「ジミー・ペイジに最も近づいた男」と称されるMR.JIMMYのギタリスト:ジミー桜井。映画『MR.JIMMY/ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』(ピーター・マイケル・ダウド監督作)の撮影エピソードやペイジ・サウンドを語るインタビューの後編をお届けしよう。
インタビューの前編はこちら。
ギブソン社でペイジ・レスポール“No.1”の実物写真を見た!
YG:話は変わりますが、現在、桜井さんは国内海外の両方で活動されています。ギターやアンプなど機材の移動はどうされているんでしょう?
ジミー桜井:それは時代変遷があるので、順に説明していきましょう。まずは2014年の渡米時、レッド・ツェッパゲイン時代の状況です。
ヤング・ギター別冊の『THE GUITAR MAN 特集ジミー・ペイジ』(2002年)、『天才ギタリスト ジミー・ペイジ完全版』(2004年)に掲載されていた僕の機材は、すべてアメリカに持って行けたわけじゃないんです。特に1959年製レスポールは持ち込むのをやめました。向こうは平気で物がなくなる国ですから。これは今も日本で保管しています。
当時持って行ったのは、2008年リイシューのギブソン・カスタムショップ製レスポール・スタンダード。最初の頃はレイク・プラシッド・ブルーの1964年製フェンダー・ストラトキャスター、フリーダム カスタム ギター リサーチさんで改造してもらった1960年製のフェンダー“ドラゴン”テレキャスター、ギブソンのダブル・ネック“EDS-1275”も持っていきました。アンプは2台あるうちの1台、マーシャル1969年製“Super Tremolo 100”も運び込みました。このアンプは今でもアメリカでのライヴ用に向こうの倉庫に置いてあります。
そしてペイジのギター・サウンドには欠かせない、マエストロ社の“Echoplex EP-3”ですが、これはアメリカで2台購入。それにプラスして、向こうの友人が持っているもの数台を借りられる状態にしています。“Echoplex”はかなりセンシティブな機材でしょっちゅう壊れますからね。当然、それを直す専門のエンジニアもしっかり探しています。
YG:さすがです。
桜井:でも、これだけの機材をツアーの度に飛行機で運ぶのは難しいわけです。持って行くのは最低限で、ギターはレスポールとダブル・ネックの2本。それぞれリユニオン・ブルース製の頑丈なケースに入れて、空港で預けていました。
それとエフェクト・ボード。ボードにはMXR“Phase 90”、ワウ、“Echoplex”が壊れたときの保険としてデジタル・ディレイを入れてました。本物の“Echoplex”は雑に扱われると壊れてしまうので、手持ちで機内に持ち込んでいましたね。現在では“Echoplex”のデジタル版(ジム・ダンロップ“EP103 Echoplex Delay”)という便利なものが出てきているので、それをバックアップに使ったりもしていますけど。
ブースターを使っていた時期もありましたね。ペイジ・サウンドを再現する際、アンプのロー成分を削らなきゃいけない。多くのアンプはBASSを0にしてもまだローが出ますから、それをブースターでカットしていたんです。ブースターは、BSM社のトレブル・ブースター、それとオリジナルで作っていただいたものです。ただ、ブースターを入れるとノイズが乗ってしまうときもある。それを、ギター本体のヴォリュームやトーン・コントロールで余計な高域をカットしていました。
YG:さすがの徹底ぶりです。
桜井:アンプに関して言うと、車で行ける範囲でライヴをする時は自分のマーシャルを持って行ってました。ただ、飛行機の場合は行く先々の会場で調達されるアンプを使っていましたね。こうなると現場に行くまで、どんなアンプが用意されているかわからない。行った先でマーシャルの“JCM900”、“JCM2000”が用意されてることもありましたし、時々、“1959 Super Lead”とも遭遇しました。
そういう違いに対応するためにペダル類を使うわけですが、ただ、“1959 Super Lead”が用意されていたとしても、昔のペイジのような音量では鳴らせないんです。ZEPが活躍していた1970年代当時と現在では、モニターの環境(機材)が全く違いますから。100Wのアンプをそのまま鳴らせる会場は皆無といっていいでしょう。結局、アッテネーターで音量を小さくせざるを得ないんです(残念そうな顔で)。
YG:以上が劇中にも登場するレッド・ツェッパゲイン時代の機材でした。現在(2024年10月下旬)はどうなっているのでしょう?
桜井:さらに変わりましたよ。ここで初めて話しますけど、実は今、ダブル・ネックは3本あるんです。レスポールも3本ありますよ。エフェクト・ボードも3セットです。それぞれ日本公演で使用するセット、アメリカでMR.JIMMYをやる時用のセット、そしてジェイソンのJBLZE用セットです。アメリカ用セット、JBLZE用のセットはアメリカの2ヵ所に分けて保管してあります。ですから僕は身一つでツアーに行けばいい状態です。
YG:それは素晴らしい!
桜井:特にJBLZEの場合はプロフェッショナルなクルーがいるので、会場に入ったらすべての機材がすでにセットアップされている状態なんです。あとはその場で自分で少しセッティングを詰めて行くだけです。
YG:最高ですね。O2アリーナのペイジも同じような環境だったんじゃないでしょうか。
桜井:でしょうね。本当にありがたいです。ペイジで思い出したのですが、以前、ジェイソンと一緒にナッシュヴィルにあるギブソン・カスタム・ショップの工房にお邪魔したことがあるんです。それは先ほど語ったJBLZEのツアーで使用するギターを組んでもらうためだったんですが、そこでギブソンの方からペイジ・レスポールの実機の写真を見せてもらいました。
この写真はペイジのレスポール“No.1”のリイシュー(Jimmy Page Number One Les Paul Custom Authentic)を作るために、ギブソンがロンドンのペイジ邸まで行って、実機をいろいろとリサーチしながら撮影したものです。ボディから内部からすべて細かく撮影されていて、それがひとつのバインダーにまとまっていましたね。そんな写真を見るのは初めてでした。
また、写真の1959年製レスポール・スタンダード“No.1”はZEPの時代の状態ではなく、あくまで現在の状態。つまりブリッジ・ピックアップのヴォリュームにプッシュ・プル・スイッチが搭載されていて、アウト・オブ・フェイズのサウンドが出るやつですね。キャパシターはやっぱりバンブルビーでしたよ。