書いていたアイデアをヴォーカル入りにアレンジした曲もありますか?

BH:部分的にはあるよ。「Bring Down The Mountain」なんかは、1曲丸ごとではないけど、インスト・アルバムを作る時の構想が含まれている。中盤のブレイクでテンポが変わり、3連符が主体になるところがあるだろ? あそこがそうだ。それと「Playing With Fire」のソロ・セクションも、インスト・アルバムからの流用を含んでいるよ。

YG:「Siren’s Fall」はイングヴェイっぽいので……

BH:(通訳を介する前に)いや、違うよ。ただ俺としては、イングヴェイの「Overture 1383」(’85年『MARCHING OUT』収録)みたいな雰囲気を持つ曲が書きたかった…というのはある。「Siren’s Fall」は俺とクリスティアンとマイケルで作ったんだけど、クリスティアンがソングライター以上の力を発揮した曲だと思う。

YG:これまでに参加してきたバンドは、ツイン・ギター編成が多かったように思いますが、ノーステイルはシングル・ギターでキーボードがいる…という、言わばストラトヴァリウス編成ですね?

BH:そうだな。確かに俺が雇われていたバンドには、常にもう1人ギタリストがいた。でも、ギタリストが1人で、キーボード奏者もいる…というのが、ずっと俺の理想だったんだ。だって──俺のエゴは、ツイン・ギターでやっていくにはデカ過ぎるから…!!(笑) それに、キーボード奏者がいて、さらにギタリストが2人もいるなんてトゥー・マッチだよ。ソロを弾きたいヤツが3人もいる…なんてさ! ストラトヴァリウスも、そしてイングヴェイのバンドもそうだし、ドリーム・シアターだってそうじゃないか。俺の大好きなバンドはみんなその編成なんだ。

ジミー・ピッツ
パトリック・ヨハンソン
ミカエル・プラーネフェルト

YG:ノーステイルでは、ソロ・パートの振り分けをどのように決めていますか?

BH:すべて俺が決めているよ。でも、最初から計画してあるワケじゃない。曲を書いていると、「ここはギター・ソロだな」「ここは2人で掛け合いが出来そうだ」というのが分かってくるのさ。勿論、ユニゾンで弾くパートもあれば、ハモリのパートもあるけど、俺はハモるのが大好きでね。アイアン・メイデンやハロウィンのギター2本のハモりも最高だ。それを、ギター1人とキーボード1人でやっているのさ。しかも──面白いことに、キーボードのジミーはギタリストから影響を受けていて、まるでギターを弾くようにソロを執る。いつも俺は、「最高のリード・キーボーディストだ!」と絶賛しまくっているよ。

YG:ツインのハモりやユニゾンについてですが、実は以前、カイ・ハンセンにインタビューした時、彼はハロウィンのトレードマークであるツイン・リードについて、ディープ・パープルの「Burn」(’74年『BURN』収録)の(ギターとオルガンによる)ソロ・パートが元ネタだ…と言っていたんですよ。

BH:それは興味深いな。俺も正直、“キーボード×ギター”というスタイルの発端は、(リッチー・)ブラックモアとジョン・ロードなんじゃないか…と思っていたからね。

YG:でも、また後日にその話題になったら、カイは「そんなこと言ったっけ?」と忘れていたんですけどね(笑)。

BH:いかにもカイらしいな!(笑)

子供の頃はシャリバンにギャバン、日本のヒーローものばかり観ていた

ビル

YG:では、『WELCOME TO PARADISE』のレコーディングで使った機材を教えてください。

BH:ギターは何本か使ったけど、すべてESP製だった。“Eclipse”を2本と、7弦の“H-1000”、それからE-IIの“ST-1”と“Snapper”かな? アンプはケンパーの“Profiling Amplifier”で、ミックスの際、ピーヴィー“5150” を使ってリアンプした。

YG:リズムとリードで別々のギターを使いましたか?

BH:バッキングは基本的に“Eclipse”で弾いた。とても頑丈なギターで、チューニングが安定していて、トレモロ・ユニットが付いていないからブリッジが浮くこともない。リズム録りにトレモロ付きを使うと、チューニングが安定しないだろ? でも、ソロの時は色々と楽しむことが大事だ。

YG:今回、日本へ持ってきたギターは?

BH:7弦はE-II“Horizon 7”。あと、ESPが用意してくれた白い“Vintage Plus”もある。「STタイプのギターを提供して欲しい」と言ったら、調達してくれたんだ。

YG:日本で受け取ったのですか?

BH:うん。ホテルの部屋まで届けてくれたんだ。ショウの前に1回リハーサルをやって、それが今回の日本でのメイン・ギターになった。“Vintage Plus”は、アメリカでは手に入らないモデルだし、スキャロップ加工されたネックが大いに気に入ってね。ピックアップがシングルコイルしか載っていないのは、最初ちょっと気になったけど、元々、何でもやって試行錯誤を繰り返すことが好きだし、今後はシングルコイルのギターを弾く機会を増やしたいと思ってもいるんだ。

YG:それぞれのチューニングは?

BH:6弦はドロップDで、7弦はスタンダード。アルバムでも同じで、クレイジーなチューニングにはなっていない(笑)。最近はみんな、どんどんチューニングを下げる傾向にあるけど、俺はそっちへ踏み込みたくないからね。スタンダードで充分だよ。もし厚みが欲しければ、7弦を使えばイイんだし。

YG:ライヴでもアンプはケンパーですか?

BH:そうだよ。俺はケンパーと共に世界各国を廻ってきたからね。頑丈で頼りになるし、必ず自分の音が出せる。プラグ・インするだけで、どこにいても最高の音が出せるんだ。そういえば、日本のステージ・クルーが言っていたな。「色々と機材を万全に揃えてきたバンドは色々いたけど、誰も(ケンパーのみの)君ほど良い音が出せていないかった」…とね。まぁでも、俺はバカだから、色々な機材を使いコナせない…というのもあるんだ(笑)。EQを細かくいじって音作りするなんて、とてもやってられないよ! でもケンパーなら、それだけで常に欲しいサウンドが用意されている。

実は、セラドールで“LOUD PARK”に出た時、当時のA&Rから「ソロになる度に音が馬鹿デカくなって、みんな耳を塞いでいたよ」と言われてさ。でも、フェスだとサウンド・チェックもままならないし、フル・タイムでテクが常駐しているワケでもない。大抵、プラグ・インしたらもう即開演だからな。そういった時も、ケンパーが凄く頼りになるんだ。

YG:ライヴで使用している音は、アルバムのレコーディング時と同じですか?

BH:うん。レコーディングした時の音をプロファイリングして、それを使っているよ。

YG:ペダルもすべてケンパーで?

BH:そう。何もかも頼りっ放しなんだ。だって、俺っておバカだからね(笑)。でも、ブースターみたいなペダルは使っているよ。マッドプロフェッサー製の“Golden Cello”さ。何らかの理由でケンパーがない場合──願わくば、このバンドではそういうことはあって欲しくないけど──ブースターを併用すれば、プラグ・インして即プレイ…みたいなシチュエーションでも何とかなるからね。

YG:ちなみに、今回の来日の前には何度ぐらいライヴをやってきましたか?

BH:1回だけだよ。こないだ“SABATON OPEN AIR”でプレイして、昨日(’19年8月31日)が2回目さ。でも、日本でプレイ出来て本当に嬉しいね。どれだけ嬉しいか、言っても言ってもまだ足りないぐらいだ。日本に行くことは、ずっと俺の夢だった。いや、どんなミュージシャンだって、一度は日本でプレイしたいと思っているハズだよ。日本人は音楽の趣味がイイ。良い音楽とはどんなモノなのか、よく分かっている。ブラジルにいた頃、俺が最初にギターを教わったのは、ANGRAのキコ・ルーレイロだった。当時から、彼等がどれだけ日本でビッグかということも、俺は知っていたんだよ。

というか──それ以前から、俺は日本にぞっこんでね。子供の頃は、日本のヒーローもの番組ばかり観ていたよ。(宇宙刑事)シャリバンとギャバン、それから(超人機)メタルダーも(巨獣特捜)ジャスピオンも大好きで、今でもそれらのフィギュアはどこかにあると思う。あと、(電撃戦隊)チェンジマンとか(超新星)フラッシュマンとかも。そういえば5歳ぐらいの時、母親に「日本人の弟が欲しい!」と言って困らせていたな~(苦笑)。

YG:何と…!(笑)

BH:まぁ、それぐらい日本という存在が大きかったのさ。だから、ずっとここでプレイすることを夢見ていた。昨日、俺達の曲に合わせてジャンプしてる観客を見て、マジ泣きそうになったよ。みんな、歌詞も覚えてくれていたし。「どこでこの曲を知ったんだ!?」と、嬉しい半面、不思議な気持ちにもなったね。子供の頃から思い描いていた光景がそこに広がっていたにもかかわらず、非現実的な感覚もあったんだ。日本ではアルバムの売れ行きも好調だと聞いているし、またすぐにでも戻って来たいな…!!

ノーステイル バンド

ビル・ハドソン 取材時
取材時のビル。

INFO

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