オロフ・モルク:ドラゴンランド新作『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』では「作曲のポテンシャルが最大限に発揮されている」

オロフ・モルク:ドラゴンランド新作『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』では「作曲のポテンシャルが最大限に発揮されている」

前作『UNDER THE GREY BANNER』(’11年)から実に約11年振り──スウェーデンのメロディック・メタラー:ドラゴンランドがファン待望のニュー・アルバムをリリースした! 『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』とタイトルされたこの通算6枚目は、何と本格SFストーリーが語られるトータル・コンセプト作。これまでの“剣と魔法”“騎士とドラゴン”といったイメージを打ち破る、実にスケールの大きな仕上がりとなっている。嬉しいのは、初期の疾走感を見事に取り戻していること。彼等のメロパワ、メロスピ的側面に惹かれるファンは、このニュー・アルバムを聴いて感涙に咽ぶに違いない。

今回、インタビューに応えてくれたのは、アマランスの首魁としても知られるギタリスト:オロフ・モルク(ウーロフ・メルク)。アマランスではあまり見せない弾きまくりシュレッドも飛び出す『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』のあれこれについて、色々と質問をぶつけてみた…!!

高速のシュレッド・パートがあったら、それは俺が弾いていると思ってくれ

オロフ・モルク オフショット
Pic: Johan Carlen

YG:遂にドラゴンランドのニュー・アルバムが完成しましたね! ’19年にアマランスで来日した際、「今年はドラゴンランドの新作に取り掛かる」とおっしゃっていましたが、『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』の制作は実際に’19年からスタートしたのですか?

オロフ・モルク(以下OM):バンドのみんなは、その前からもう取り掛かっていたな。『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』は大規模なプロジェクトになったから、アルバムの完成までにはかなりの年月を要した。俺が知る限り、今回は(鍵盤奏者の)エリアス(・ホルムリッド)が信じられないぐらい時間をかけていたよ。

YG:『UNDER THE GREY BANNER』以前のアルバムの多くでは、あなたがメイン・ソングライターを務めていましたが、おっしゃる通り、新作はエリアスがイェッセ(・リンドスコグ:g)と多くの楽曲を手掛けています。今回あなたの曲が少ないのは、やはりアマランスで忙しかったからでしょうか?

OM:まあ、そうだね。アマランスを立ち上げてからというもの、かなりの時間を取られるようになり、それが俺の仕事にもなったから。勿論、俺は両方のバンドで作曲したり演奏したいと思ってはいるんだが、時には同時にコナすことが不可能になる。ただ少なくとも、新作ではギターを弾くだけでなく、コンセプト・デザインやストーリーにも関わることが出来て、それは嬉しかったな。

YG:『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』では何か新しいことに挑戦しましたか?

OM:新作では、ドラゴンランドの作曲のポテンシャルが最大限に発揮されている。俺が思うに、よりプログレッシヴかつ複雑になっているんじゃないかな。でも、それこそが正しい道だったのさ。

YG:『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』では、スペース・オペラ的なSFストーリーが展開されていますが、宇宙が舞台のトータル・アルバムは過去になかったのでは?

OM:ああ、そうだな。天文学をテーマにした『ASTRONOMY』(’06年)はあったけど、あれはコンセプト・アルバムでもなければ、ひとつの物語が綴られているワケでもなかったからね。

YG:歌詞の多くはヴォーカルのヨナス・ヘイジャート(ユーナス・ヘイドイェット)が手掛けていますが、彼は物語の原作者でもあるのですか?

OM:ストーリーを書いたのはヨナスだよ。ただ、アルバムのブックレットに各曲の序文を付けたのは俺で、ヨナスのストーリーを元に、コンセプトを詳細に具現化する作業はなかなか興味深かったね。

これは複数の銀河にまたがる物語だ。他の文明や技術を糧とする種族と、その脅威から逃げ惑う種族の興亡が描かれている。物語のクライマックスでは、逃げ回っていた種族が敵を倒すために、長老たちの警告に反して、預言で禁じられていた古えの最終兵器を使用するんだ。果たしてそれが救いをもたらすのか、それとも破滅をもたらすのか──アルバムを聴いてのお楽しみだな(笑)。

ドラゴンランド:ヨナス・ヘイジャート
Jonas Heidgert(vo) Pic: Yuzi Okumura

YG:今回、あなたが作曲に関わっているのは、エリアス、イェッセとの共作曲「A Threat From Beyond The Shadows」のみですが、この曲はどのようにして仕上げていったのですか?

OM:エリアスと俺が書き始めたのは、確か’14年頃だったんじゃないかな? ただ、その時は形にならなくて、エリアスとイェッセが数年前に曲作りを本格化させた際、かつてのアイデアを引っ張り出してきて、俺に提示してくれたのさ。だから、完成形には初期のヴァージョンのアイデアも残されているし、2人がやったことを、俺もとても気に入っているよ。

YG:エリアスが単独で書いた曲もありますが、鍵盤奏者である彼の曲も、あらかじめギター・パートが用意されているのですか?

OM:曲によってまちまちだね。エリアスが自身でベーシックなギター・パートを録音し、デモを作ることもあるし、自分がイメージするギターの大まかな方向性をイェッセに示し、2人で作業を進めることもある。そして、そうした曲に俺が自分なりの解釈を加えていくのさ。

ドラゴンランド:エリアス・ホルムリッド
Elias Holmlid(key) Pic: Yuzi Okumura

YG:あなたとイェッセのパート振り分けはどのようにして? 

OM:2人で平等にシェアしているよ。リズム・パートについては、イェッセが少し多めに弾いているけどね。(当初はドラマーだった)彼も伝統的なドラゴンランドのギター・スタイルを引き継いでいるから、どっちがどのパートを弾いているか、聴き分けるのはちょっと難しいかもしれない。でもまあ、高速のシュレッド・パートがあったら、それは俺が弾いていると思ってくれてイイよ(笑)。

ドラゴンランド:イェッセ・リンドスコグ
Jesse Lindskog(g) Pic: Yuzi Okumura

ドラゴンランド:オロフ&イェッセ
Pic: Yuzi Okumura

ここ10年、ペダルに頼らず特定のムードや効果を得るようにしてきた

YG:では、『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』のレコーディング使用機材を教えてください。まずはギターから。

OM:全曲でジャクソン“Soloist USA Custom”を弾いた。最近、盗まれてしまったギターなんだけど…。本当に驚異的なギターで、リズムでもソロでも見事に機能するし、EMGピックアップのおかげで、リード・パートのダイナミクスやニュアンスを豊かに表現することが出来る。ドラゴンランドでは(アマランスとは違い)ギタリストが2人いて、プレイ・スタイルも機材も異なるから、より一貫性のあるサウンド、聴いてすぐそれだと分かるようなサウンドを心掛けたよ。

オロフ・モルク
Pic: Yuzi Okumura

YG:アンプは何を?

OM:最近、Neural DSPプラグインを使い始めてね。ソロはそのままのサウンドが保たれていて、リズムはエングル“Fireball”を使ってリアンプした。俺が多くのアルバムで使用しているクラシックなアンプさ。ただ、俺は元々リアンプが好きじゃなくて…。だって、録りの段階から最終結果までに、サウンドや音色が大きく変わってしまうだろ? しかしNeural DSPを使うようになってから、リードのサステインや倍音、ハーモニクスなどの面で、元のサウンドに近い結果が得らるようになってね。いや~、プラグイン・サウンドをアルバムに入れるなんて、5年前じゃとても考えられなかったよ。俺も未来の住人になったんだなあ(笑)。

YG:では、昔ながらのエフェクター・ペダルは使っていませんか?

OM:このアルバムでは、かなりミニマリストに徹した。つまり、Neural DSPとDAWソフト“Cubase”内のリヴァーブ“REVerence”なんかですべてを賄った…ということさ。以前はソロ・パートで(アイバニーズ)“Tube Screamer”をよく使っていたし、18年前の『STARFALL』(’04年)では、少なくとも5~6種類のペダルを使って様々なサウンドを作っていたけど、今回はすっかりストレートなサウンド・メイクにシフトしたんだ。ここ10年間ほど、演奏そのものに重点を置き、ペダルに頼らず特定のムードや効果を得るようにしてきたからね。

YG:イェッセの使用機材も分かる範囲で教えてください。

OM:リズム・ギターはすべてLTDの7弦“FRX-407”で録音され、タイトでアグレッシヴでありながら、パーカッシヴになり過ぎないトーンを目指したそうだ。リードとソロはESPの6弦“M-II Custom”を弾き、他にも、ASIギターの“Sustainiac”とか、ヤマハの12弦アコなどを使用したらしい。アンプはメサブギー“Roadster”の100Wヘッドと、同じくメサの特大キャビネットを組み合わせ、Neural DSP プラグインも使用。あと、BOSSの“SD-1”、エレクトロ・ハーモニックスの“POG2”(オクターヴァー)、ストライモンの空間系ペダル“Timeline”“BigSky”なんかも使ってたな。

YG:全曲のチューニングを教えてください。

OM:基本はドロップCの全弦2音下げだね。でも、「Resurrecting An Ancient Technology」はドロップC(全弦1音下げ+6弦のみさらに1音下げ)、インストの「Aphelion」はレギュラー・チューニングだ。そういえば、「Aphelion」ではフェンダーの“Deluxe Stratocaster”を弾いたんだったな。

オロフ・モルク
Pic: Tim Tronckoe

YG:ドラゴンランドの楽曲をレコーディングするのは久々でしたが、すぐに勘が戻りましたか? しばらくパワー・メタルから遠ざかり、アマランス中心の活動を続けていたことで、ギター・プレイに何か変化はありましたか?

OM:どんなギタリストでも、10年も経てば大きく成長するものさ。でも、ドラゴンランドのリズム・スタイルはすぐに取り戻せたよ。久し振りに自転車に乗った時のようにね。しかも、ここ何年かで会得したニュアンスやフィーリングを加味することが出来て、さらに、ドラゴンランドの過去作と比べても、よりシュレッドしまくることが出来たから、とにかく凄く楽しめたんだ。

YG:実際、コンパクトなギター・ソロが多いアマランスとは違って、伸び伸びとより自由にソロが弾けたのでは?

OM:ギター・ソロは、どのバンドでも常に同じようにアプローチしているつもりだ。ソロがどうあるべきかは、いつも曲が何を求めているか…に因るしね。超シンプルなソロを要求されればそう弾くし、超高速のシュレッドを求められればそれに挑むことになる。俺は通常、何度かジャムってからフレーズを決めていくから、大抵はその過程で自分がどの道を進むべきかが分かってくるんだ。

YG:『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』で特に気に入っているソロというと?

OM:「The Power Of The Nightstar」のソロ・パートは素晴らしい出来だと思う。エリアスが見事に導入部を盛り立て、俺は彼のメロディーを引き継ぐ形でソロを始め、D♯ドリアン・モードのシンプルなメロディーのあと、E弦とB弦で下降するスライドがあって、そこからはほぼすべてタッピングに。Fsus4コードのアルペジオの周りでタッピングが派手になり、5度下げのロックンロールなペンタトニックのリックに切り替わるところも気に入っているよ。

YG:ソロ以外ではどうでしょう?

OM:「Flight From Destruction」のイントロだな。あのリード・フレーズは、単に聴くだけじゃ難しさが分からない。スピード云々ではなく、キーボードを追って、複雑なルート音をペダルのポイントとして使うという点でね。Eの開放弦がルート音である限りは簡単だけど、変化する際はかなり工夫が必要だった。ライヴで演奏したら間違いなく面白いだろうな。

YG:その「Flight From Destruction」にはサバトンのギタリスト:トミー・ヨハンソン(ユアンソン)がソロ客演していますね?

OM:彼とは良い友達なんだ。サバトンとドラゴンランドが’20年にツアーを共にした際、彼が昔からドラゴンランドのファンで、古い曲をよく知っていた…と分かってさ。それで今回ゲストに迎えたんだけど、彼のソロは驚異的だったよ。クラシックなパワー・メタルのフィーリングがあって、あの曲に見事にフィットしているしね。

YG:ところで、あなたは’18年のドラゴンランドの来日公演には参加出来ませんでしたね?

OM:ああ、(アマランスとの兼ね合いもあり)行けなかった…。ドラゴンランドで最後に日本に行ってから、もう20年近くが経とうとしている。(’03年が)初めての日本だったし、あの時、俺は「音楽業界でずっとやっていくぞ!」と決意したんだ。それは今後も絶対に忘れることはない。また近い将来、(ドラゴンランドで)日本へ行けることを祈っているよ。

YG:『THE POWER OF THE NIGHTSTAR』に伴うツアー計画はありますか?

OM:やるつもりだ。俺たち全員、もっとツアーがやりたいと思っているしね。最低でも、また日本へ行くことだけは実現させたい。前回のドラゴンランドのツアーに参加出来なかったから、俺としては余計に…ね!!

オロフ・モルク
Pic: Mattias Åström

DRAGONLAND
(L. to R.)Jesse Lindskog(g)、Anders Hammer(b)、Jonas Heidgert(vo)、Elias Holmlid(key)、Olof Mörck(g)、Johan Nunez(dr)

INFO

DRAGONLAND - THE POWER OF THE NIGHTSTAR

THE POWER OF THE NIGHTSTAR / DRAGONLAND

CD|マーキー・インコーポレイティド/アヴァロン
2022年10月12日発売

アルバム詳細

公式インフォメーション

The Power Of The Nightstar – Avalon Label|Tokyo Japan
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