昨年初秋に開催されたメロディック・メタルの祭典“Evoken Fest 2018”。その出演バンドの中で、最も鮮烈かつ強烈なインパクトを残したのが、スペインのパワー・メタラー:ヴァルデマールだ。無論、ヘッドライナーを務めたノクターナル・ライツも素晴らしかったし、他にも印象に残ったバンドは色々とある。だが、やはり衝撃の大きさという点ではヴァルデマールこそが圧倒的だった。
とにかく、そのショウの幕開けから凄まじい。オープニングSEが流れる中、ギタリスト:ペドロ・J・モンヘがいきなりギターを掻き鳴らしながら現れ、太く粘りのあるトーンで速弾きをぶちカマすと、サングラスにヒゲ面のシンガー:カルロス・エスクーデロがステージへ走り込んでくるや、マイク・スタンドをブンブン振り回しながら、まるで“止まったら死ぬ”とでも言わんばかりに大暴れ!
以降もその2人を中心に、“漢”気漲りまくりなコッテリ濃厚&何とも暑苦しいステージングが繰り広げられ、何度も何度も大歓声が沸き起こる中、その場はヘドバンの嵐に包まれた…!
ペドロの何が図抜けていたかというと、並外れたパワーを漲らせたギター・サウンドそのものに尽きる。とにかく“音”の主張が強く、プレイ自体は少々ラフではあるものの、テクも優れているし、表現力だってハンパない。まるでマノウォーにイングヴェイ・マルムスティーンが加わったかのような、男臭く勇猛な骨太メタル・チューンの上で、豪快なシュレッドやタッピングを大袈裟なアクションを交えながら連発し、ひたすら“顔で”弾きまくり! それでいて過剰にはならず、飽くまでオールドスクールなHR/HMの本道からズレることがないのも特筆点だ。何とも驚いたことに、彼が弾いていたのは借り物のギターだったそうだが、そのプレイにずっと釘付けだったという観客も、きっと少なくなかったろう。
そこでYG取材班は、急遽ペドロに取材をオファー。すると、全くの予定外だったにもかかわらず、彼は快くインタビューに応じてくれた。そのバックグラウンドとは? これまでにどんなキャリアを積んできたのか? そして、そもそもどうして彼は自分のギターを持参しなかったのか? 短い時間だったが、色々と質問をぶつけてみた…!!
自分がアイデアを出せる、自分のプロジェクト──それがヴァルデマール
YG:初めて日本でプレイした感想は?
ペドロ・J・モンヘ(以下PM):信じられないぐらいに凄かった! 日本のオーディエンスは素晴らしいと、方々で耳にしていたけど、熱くパワフルで最高だ。長年プレイし続けてきた中でも、格別に良い体験が出来たよ。日本に来られて本当に嬉しいね。
YG:早速ですが、まずはギターを始めた年齢とキッカケから教えてください。
PM:6歳の頃、家にギターがあったんだ。兄弟がコードを弾いているのを見て興味が湧き、「ボクもギターがやりたい!」と思ったのがキッカケさ。今は38歳だから、もうヤングではないけど(笑)──クラシック音楽をやる傍ら、エレクトリックへの情熱もあるから、こっちをメインにやっている。
YG:レッスンは受けましたか?
PM:うん。クラシック・ギターを学んだ。学校ではなく、公共施設の中に音楽を学べる場があったんでね。ただ、エレクトリックは独学だよ。ヴィニー・ムーアのビデオを観たり、モトリー・クルーやキング・ダイアモンドなどの映像を観たりして、弾き方を習得していったのさ。
YG:子供の頃のギター・ヒーローというと?
PM:最初はジミ・ヘンドリックス、リッチー・ブラックモアなどに憧れた。でも、一番のヒーローはイングヴェイ・マルムスティーンだよ。あと、スティーヴ・ヴァイも好きだし、さっきも言ったように、ヴィニー・ムーアのビデオをよく観ていたね。
YG:教則ビデオですか?
PM:そう。教則ビデオの『HOT LICKS』だ。11歳の時だったな。まだインターネットが普及していない時代に、地元の知り合いのギタリストがロンドンへ行くというから、手に入れてきてもらったのさ。このビデオは今でも観ているし、紹介されているリックを弾くことも多いよ。
YG:初めてのバンドがヴァルデマールだったのですか?
PM:最初は兄弟と一緒にブルースを演奏していた。ロリー・ギャラガーにも影響されたからね。あと、ジョニー・ウィンター。彼はヘンドリックスと並んで、俺のお気に入りのブルース・ギタリストなんだ。いつも、リハーサル・ルームで何時間もブルースを弾き続けていたよ。一度弾き始めたら、もう止まらない。ブルースはずっとプレイし続けなきゃいけないから、13歳から21歳までの間、とにかくずっと弾いていたよ。家ではメタルを弾いていたけど、リハーサルに行くと、アイデアを出すためにブルースを弾き続ける。メタルをプレイし始めたのは、18歳の時にシンガーのカルロスと知り合ってからさ。そうして生まれたのがヴァルデマールなんだ。
YG:ブルースをリハーサル・ルームで…ということは、ライヴでプレイすることはなかったのでしょうか?
PM:正式なバンドではなかったからね。でも、兄弟と一緒に人前でブルースを弾いたことは何度もあった。プロ・ミュージシャンというワケじゃなく、バーにフラっと出掛けて行って、そのままプレイするだけだけどさ。
YG:18歳までメタル・バンドをやらなかったのは何故ですか?
PM:周りにメタルをやる人がいなかったんだ。メタルをやるのに相応しい仲間が、ずっと見つけられなかったのさ。だからどのバンドにも入らなかった。それで、メタルは家で弾いて、外ではブルースを弾いていたんだよ。家では、イングヴェイのアルバムに合わせて弾いていたな。そうするしかなかったから…(苦笑)。
YG:イングヴェイのアルバムは、どれが一番好きですか?
PM:『ECLIPSE』(’90年)だな。ヨラン・エドマンのヴォーカルも最高だ。
YG:ヴァルデマール以外にメタル・バンドをやっていたことは?
PM:いや、ヴァルデマールは俺にとって唯一のメタル・バンドなんだ。自分のバンド以外ではプレイしないよ。他のバンドには加入したくはない。自分がアイデアを出せる、自分のプロジェクト──それがヴァルデマールで、ずっと一筋で25年間活動してきた。今後もこれだけをやっていくつもりさ。
YG:では、日本へ持ってきたギター周りの機材を教えてください。ご友人にギターを借りたそうですが、どうして自分の機材を持ってこなかったのでしょう?
PM:航空会社に問題があったんだ。俺達はビルバオから飛行機を乗り継いで日本に向かったんだが、ビルバオからバルセロナに向かう際、航空会社がギターを機内持ち込みさせてくれなくてね。となると、すべての荷物を預けることになる。でも、ソフト・ケースに入れたギターを預けるなんてイヤだったし、ハード・ケースを調達する時間なんかなかったから、仕方なくビルバオにギターを置いていくことにしたのさ。他の航空会社なら機内に持ち込みOKなのにね…。
YG:それで、日本でギターを借りたのですね?
PM:そうなんだ。スペイン出身で東京在住の友人に頼んだよ。
YG:初日公演では、そのギターにトラブルがあったようですが…?
PM:うん。ハムバッカーのピックアップ・セレクターがあるべき配線になっていなくてさ…。でも、リペアに出したからもう大丈夫。完璧だよ。ギターの調子がイイから、より演奏に集中出来る。だから、昨日より良いショウが出来るよ!
YG:今回借りたギターと普段から弾いているギターは同じモデルですか?
PM:いや、違う。以前にヨーロッパ・ツアーを行なった時、使っていたのはフロイドローズ付きのストラトキャスターで、最近はワッシュバーン“N4”を弾いている。ヌーノ・ベッテンコート・モデルさ。友人のギターはラグ・ギターズ製“Rockline”だから、全然違うよね。
YG:ストラトはイングヴェイの影響ですか?
PM:(通訳が入る前に)勿論! あと、ジミ・ヘンドリックスもリッチー・ブラックモアもストラトだろ? サウンドがユニークだから、お気に入りなんだ。ただ、ワッシュバーンにも弾き心地の好さがあるから、最近はライヴでそっちを弾いている。アルバムのレコーディングでは、常に必ずストラトキャスターだけどさ。
YG:アンプは日本で借りましたか? 何かリクエストは出しましたか?
PM:いや、特に頼まなかったよ。そこにあるアンプを使うだけさ。好きなアンプはエングルとメサブギー。エングルは、ヴィクター・スモールスキが使っているからね。
YG:ペダルは何か持ってきましたか?
PM:TCエレクトロニックのディレイをソロ用に用意している。
YG:ギターのチューニングはどうなっていますか?
PM:全弦半音下げだ。イングヴェイと一緒だね!(笑) でも、それだけが理由じゃなくて、ヴォーカルの歌い易さも考慮されている。半音下げにするメタル・バンドって多いだろ? その方がサウンドも強力になるし、下げ過ぎず、ちょうどイイと思う。あんまり低くてもダメだから…。
YG:ところで、今回のセットリストはどのように組みましたか? 初めての日本ですし、持ち時間があまり長くなかったので、選曲が大変だったのでは?
PM:新作(’17年『AGAINST ALL KINGS』)からの楽曲をフィーチュアしつつ、昔の曲も加えていったよ。持ち時間が35分だと、7〜8曲ぐらいしか演奏出来ないんで、新作からは確か4曲選んで、1stアルバム(’02年『FIGHT TO THE END』)から2曲、残りの2曲は2ndアルバム(’03年『I MADE MY OWN HELL』)から選んだ。本当は何時間でもプレイし続けていたいんだけどね。実は昨晩、演奏も出来るバーに行ったんだ。そこでギターの弾けるスタッフとソロ・バトルを
やって、午前3時までずっと弾きまくっていたよ。ヴァルデマールのスタッフはギターが達者だからな!(笑)
YG:是非また日本に戻って来てください。
PM:ああ、勿論だ! 是非ともそうしたいよ。次はもっと長い日程で、もっと長いセットで演奏出来るとイイんだけど…。