ビル・ハドソン2023来日インタビュー、ノーステイル&エドゥ・ファラスキ公演レポート

ビル・ハドソン2023来日インタビュー、ノーステイル&エドゥ・ファラスキ公演レポート

キコのレッスンで用意されていたのがピンクのギターだった

YG:今回、日本へ持ってきたギターについて教えてください。ピンクのESPギターは、以前言っていたあなたにとって初のカスタム・モデルですよね?

BH:ああ、よくぞ訊いてくれた!(笑) そう…今年(2023年)の始めにようやく届いたんだ。俺の誕生日(1月13日)にね!! あれは俺にとって“夢のギター”なんだ。あのスペックをずっと待ち望んでいた。あの色にもこだわった理由がある。まだティーンエイジャーの頃、ブラジルのとあるギター・ビルダーの店へ母親と一緒に行って、ピンク色のギターを作って欲しい…と前金を払って注文したんだ。15歳の時だから、今から25年ほど前の話さ。

ところが彼は、その金を持ち逃げしてしまって…。特に名のあるビルダーではなかったけど、最低だよな! それ以来、俺はピンク色のギターが欲しくて欲しくてしょうがなくなった。いや、色だけじゃない。俺の希望するスペックで作ってくれることになっていたから、その通りじゃなきゃダメだったね。27フレット仕様で、12〜27フレットにスキャロップド加工を施し、両サイドのカッタウェイは深めになっていて、プッシュ/プル式のツマミで──あと、ピックアップの型番まで指定したよ。ブリッジがセイモア・ダンカン“JB”で、ネックは“Little ’59 Strat”さ。

実は、以前にもカスタム・ギターを作ってもらう機会があって、その時もスペックの希望を伝えたんだ。ピンクのギターで…とね。しかし、当時セラドールが契約していたレーベル:Metal Bladeの社長が「そんな色のギターは作らせない」と言ってきてさ。仕方なく俺は市販のモデルを弾くことになったよ。そして──ESPとエンドースを交わした時、俺は「今こそピンク・ギター実現のチャンスだ!」と思い、改めて自分が望むスペックをすべて反映させてもらったのさ。スキャロップなどさっき言った何点かに加えて、ドロップDチューナーも付けてもらったよ。中でもカッタウェイの加工が最高だよね。素晴らしい仕上がりだ。自分が持っているギターの中でもズバ抜けて美しく、これまでに弾いてきた中でもベストで、まさに最高のギターだな。とにかく大満足している!

YG:ちなみに、ピンクのギターといえばカイ・ハンセンを思い出しますが…?

BH:実は、このギターのことをSNSに投稿した時、2番目にコメントをつけてくれたのがカイ・ハンセンだったんだ。「俺のみたいなピンク・ギターだな!」とね。「俺のモデルを参考にしたのかい?」といったメッセージももらったけど、実はカイとは全く関係がない。俺はかつて、キコ・ルーレイロの生徒だったことがあってね。レッスン中、彼はワッシュバーン“N4”を弾き、生徒用に用意されていたのがタジマ製のピンクのギターだったんだ。その弾き心地がとにかく素晴らしかった。当時、自分のギターを持つようになったら、あのレッスンで使っていたようなギターがイイな…と思っていたよ。それが最初のインスピレーションになった。

YG:DOROのライヴでは、このピンクのギターを弾いていませんね?

BH:そう。だってこれは“ノーステイル・ギター”なんだからさ。DOROのライヴでは、キャンディ・アップル・レッドのE-II“Arrow”を使う。ピンクじゃなくて赤だけど、実は、俺はそっちを“カイ・ハンセン・ギター”と呼んでいる。ピンクのギターは、ノーステイル以外では弾かないよ。とても個人的な思い入れのあるギターだから、他のギタリスト達と関連付けたくないんだ。今後も、俺のソロ・アルバムかノーステイルでしか使うことはないよ。

YG:ピンク・ギターは6弦のみですか?

BH:7弦仕様のピンク・ギターというのが、どうもしっくりこなくてね。確かに、俺はよく7弦を弾く。I AM MORBIDでは7弦しか弾かない。ノーステイルにも7弦の曲があるよ。でも、それは緑色のE-II“Horizon”で弾くんだ。7弦は他にも、LTD“H-1007”とか“FRX”の7弦モデルも持っている。あと、ステファン・カーペンターのシグネチュア・モデルなんかもね。でも“Horizon”がお気に入りなんだ。

7弦モデル
E-II / Horizon

YG:ノーステイルは4種類のチューニングを使っていたと思いますが、ライヴでは何か工夫されていますか?

BH:EVH“D-Tuna”を使うんだ。それで万事OKさ。ステージ上で6弦のドロップDをドロップCにするだけ。7弦の曲は、スタンダード・チューニングのまま弾けば良いからね。

YG:アイアン・メイデンのカヴァー「Wasted Years」(1986年『SOMEWHERE IN TIME』収録)をやりましたが、『ETERNAL FLAME』に入っていた「Judas Be My Guide」(1992年『FEAR OF THE DARK』収録)とはまた違う曲を選んだのは…?

BH:ちょっと面白い経緯があってね。そもそも「Judas Be My Guide」をカヴァーすることになったのは、以前MVを撮ってくれた映像ディレクターへのイジリが発端なんだ。どんなキッカケで始まったのか、あと、「ヤツはメイデンが嫌いだから、カヴァー曲をやろう」だったか、「ヤツはメイデンのことを知らないから…」だったのか、もう忘れてしまったけど──実のところ彼はメイデンのファンなのに、「何でメイデンが嫌いなんだよ〜」なんてよくからかっていてさ。そんなある日、彼が「俺だってメイデンぐらい知ってるよ。これを聴いてみろ!」と言ってかけたのが「Judas Be My Guide」で、何と俺にとって最高にフェイヴァリットな曲だった。本家すらライヴでやったことがないレア曲でもある。

そこで俺達は、この曲をレコーディングすることにした。最初は日本盤ボーナス・トラックにするつもりでね。すると『ETERNAL FLAME』のプロデュースを手掛けたデニス・ワードが、「素晴らしい曲だな! アルバム本編に入れるべきだ」と言うじゃないか。どうやら彼は、ノーステイルの新曲だと思ったらしい。彼には収録予定曲について1曲ずつメールでコメントしてもらっていたんだけど、そこには「思いっきりメイデンを彷彿とさせる!」と書いてあった!(笑) さらに「あまりメイデンっぽくならないようにアレンジを変えた方が良いかも」とも。カヴァーなんだから、“メイデンを彷彿”も何も…って感じだったけどさ!

ビル

一方「Wasted Years」については、ひょんなことからカヴァーすることになった。正直言って、大した理由じゃないんだけど…。さっき話したブラッドバウンドとのツアーの際、アリオンのシンガーが病気になり、彼等は途中で離脱してしまったんだ。それで持ち時間が増えたんだけど、ご承知の通り俺達はリハを殆どやっていない。「さて困ったぞ」「どうやって曲を増やそう」となり、「じゃあ、カヴァーをやるか」ということで、みんなが知っててすぐに演奏出来る曲を探し始めたんだ。AC/DC、メタリカなど、色んなバンドの名前が挙がったよ。でも、なかなか全員が演奏可能な曲が見つからなくて、俺が「メイデンは?」と言ったら「それならイケそうだ」と。

でも、「じゃあ“The Trooper”だな」と誰かが言ったら、「俺は無理」とベーシストが即答したり…。そして「“Wasted Years”は?」となった時、「知ってる」「俺も!」と、ようやく全員やれる曲が見つかったのさ。要は、みんながよく知っていて、演奏も出来たことからカヴァーすることになったのさ。まぁ、それでもイイよね? だって、名曲だし。俺にとっては、一番のお気に入りというワケではないけど…。とにかくそういった経緯があって、日本でもプレイすることになったんだよ。

YG:名古屋ではアコースティック・ショウをやって、ブルース・ディッキンソンのソロ・アルバム『BALLS TO PICASSO』(1994年)から「Tears Of Dragon」をカヴァーしたそうで? これもなかなかシブい選曲ですね?

BH:あれはギルエルメ(ギリェルミ)・ヒロセのアイデアだ。アコースティック・セットの話が出た時、いつもならボサ・ノヴァなどブラジルの曲を入れていたんだけど、俺が「みんなが知っているカヴァー曲をやろうよ」と言ったら、彼が「自分のバンドでカヴァーした曲だ」と提案してきたんだ。実は、ブラジルではメイデンの曲と同じようにラジオでもかかる、凄く有名な曲でね。「それは良いな!」と思ったよ。

ただ、よく知っている曲ではあったけど、「そういえば、弾いたことがなかった…!」と気付いて、俺は昨日(9月19日)の開演前に覚えた。ショウ開始30分前に詰め込んだのさ(笑)。それでやってみたら、観客からとても良い反応をもらったんだ。

YG:もしかして、今日のギター・クリニックでも演奏されますか?

BH:うん。そのつもりだよ。ギルエルメも来ているから。

YG:それは嬉しいです。名古屋公演は観られなかったので…!

BH:喜んでもらえて良かったよ。選んで正解だったな! 日本でも知ってる人が多いの?

YG:『BALLS TO PICASSO』がリリースされた頃、よくラジオでかかっていたし、ブルースがプロモ来日した際もアコースティックで歌ってくれましたから。

BH:へ〜、そうなんだ。ブラジル人にだけ知られているのかと思っていたよ。ブラジルでは今でもラジオでかかる、かなり人気のある曲だ。もしかしたら、彼のソロ曲では唯一の有名曲かも。でも確かに昨日も凄く反応が良かったんで、今日も是非プレイしないとな…!

ビル&ギルエルメ

YG:ところで、そろそろ次のアルバムの準備も始めていますか?

BH:まだ公式にレコーディングされたモノは何もないよ。デモを2〜3曲完成させてはいるけど。アイデアは他にも山ほど出てきているんだ。ただ、やっぱり俺のスケジュールがギチギチで、ツアーや移動が多過ぎるから、なかなか腰を落ち着けて新曲に取り組む時間が取れなくてさ…。セカンド(『ETERNAL FLAME』)の時はパンデミックの最中で、家に閉じ込められて他にやることがなかったんで、どんどん曲が書けた。でも、新作は必要だからな。絶対、もっと作品を出すべきだと思う。ともあれ既に作業中で、素晴らしいデモが出来上がってはいるけど、現状「レコーディングを始めた」とは言えないね。

YG:ちなみにそのレコーディングでは、誰がベースを弾くのでしょう…?

BH:素晴らしい質問だな!(笑) 今ならティレンがやってくれると思うけど、先のことは分からないな…。

YG:日本公演のあとは中国へ向かうそうですが、そのあともツアーは続きますか?

BH:中国では4公演行なう予定だ。その中には“MIDI FESTIVAL”という大きなイベントも含まれている。その後、俺はドイツへ直行してDOROのツアーに参加するよ。単独公演と“Keep It True Rising III”フェス出演があるんだ。で、それから2日後にはI AM MORBIDで南米へ飛び、3週間のツアーに出る。だから、いちいちリハーサルなんてやってる時間が俺にはなくてさ(笑)。願わくばそのあと、ノーステイルの日程がもっと入って欲しい。実は来年(2024年)、I AM MORBIDの南米ツアーの話がまた出ていて、その頃にノーステイルでもライヴが出来れば…と話し合っているところなんだ。フェスティヴァルでI AM MORBIDがヘッドライナーを務め、その翌日にノーステイルとしてギグを行なう…とかね。

そんな感じで、俺の人生は常にクレイジーだよ。時には、今何時で、自分がどこにいるのかすら分からなくなる(苦笑)。今はこのままずっと日本にいたい気分だ。家にだって帰りたくないね…!!

ビル