リッチー・コッツェン、50歳の誕生日に50曲収録のソロ・アルバムを発表 制作意図は「自分が気分良く踊れるような曲なら満足するはず」

リッチー・コッツェン、50歳の誕生日に50曲収録のソロ・アルバムを発表 制作意図は「自分が気分良く踊れるような曲なら満足するはず」

去る2月初旬に発売された、ギタリスト:リッチー・コッツェン(ソロ、ザ・ワイナリー・ドッグス、ex-ポイズン etc.)の最新ソロ・アルバム『50 FOR 50』は、50歳の誕生日を記念した50曲入り3枚組に及ぶ大長編になったが、書き下ろし曲に加えて長年眠っていた未発表の音源やアイデアをひとまとめにした作品であるというのが、本人の弁。そもそもアルバム1枚を普通に作れるだけの曲があり、さらに複数枚分のネタが蓄えられていたというのに、それらを新曲として一気に放出してしまうという太っ腹ぶりは前代未聞だろう。しかも収録曲は感性にまかせて気に入ったものを選んだというだけに、スタイルはバラバラなれどすべてがリッチーの個性を色濃く反映したものばかりだ。その制作に至るまでの経緯を語ってもらった。

YG:今年の2月3日に50歳を迎え、昨年で1989年のソロ・デビューからも30周年を迎えました。リッチーにとっては大きな節目のタイミングですね。

リッチー・コッツェン(以下RK):そうだね。レコーディング・アーティストになりたいという夢が叶ってから、もう30年だ。物心ついた頃からプロのミュージシャンになりたいと思い、ギターもろくに弾けないほど幼い頃から、自分の曲を書こうとしていたのを覚えている。とにかく自分で曲を作れるようになりたかったけど、昔は作詞ができなかったんだ。それでオフクロに手伝ってほしいと頼んだりしてね(笑)。この30年で人生経験が少しずつ増えて、そのうちに曲も歌詞も書くネタが増えていったよ。

YG:最新作『50 FOR 50』には、50歳になることを記念して50曲収録されるという情報を事前に聞いていましたが、いざ完成したアルバムを手にしてみると、本当に50曲も収録されていることに改めて驚きました(笑)。

RK:実は、普通の曲数でアルバムを出せる状態にはなっていたんだ。50曲も詰め込むのではなくてね。新曲が10曲余りはあったか…「Dirty Tricks」「Nickel Hustler」「Stick The Knife」といった辺りかな。で、ヨーロッパ・ツアーに出た。そしてツアー先でHDドライヴをさらっていたら、未完成の素材をたくさん見つけてね。ほぼ完成しているものもあれば、クリック・トラックに合わせてベース・ラインをプレイしているだけのものもあった。それを聴いていたら、ツアーが終わり次第これらを仕上げたいと思い始めた。万が一、この中途半端な音源が間違ったところに流出してしまったら嫌だなという思いもあったからね(苦笑)。いざ取りかかると新曲のアイデアがまた浮かんできたんだ。例えば「Mad Bazaar」の仕上げをしている真っ最中に、いきなり「Black Mark」が閃いて録ってみるといった具合にね。そんな感じで雪だるま式に膨れ上がり、35曲くらいをレコーディングした段階だったかな…「50まで行ったらレコーディングをやめよう」と決めたんだ。その上で、50曲入りのアルバムにまとめて、それを50歳の誕生日に出してやれ、と考えたわけ。

 本当のところ、年齢や誕生日なんてどうでもいいんだ。でもどうせ人生で一度しか50歳にならないのなら、ジョークとして50曲入りアルバムを出してみようじゃないかと。ただし、やみくもに50曲を集めようとしたわけじゃないよ。気に入った曲をまとめたかったんだ。自分が気分よく踊れるような曲なら、それはマーケットにも通用するはず。そんな基準を今回も採用した。

リッチー・コッツェン『50 FOR 50』

YG:すでにあった素材も新たにレコーディングし直したということですか?

RK:基本的に録り直したものはないよ。ミックス済みで、聴いてみて問題ないようだったら、今回のアルバムにそのまま入れた。例えば「I Am The Clown」という曲なんて、10年前に仕上げておいたものだ。2001年とか2002年辺りから放置されていた曲だってあるよ。それを今までなぜ発表しなかったのか、自分でも分からないね。でもその他のものは、初めから新しく書いたものか、書きかけだったものかのどちらかだ。そして書きかけのものに関しては、2003年くらいまで遡る素材もあったんじゃないかな。それらを1つの作品にしたというわけ。

YG:2017年の前作『SALTING EARTH』の時はエレクトリック・ギターのハードなリフを、以前作って寝かせておいたネタの中から引っ張ってきたんですよね。今回もそれと似たようなことをしたというわけですか?

RK:うん、要するにこういうことなんだ。僕が音楽を作る時は、曲を書いては、書いたそばから録っていく。そして一定期間内に複数の曲が書けて、それらを録ったら、「これってひょっとしたらアルバムに向かっているのかも」と考え始める。4つか5つくらいの素材が揃った時点で、過去の未完成素材を振り返ってみる。ちょうど『SALTING EARTH』を例に挙げてくれたけど、あの時はまず「End Of Earth」という曲を書き、さらに「This Is Life」を書き、「Grammy」を書き、その時点で「これはアルバムになるかも」と思い、そこから過去の素材を振り返って、仕上げていったんだ。

YG:そもそも『50 FOR 50』はいつ頃からレコーディングを始めたかという質問をしたかったのですが、それだけ音源の性格が多岐に渡るとなると、録った時期について答えるのは…。

RK:無理(笑)。「いつ頃からまとめ始めたか」ということなら、2019年の夏の終わりから秋にかけてだね。ヨーロッパ・ツアーを終えたのがいつだったか忘れたけど、そこからスタートした感じかな。いや、ツアー中に新曲の歌詞を書き始めていたんだった。そして、11月に南米公演が始まる頃には、すべてのマスタリングが終わっていて、いつでもリリースできる状態だったね。つまり3~4カ月で制作したことになるのかな。

YG:CD3枚組になることは、音源をまとめきる前からおおむね予想していたのですか?

RK:何となく3枚組になるだろうなという予感はあった…いや、そもそもCDじゃなくてデジタル配信するつもりだったんだ。そうしたら誰かに、CDにしないとダメだとか言われてね。いざ取りかかってみると、今度は曲順を決めるのに苦労する羽目になったよ。曲を並べてみたら、とあるディスクに10分間も空白ができちゃってね。それでやり直したら、今度は30秒オーヴァーするディスクが出てきた。悪夢だったよ。でも「Stick The Knife」を最初の曲にして、「This House」を最後に収録することは決めていたから、その合間を埋めていって、しまいにはどうにか収まった。